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【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持

リアクション公開中!

【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持
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リアクション

  
〜 第十二楽章 tempestoso 〜
  
  
そして時間と舞台は元に戻る……
 
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が無理矢理むしり取った金網の破片を
力のままに放り投げたのを狼煙がわりに、コロセウムも戦いの火蓋が切られる事になる

 「3人とも!目をつぶれ!!」

すっかり場に呑まれた観客及びガイナスの配下の男達が事態を理解して動き出そうとした瞬間を
閃崎 静麻(せんざき・しずま)は見逃さず、満を持してカスタムした【機晶爆弾】を打ち込んだ
スタングレネード仕様に改良されたそれが閃光を放つ
あわせてレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)がタイミングを合わせてスキルを発動
金網を中心に渦巻く【タービュランス】が男達の視覚と動きを完全に封じ込める

……だが相手は根城に控える荒くれ者、即座に態勢を立て直し始める
だが静麻達の追撃の手もまだ終わってはいなかった!

 「クリュティ!」
 「了解、マスター」

合図と共にクリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)が愛槍【メメント銛】を金網の中心に構える
【加速ブースター】と【フライトユニット】の推力を最大限に高め
一気に固定していた脚部装甲のバンカー解除する!
突貫力を極限に高めた【ランスバレスト】で強引に開けられた道が救出への突破口になる……はずだった

 「な、フラワシ……だと!?」

機晶姫の持てるスキルを最大限に駆使した槍の切っ先が、金網直前で止まる
その突撃を止めたのは【鉄のフラワシ】
すぐさまその影に潜む【悪疫のフラワシ】の存在を発見し、急いで離脱する
驚きを隠せないクリュティ達の表情が見たかったかのように
ゼブル・ナウレィージ(ぜぶる・なうれぃーじ)が愉悦の叫び声をあげた

 「いいぜ!今こそワタシの絶・対・防・衛!
  わが主とヴァルキリィィとの闘争は誰にも邪魔はさせないィィィィィィィ!!徹雄ォォォ!」
 「……わかってるよ」
 「!?……みんな下がれッ!!」

【タービュランス】をねじ伏せる勢いで【嵐のフラワシ】による邪な嵐が吹き荒れ
松岡 徹雄(まつおか・てつお)の【煙幕ファンデーション】を巻き込み
クリュティの側に駆けつけた静麻達がフリューネの側まで行くのを遮断する
だが嵐はただの風の壁だけで終わらない
立ち止まる事に危機を感じた静麻達が距離を取るのと
嵐の側にいたガイナスの手下達が怯えたように次々と苦悶の叫び声を挙げるのが同時だった
その眼差しはみな宙を泳ぎ、見えない恐怖に我を失っているようだった

 「気をつけてください!
  【魔女のフラスコ】の毒と【その身を蝕む妄執】の幻覚……どちらも強力です!」
 「うふふ、何だか空賊さんまで巻き込んじゃいましたか……でもお仕事優先だからしょうがないですよね
  すみませんが、運が悪かったという事で、お願いできますか?」

警戒を呼びかけるレイナの前に現れたのはアユナ・レッケス(あゆな・れっけす)
恍惚とした笑みと共に手のナタを弄びながら彼女の言葉は続く

 「あの黒髪ヴァルキリーさんはトモちゃんの事をなにか知ってるかな?
  さっきは話を聞けなかったけど、これが終わったら聞いてみよう★」
 「……何をわけのわからないことを」

対峙する静麻が困ったように唇を舐めた

 
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 「さて、アユナもはじめたみたいだねぇ……俺はどうすればいい?」

視界を遮る渦を巻く嵐の中心
歪んだ金網の中で徹雄が竜造に問いかける
金網の開いた穴から脱出を試みたフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)達だったが
彼女に的を絞った竜造がその前に立ち塞がり、未だ網の舞台の中にいた
ようやくフリューネと対峙できた歓びゆえか、楽しげに竜造言葉を返した

 「テメェは俺の楽しみを邪魔する奴を潰せばいい
  随分待たされたぜフリューネ、お望みどおり生きるために殺しあおうぜぇ!!」
 「くっ!!」

言葉が終わらないうちに【ゴッドスピード】で彼女の至近距離まで接近し
【梟雄剣ヴァルザドーン】を勢い良く振り下ろす
ギリギリでフリューネが回避を試みたところに【ギガントガントレット】の拳を叩き込むが
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の【レゾナント・アームズ】による突きがそれを相殺!
ぎぃぃぃぃん、という音と共に衝撃で距離が引き離された

すかさず美羽が追撃を開始しようとしたがその前に徹雄が立ち塞がる
彼の相手は伏見 明子(ふしみ・めいこ)リネン・エルフト(りねん・えるふと)がしていたはずだが
元が手負いのリネンをかばって動く明子に分が悪いようだ
それでも早々苦戦はしない筈なのだが……僅かに鈍っている彼女達の動きと
自分の下にまで漂ってきたその元凶を理解し、美羽が歯噛みした

