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【依頼3】モヒカン村襲撃



 襲撃決行日、その村では奇しくも周囲の友好モヒカンたちが集まり、宴会を開いていた。
 予想以上の数で溢れるモヒカン村へ、三十二名の精鋭たちが襲撃を開始する。


 薄暗い闇の中、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は音もなく走っていた。
 モヒカン村近辺に設置してある照明の陰影を巧みに利用して、村を囲う柵までたどり着く。
 事前に入手していた情報から柵の破損個所を見つけて侵入すると、村の中は人ごみと喧噪に溢れていた。
 いつものモヒカン村の人口とは比べ物にならないくらいに多い。見つかってしまえば逃げるのは難しいだろう。
 吹雪は汗のにじむ手で機晶爆弾を握りしめ、目標の建物を探す。

(狙うは弾薬庫に燃料貯蔵庫、可能ならば村長の家にも爆弾を仕掛けたいところでありますが、状況次第でしょう)

 弾薬庫はすぐに見つかったが、想定以上に厳しい警備がしかれていた。
 多くのモヒカンたちが集まっているので、臨時の警備が追加されているのだろう。
 だが、無理に内部へ潜入する必要はない。
 吹雪はベルフラマントをつけ直すと、建物の裏手に移動した。
 丁寧に距離を数え、機晶爆弾を壁にセットする。そして草と葉っぱでカモフラージュを済ませ、そっと離れた。

(次は燃料貯蔵庫ですね……っと、あれは村長の家でありますか)

 近くにあった茂みに隠れ、遠巻きに確認する。
 屋根に『覇者オブ世紀末』と書かれた大きな看板を掲げた豪邸には、沢山のモヒカンが出入りをしていた。
 警備モヒカンの人数は弾薬庫と同じぐらいだが、それ以外のモヒカンも大量にうろついている。

(時間が無いので村長の家の消毒は諦めましょう)

 吹雪は迂回をして移動し、燃料貯蔵庫の裏手に立った。
 巡回の警備モヒカンをやりすごし、手馴れた動作で窓から侵入していく。

(火炎放射器のオイル……少し頂いていきましょう。代わりにこの機晶爆弾を置いておきます。まさにギブアンドテイク)

 容量が限界まで入ったタンクに機晶爆弾を設置すると、入ったときと同じように抜け出した。
 そのまま村から脱出して、駆け足で距離を取る。

「始まりの時間であります」

 手ごろな岩の影に隠れた吹雪が手元のスイッチを押すと、村から二つの爆音が響いてきた。

 ◇

 モヒカン村で起きた爆発の光は、南西に1km程離れた上空に待機していたイコンフライトスターのシルエットを夜空に照らしだした。
 鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)と一緒に搭乗していた大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は、爆発が起きた場所が弾薬庫と燃料貯蔵庫だとすぐに気付く。
 襲撃が計画されてから、周到に村の施設や兵器の位置を調べていたのである。

「ねえねえお兄ちゃん、ほら、すごい爆発が起きてるよ。あたしたちもあれぐらい派手にやりましょうよ!」

 フライトスターの操縦席では、ハッチを開けて身を乗り出した望美が興奮した様子でモヒカン村の方を指差している。
 そんな望美の揺れる胸元を見ながら、剛太郎は彼女に自制を促した。

「じ、自分らの目的は村の中枢部へ強襲し、内部を制圧することにあります。予行演習通りにやりましょう」
「はーい。でもあれ、予行練習したときみたいに出来るか、ちょっと心配かも」

 慣れた動作で操縦席に戻る望美の声に、剛太郎は視線を移す。
 モヒカン村では警報が響き、無数のサーチライトが辺りを照らし始めていた。
 そこに浮かび上がるはモヒカンイコンの影。徐々に数を増していき、星の瞬く空を覆う程に黒く染め上げていく。
 予想していた数をはるかに上回るイコンの大群が展開されつつあった。

「そろそろ集会がある時期だとは聞いていましたが、よりにもよって今日とは……」
「どうするお兄ちゃん? 強引に突っ切ってみる?」

 望美が嬉しそうに火器管制のチェックを行っている。
 その様子に一抹の不安を覚えるが、剛太郎は頷いた。
 そしてコックピットからマニピュレータの上に移動し、望美に合図をする。

「今なら村の内部も混乱していると予想されますし、制圧が出来れば戦略的価値も高まるでしょう。望美、行くであります!」
「そうこなくっちゃ!」

 ゴーサインを受けて、望美はバーニアを吹かした。
 急激なGで剛太郎の身体がマニピュレータの掌に押し付けられるが、訓練に比べたらまだ温いぐらいだ。
 モヒカンたちが急速に近づくフライトスターを見つけ、恐竜の骨を飛ばしてくる。しかし望美は加速を弱めず、姿勢を少し動かすだけで難なく躱していく。
 だが、村に近づくにつれてモヒカンたちの密度も濃くなり、攻撃の手も増えてきた。

「敵の攻撃を避けるためとはいえ、このまま加速を続けたら村の上空を通り過ぎてしまうでありますが、どうするのでしょうか?」
「こうするのよ!」

 姿勢だけ反転したフライトスターが村の上を通過した瞬間、剛太郎をオーバースローで投げつけた。
 それによって速度を相殺された剛太郎の体は、屋根に『覇者オブ世紀末』と書かれた看板のある豪邸に落ちていった。