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リアクション
博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)とリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)のふたりは、すっかり日が落ちてから、イルミネーションを見に公園を訪れていた。
夫婦になって、初めてのクリスマス。
その所為か、足取りもちょっぴり軽い。
少し大胆に腕を絡めて、寄り添って歩く。一つのマフラーを二人で巻いて、まさに幸せの絶頂、という感じ。
どうせ周囲もカップルばかり。少し暗い大胆になっても、誰も文句は言わないだろう。
手袋はしていないけれど、繋いでいる手が温かい。
「へへ……綺麗だね、博季くん」
「そうですね」
博季の顔をちらりと覗き込むリンネに、博季もとびきりの笑顔を返す。
中央広場の真ん中に立つ、桜色のシンボルツリーが見えてきた。
クリスマスツリーを模して飾り付けられた桜の木は、降りしきる雪の中でふんわりときらめいている。
「うわぁ、すごぉい!」
それを見つけたリンネは、無邪気にはしゃぐ。行こう行こう、というリンネに引っ張られる様にして、博季も桜の木の真下へと小走りに向かう。
「すっごく綺麗……」
「リンネさんも、綺麗です」
「や、やだぁ、博季くんたら!」
イルミネーションを見上げるリンネの横顔は本当に綺麗で、素直な気持ちを伝えただけだったのに、リンネはぽっと頬を染めて博季の背中をぱしんと叩く。
「本当に。とっても綺麗です」
けれど博季は諦めず、距離が近いのを良いことにすりっとリンネの頬に自分の頬を寄せる。
柔らかな肌が触れあい、暖かな熱が伝わってくる。
「ふふ……なんか、幸せ!」
こうしていると、幸せな気持ちが胸の奥からわき上がってきて、居ても立っても居られなくなる。
博季は思わず、何度も何度もリンネの頬に頬ずりを繰り返す。
「あはは、博季くん、くすぐったぁい」
そうしているうちにリンネのテンションも上がってきて、そのうちに二人そろってもつれたまま地面に転がる。
そのままごろごろっと芝生の上を転がって、ぎゅうぎゅう抱きしめ合う。
昼間だったら恥ずかしいけれど、今は夜。きっと誰も見ていない――見ていたとしても、見せつけてやればいい。
「リンネさん、大好き、です」
「……私もだよ、博季くん」
幸せで胸がいっぱいで、お互いの目にはもうお互いしか映らない。
「こうして、一緒に居られることが何よりのクリスマスプレゼントです」
そう言うと、リンネの頬に軽く触れるだけのキスを降らせた。
するとリンネも同じように返してくれる。
「……愛してます」
そう呟いて、今度はそっと唇に。
長い長いキスをした。
■■■
「以前のお話の続き……ということで、よろしいのでしょうか?」
泉 美緒(いずみ・みお)は、待ち合わせ場所に先に付いて居た如月 正悟(きさらぎ・しょうご)の姿を見つけるなり、前置きなしで切り出した。
正悟も、ああ、とあっさり頷く。もとより、そのつもりだった。
以前正悟は、美緒に思いの丈を告白している。
その時の返事は、正悟にとってはいろいろと考えさせられる結果だったけれど。
――それから、正悟なりにずっと考えていた。自分が本当に護りたいのは誰なのか。護るとは、どういうことなのか。
ここじゃあ何だから、と、待ち合わせ場所の公園入り口から、二人は人気の少ない公園西へと移動した。
ここなら、木立に紛れて余計な喧噪は届かない。
改めて正悟は美緒に向かい合と、
「その……あれから俺なりに、ずっと考えた――だがやっぱり、恋愛対象として見ているのは、美緒だけだ」
そう、きっぱりと告げる。
美緒の表情が、ぴく、と動く。
「どんな犠牲を払っても、一番に護りたいと思っている。……けど、家族や友人……見知った顔が、手の届く範囲に居るなら……俺には、見捨てることはできない。その……言い訳っぽくなっちまったけど……それが俺の、正直な気持ちだ」
