リアクション
01.教導団 入口 友人はサンタクロース(孫) 「それじゃ。お掃除しようか!」 張り切って行こうと声を出すのは―― 白いポンポンのついた赤い三角帽子に白のファーで縁取られた赤いワンピース。 サンタガールのコスプレにしか見えないが正真正銘サンタクロースの孫娘。フレデリカ・ニコラスだ。 「うん。頑張ろうね! サンタちゃん!」 クリスマスの配達を通して顔見知りになった小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、その手をとってぶんぶんと上下に振る。 「わぁ。美羽さんだ! 今年もよろしくね」 「今年もそんな時期になったんですね。お久しぶりです。フレデリカさん」 その後から顔を出すのはリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)。 「リュースさんも! わざわざ来てくれたんですか」 「フレデリカさんが来ると聞きましたから。今年は是非お手伝いさせてください」 「すっげーサンタだ! 俺初めて見る!」 と、にこりと頼もしい笑みを見せるリュースの横から小さな体が弾丸のように飛び出してきた。パートナーの龍 大地(りゅう・だいち)だ。 「掃除なんてさ、みんなで分担すればあっと言う間だし、きっと楽しいぜ!!」 「こら。大地。きちんとご挨拶しなさい」 「はーい。リュー兄」 元気よく返事をすると大地は手を軽く掃ってから、手を差し出した。 「はじめまして。よろしくなー!」 フレデリカがその手を握り返せば握手――というより、喜ぶ大地が勢いよく手を振るので、正にシェイクハンドだ。 「ちょっと、大地。手、振りすぎよ」 有り余る元気を嗜めるのは同じくリュースのパートナーである陽風 紗紗(はるかぜ・さしゃ)。 着物の袖を襷掛け、上から白いエプロンをつけた姿はフレデリカと並んで異彩を放つ。が、とてもよく似合っていた。 「あ。ごめん! 痛かったか?」 「ううん。大丈夫だよ」 「私もはじめましてよね。陽風 紗紗よ。よろしくね」 「うん。よろしく! 今日は色んな人に会えるし、新しい友達もできて嬉しいよ」 「それはよかった。――思ったより、ここの人数は多いですね。足りない分の道具を取ってきますね」 リュースはパートナーたちを促して本部の方へ向かった。 ――ふがふご 言葉になっていない音がした。 見れば――ゴーグル・マスク・軍手と一歩間違えば変質者に見えなくもない姿の少年が何やら喋っている。 「和輝。マスク、マスク」 「――あ」 パートナーのクレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)に指摘されて、慌ててマスクをとる。 「掃除は一年のケガレをはらう大切な儀式。後に控えるお仕事の安全祈願も兼ねて、手伝います」 安芸宮 和輝(あきみや・かずき)は言い終えると、またマスクを装着した。 「よっかたら、今年も配達お手伝いさせてね」 とクレアも後に続く。 気付けば校門にはフレデリカと面識のある者たちが多く集まっていた。 長い者で、一昨年のクリスマスからの付き合いになる。続く縁が嬉しくてフレデリカの顔は喜びに輝いた。 「みんな。ありがとう! あ。はじめての人は改めて、今日はよろしくね」 * * * ――ズキュン! 花開く笑顔にハートを打ち抜かれた男がいた。 (うあぁぁぁぁぁぁ。すすすすす、凄い可愛い子だ。今までに見たことのない可愛さだ!!) 落ちたバケツの水で靴が濡れるのもそのままにフレデリカを見つめること30秒。 コルフィス・アースフィールド(こるふぃす・あーすふぃーるど)のナンパスイッチが入った。 「君――フレデリカさんだっけ。初めましてだね。俺はコルフィス。」 すっと小さく白い手に自分の手を添え、キメ顔で微笑む。 「綺麗な肌が汚れてしまう掃除なんかやめて」 「え? あ。え、と……あ、ありがとう? で、でも」 「気にしないで。掃除は他の皆がやってくれるよ――ね?」 「…で、でも…」 (あぁぁぁぁ。やっぱり可愛い! めちゃくちゃ可愛い!! 困った顔も更に可愛い!!) イケメンナンパモード全開フルスロットルだが、どこかピントがずれ――いや、残念感が漂う。 黙っていれば美少年な外見に反比例した内面――可愛い女の子と仲良くなって、あわよくばあーんなことやこーんなことや 以下略な欲望と褒め言葉といえば可愛い美しいの大安売りな思考――のせいかもしれない。 そして、視界がフレデリカに固定されたコルフィスは気付かなかった。 目の前に己のパートナーが割って入ったことに。 「……あぁ。やっぱり綺麗な肌だね。……健康的で張りがあって――でも、女の子にしては」 添えるだけだった指をうっとりと滑らせて、肌の感触を楽しむ。 思ったより骨が太く、節くれだっていた。可憐な少女だてらにプレゼントを配る仕事をしているからだろうか。 「これから仕事が待ってるんだ。掃除は他の人に任せて。ゆっくりと――」 「へぇぇ?」 顔を上げた先には稀な美少女ではなく、よく見知ったパートナー健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)の笑顔が待っていた。 無駄にさわやかだ。こめかみに血管が浮いて、ピクピク痙攣しているのは、きっと、気のせいだ。 声のトーンが地を這うように低いのも気のせいだ。 「ゆ、勇刃? ど、どうしたんだよ? そんなに睨んで。あ。