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【2022バレンタイン】病照間島の死闘

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【2022バレンタイン】病照間島の死闘

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第三章 工事現場

リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)の調査記録>
2月×日
 この島で気が付いて以来、ララの様子がおかしい。
 ララが襲撃者を倒した。
 襲撃者はチョコレートに変じた。
 信じ難い……
 この島は、一体何なんだろう。
 この島では、一体何が起こっているのだろうか。

「ララ。何を食べているのだ?」
「チョコレートだよ」
 パートナーのララ・サーズデイ(らら・さーずでい)に声をかけると、明るい声が返ってきた。
 つい先程までの、襲撃者と戦っていた狂戦士のような彼女とはあまりにも違った様子で。
 その、ギャップが怖い。
 そんなリリの目に、海岸沿いの工事現場が映った。
「あそこも、調査が必要なのだよ」

   ※   ※   ※

「どうかな、桜さん。何か描いてあるような痕跡なんか、ないかな」
「いいえ。ごめんなさいね私の大切な朔夜さん♪ すぐにここ一帯を調査してみますからね。朔夜さんのために」
「ああそうですか桜さん幸せそうでよかったですねー」
 工事現場の資材の中。
 笹野 朔夜(ささの・さくや)と、朔夜に憑依した笹野 桜(ささの・さくら)は探し物をしていた。
 この島の異常は、何か魔術が絡んでいるのではないか。
 そう考えた朔夜は、何かと懐きたがる桜をスルーしつつ、どこかに魔術的な儀式を行った跡はないか調査していた。
「あ、朔夜さん。ちょっとごめんなさいね」
 まるで、ちょっとお茶でも飲みに行ってきますとでもいうような気軽さで。
 桜はひょいと資材置き場から離れる。
 手には日本刀を持って。
 そのまま工事現場に近づいてきたリリとララの後方に立つと、無言で日本刀を振りかぶる。
「リリ、危ないっ!」
 キィイン!
 桜の日本刀と、ララの持つ日本刀が重なり鋭い音を立てた。
「桜、一体何が……」
「朔夜さんは私の中で大人しくしておいてください。永遠に!」
「ララを傷つける奴は、殺す殺す殺すうううっ!」
 キン。
 キン。
 キン。
 まるで音楽を奏でているかのように、工事現場に日本刀の切り合う音が響く。
 リリを庇いながら戦うララの方が分が悪く、僅かに桜に押されている。
 ガキィッ……
「くっ」
 ララの日本刀が桜によって払われた。
「私達の時間を邪魔しにきた人は、死んでください♪」
「ちわ〜っ! ディスティン商会です〜! 依頼の品のお届けに参りました〜! ってあれ?」
 場違いな声が響いた。
 小包を持ったミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が、笑顔を固まらせて立っていた。
「え? 何もしかして何かヤバい雰囲気……?」
 ララと桜の氷の視線に射抜かれて、ミルディアは身体を竦ませる。
「さ、さて。それじゃお邪魔にならないうちに、帰ろっか……まにゃ、え、あれ、ふにゃあ……」
 ぷしゅうという気の抜けた音と共に、ミルディアは急に呂律が回らなくなり、地面に倒れこむ。
「フフフ……大丈夫よ。ミルディアは私が護りますから」
 倒れたミルディアを抱き上げたのは彼女のパートナー、和泉 真奈(いずみ・まな)
 ララと桜は無言のまま、日本刀を真奈たちに向ける。
「ああ、仕方ありませんね。襲ってくる以上は皆殺しにしなければ」
 真奈は、駆ける。
 ミルディアを抱えたまま。
 人間離れした脚力で目星をつけていた工事現場のトラックの荷台にミルディアを放り込むと、真奈も運転席に滑り込む。
「ここなら武装も相当なものです。うふふ、日本刀とトラック、勝負してみましょうか?」
 真奈がトラックのエンジンをかけた途端。
 トラックは、爆発した。
 真奈とミルディアはチョコレートとなって四散。
 巻き込まれた桜と朔夜、リリとララもチョコ塊となる。
「うふふふふ……あははははっ、やりましたわ、アゾートさん!」
「やった、やったねエリセル! 二人の愛の結晶、賢者の石のおかげだよ!」
 物陰から笑いながら出てきたのはエリセル・アトラナート(えりせる・あとらなーと)とアゾート・ワルプルギス。
 何のことは無い。
 エリセルはあらかじめトラックに乗り込んで、エンジンをかけると爆発するように仕掛けておいたのだ。
「エリセル……ありがとう。キミがいてくれれば、賢者の石なんてすぐ完成するよ。いや、キミさえいてくれたら、ボクはもう、賢者の石なんて……」
「アゾートさん……」
 アゾートとエリセルの指が絡む。
(アゾートさんが私にこんな事を言ってくださるなんて。これは、夢?)
 エリセルの胸中に、僅かな疑問とそれを凌駕する幸福感が駆け巡る。
(夢でも構いません。このひとときだけでもアゾートさんを独り占めできれば……)
「アゾートさん。たとえ死んでも、一緒ですわ」
 エリセルがアゾートの髪をそっと撫でる。
 少しくすぐったそうにしていたアゾートは、やがてうっとりと眼を閉じる。
 二人の唇が重なる寸前。
 二人の首は零れ落ち、首だった所からはチョコレートが拭き出した。
「すいません邪魔ですお姉様殺せません!」
 鉈を振るったのは、アユナ・レッケス。
 はぐれ魔導書『不滅の雷』と共に港に向かっていたのだが、途中、自分を抑えきれなくなって思わずはぐれ魔導書『不滅の雷』を殺そうと動き出してしまったのだ。
 逃げる雲雀に夢中になって、ついつい周囲の人間も鉈で殺して回っていたのだ。
「あははっ、何処ですかお姉様! 早く殺してさしあげたいです!」
「もう、せっかちねえアユナは」
 何処からか、不滅の雷の声がする。
「まずは、ボートに着いてから。ボートの上で二人きりになった時に、ゆっくり相手をしてあげるわ……」
「素敵! お姉様素敵。あぁ、楽しみで仕方ありませんわ……」
 アユナはうっとりと声の方に歩き出す。
 その足元で、エリセルとアゾートだったチョコレートの塊がぐしゃりと音を立てた。





 リリ・スノーウォーカー:死亡
 ララ・サーズデイ:死亡
 笹野 朔夜:死亡
 笹野 桜:死亡
 ミルディア・ディスティン:死亡
 和泉 真奈:死亡
 エリセル・アトラナート:死亡
 アゾート・ワルプルギス:死亡