 「信じられない!この空間で【しびれ粉】を撒く!?」
 「お仕事だからね」

ガスマスク姿をいい事に徹雄の声は涼しげだ
彼の姿越しで美羽の代りに竜造に応戦しているコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が見える
【百戦錬磨】の経験と勘【行動予測】のスキル、加えてフリューネとの戦いの邪魔に対する苛立ちで
猛攻を繰り広げる竜造に苦戦しているようだ……彼より僅かに上のレベル技量で凌いでいる
まずフリューネとリネンの回復が優先なのだが、誰もが隙を伺う事ができずにいた

そして、只でさえ困難な状況の中、新たな悲鳴が響き渡る
姿は見えずとも、その聞き覚えのある声に美羽は思わずその名を叫んだ

 「パフューム!?」


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 「お久しぶりです、パヒュームさん…
  できれば、貴女とは戦いたくなかったのですが…ハデス様のご命令とあっては仕方ありません
  オリュンポスの騎士アルテミス……参ります!」

邪な嵐の風で距てられたコロセウムにアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)の声が響きわたる
【氷雪比翼】で空を舞う彼女の下の地面には
攻撃を受けて倒れているパフューム・ディオニウス(ぱふゅーむ・でぃおにうす)の姿があった

『宝物庫』から一人、フリューネを助けるべく駆けつけた彼女を襲ったのが
上空からの死角を突いた【グレイシャルハザード】の一撃
直撃は避けたものの、一気に勝負をつけようと放たれた攻撃の勢いに跳ね飛ばされてしまったのだ
良く知った者の攻撃に戸惑いながら、それでも倒れるわけにはいかないと【サンダーブラスト】を放つ
だがアルテミスに届いた途端、反射するように弾かれたのをパフュームは目の当たりにする

 「弾かれた!?そんな……」
 「パヒュームさん、貴女の魔法には対処済みです!」

彼女の手には【神獣鏡】……属性耐性もあわせた防御は完全とはいかずとも、ほぼ無力化の力を持つ
そうこうしている間にも、周囲から増援が駆けつける様子が目に入りパフュームの気は焦るばかり
戦闘に集中できない状態をアルテミスが見逃さない筈も無く、再び攻撃に跳ね飛ばされた

 「ここまでです……お覚悟を!」

アルテミスが天高く【ウルフアヴァターラ・ソード】を翳し、戦闘に終止符を打たんと
今まさに振り下ろされようとし、パフュームが思わず目をつぶったその時
数発の銃弾がアルテミスの剣を弾き上げ、体ごと彼女をパフュームから引き離すのだった

 「!!……何者です!?」
  
思っても無い援護射撃に二人が周囲を見渡す
すると彼女達を見下ろす客席の塀に立つ、魔鎧に身を包んだ戦士の姿があった

 「闇を切り裂く逆転の切札(ジョーカー)!インベイシオン、ただいま参上!」

【奪魂】と【碧血】……二つの名を冠した銃を華麗に廻して高らかに戦士は名乗る
その兜に隠された素顔がパフュームも知っている白星 切札(しらほし・きりふだ)なのは
知る人だけの秘密……事情を聞きパフュームの事を心配していた姉達のため密かに駆けつけた事は
本人だけの秘密である
再び二丁の銃で狙いを定め、インベイシオンは必殺の銃弾を放つ

 「穿て、逆転の白星(インベイションホワイトスター)!!」

叫びと共に放たれた無数の銃弾をアルテミスはギリギリ回避し、安堵する
だが真の狙いは彼女にあらず、その弾丸はその先で戦う静麻達とアユナの間に降り注いだ
不意の攻撃に彼女達も態勢を立て直すべく距離を離し、一瞬の静寂が訪れる

その狙い定めた一瞬の静寂が、全ての流れを変える力と変る!



刹那、あらゆる禍々しい力を孕み、金網を中心に渦巻いていた風が霧散した

 「馬鹿なぁぁぁ!?ワタシの暗黒を受け入れるだとぉぉぉ!?」

ゼブルの叫びに悠然と佇むのは、怪異にその身を愛された異形を孕む死霊術師
彼……エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)はつまらなそうにその言葉に返答した

 「この程度の悪疫が外道とは片腹痛い……むしろこの身には心地良い位です、この子にとってもね」

そう言った彼の傍らに控えるのはネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)
その身から溢れる瘴気を頼もしく見つめながら、エッツェルはパートナーに命令を下す

 「遊びは終わりです、あの女空賊の気高く美しい翼が、下衆に穢されるのは許せませんので
  闇に侵される事がどういう事か、身をもって教えてあげて下さい」
 「ククク……主公は、相変わらず……美しいモノの味方なのです……ね
  我は……主公の望むままに」

返答と共にミストの足元から、先程の嵐とは比較にならない瘴気が吹き上がり
巨大な龍【魔瘴龍エル・アザル】が姿を現し、瘴気の魔狼と毒蟲がミストの体から生み出されていく
その自分と拮抗するほどの禍々しさにゼブルは逆に喚起の声を挙げた

