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君よ、温水プールで散る者よ

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君よ、温水プールで散る者よ

リアクション

 各場所での安全を確認し警備室へと向かっていた聡と翔。そこへ五人の協力者が合流する。小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)安芸宮 和輝(あきみや・かずき)安芸宮 稔(あきみや・みのる)クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)の五人だ。その出会い頭、美羽は聡の顔面めがけてドロップキックをかます。
「うぐお! お、おまっ! 何するんだ!」
「うるさいうるさい! 自分の胸に手を当てて聞いてみなよ! ナンパとかなにしてるのさー!」
「まあまあ、いきなりドロップキックはだめですよ」
「というか静かにしろよ! これからリーダー格を倒すんだから!」
「それとこれとは話が別だよ! でもまあとりあえずはいいよ。またあとでドロップキックするけど」
「するなっ!」
「まあまあ」
 そんな三人のやりとりを尻目に翔は他の三人に状況を説明する。
「どうやらリーダーは大多数の部下たちをプールの制圧に回したようで、ここら辺にはテロリストたちはほとんどいない。何人かと遭遇したが、倒すまでもなくすり抜けてきた」
「なるほど、下手に小型飛空挺を使わなくてよかったです。音でばれて警備を固められていたら厄介でしたでしょうし」
「人質もほとんど解放されていますからね、あとはリーダーを叩くだけ、ですね」
「にしてもバレンタインをここまで嫌うとは、キリスト教徒としては悲しい限りですわ。同情はしませんけれども」
「とにかくこれだけの人数がいれば攻撃、支援ともに万全だろう。各自全力で戦おう」
準備は万端だと言わんばかりに四人は歩き出そうとする。それを聡が止める。
「こっちが言い合ってるときに何かっこよく話を進めてるんだ!」
「こらー! まだ話は終わってないよ聡君!」
「でも、一旦話は置いておかないと、これから何が起こるかもわかりませんし、美羽さんも聡さんと話すのはそれから、ね?」
「むぅ……わかったよ。わかった? 聡君」
「わかりたくないが、まあわかったよ。とりあえずそういうことだからさっさとリーダーをとっちめようぜ」
 そう言って走り出す七人。途中はテロリストには会わず、あっという間に警備室へと着いてしまった。
「……なんというか、ザルすぎるな。リーダー寝てるんじゃないか?」
「その可能性もあるが、まあ悩んでいても仕方ないし、とりあえず突入だ」
 バンッ!
「やい、テロリストリーダー! 大人しくしてさっさとこのテロを止めてもらおうか」
「抵抗は無駄だと思え」
 勢いよく扉を開け聡と翔が叫ぶ。それに続く五人。だが、そこには思いもがけない人物がいたのだ。
「フハハハ! よく来たな! ようこそ、テロリスト部隊及び秘密結社オリュンポスの支部へ! だがその快進撃もここまで! 何故ならばお前らはここで倒れるからだ!」
 そう高らかに叫び宣誓するは我らが天才科学者(自称)であるドクター・ハデス(どくたー・はです)だ。ハデスの前にはパートナーたちのヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)の二人もいた。
 その一番後ろには何故か縛られているハデスの妹の高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)もあった。
「な、なんだあいつ。テロリストではないようだけど……」
「あっ! あのメガネ! 蒼空学園生徒のメガネですよ!」
 和輝がハデスを指差す。同じく蒼空学園に通っている美羽も同意するように指を差す。
「あー! ほんとだー! ちょっと、なんでこんなやつらの味方してるのよー!」
「フハハハ! バレンタインの撤廃という要求には俺たちも賛成だからな! 目的達成まで手を組んだまでだ!」
「何をー! この真っ白白もやし!」
「何とでも言うがいい!」
「くそう、テロリストめ。私たちと同じ生徒まで利用して……そこまでバレンタインを撤廃させたいのですか!」
 それにテロリストリーダーが答える。うんざりそうに。
「いや、こいつがあまりにもうるさいんで妥協しただけなんだが……というかお前らと同じ生徒なら引き取ってくれないか? さっきからこいつの高笑いのせいで、耳鳴りが止まないんだ」
「そ、それはどうもすみません、っておかしいですよ! あなたそれでもテロリストのリーダーですか!」
「いや、リーダーでも耐えられないことくらいある」