俺の顔に何かついてるか?」 ――グキッ 「あ。痛い、痛い!! ちょ、勇刃!! マジで痛い。捻じ切れる。捻じ切れるからっ」 掴んだままコルフィスの手を捻り上げ、問答無用とフレデリカから引き離す。 「うるさい!! ちょっと目を放せば、また、ナンパかよ! いい加減にしろやー!!」 「ちょ、捻じったまま、引っ張るなって」 ――ギリリ 「痛。ギリって、ギリって――ごごご、ごめん。俺が悪――ぎゃー!!」 先ほどまでのイケメンぶりはどこへやら。情けない悲鳴が響き渡った。 * * * 数分後――コルフィスの情けない悲鳴がどこから聞こえてきた。 見れば、ガードロボのてっぺんに姿が見えた。 置き去りにされたらしく、泣きながらロボを頭を拭いていた。 「じゃ、掃除の話しようぜ」 「――そうですね。挨拶はここまでにしようか」 からりと笑う勇刃の言葉を受けて、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が雑談に雪崩れ込みそうな空気を大掃除に引き戻した。 「あ。正悟さん」 かくいう正悟もフレデリカとは面識がある。プレゼント配達の手伝いもしたし、一緒に山に登ったこともある。 話したいことも山ほどある。が、今は掃除だ。 微笑みを挨拶に代えて、正悟は集まった全員に提案する。 「入口と言ってもそれなりに広い。人数も多いから担当を決めて分担してやった方がいいと思うんだ」 「俺もそう思うぜ! な。 そうしようぜ、みんな」 元気よく勇刃が賛成の声をあげる。 確かに掃除の効率アップを図るなら、各々がてんでばらばらに掃除するより分担を決めた方がいい。 「どうかな? フレデリカさん、みんな」 反対の声はなかった。 * * * 物言わぬ鋼の巨人。教導団の入口を守る二体のガードロボ。活動を停止していても、その姿は雄々しい。 教導団の生徒にとっては日常の風景だが、他校生にとってはそうではない。 物珍しげに見上げるのは、遅ればせながら大掃除に加わった姫神 司(ひめがみ・つかさ)だ。 「これは――なかなかに壮観だな」 「だよなー。俺も初めてみるけど、凄いな。カッコいいぜ!」 【空飛ぶ箒】を片手にした勇刃も興味津々という風に頷いた。 その隣には、同じく【空飛ぶ箒】を手にしたパートナーの天鐘 咲夜(あまがね・さきや)の姿もある。 「で、どうするのだ?」 「そうだな。俺と咲夜が箒で埃を払うから拭いてくれよ」 「承知した」 「じゃあ、もう一体は私たちでやりましょう」 ぬっと現れた変質者――ではなく重装備の和輝が申し出る。 パートナーのクレアと安芸宮 稔(あきみや・みのる)も一緒だ。 「よぉし。じゃあ、早速はじめようぜ!」 ガードロボが並んで立つその姿はどこか神社の狛犬に似てる。 里帰りと称し地球は出雲大社ので英気を養ってきたばかりの稔はそんなことをぼんやりと思う。 年末の煤払いは大祓いに通じる。新たな年神を迎えるこの準備は“オオトシガミ”の名を持つ稔には何かと縁が深く、感慨深い。 その頭上では、和輝とクレアが煤を掃っている。 「一年分の埃は凄いですね」 「魔法を使えば、もっと早くできますのに。和輝ったら」 できるだけ――そう言葉にしても、パートナーに言われてしまえば絶対だ。 少し不満気に頬を膨らませるクレアに和輝は困ったように笑って見せる。 「こういうのは、手でやらないと。一年、門を守ったロボ。そして、境となってこの地を守ってきた入口を清めないとね」 だから、今日は魔法は禁止。由緒ある神社の息子らしい物言いだ。 「……わかってますわ」 ――ゴホン 落ちてきたゴミを集め、拭き掃除用の雑巾を洗い終えた稔は咳払いをして、こう続けた。 「お勤め中ですよ? 二人とも頼みます」 「いけない。掃除中でした」 「そうでしたわ」 手の止まっていた二人は顔を見合わせると掃除を再開する。そこから先には手慣れたものだ。 二人で水拭き、乾拭きでロボを磨き上げ、落ちるゴミと汚れた雑巾は稔が回収し、必要に応じて新しいものを手渡す。 ただ、ただ丁寧に。三人は無心でロボを磨き、清めていった。 「おそうじ〜おそうじ〜らっらっらら〜♪」 鼻歌まじりに埃を掃っていた咲夜の手がふと止まった。 「どうした?」 雑巾を動かす手を止めて司が問えば、咲夜はゴミの落ちた場所を指差した。 入口の直ぐ向こうは剥き出しの岩場。ロボが立つのは硬質なデッキの上。 落としたままの埃とゴミが吹く風に巻き上げられて飛んでいく。 「……なかなか難しいですわね……」 「落ちたゴミは直ぐに回収した方がいいようだ」 「お困りのようでございますわね! 咲夜さん。私にお任せください。お手伝いさせていただきますわ」 同じく勇刃のパートナーである紅守 友見(くれす・ともみ)がとんと胸を叩く。 友見は見ててください、と手にしたもの――新聞紙で水分をとった茶殻――を辺り一帯に撒く。 返って汚れたように見えなくもない状況に目を白黒させる二人の前で、散らばったゴミはあっと言う間に纏められる。 「茶殻にゴミと埃が絡まって、掃き集め易くなるのです。予め余計な水分をとっておけば染みにもなりません」 「わぁ。友見さん、ありがとうございます」 「……なるほど。これが家庭の知恵というやつだな」 そこに―― 「ゴミの回収にきたよー」 分担でゴミの回収と運搬の担当になったフレデリカと正悟が顔を出した。 |
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