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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ

リアクション公開中!

【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ
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リアクション

「……ふう、勉強もしていないのに疲れた気がしますね」
 シャンバラ教導団の残念な人たちのやり取りを知らない人のフリをしてやり過ごしていたアルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)は一息ついて、この宿の温泉につかりに来ていたのでありました。全く……何だったのでしょうか、あの人たちは……。紳士たる彼には理解できない展開でありました。まあ、いいでしょう。ここで一汗流して仕切りなおしといきましょう。
 せっかくなので充分お湯を満喫しようと入っていくと、そこは予想外に綺麗で豪勢な作りの温泉でありました。銭湯ではなく、岩でこしらえられお湯が湧き出している本格派です。
 と……。
 アルクラントが湯煙を楽しみながら湯船につかっていると、ガラリととが開かれ誰かが入ってくるのがわかりました。さっきの大尉(笑)でしょうか? 
「やあ、お先に……」
 言いかけて、彼は言葉を止めます。
「へえ、結構いい温泉ですね……」
 とても可愛らしい声色とすらりとほっそりした体躯の持ち主が、こちらにやってきます。小柄で髪の毛の長い姿は間違いなく美少女……。
「……ん?」
 いや……ちょっと待ってくださいよ、とアルクラントは考えます。
 どうしてこのお風呂に女の子が入ってくるのでしょうか。男子風呂じゃなかったんですか、ここ……? 
「あ、おじゃまします……」
 アルクラントに気づいてニッコリと微笑んできたのは、同じくこの宿に勉強をしに来ていた神崎 輝(かんざき・ひかる)でありました。
「失礼、どうやら来る場所を間違えたようですね」
 彼としたことが、女湯と間違えて入ってしまうなどとは、一生の不覚! 紳士の名折れです。急いでお湯から上がりかけて……。
「……」
 目を上げたアルクラントはしばし絶句します。
 全くの自然体でお湯に入ってきた輝には立派なジャンボが備わっているじゃないですか!
「そ、そんなにジャンボじゃないですよっ!? いやあの、小さすぎても困るといいますか、えっと……ああ、何を言ってるんですか、ボクはっ……!?」
 真っ赤になって照れたように言う輝。なのに外見は女の子。これは……。
「男の娘ですか……」
「もう……裸を見せるのは、あなたが初めてなんですからねっ! ……なんて」
 すぐ隣でタオルで前を隠しながら恥らうように輝は小さく笑います。
 そこいらの生物学上の単なる女よりも色っぽい仕草、優しそうな顔つき、ピチャピチャとお湯で遊ぶ無邪気な動き。……これはヤバイ、可愛すぎます。
「……大変な勉強会のようですな」
 しかし、紳士たるもの動じたりはいたしません。アルクラントは余裕の口調で話しかけます。
「そうみたいですね。ボクも連れが勉強が困ったことになっていますのでついてきたのですけど」
 輝はパートナーに思いをはせるように答えます。
 期待に沿えず(?)混浴ではなかったので男女別れて温泉に入ることになったのですが、ちゃんと辿り漬けているでしょうか……、と輝は一瞬不安げな表情になります。
「心配なら耳を澄ましてみるといい。壁越しに向こう側の女湯から声が聞こえてくるだろう……」
 やけに渋い野太い声が聞こえてきました。
 湯気で隠れていてよく見えなかったのですが、少し離れた小さな湯船につかっていた先客がいたようでした。
 鍛え上げられた屈強な身体。数々の修羅場を潜り抜けてきた鋭い眼光。ザ・スペランカーの称号を持つ根っからの冒険家、前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)でありました。彼は、GW中はスペランカーの聖地でもあるメグロン大遺跡で全パラミタスペランカーミーティングに参加していた帰りだったのです。帰り際に迷宮ともいわれるシ・ンジュク大洞窟を徹夜で攻略してきたばかりで、疲れた心と身体をこの温泉で癒しに来ていたのです。あまりの眠さにずっと沈黙したままでしたが、この温泉に入って少しは目が覚めたようです。
「女の子の姿を見るのも声を聞くのも久しぶりだ。落ち着かないな……」
 だが、それもまたよし! 冒険家に女など不要とばかりに、これまでに打ち勝ってきた数々の困難を回顧しながら目を閉じる風次郎。被ったままのヘルメットの上で誇らしげに光る電灯が、彼の誇りを示してきます。