「この真っ白白一人ぼっちメガネ! 彼女いない歴だったら聡君のほうが上なんだよ!」
「なんで俺を引き合いに出すんだよ!」
「彼女だと? そんなくだらないものなど俺には必要なーい! 必要なのは世界を支配するだけの科学力だけだー! フハハハハハ!」
「こんのー! こうなれば実力行使だー!」
 美羽がハデスに攻撃をしようとすると、その前に立ちはだかる二つの影。ヘスティアとアルテミスだ。
「ご主人様、じゃなくてハデス博士には触れさせません。それにバレンタインとは地獄よりも辛きものと伺いました。そのようなものをいつまでも撤廃させないわけにはいきません! なんとしても阻止させてもらいます!」
「バレンタインという風習で世界を混沌の渦に巻き込もうとする邪悪な者は、神や仏やキリストさんが許してもこのアルテミスが許しません。さあオリュンポスの騎士アルテミス、これ以上咲耶お姉さまの作ったチョコを食べさせられるわけにはいきま……じゃなかった! と、ともかく推して参ります!」
「主は何もしていないと思いますが……」
クレアの問いかけなどはこのカオス空間において誰の耳にも聞こえなかった。
「というかいつまで私は縛れてるんですか! 兄さんもテロリストに協力なんかしないでくださいよ!」
後ろで縛られていた咲耶が叫ぶ。
「うるさーい! そもそもバレンタインがなければあのような悲惨な事態は起きないのだ! だからこそ我々オリュンポスはテロリストに協力している! 聞きたいか、その封印されり理由を聞きたいか!」
「知るかー! 白もやしの過去なんか聞きたくなもがっ」
「まあまあ、ここは聞いて差し上げる空気ですわ」
「え、えっと。と、とりあえず聞きますよ? どうしてハデスさんはバレンタインを阻止しようとしているのですか?」
 抑えられた美羽の代わりに和輝が質問をする。
「よくぞ! よくぞ聞いてくれたー! では、話すとしようその前に! ヘスティア、サクヤに耳栓だ」
「了解しました、ハデス博士」
「な、なんですかー! 何も聞こえないですよー!」
 きっちり耳栓をつけられ何も聞こえない咲耶を確認し、ハデスが話し始める。
「この事実はあまりにも衝撃的だ、心して聞くがよい……」
「は、はぁ……」
「バレンタイン……そう、我が妹サクヤから、毒々しい色をした『チョコレートのような何か』を受け取らされる、悪魔の風習! 毎年、生死の境を彷徨うことになる。あのような恐ろしい習慣が、この世にあってはならないのだっ!」
「……そ、それだけですか?」
「十分すぎるだろう? 言っておくが『チョコレートのような何か』は本当に『チョコレートのような何か』だ。お前は見たことがあるか? 時にはどす黒く、時には七色に、時には何故か透明に色づく『チョコレートのような何か』を」
「いや、ないですけど。でも、一応チョコなんですよね?」
「なんなら食べてみるか? 言っておくが生死の境を彷徨うのは冗談ではないぞ?」
「うそつけー! カカオから作ってるのならまだしも、ただの手作りチョコがそんなものになるわけが」
「なるぞ」
「……えっ」
「詳しい手順は知らないが、一度だけどうやってチョコレートを作っているのか聞いたことがある。どうやら湯せんするのが好きらしいが、その方法にすら問題がある」
「湯せんなんて、チョコレートを溶かすだけじゃない。お湯を入れたボウルにまた別のボウルにいれたチョコレートを溶かすだけでしょ?」
「ボウルは一つだ」
「えっ?」
「サクヤが使うボウルは一つだけだ? あとはわかるな?」
「嘘でしょ? そんなことをしている子がまだいるなんて……」
 その意味を理解した美羽が頭を抱える。その隣にいたベアトリーチェもまぁ……と悲しそうな声を出す。
「うーんと、つまり、どういうことですか?」
 そういうことに疎い和輝が続けて質問をする。
「湯せんとは、お湯を溜めたボウルの上に、チョコレートを入れたまた別のボウルを下のボウルに溜まっているお湯につけ、伝わる熱でチョコレートを溶かす方法だ。必然的にボウルは二つ必要になるだろう?」
「そうですね」
「しかしサクヤはそれをしない。使うボウルは一つだ。無論、お湯もチョコも使っている。つまり、だ」
「つまり?」
「チョコレートを入れたボウルに直接、お湯を注ぎ込んでいることになるんだ」
「な、なんですって!?」
「あとは想像できるだろう。ドロドロどころか透き通るような液体状になった茶色い液体がボウルに溢れるのが。俺はそれ以上は聞けなかった。聞くのが怖くてな」
 ハデスが少し遠い目をしている。きっとそのときのことを思い出しているのだろう。
「……であるからして! バレンタインなどは撤廃させればいいわけだ! 否! 撤廃させなければならないのだ!」
「すごい戻し方をしましたね……」
「で、でもそれならサクヤさんに直接言えばいいのでは?」
