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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 2

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 2

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第1章 ベルが鳴り終わる前に、イルミンスール地下訓練場へ

 エクソシストになりたい者を募集したエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)は、何十人もの志願者や見学者が集まった様子に、とても満足した様子でにんまりと笑みを浮かべる。
 前回は魔道具についての質問を受けて説明したり、ランダムに生徒を呼び集めて実技を行ってもらったが、今度は講師のラスコット・アリベルト(らすこっと・ありべると)と考えていた授業を行うようだ。
 ペンダント使いだけが集まったり、本を扱う者のみで術を使ったり、使い魔だけでは本来の効果のみしか発揮しない。
 別々の魔道具を扱う者同士でチームを組み、それぞれが考案した術が、実際に発動するか試してみるのが今回の授業内容だ。
 エリザベートは授業を行う場所としてイルミンスールの地下訓練場を選び、必要な持ち物なども教室の黒板に書き込んだ。
 これでだけ大きな文字で書いておけば、特別教室でずっと待っていることはないでしょう〜♪と言い、ラスコットと一足先に訓練場へ向かった。



「この前は1時間だけでしたけど、今回は2時間もエリザベートちゃんと一緒にいられるんですよね♪」
 すぐに確認してもらえるように、神代 明日香(かみしろ・あすか)は免許を荷物の上の方にスタンバイさせた。
 カバンの中には授業に必要なもの以外に、幼い校長のために作ったお菓子やハンカチも、しっかりと詰め込まれている。
「なんだかすごい大荷物ね」
 明日香が両手に抱えているカバンを、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がちらりと見る。
「エリザベートちゃん用のおやつをいっぱい持ってきたんです。そちらは今日もお鍋を持ってきたんですか?」
「今日はコーンスープを作ってきました。授業の始まる時間帯が夕方なので、温かい飲み物をご用意しましたよ」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は寸胴鍋を抱えているため、荷物は美羽に運んでもらっている。
「もうすぐ訓練場につきそうだから、置いておくね」
 2分の荷物と容器を詰めた袋を抱える美羽は、パートナーのカバンから免許を出して鍋の上に置く。
「ありがとうございます、美羽さん」
「先生たちはどこかしら?出入口の辺りに待機しているはずだけど」
「そろそろ到着してもよい頃ですよね。―…あっ、いました!」
 鉄のような大きな扉の近くで待機している2人の先生を、ベアトリーチェが見つけた。
「私、1番乗りしちゃおうっと」
「ずるいです!私が一番乗りするんですからっ」
「あわっ!?待ってください!!」
 訓練場に1番乗りしようと、廊下の上を駆ける2人の後をガタガタと鍋を揺らしながら追う。
「校舎内で走ってはいけませんよ!」
「ぁ、そうね…っ」
「では急ぎながら歩きましょう♪」
 明日香はササッと足早に歩き、エリザベートの元へ急ぐ。
「こんばんは、明日香。一番乗りですねぇ〜」
「エリザベートちゃんに早く会いたくって急いできました♪」
「フフッ、私もですよ〜♪では、エクソシスト・見習い免許を見せてください!」
「はい♪」
 証明写真つきの免許を開き、幼い校長に見せる。
「確認しましたぁ〜。中へお入りくださぁい〜」
「おやつをいっぱい持ってきましたから、休み時間にでも一緒に食べましょうね♪」
「楽しみにしていますねぇ〜♪それまで我慢しますぅ〜…」
 今は生徒の立場である彼女に免許を返し、眉をハの字にして寂しそうに手を振る。
「ラスコットさん、今回もよろしくね」
 美羽は講師に軽く挨拶し、免許を見せる。
「皆が場内に入ったらオレたちはその辺を歩いてるから、何か聞きたいことがあれば声をかけてよ」
「分かったわ」
「あの…っ、私の免許はお鍋の蓋の上にあります!」
