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春を寿ぐ宴と祭 ~葦原城の夜は更け行く~

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春を寿ぐ宴と祭 ~葦原城の夜は更け行く~

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「僕達に御用とは、一体どのようなお話でしょうか」

 風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)鬼城の 灯姫(きじょうの・あかりひめ)と共に、山葉 涼司(やまは・りょうじ)の元を訪れていた。

「わざわざ済まないな、風祭。そちらが、例の?」
「灯、と申します」

 ぎこちなく敬語で話す灯姫。
「普通の学生と暮らすのなら、敬語くらい話せなくては」という優斗の勧めに従ってのことである。

「灯さん……と呼ばせて頂きます、灯姫。一般生徒に混じって学んで頂くには、特別扱いする訳にはいきませんので」
「え……?それじゃあ――」
「はい。あなたの蒼空学園への入学を、許可します」
「ゆ、優斗……!」
「良かったですね、灯姫!聞きましたか、入学ですよ、入学!留学ではなく!」
「あ、ああ……」

 まるで我が事のように、灯姫の手を取って喜ぶ優斗。
 その優斗の喜びに釣られるように、灯姫の顔にも徐々に笑顔が浮かんでくる。

「や、山葉校長、有難うございます!」
「いや、礼には及ばないよ、優斗」

 涼司は、改めて灯姫に向き直って、言った。

「今回、貴女の扱いを『留学』ではなく『入学』としたのは、『マホロバとの関係や、これまでの事を一切忘れて、新たな人生を歩んで欲しい』という鬼城 貞継公の思いを汲んでの事です。その事を、くれぐれも忘れないで下さい」
「さ、貞継の……?」

 公にはなっていないが、灯姫は貞継の腹違いの姉である。

「おめでとうございます、姉上」
「さ、貞継!」

 突然の声に、振り返る灯姫。
 そこに、貞継が立っていた。

「蒼空学園への入学が、決まったそうですね」
「あ、あぁ……!おまえのお陰だ……、貞継!」

 駆け寄って、異母弟に抱きつく灯姫。
 貞継は、涙を流して喜ぶ姉を、そっと抱き締める。

「いいえ、姉上。今回の事は全て、山葉校長と風祭殿の尽力のお陰。私は、何もしてはいません」

 貞継は灯姫の身体をそっと離すと、一歩後に下がった。

「貞継……?」

 何事かを感じ取り、前に一歩前に出る灯姫。
 だが貞継はさらに一歩下がる。

「貴女と姉弟として会うのは、これが最後です、姉上。」
「さ、貞継……?それはいったい――」
「先程、山葉校長が仰られた通りです。これからは、一人の『灯』として生きて下さい。山葉校長、風祭殿。姉上をよろしくお願い致します」

 くるりと後ろを向くと、足早に歩み去る貞継。
 冷たい足音だけを残し、貞継の姿はすぐに見えなくなった。

「ま、待て貞継!そんないきなり――!」
「追っては駄目です、灯さん」
「何故だ!」
「例え将軍の座を退いたとはいえ、貞継公は未だ幕政に強い影響のある人物です。いくら腹違いとは言え、その姉君である貴女の身を利用しようという者が現れないとは限らない。それを防ぐには、こうするしかないのです」
「でも!」
「灯姫――いや灯。僕も、校長や貞継様の言う通りだと思う」
「優斗、おまえまで……。ならせめて、せめて一言別れを!私はまだ、貞継に何も言っていない!」

 すがるように優斗の顔を見る灯姫。
 だが優斗は、静かに頭を振った。

「ダメだよ、灯。こうして会っていること自体が、既に危険なんだ。わかってくれ」

 まるで糸が切れたように、力なくその場に座り込む灯姫。
 その灯姫を、優斗がそっと抱き締める。
 灯姫は、子供ように泣いた。


(幸せになって下さい、姉上――)

 縋るように壁にもたれかかりながら、遠く灯姫のすすり泣く声を聞く貞継。
 頬を伝う涙を拭いながら、会場へと廊下を歩く貞継。

「あれ、なんだ貞継じゃん!何してんだ、こんなトコで?」

 角を曲がろうとした所で、食器を載せたワゴンを押すアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)と、ばったり出くわした。

「い、いえ。ちょっと道に迷いまして……」
「何やってんだよ、しょうがないなあ。ホラ、俺が連れてってやるよ――って、どうした、おい?……泣いてるのか?」

 赤く泣きはらした貞継の目を見咎めるアキラ。

「まさか、泣いてなどいませんよ。私はただ……、嬉しいのです」
「嬉しい?」
「ええ!そうだアキラ。よろしければ、少し私に付き合ってくれませんか?」
「そ、そりゃいいけど……。どうしたよまた?」
「新しい門出を祝って、祝杯を上げたいのです」
「門出って……。なんだいそりゃ?」
「分からなくてもいいのです。さぁ行きましょう、アキラ!」

 貞継は目尻に溜まった涙を拭いながら、精一杯明るい声を出した。