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【黒髭海賊団】名も無き島の探索を

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【黒髭海賊団】名も無き島の探索を

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●第3章 攻撃と、交渉と

「我らは栄誉ある王国の犬である! 武力をもって周辺通商路を護る義務がある。その義務を果たせず、王国の通商路を海賊の汚い手で汚される事は断じて許されぬ。海賊は見つけ次第縛り首にせよ!!」
 そう告げたベスティア・ヴィルトコーゲル(べすてぃあ・びるとこーげる)は、仲間たちと共に、治安活動目的で派遣された巡視艦・重巡航管制艦HEAVENに乗り、通商路を航行していた。
 途中で、黒髭海賊団が探索を行っている島の近辺を通りかかる。
「……む、あれは」
 2時間交代制で見張りをしていたベスティアのパートナー、レオパルド・クマ(れおぱるど・くま)は、島影を確認すると共に、傍に停泊中の船に海賊旗が掲げられていることを見つける。
「ベスティアに知らせんとのう」
 司令官室に籠もっているだろうパートナーの下へと急ぐ。
「海賊活動は軍事的に見て通商破壊行為です。自国民の生命と財産を護ることを宣誓した訳ですからこれを果たすのは今しかありません。軍人として騎士として治安活動を行うことは当然のことです」
 ベスティアを手助けするために重巡航管制艦HEAVENに乗り込んでいたエデッサ・ド・サヴォイア(えでっさ・どさぼいあ)が話を聞きつけて、今にも飛び出しそうな勢いだ。
「王国軍の威信を示せ! 他国に覇を轟かせよ、正義は我らと共にあると認めさせるのだ!!」
 ベスティアの号令と共に、重巡航管制艦HEAVENは海賊旗を掲げる船――黒髭海賊船へと向かっていく。

 一方、その頃。
 美緒たちが船を出払っている間、留守を預かる者が居た。
 1人は、キュべリエ・ハイドン(きゅべりえ・はいどん)だ。
 彼女は、パラミタ内海に巣食う海賊たちについて、共に留守を預かっているエセルバート・ナイトレイとアーダルベルト・グアハルドから聞き出そうとしていた。
「他の海賊たち、な……俺たちが見かけたことがあるのは、船長がコンロンの出で、海賊行為の他にも密貿易の手助けをしているようなヤツらか」
「お嬢に付いていくのを決めた頃……でしたか。名は……フジン、と言っていましたね、確か」
「他には?」
 2人が応えると、更に聞き出そうとキュべリエは先を促す。
「覚えているのはそれくらいだ。後は小さな、もう名も無い海賊団を襲っては、配下に加えていたからな」
「そう」
 更なる情報は期待できそうにない、とキュべリエは問いかけるのをそこまでにしておいた。

 もう1人は、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)から美緒をサポートするよう密命を受けた、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)だ。
 彼は、沖合いから近付いてくる船を見つけた。
「海賊船ではないようですが……」
 旗にドクロは見えないと唯斗は呟くけれど、近付いてくる船の様子は、ただ事ではなさそうな気がする。
 そして、近付いてきた船の甲板に立つ女――ベスティアが、甲板に設置された機関銃に手を掛けているのを見とめた。
「海賊ども腸ぶち撒けて、肉片よろしくミンチに成りやがれ! さあ、野郎どもパーティの始まりだ!」
 告げて、ベスティアは機関銃の引鉄を引く。
「船体に穴なんか開けさせねぇぞッ!」
 アーダルベルトがカットラスを振るい、いくつかの銃弾を切り落としていくが、全ては落とせず、甲板や帆柱に銃弾が埋め込まれてしまう。
「エセルバート、アーダルベルト、船は任せます。俺はあちらに渡ります」
 唯斗は2人にそう告げると、秘湯の飛刀に触れながら千里走りの術で水面を渡っていった。
 相手の船へと近付くと刀を刺して厚みを確認してから、壁抜けの術ですり抜け、内部へと入っていく。
 出会う船員たちを妖刀白檀で斬り伏せた。
 短時間のあいだ、唯斗のいうとおりになってしまった船員は、他の船員を狙い、同士討ちをし始める。
「何が起こっとるんか思うたら、そういうことじゃったんか」
 船内の様子を見るために引き返してきたレオパルドが、唯斗を見つけて、呟いた。
「若いの、次はわしが相手じゃけえ!」
 叫ぶレオパルドが姿を変えていく。
 2メートルを越える巨大クマが、唯斗の前に立ちはだかった。
「誰が相手であろうと、あの船を攻撃してくる者たちは排除するまで」
 言い返し、唯斗は妖刀白檀を構える。
 レオパルドは腕を大きく振り上げると、唯斗に向かって、勢い良く振り下ろす。
 対する唯斗は高速で移動することで残像を作り出し、その一撃を回避した。更に、己の足元に呪い影を置いて、影にレオパルドを襲わせる。
「むッ、やるのう!」
 回避された上に、影に襲われながらもレオパルドは次の一撃を繰り出した。
 あっという間に影は倒されてしまったけれども、その時には唯斗はレオパルドの視界から消えている。
「何処に……っぐ」
 唯斗を探し、辺りを見回したレオパルドが息を詰める。
 背中を斬られたのだ。
 彼を斬った刀の持ち主は唯斗。
 壁抜けの術を用いて、通路脇の部屋へと入り、レオパルドの背後に回り込んだのだ。
 不意を打たれ、斬られてしまったレオパルドはその場に倒れる。

 その頃、甲板では――。
 機関銃から銃弾を放つベスティアと、小銃を構えるエデッサに対し、エセルバートたちが応戦していた。
「確かに我らは海賊旗を掲げていますが、同時にヴァイシャリーの旗も掲げています。彼の名の下に、内海の探索や他の海賊を抑えるために動いているだけです!」
「そのような戯言など聞く耳持たぬな! 海賊は海賊に過ぎぬ!」
 エセルバートが説得を試みるも、ベスティアが聞く様子はない。
 防衛ばかりでアーダルベルトが痺れを切らしそうになった頃、重巡航管制艦HEAVENの船内から、船員たちが現れて、ベスティアたちを攻撃し始めた。
「何事ですか! 攻撃すべきはあちらでしょう!?」
 エデッサが号令をかけるも、船員たちは攻撃目標を変えない。どころか、暫く経つと、バタバタと倒れ出した。
「っく! こ、ここは一旦退くに限る!」
「男どもよ、今日は命拾いしたと思いなさい!」
 甲板から取って返すベスティアに続き、エデッサも中へと入っていく。
 程なくして、重巡航管制艦HEAVENは、海賊船から離れていった。と同時に、唯斗も船へ戻ってくる。