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リアクション
第二幕:崩落カウントダウン
「じゃあ入り口塞いじゃおうか」
「よし任せろ」
「だから待つのじゃ! いきなり物騒な――」
「静かにしろよ。見つかったらやばいって!」
「アル君も声大きいよ……」
件のアジトの前、御凪たちは茂みに身を隠しながらこれからの行動について話し合っていた。彼らの視線の先には哨戒をしている複数の男たちの姿があった。手には剣や斧が握られている。隠れているのを見つかればすぐさま襲ってくるだろう。
「朋美の気持ちもわからなくもないけど深月の言うことにも一理あるからな。ってか殺気立ちすぎだろう。特に真人、笑顔が怖い」
「いえいえ、俺は冷静ですよ」
「だから余計に怖いんだろう。まあセクシーな恰好をしたねーちゃん……セレンフィリティたちも怖かったけどな。なんで集まった連中はみんなして笑顔が怖いんだよ。前に会ったときはもう少し近づきやすかったぞ」
「それは可愛い女の子を集団で襲い掛かるなんて卑劣な輩が許せないからでしょう。僕だって許せませんから、せっかく茶葉を譲ってもらおうと思ったのにあんな状態じゃあね」
「なんだ。サズウェルは茶葉が目的だったのか」
「森に茶葉をコレクションしてる魔女がいるって話を聞いたので……そういうわけで爆破に一票」
「サズウェル!?」
爆破を止めたかった深月は自分の意見に賛同してくれると思っていた友人のまさかの反撃に戸惑う。その様子を眺めていた御凪が提案した。
「それなら何人かがクウさんの安全を確保しに潜入。その間に高崎君たちが爆破の準備、皆が脱出後に入り口爆破でどうかな?」
「なら私が先行しよう。こう見えても腕には自信があるし、ルーノの持ち物があったら壊れないように保管しないといけないからな。シルフィアに深月、サズウェルもついて来るよな?」
「可愛い女の子をいじめるやつらはワタシがこの槍でお仕置きしてあげないとね」
シルフィアが槍を力強く握りこむ。
その気迫が移ったわけではないだろうが、隣にいた神凪とサズウェルが頷いた。
「お父さんが行くならついて行くよ。中は暗いだろうし、このランタン必要でしょ?」
「明かりならわらわも同じものを持っておるぞ。万全じゃな」
彼女の後ろであるべーるがプラカードを持ち上げた。
『マスターに羞じぬ行動をいたしましょう』と書かれている。
「期待しておるぞ。あるべーる」
『お任せあれ』
かくして突入することになったのはアルクラント、シルフィア、サズウェル、深月、あるべーるの五名になった。御凪とキリエ、そしてセラータは森の中を哨戒している男たちの仲間が戻ってきたときに挟み撃ちにならないよう、ここで待機することにした。高崎たちは爆弾の制作に没頭している。
「気をつけてくださいね。怪我をしたときは戻ってきてくだされば私が癒します」
「君たちの背中は俺が守ります。安心してください」
キリエとセラータの声を背中にアルクラントたちはアジトの中へと入っていく。
洞穴の中は思ったよりも広かった。
奥は暗く、光源は見当たらない。
「さっそくランタンが役立ったねぇ」
「まったくじゃな……サズウェル明るすぎじゃ」
サズウェルと神凪がランタンで辺りを照らす。
神凪は袖の中に携えて明るさを調整していた。
「頭いいね深月」
アルクラントが感嘆の声をあげる。
洞窟を進むことしばらくして、奥の方で明かりが漏れているのが見えた。
明かりは一つだけではない。どうやらいくつか部屋があるような構造になっているようだった。手前から奥から話し声が聞こえてくる。
「これだと騒ぎが起きたら大変なことになりそうだねぇ」
サズウェルがアルクラントに耳打ちした。
アルクラントが頷く。
「早いか遅いかだけで騒ぎは起こすけどね」
「アル君……まさか――」
シルフィアの言葉を遮ってアルクラントは一番近い明かりめがけて走り出した。
扉の前、ノックなどという礼儀正しい行動はとらず、勢いよく扉を開ける。
扉の先、彼の視界には三人の男の姿があった。誰もがこういう事態に陥ることを考えてはいなかったのだろう。男たちは椅子に身体をあずけて賭け事に興じていた。武器は壁に立てかけられたままだ。
「お前どこからっ!?」
男の一人が武器を手にしようと壁に手を伸ばすが遅い。
瞬時に状況を把握したアルクラントが一手先に動いていた。男の手の先には武器はなく、固い壁があるだけだった。得ようとした武器はすでにアルクラントの手の中にあった。
「斧とか前時代的だね。こんなものを振り回してクウたちを襲ったわけだ……」
「一人でいきがってんじゃねえぞ!」
叫び、男が殴りかかってくる。
しかし男の腕がアルクラントに届くことはない。伸ばそうとした腕は身体ごとワイヤーで巻かれ、身動きが取れない状態になっていた。犯人はサズウェルだ。
「お父さん、勝手に行動しないでよ。深月さんが怒るよ」
「馬鹿者め! せっかくわらわが見つからぬようにと考えておったのに」
「違った。怒ってるよ」
サズウェルは苦笑した。
「なに楽しそうに話してんだよっ!」
こちらを歯牙にもかけないアルクラント達にしびれを切らした男たちが一番近くにいたアルクラントに殴り掛かってきた。
「子供相手に集団で襲い掛かるやつは一発くらい殴っておかないと気が済まないよね!」
叫ぶと相手に合わせて腕を伸ばした。
互いの拳が交差する。