 両手が塞がっているため、美羽が置いてくれたそれに視線を移す。
「うん、確認したよ。今日も重そうだね、大丈夫?」
「えぇ、今のところは…っ」
「ベアトリーチェ、木の傍にシートを敷いておいたわよ。そこに置いて」
「―…はい!」
 扉が閉じないように美羽に支えてもらい、鍋の取っ手を掴んでいる手が痺れてきたベアトリーチェは小走りに場内に入り、シートの上に寸胴鍋を置いた。
「授業に参加するのは初めてだから、俺とクマラは見学させてもらうよ」
「ちゃんと免許も持ってきてくれましたぁ〜?」
「―……“も”って?」
 場内に入るための大事な物を、ついでの付属品のように言うエリザベートのセリフに、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は首を傾げた。
「ぁあっ、クマラ!!」
 付属品らしく思えたのは、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が背負っているリュックが原因のようだ。
 ファスナーがしまりきらないほど、お菓子が詰め込まれている。
 エリザベートにはお菓子の方が主役で、少年が手にしている免許は脇役のように見えたのだ。
「だっておやつもおっけーだって、黒板に書いてあったよ」
「それにしたって、限度ってもんがあるだろ」
「イルミンは年中ハロウィンみたいなものだからお菓子は必須にゃん!で…、エース。こんな面白そうなことを隠して、オイラを置いていこうとしたよね?」
「うっ…!」
 クマラが他の人に迷惑をかけるかもしれないと思い、こっそり参加しようとしたのがばれてしまったのだ。
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)に持ち物を聞き、そのメモ用紙をクマラに見られてしまった。
 “おやつ欄”を目敏く発見し、“おやつ持って行っていいならオイラも行くよーーー”と言い、エースにくっついてきた。
「そんなに食べきれないんじゃないのか?」
「校長だってオイラと同じく、おやつ・お昼寝は必要だよ。成長期なんだし」
 自分用というよりも、皆と一緒に食べるために持ってきたんだよ!っと言い、睡眠だけじゃなく、おやつだって成長期に大切なものだと言い放つ。
「(成長って……どの辺が!?)」
 エリザベートはミリ単位でも成長しているかもしれないが、クマラの方はまったく無成長のように見える。
「早く中に入ろうよ、エース!」
「遠足に来たんじゃないんだからな」
 遊びじゃなくって、授業の見学しにきたって分かっているのか?…と、はぁ〜…と嘆息する。
「えーっと…免許…免許。あれ?服のポケットに入れたはずなんだけどな」
「静麻、ちゃんと探しなさいよ」
「おっと、免許を忘れちまったぜー。免許がないと地下訓練場には入れないよな。ぁっ、自宅のテーブルの下に置きっぱなしだった!」
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)は服だけでなく、荷物の中も探してみるが見つからず、免許を家に忘れてしまったようだ。
「後で入れようと思ったんだけど、うっかり忘れたみたいだ」
「へぇ〜…本当にうっかりミスだったの?」
 わざと忘れたんじゃないの…と、見破った神曲 プルガトーリオ(しんきょく・ぷるがとーりお)は彼を軽く睨む。
「ハンカチとティッシュは持ってきたんだけどな」
「そんなものは免許の変わりにならないわ。忘れ物をするなんて、隠された知将の名が泣くわよ」
「称号というものは時々、内側に隠れることがあるんだ」
「イリュージョンみたいに言わないでよ…」
 計画的犯行だと理解したプルガトーリオは小さくかぶりを振り、彼を廊下に残して閃崎 魅音(せんざき・みおん)たちと場内に入る。
「ハツネ、外で待ってる…」
 前回の座学の授業が退屈すぎた斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)は、廊下の上にぺたんと座ってしまう。
「待ってるだけの方がもっと退屈ですよ、ハツネちゃん」
 1人にしておくと暴れてしまうんじゃないかと、天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)が少女の手を引っ張る。
「―…イヤッ!授業はもういいのっ」
「困りましたね…。後で呼びにきますから、待っててくださいね」
