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リアクション
第一章 キッチンの ほうそくが みだれる! 3
次に届いた映像は、「あの」秘密結社オリュンポスチームのキッチンのものであった。
普段ならば「フハハハ!」とドクター・ハデス(どくたー・はです)の高笑いが響いているところなのだが……今日はその声は聞こえない、どころかハデス本人が見当たらない。
その代わりにカメラがとらえたのは、キッチンに置かれたハデスの写真だった。
欠場したハデスの分まで頑張ろうという心意気の現れなのだろうが、どう考えても不吉な想像しかできない絵面である。
「……一体何があったの?」
怪訝そうに、というか呆れたように尋ねるのは、隣のコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)のチームで参加している高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)。名字からわかる通り、ハデスと高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)の姉である。
「あ、姉さん。それが、昨日急に腹痛を起こして寝込んでしまって……」
「腹痛ねえ」
鈿女はちらりとキッチンに目をやり、やがて全てを察したように首を横に振った。
それもそのはず、キッチンにあったのはシチューらしき料理の入った鍋と、あとはオーブンで焼くばかりとなった謎の肉の塊だったのである。
咲耶の料理の腕前が相当にアレであり、その咲耶の料理をうっかり食べてしまって大当たりした、ということは、二人をよく知る鈿女でなくても十二分に想像できる範囲であろう。
「メニューは確か……七面鳥の丸焼きと、ホワイトシチューと聞いてるけど?」
「ええと、七面鳥はやめて、ちょうどお買い得で売っていたヒュドラの肉にしました。七面より九首の方が強そうですし」
強そうとかなんとかそういう問題ではないし、だいたいヒュドラの肉なんか塊のまま焼いたら、中まで火が通るのにどれだけかかると思っているのだろうか。
「それと、シチューの方はホワイトクリスマスにちなんで、雪を乗せようかと思っています」
「……溶けると思うけど?」
「あ……それじゃ、先にシチューを凍らせれば溶けませんね。そうしましょう」
雪を乗せるというのは可愛らしいアイディアだが、そのために温かいからおいしいシチューを冷凍してしまっては本末転倒もいいところである。
もっとも、彼女の作ったシチューであるから、仮に温かかったとしても「おいしい」かどうかは極めて疑わしいのだが。
「ともあれ、私には賞金を手に入れて家計の足しにするという使命があります。姉さんたちであろうと負けませんよ」
きっぱりとそう宣言する咲耶に、鈿女は苦笑しながら答えた。
「まあ、私は今回は見学だけなんだけどね」
その言葉で、カメラがハーティオンチームのキッチンへと移動する。
三人での参加ながら、料理を担当するのはハーティオン一人。
正義のロボットが料理をしている様子がすでに絵的におかしいのであるが、それに反して、作られている料理は至極真っ当なものであった。
それもそのはず、ハーティオンは自分の家庭科データベースの中からレシピを引き出してきて、それに忠実に料理を作っているのである。
「ラブ、すまないがちょっと味見を頼む」
「ん〜? いいわよ、任せて〜」
味覚があまり鋭くないハーティオンの求めに応じて、パートナーのラブ・リトル(らぶ・りとる)が作りかけの筑前煮を口にし、満足そうににっこり笑う。
「うん、いい感じじゃない。後はこのまま煮れば完成ね」
特に手伝うでもなく、しかしなにやらご機嫌そうにしているラブ。
その理由は……まあ、いずれ明らかになるだろう。
続いてのキッチンは、セシル・レオ・ソルシオン(せしるれお・そるしおん)らのチームのもの……なのだが、こちらも肝心のセシルがいない。
それもそのはず、セシルは申し込みを済ますや否や、パートナーのセアラ・ソル・アルセイス(せあらそる・あるせいす)に自らの身体を貸し、ついでにちぎのたくらみで姿まで本来のセアラのものにしてしまった上で、自ら意識を手放して「逃亡」してしまったのである。
彼の名誉のために書き添えておくと、彼は普段からこんなマネをする人物では断じてない。
にも関わらず、彼が今回このような暴挙に出た理由は――マリアベル・ティオラ・ベアトリーセ(まりあべるてぃおら・べあとりーせ)の存在にあった。
今回招待状を受け取ったのは彼女であり――つまり、彼女の料理こそがアレなのである。
「……なにやら料理から異様な気配が立ち込めているのは気のせいか?」
そう怪訝そうに呟いたのは、つきあいで仕方なく……と称して、ただ単に食べ物目当てでくっついてきた月の泉地方の精 リリト・エフェメリス(つきのいずみちほうのせい・りりとえふぇめりす)。
「そうですね、リリトさん。 いつものように、手当たり次第に勝手に料理を平らげにいってはダメですよ?」
そう答えて、セアラが隣を見たとき……には、リリトの姿はすでになかった。
「……って、言ってるそばから!」
慌ててリリトを追いかけていくセアラ……と、キッチンに一人取り残されたマリアベル。
少し考えた後、彼女がとりあえず一人で料理を始めてしまったことは言うまでもない。
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