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亡き城主のための叙事詩 前編

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亡き城主のための叙事詩 前編

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 十一章 剛毅の従士 後編

 剛毅の従士の至近距離で拳の打ち合いをしているのはサーバル・フォルトロス(さーばる・ふぉるとろす)だ。
 幸いなことに剛毅の従士はあまり速くはない。が、その一発いっぱつが持つ力は常識を超えるもの。
 直撃すればひとたまりもない。良くて戦闘不能、悪ければ死。それゆえ、サーバルは攻撃を回避することに専念していた。

「思ってた以上に、キツイ戦いね」

 サーバルは額に大粒の汗を浮かべながらも、逃げることはせず真正面からの打ち合いに専念する。
 サーバルは他の契約者たちと共闘しつつ、なぜ一番危険な真正面からの打ち合いに望んだかには理由があった。
 それは自分と剛毅の従士のどっちが強いのか殴り合ってみたい、という単純な欲求。
 それゆえ、自分が戦っていると一番手出ししてきそうなパートナーのマクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)に事前に釘を差しておいたはず、なのだが。

「……ッ! チッ、小癪な……」

 剛毅の従士が足に目掛けて撃たれた銃弾を、後方に跳躍することで避けた。
 その狙撃を行ったのは、少し離れたところで魔銃モービッド・エンジェルを構えるマクスウェル。
 マクスウェルの言い分からすると、これは助けるためではなく他の奴等が動きやすいようにしているので手出しには入らない、だろうか。

「まあ……こうなることは分かってたけどね」

 サーバルはため息をつきつつ、剛毅の従士に追い打ちをかけるために大地を蹴った。
 剛毅の従士の懐に潜り込み、胴体に目掛けて拳を振るう。これは牽制、サーバルの目的は相手が則天去私を放つときに生じる隙だ。

「数が多くて厄介だな……今は一人でも早く頭数を減らすべき、か」

 剛毅の従士は小さくそう呟くと、至近距離にいるサーバルに則天去私の構えをとる。
 身体をこれほどか、というほどに大きく捻り、エネルギーを拳の一点に溜める。

「このときを待ってたのよ……!」

 サーバルは表情を輝かせ、剛毅の従士が放つ必殺の一撃に集中する。
 チャンスは一回。この技を避けて、その隙に自分の拳を打ち込む。

「ほう……そうか。けれど、この技を避けきれるかな?」

 剛毅の従士がサーバルに向けて則天去私の一撃を放った。
 サーバルは軽身功の動きでこれを辛うじて避ける。が、ほんの薄皮一枚ほど胴体に拳が触れた。

「……!?」

 拳から放たれた衝撃は触れずとも空気を伝って、サーバルの身体を叩きつける。
 喉を逆流する鉄の味。腹から全身まで響き渡る衝撃。
 しかし、サーバルは驚異的な精神力でその激痛に耐え、鳳凰の拳の構えをとった。

「あれに耐え切るか。見事」
「……喰らえ……!」

 辛うじて搾り出した声と共に、サーバルは左右の拳を叩き込んだ。
 装着した怪力の籠手により威力を増した双拳は剛毅の従士に直撃。

「ガ、ハ……ッ!」

 剛毅の従士は身体をくの字に曲げ、血の混じった吐瀉物を地面に吐き出した。
 赤い雫が跳ねて、サーバルの拳聖の装束を濡らす。が、それと同時。

「……お返しだ。拳聖」

 剛毅の従士は苦痛に耐え、サーバルに拳を振るった。
 腹部に当てられた拳は、先ほどの則天去私の一撃と相まって、身体の自由を奪うほどの激痛を生み出す。
 そして、動けなくなったサーバルの細い首を右手で掴み、力ずくで首を絞めた。

「……!!」

 サーバルが声にもならない悲鳴をあげる。
 ぎりぎりと喉を強く絞める感触が右腕を通じて剛毅の従士に伝わる。
 が、剛毅の従士のその行動は顎に突きつけられた魔銃モービッド・エンジェルの銃口により中止させられた。

「そこまでだ。パートナーをみすみす失うわけにはいかないんでな」

 颯爽と剛毅の従士に近づき、マクスウェルは突きつけた銃の引き金を引いた。
 剛毅の従士はそれを顔を後ろに反らすことで回避。握っていたサーバルの首は解放される。
 マクスウェルは地面に落ちる寸前でサーバルを受け止めた。

「……邪魔が入ったか。しかし、その者を抱えながらではおまえも、」

 不意に、剛毅の従士の言葉を遮るように大風が彼を襲った。剛毅の従士は両手をクロスして、この大風から身を守る。
 やがてその風が過ぎたころ、傍にいたマクスウェルとサーバルは撤退していた。

「共闘、ということを忘れてもらっては困るのう」

 ルファンは芭蕉扇を片手に構え、剛毅の従士を睨む。
 そして、また一振り。山火事をも消すことが出来る嵐の如き風の刃は、剛毅の従士の身体を切り刻み足止めを行う。
 が、剛毅の従士は軽身功の動きでその風をものともせず、ルファンに疾走。
 強く大地を蹴り、拳を構え、空を舞い、ルファンに向けて頭上から右腕を振り下ろす。

「と、そうはいかねぇぜ」
「な――!?」

 しかし、剛毅の従士は横から現れたギャドルに空中で打ち下ろされる。
 勢いよく背中から地面に落ちた剛毅の従士は、数回バウンドをして、辛うじて体勢を立て直した。
 そこに素早く走りこんできたのは戦いを心底楽しんでいる笑みを浮かべた保名だ。

「まだ立ち上がるか。面白い、わしがおぬしに引導を渡してやろうぞ!」
「次から次へと……まあいい。かかって来い!」

 先の先の構えをとった剛毅の従士が先に保名に向けて右腕を振るう。
 保名は飛来する拳を後の先の動きで見切り、五指を分開し丸みを帯びさせた掌型で受け流す。
 狐手掌、そう呼ばれる技だ。剛毅の従士の攻撃をいなした保名はその隙に自分の拳を放つ。
 剛毅の従士の口から血飛沫が洩れる。幾度もの攻撃を受けた剛毅の従士の身体は限界に近い。
 それを感じた剛毅の従士は、初めてここで自ら後退を行おうと光の翼を生やし空へと飛んだが。