「葛葉ちゃん…大変なの」
「ぇ、何がですか?」
「免許…、おうちに忘れちゃったの」
「ぇ…えぇえ〜っ!!?」
 葛葉が呼びに戻ったとしても、免許を忘れてしまったハツネを場内に連れて行くことが出来ない。
 どうしたらいいものやらと、悩んでしまう。
「…と、いうことなの。じゃあ、清明。頑張ってなの♪」
 退屈な空間から逃れようと、天神山 清明(てんじんやま・せいめい)に片手をヒラヒラと振る。
「行ってきます!」
「仕方ありませんね…、2人だけで行きますか」
 清明を放ってハツネと待機しているわけにもいかず、時間に余裕があればハツネの様子を見に行けばいいかと、パートナーを1人残して扉を開けた。



「主、のんびり歩いてると遅刻してしまいますよ」
「イタタッ、押さないでよマビノギオン!」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)は朝食の食パンをかじりつつ、蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)に背を押されながら階段を下りる。
「予定通り、授業が始まるちょっと前についたわね」
 携帯電話で時刻を確認したフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)は、それをパタンと閉じてカバンの内側にある小さなポケットスペースに入れた。
 入口付近では“今日の授業もよろしくネ。何かあったら声かけてクダサイ!”と言いながら、ディンス・マーケット(でぃんす・まーけっと)が名詞を配っている。
 フレデリカとルイーズも彼女の名刺を受け取った。
 授業開始を告げるベルが鳴り始めると…。
「術のイメージは出来ているから、後はチームを組んでくれる相手を見つけるだけね」
「うわぁああぁあ!そこどいてぇええ!!」
 出入口の辺りでキョロキョロと周囲を見回しているフレデリカがいるところへ郁乃が猛スピードで迫る。
「―…えっ?」
「フリッカ、危ないっ」
 彼女の声に何事かと振り返るパートナーの肩を、ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)がトンッと押す。
「ふぅう〜…、セーフッ!」
 場内に飛び込んできた郁乃は両足でブレーキをかけ、大きく息をついた。
「もう少し早く起きれば、こんなに焦る必要もないんですけどね」
「だって今日の見学が楽しみすぎて、いろいろ考えてたら寝るのが遅くなっちゃったんだよ…」
「翌日の遠足のことを考えて寝坊する子供のパターンですね」
「ぅ…っ。いいじゃん、ちゃんと間に合ったんだから!忘れ物だってしてないよっ」
 “わたしはコレにビッシリと書く!”と、分厚いノートをマビノギオン見せつける。
「なぜそんな重たそうなサイズのノートを持ってきたんですか…」
「いっぱい書けるほうがいいかなーってね」
「郁乃はチームの術は考えないのね?」
「わたしはどの魔道具を使うか決めてないからね。マビノギオンや皆と一緒にやりなーって、思ったりはするけど。今はしっかり見学して、どれにするか考えるよ。フレデリカたちは今日の授業どうするの?わたしたちみたいに見学したりするのかな。もしそうなら一緒に見に行こうよ!」
「ごめんなさいね。私とルイ姉は、アイデア術を試してみるの」
 他者の考えを見るだけでも知識を得ることは出来るだろう。
 術を提案するほうが、魔導師としての自分の知識にもなるからと、小さくかぶりを振る。
「時間があれば見学しに来てね、郁乃の魔道具選びの参考になるかもしれないし」
「うん!絶対見に行くからね、フレデリカ!」
「見つけやすいように、出入口の近くにでもいるわ。―…とはいっても、先に相手を見つけなきゃね…」
 離れていく郁乃とマビノギオンに手を振り、2人の姿が見えなくなった頃、ルイーザと共にチームを組む相手を探しに向かう。



 イルミンスールの地下訓練場の入口で、エクソシスト・見習い免許をラスコットに見せた日堂 真宵(にちどう・まよい)は、さっそく中に入ってみるが…。
「ぇー、ここって席がないの?」
 ―…座れそうな場所が見当たらない。
「まさか2時間立ちっぱなしなわけ!?」
「休憩は個々で自由らしいですよ。椅子になるものならあの辺とかに、ちゃーんとあるのですよ?」
「あの辺っていっても、…ただの石じゃないの!!」
「どこから見てもそうですよ?テスタメントは自然の椅子で十分です!」
