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リアクション
7.『舞台を準備じゃー』
廃墟ではどうにか大広間の掃除を終わらせた生徒達が、飾りつけを開始していた。
「なぁ、じなぽん何か手伝おうか?」
「大丈夫です。それと、じなぽんゆーなです」
廃墟でカーテンに続いてテーブルクロスを縫っていたジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)が、新谷 衛(しんたに・まもる)に対して苛立ちを店ながら答える。
しかし衛はそんなジーナの様子にちっとも気づいていなかった。
「そっか。でも一人じゃ大変だろ。手伝うよ。な、じなぽん」
「だ・か・らぁぁぁ――」
ジーナは肩から大きく息を吐いて、怒鳴りつけるのだけは抑えた。
一応、キリエを励ましに来たのだから台無しにしてはまずいと思ったのだ。
衛は不思議そうに首を傾げている。
「……そこで待っていてください」
ジーナは立ち上がると、足早に部屋を出て行った。
そして数分後に戻ってきたジーナは、大量の衣服の入った大きな籠を引きずっていた。
「これ持ってきてください」
「お、おう!」
衛は嬉しそうに籠を抱え上げる。
衣服に視界を塞がれてふらふらしながらも、衛はジーナの後を追いかける。
そしてジーナと衛は井戸の傍までやってきた。
「そこで止まってください」
衛は指示された通り、その場に立ち止まる。視界を遮られた衛は、ジーナが何か準備をしている音が気になって仕方ない。
「……なぁ、じなぽん。何にも見えな――うわっ!?」
突然、衛はいきなり背中を蹴られた。
そして倒れた衛は、大きな音が経てて冷たい水が溜められたタライの中へと倒れ込んだ。
「洗濯機がありませんの。手洗いでよろしくお願いしますねっ!!」
笑って放すジーナだったが、その心情は決して穏やかではなかった。
ジーナが立ち去る。
暫く呆然としていた衛は一つくしゃみをした。
「……やるか」
衛はタライから起き上がると、地面に捨てるように置かれた道具を手に取り、日の傾きはじめた寒空の下で洗濯を始めた。
「折り紙なんて久しぶりですねーっ」
大広間の一角で掃除の終わった床に直接に座りながら、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)は様々な色の折り紙で、上の方の飾りつけを作っていた。
その横ではレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)も同じように床に座り、本を見ながら折り紙で大量の花をつくっていた。
「お花がいっぱい。素敵なお花畑ができそうですね。これならキリエさんも喜んでくれますねー」
「うん。そうだったらボクも嬉しいよ」
レキは出来上がった花を見て嬉しそうに微笑んだ。
そんな二人から少し離れた場所ではカムイ・マギ(かむい・まぎ)が箒で高い位置を飛行するアンネリーゼ・イェーガー(あんねりーぜ・いぇーがー)に指示を出していた。
アンネリーゼの箒にはレキ達が作った折り紙の飾りつけを入れた袋が吊るされている。
「アンネリーゼさん、もう少し上にできますか?」
「こうですの?」
「はい。その辺で大丈夫です」
アンネリーゼはカムイの指示で折り紙の飾りつけを壁や窓に張り付ける。
早見騨も生徒達と一緒に会場の飾りつけを手伝っていたが、時折深いため息を吐いていた。
そこへアンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)がやってくる。
「もしかしてまだ悩んでいるのかい?」
「ええ。結局どうしたらいいのか決められなくて……」
三号に言われて、騨はあゆむ自身に決めさせるべきなのかと悩んでいた。
騨が再びため息を吐く。
三号は少しの間、思いつめた様子の騨を見ていたが、ふいに視線を逸らして独り言のように呟いた。
「大事なのは過去ではなく今だ」
騨は目を見開いて三号を見つめる。
「……そう、僕に教えてくれた人がいるんだ」
三号が微笑む。
「もちろん思い出もその人を形成する大切な要素の一つだけど、これから騨と過ごしていく日常だってあゆむの心を作る大切なものなんだよ。それに、心配なら過去なんて気にしなくてもいいと思えるくらい幸せな『今』を、君が作ってあげればいいよ」
三号は手に持っていた折り紙の花を騨に一つ渡すと、飾りつけ作業を再開する。
騨は折り紙の花を見つめた。黄色い折り紙で丁寧に織り上げられた花は、たった一枚の折り紙から作られたとは思えないくらい精巧だった。
「遅くなってすまない!!」
廃墟の扉を開け、無限 大吾(むげん・だいご)が帰ってきた。
そして大吾の後ろには≪猫耳メイドの機晶姫≫あゆむの姿があった。
「あ、騨様……」
あゆむは騨の姿を見つけると走り出して――途中で転んだ。
廃墟に『ベチン』と嫌な音が響き渡った。
「っぅぅ〜」
「だ、大丈夫か!?」
騨は慌ててあゆむの傍らに近づき、しゃがみ込んだ。
あゆむは涙目になりながら体を起こす。そして、騨を見つけると口早に話し始めた。
「あっ、あのっ、騨様!」
「な、何、どうしたの!?」
「あゆむは騨様が悩んでいるあゆむに気づいて、こんな風に皆さんと調べていてくれたなんて知りませんでした。とても嬉しい気持ちがいっぱいで仕方ありません。でも、でも、お一人では危ないというか。あのっ、過去とか気にならないわけではないのですが、騨様が伝えない方がいいと思っているならそれでいいと思うし、でも、あゆむだけ知らないというか、置いて行けぼりはですね……」
あゆむは両手を大きく動かしながら、どうにか自分の気持ちを伝えようとしていた。
要領を得ない内容ではあったが、騨には何となくあゆむの言いたいことが伝わってきた。
騨がそっとあゆむの両肩に手を乗せる。
「ごめんよ」
「あ、いや謝って欲しいわけではなくて――」
「これからは一人にしない。大事なのは過去ではなく今なんだ。……だからこれから傍で一緒に悩んで、一緒に答えを出す。それでいいよね、あゆむ」
「……はい!」
あゆむは嬉しそうに笑っていた。
その様子を見ていたセイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)が三号に尋ねる。
「もしかして話しました?」
「すいません。まずかったですか?」
「いいえ」
セイルは表情を変えず、淡々と答えていた。
「おーい。何やらでかい催し物の準備をするらしい。みんな手伝ってくれ!」
奥の部屋へ報告に行っていた大吾が、大広間に戻ってきて生徒達に声をかけた。
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