 「素晴らしい!ならばワタシも遠慮は無用!金網撤去撤去ぉぉ!出でよ魔獣ゥゥゥゥゥゥ!」

興奮の叫びと共に手元のスイッチを押す
途端、壁が爆発し元々フリューネと戦わせるはずであった魔獣が咆哮と共に解き放たれた
 
 
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流れの変化は金網のステージでも起こっていた

インベイシオンとは別の銃弾が竜造と徹雄に降りかかる
それでも猛攻の手を緩めない竜造の斬撃を……彼のと等しき大剣で受け止める影があった
剣と同様、竜造と同質の愉悦を孕む好戦的なオーラを纏わせ、その梟雄は口を開く

 「フレンディスの情報も嘘ではなかったようだな
  我が満足できる戦いは出来なさそうと思っていたが、辛抱して待った甲斐があった」

キィィィィン……と受け止めたまま、膂力を持って剣を振りぬき
レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)は言葉を続けた

 「竜造とやら久しいな
  お主は我にとって非常に興味深い存在故に記憶にあるぞ、どうだ我と少々付き合わぬか?
  なぁにその剣で我を悦ばせてくれるだけでいい」
 「おもしれぇ……いいところで邪魔した報い、命で償え!」

そこからの数手はまさに電光石火の如く
【百戦錬磨】【ウェポンマスタリー】全てを集約したお互いの連撃の応酬
僅かに凌いだレティシアの【ヴァルキリーの脚刀】による蹴りを【龍鱗化】の強化肉体で受け流す竜造
さらにそれが作為の隙と言わんばかりの【金剛力】の力を加えた彼の手刀を
同等の力を負荷した【ブレイドガード】で防ぎ
【武術】のフェイント込みの脚への攻撃すら【スタンクラッシュ】で撃破……という
同質の力同士の攻撃の応酬が繰り広げられる
真っ向からのぶつかり合いにお互いがボロボロになりながら、共に愉悦の顔を浮かべあう

 「……イイね、いい具合でイカレてるぜ、テメェ……楽しいねぇ」
 「褒めて  貰えて光栄だ、その一時で楽しく死合おうぞ」


 「困ったな、実に楽しそうだ……竜造」

その激戦を手を止めてまで見入っていた徹雄にも雷撃が繰り出される
それを回避してその放たれた先を見ながら、徹雄は溜息をついた

 「やれやれ、本格的な増援の御来場かぁ」

その先には今の雷撃……【雷公鞭】を放った申 公豹(しん・こうひょう)を先頭に
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)琳 鳳明(りん・ほうめい)達の姿があった
その奥で指示を出しているのはかの【紅き瞳の英雄】レン・オズワルド(れん・おずわるど)

義賊として空賊を狩る彼女を快く思わない者は多い
だが、その一方で空峡が危機に陥った時に数多の空賊達を指揮して戦った彼女のことを慕う者も多い
それを証明するが如く集った力……最後の強襲班の登場である



その新たな戦力を遥か遠くで見届ける影が一人
切札に続き、【トゥルー・グリット】による銃撃を放った戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)である

 「ようやく役者が揃ったか、あとは首謀者の行く末のみだな
  最も、そちらも辿りつく頃には終わってそうだが……援護位必要ならしてやるか」

混乱する客をも巻き込んだ乱戦に紛れ、彼の姿が建物の奥に消えていった


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 「どうやらこれまで……のようね」

もはや戦場に等しい乱戦模様を見下ろしながら
セフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)は背後のガイナスに話しかける
数分前の上機嫌はどこへやら、彼の顔は怒りと踏みにじられた面目の為真っ赤であった

 「そう言えばあんたから誘われた賭け……まだ生きてるわよね?
  フリューネが負ければ私の掛け金と今晩の夜伽の相手
  彼女が勝てば私があいつを貰っていい……だったわよね?
  あれって、この場合どうなるのかしらね?」
 「お前……最初からこうなるってわかってて」
 「勘違いしないで、あたし達は何もしていない
  あいつの矜持もあんた達が何をしたいかも、あたし達には関係の無い事よ」
(……まぁ生きていて欲しいとは思うけどね)

【騎士】ではなく【セフィー】としての本音はあえて語らず、彼女は眼下を見下ろす
乱戦に巻き込まれ、ドサクサに参加するもの、取るものもとりあえず逃げる者がいる中
オルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)エリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)の二人が
彼らを流れ弾から守りながら避難させ、無事に脱出させるのを確認すると
奥の扉を蹴破り、脱出経路を確認しながらセフィーは頭領に声をかけるのだった

 「あたし達はこの空のルールを重んじ、それに従うだけ
  逃げるならどうぞ、護衛は彼女達がしてくれるから
  それでもあの女空賊があんたに辿り着いたなら……自分の手で何とかすることね」