 椅子代わりになりそうな適当な大きさの石を見つけ、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)はちょこんと座る。
「草や土の上よりはマシだけどさ…」
 ぶつくさ文句を言いつつ、自分も椅子代わりになりそうな手頃な石を選んで座る。
「先生方は訓練場内を見て回るのでしょうか?」
 免許を確認している2人の先生に目をやる。
「はーい質問でーす。年だしどうでもいいってどれぐらい枯れてるんですかー?」
 相手は男だし年くらい聞いてもいいだろうと、石の上に座ったまま大きな声で、真宵がラスコットに声をかける。
「ぁー、そういうのはノーコメントで!」
「気になって寝不足になったらどうするんですかーっ」
「細かいことは気にしたら負けだよ」
「ぇえ〜、それってつまりどういうこと…」
「プライベートなことは話したがらないか…。もしくは数えるのが面倒で、本当にどうでもいいくらい記憶にないのかもしれないですよ?」
「話したくないのと、本気で忘却しているのと…どっちなのかしら?ん〜…それも気になってきちゃったわ!」
 真宵は術を考案するでもなく、腕組をして考え込んでしまう。
「テスタメントはどっちだと思う?」
「そんなことよりも、術を考えるほうが大事なのです!テスタメントの興味は、チームの術を考案し、それをテスタメントたちが使えるようにすることなのですよ!!」
 考えた術をベースに、どの魔道具が適しているか…などと、シャーペンでノートにカリカリと書き込む。
「まとめてチュドーンでいいじゃない?」
「むっ。それは器としている人や物に、魔性がもっと酷いことする可能性があると、先生が仰っていましたよ」
「はいはい、聞いてたから理解してるわよ。ようするに滅される危機に陥ったと思った魔性が、死なば諸共とか、厄介な手段を使ってきたりしないようにするためよね。まったくめんどくさっ…」
 ツンとした態度で言いながらも、真宵も授業内での説明をしっかりと聞いていたようだ。
「ていうか…考えが纏まらないみたいだから、ちょっと言ってみただけよ」
「魔性を祓うためには、憑かれた人や物を、見つけなければいけないのですよね」
「んじゃ、こういうのは?アークソウルの魔性探知能力と、哀切の章の対多数退魔能力の合体術とかね」
「あれ?テスタメントたちはスペルブックの授業を受けたのでは?」
 いつの前に宝石のことまで調べたのだろうかと、テスタメントが首を傾げた。
「ちょうどその辺うろついていたレイカに聞いたのよ。熱心に術を考えている間にね」
「そうだったのですか!って…早くないですか?ずっとテスタメントと話していたような…。瞬時に把握したいほど、この授業が好きなのですね!」
「うっさい!細かいこと気にしたら負けなのよっ。ていうか、わたくしがいつ好きと言ったの?」
「嫌いとは言ってないのですよ」
「は?ち、違うわよっ。ちょっと宝石だから興味があっただけだってば」
 しっかり研究してキレイに纏めたノートを、テスタメントに背後から覗かれ、恥ずかしさのあまり真っ赤になった顔を、手にしているノートでパッと覆い隠す。
「あの…。宝石の使い方、分かりました?」
 ちゃんと理解してもらえたか確認しようと、話しかけるタイミングを見計らっていたレイカ・スオウ(れいか・すおう)が遠慮がちに声をかける。
「ペンダントに宝石を入れて、適当に祈っときゃいいんでしょ?」
「なんというか、怒ったりするのも…」
「怒っているのではなく、照れているのですよ」
「別に照れてなんかないわよ!」
 真宵はノートをペラペラと捲り視線を逸らす。
「上手く感情コントロールしなければ、ペンダントも十分な能力を使えないのですよ?」
「あ、わたくしは前回実技やって無いから適当に出来そうな人と組んでやって頂戴」
「問題は…人が足りるかどうかなのですよね」
「頑張って見つけてね」
 まるで他人事のように言い、テスタメントが持ってきたおやつのメロンパンの袋を、勝手にパリッと開けて食べる。
「最低でも5人1組なのですよね」
「急がないと皆、組み始めちゃうわよ」
「フフフ、問題ないのです。すでに1人ここにいるのですから!レイカ・スオウ、テスタメントと…。…って、どこにいったのです!?あわわ…、誰かーーーっ、テスタメントと組んでほしいのです!!」
 傍にいたはずのレイカがいつの間にかいなくなってしまい、テスタメントは仲間を求めて走る。