たとえそれで美緒にフられることになったとしても、譲れないのだろう。
自分の気持ちを伝える正悟は、吹っ切れたように堂々としていた。……最後の方で少し、照れが勝ってしまったようだが。
正悟の真剣な思いは、どうやら美緒も理解した様だ。
「……お気持ちは、分かりましたわ。それなら……それを、わたくしに証明して下さい。……わたくしを、安心させて下さい」
美緒も、本当はうん、と言いたいのかもしれない。
けれど、あと一歩何かが、美緒の心に引っかかっている様だ。
「証明……か」
「本当に、私だけを見て下さるなら……決して他の方に心移りしないと、行動で証明して下さるなら……また、お会いしましょう」
美緒の瞳は、正悟を信頼したい気持ちと、聞こえてくる他の相手との噂との間で揺れている様でもあった。
揺れる瞳をじっと見つめ、正悟はわかった、と頷く。
「ああ……分かった。――せめて、今日は家まで送らせてくれ」
正悟の申し出に、美緒は少し躊躇った様だったけれど、結局最後は頷いた。
ありがとう、と微笑むと、正悟は努めて紳士的に美緒をエスコートして帰途に着くのだった。
■■■
火村 加夜(ひむら・かや)は、婚約者である山葉 涼司(やまは・りょうじ)を誘って公園へと遊びに来ていた。
日頃、校長としての業務で忙しい涼司を、少しでも休ませてあげたいと思ってのことだ。
「今日は積極的なカップルが多い気がしますね……噂の雪の所為でしょうか」
ふたりは、腕を絡めて中央広場を歩いている。
涼司は少し恥ずかしそうだけれど、周囲にはもっと恥ずかしい状態――抱き合ってるとか、抱き合ってるとか、抱きしめ合ってるとか――のカップルも多い。雪の魔法の影響を受けているだろう同性カップルはもちろんのこと、彼らに影響されたか異性のカップルもいつも以上に開放的なようだ。
「ちょっと、ここは人が多いですね」
「そうだな……西の方へ行くか」
ベンチで休みたかったけれど、あいにく中央広場のベンチはいっぱい。
二人は静かな場所を求めて、公園西エリアへと向かった。
西のエリアは人影もまばらで、静かに過ごすにはうってつけだ。
加夜は一つのベンチを見つけると、涼司と並んで腰掛ける。
辺りには人影も無い。今なら少しだけ、積極的になれるかもしれない。
加夜の脳裏に、先ほど中央エリアで見たカップルたちの姿が蘇る。そう、あんなふうに。
「りょ、涼司くん、寒くないですか? 暖めてあげますね……」
そう言うと、加夜はそっと、冬だというのに襟元を大きく肌蹴ている涼司の素肌に手を伸ばす。
そしてそのまま抱きしめてみようとする――けれど、やっぱりどうしても恥ずかしくて、手つきがぎこちなく、抱きしめ方も不自然になってしまう。
「加夜?」
妙に積極的なのに、不器用に抱きついてくる、そんないつもと違う加夜の姿に、涼司は少し戸惑いを見せる。
「どうしたんだ?」
「あ、あの……その……私も、もっと積極的になってみようかなって、思ったんですけど、その……やっぱり、恥ずかしいです……」
心配そうに顔を覗き込んでくる涼司に、加夜は顔を真っ赤にして胸のうちを打ち明ける。
なるほど、と納得した涼司は、加夜の頭をぽふんと撫でる。
「わかったわかった……ありがとよ、俺のために」
よしよし、と加夜の長い髪を梳いて、それからぎゅっと抱きしめる。
その一連の行動はとても自然で、加夜は少しだけ悔しく、うまくできなかった自分が悲しくなる。
けれどこうして涼司の胸の中に抱きしめられていると、そんな悲しい気持ちはだんだんどこかへ行ってしまう。
そのうちにただ、幸せだなぁという思いだけが胸を満たしていく。
おかしいな、今日は涼司くんを癒やしてあげるつもりだったのに……
そう思いながら、加夜はこつんと涼司の胸に体重を預ける。
そのまま、二人は寄り添ったまま、時間が許す限りそうしていた。
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