「そんなことをすればサクヤも傷つくだろう。ときには嘘をつかないといけないこともあるのだ!」
「これに限っては言ってあげたほうが言いと思いますけど……」
「うるさーい! これ以上話すつもりはなーい! さあどうしてもバレンタインの撤廃要求を阻止したければ、このヘスティアとアルテミスを倒して、我が眼前に立って見せよ! だがしかし忘れるな! こちらにはサクヤという人質が」
「ああ、先ほどのお話の最中に助けさせていただきました」
「兄さん! もうこんなことはやめてください! じゃ、じゃないともうバレンタインにチョコレートをあげないで、アルテミスに兄さんの分もあげちゃいますよ!」
「……ほう」
「ほう、じゃないですよ! このままじゃ私、生死を彷徨うどころか三途の川直行じゃないですか! そんなの嫌ですよー!」
 アルテミスが木の棒を構えながら泣きそうになる。
「……さっきから俺を無視して話をするなー! これでもテロリストリーダーだぞ!」
 ずっと無視をされ続けてついに頭にきたのか、テロリストリーダーが前へ躍り出る。
「話を聞いていれば、お前だって妹からなんだかんだチョコレートもらってるじゃないか! どうせ今さっき来たお前らも、チョコもらったりあげたりしたことくらいあるんだろ! なら全員敵だ! かかってこい!」
 両手に拳銃を持ってようやく戦闘体勢を取るテロリストリーダー。しかし、彼の言葉は自分を不利にしかしない言葉だった。
「ほう、我らオリュンポスの力は不要、と言うことか。いいだろう。俺の分のチョコはアルテミスにいくようだし、お前らに協力する必要もなくなったからな! ヘスティア、アルテミス! 計画変更だ! こいつをぶちのめすぞ!」
「はい、ハデス博士!」
「うう、勝ったとしてもチョコレート二倍だなんてー! でも騎士らしく戦場では立ち続けます! 泣きますけどね、うええええん!」
 こうして囲まれる図になったテロリストリーダー。
「く、くそ! 俺としたことが迂闊だったか!」
「さあ、大人しく観念してください! この状況では貴方に勝ち目はありません! 銃を降ろしてこんな馬鹿なことはやめるんです!」
 和輝が叫ぶ。しかしそれでは物足りないと言わんばかりに美羽が聡の足を掴む。
「おっ?」
「それだけじゃ足りないよ! この二人には制裁が必要なんだからー!」
「二人のうち一人って俺のことうわあああああああああ!」
「く、くるなああああああああああああ!」
 美羽は即席ブレード(聡)でテロリストリーダーに向かい、そのまま即席ブレード(聡)でもってテロリストリーダーを強襲。即席ブレード(聡)とテロリストリーダーの頭がごんっと鈍い音を立て、共に気絶したのだった。
『テロリスト共、お前らのリーダーは負けを認めた。大人しく降伏しろ』
 翔がマイクに向かって全プールに放送をかける。こうして阿呆なテロリストたちが起こしたバレンタイン撤廃テロは、無事に解決したのだった。
 その後、テロを起こした者たちには詩歌やセシル、沙夢とフレンディスの四人から初チョコが配られた。
 詩歌は
「これで元気出して、今度は誰かから本命チョコをもらえるように頑張ってください!」
 と元気に励まして。
 セシルは
「義理チョコ以下よ、こんなもの。だからせいぜい次は男を磨いて、義理チョコをもらえるくらいには頑張りなさい」
 とツンデレ気味に。
 沙夢は
「気持ちも込めていないけど、いつかは気持ちが込められたチョコをもらえるといいわね」
 と淡々と応援して。
 フレンディスは
「よくわからないですけど、これで元気になるなら、どうぞ」
 とぶっきらぼうに。
 更に一連の大騒ぎを見ていたノーンはというと。
「すっごく素敵なショーだった! 今度は私がお歌を歌ってみんなを幸せにしてあげるね!」
 と言って歌いだすのだった。
 テロリストたちは一様に満足しながら連行されていったのだった。
 ちなみに、ハデスの分の『チョコレートのような何か』は今年もハデスに届けられるようだ。
 更に翔を待ち続けていた理知の元には約束通り翔が来て二人で遊び、聡は実らないナンパをするのだった。
 これで無事に今年のバレンタインも来るだろう、とみんなが安堵に胸を撫で下ろすと同時に、今年はどうしようかと乙女心たちが騒ぎ始めるのだった。
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

流月和人

▼マスターコメント

今回のリアクションはくしゃみをしながら担当させていただいた流月です。
多数の参加者に圧倒されながらも負けるものかと書かせていただきました。
皆様色濃いキャラ設定やアクションのおかげで滞りなく書けました。
二月もまた何か書きますと思うので奮ってご参加の程お待ちしております。

▼マスター個別コメント