「ヘルメットもそうなんですけど……どうしてスコップ持ったままお風呂に入っているのですか?」
 突っ込むべきか否か迷っていた輝に、風次郎はふっとカッコイイ笑みを浮かべます。
「相棒……だからな。こいつだけは俺を裏切らないし、俺の全てを知っている……」
「ああ、同感だ。その気持ちは十分に理解する……私もこれはもはや一心同体でね」
 かく言うアルクラントもベレー帽をかぶったまま風呂に入っているのでした。人間、常に身につけておくべきものがある、そういわんばかりです。
「……」
 何と言っていいのやら。しばし異様な静寂が辺りを支配します。そうしていますと、風次郎のいうとおり、壁を隔てた向こう側から、女の子たちのきゃらきゃらした声が聞こえてきます。
「……」
 さらに沈黙。
 女湯の楽しそうな様子が伝わってきます。彼女らの裸体が想像できるようで……いやいや、ここにいるのは紳士と男の娘と熟練の冒険家。その鍛え上げられた鋼鉄の精神はジャンボをピクリとも動かすことはありません。
 と……。
 アルクラントと輝のつかっている湯船の端から、ぶくぶくと何やら泡だって来るのが見えました。じっと様子を伺っていると、湯船のそこからゆっくりと人の顔が浮かび上がり、ぷはぁという息継ぎと共に人影が現れます。どうやらお湯の中に潜っていたようですが……。
「凄いです。この温泉、向こうとこっちとが繋がっているんですよ!」
 やったーと言わんばかりに笑顔で言ったのは、女湯に入っているはずだったアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)ではありませんか。湯船で潜りあいの遊びをしていてここにたどり着いたようです。湯煙で曇っていたため今ひとつこちらの姿がよく見えなかったのか、無防備でこちらに近づいてきます。
「あ、お騒がせしてすいません。すぐに帰りますから……。って、えっ……!?」
 紳士と男の娘と冒険家がじっと見つめているのに気づいて、アルテミスは硬直します。
「えっ……、あの……えええっっ!?」
 何も隠すものがない丸見えの自分の姿に気づいて、アルテミスはみるみる真っ赤になりました。ぱくぱくと口をあけたまま涙目になって、ざぶんとお湯に身をつけます。
「後ろを向いていますから、ゆっくりとお帰りなさいよ」
 アルクラントは紳士らしく、落ち着いた口調で言います。
「真鈴、ちゃんと女湯に辿りつけていましたか? ……あ、お帰りはあちらですよ」
 パートナーの一瀬 真鈴(いちのせ・まりん)の身も案じるのは輝です。苦笑しながらも、出口を指差します。
「……」
 スペランカー風次郎は、ヘルメットだけを湯の上に出してやり過ごそうとします。
 優しい男たちです。
「い、い……いやああああああっっ!」
 うわああああん! と泣き声をあげながら、アルテミスはお湯から飛び出し駆け出していきます。
「……やれやれ」
 見送った男たちが安堵のため息をついたのもつかの間。
「きゃあああああっっ!?」
 温泉から飛び出したアルテミスが、更衣室辺りで悲鳴を上げます。
「おおうっ、何事!?」
 後から温泉にやってきた大尉(笑)が驚きの声を上げたのが聞えました。パイロットとして復活した彼は、ジャンボなまま中に入ってこようとしていたのです。
「……ルースさん、よりにもよって何をしているんですかっ……!?」
 更衣室の外からナナの詰問の声が聞こえます。
「い、いや、違……っ、誤解だ。あの娘が中から飛び出してきて……!」
「男湯から、女の子が飛び出してくるはずがないでしょう! こんなところに可愛い女の子を連れ込んで、何をしようとしていたんですかっ!?」
「いや、だから……ぎゃあああああっっ!?」
 哀れな大尉(笑)の折檻の音が聞えて、紳士であるアルクラントは助けてあげようと湯船から立ち上がります。
「いや、待ってくださいよ。彼の言うことは本当なのです。私たちが証人になってもいいですから、許してあげてくださいな」
 そのまま歩み寄っていくアルクラントに、再び更衣室の外から女の子たちの悲鳴が聞えてきました。恐る恐る様子を見に来ていた他の女の子たちがあるクラレントの姿を見て逃げていきます。
「え、……あ、いや、ですからですね……」
 これは、紳士にあるまじき失態です。放っておくと噂が噂を呼び、彼の股間もとい沽券に関わってきます。早急に誤解を解く必要が出てきたアルクラントは、ベレー帽をかぶり腰にタオルを巻いたまま、状況を説明しようと廊下に躍り出ました。
「待ってくださいな。私の話を聞いてください……!」
「きゃあああああっっ!?」
 衣装を取りに戻ろうとしたアルクラントに気づいた一人の女の子が悲鳴を上げました。
 女湯に入ろうと準備をしてきたものの、天性の方向音痴で場所がわからずにうろうろしていた一瀬 真鈴(いちのせ・まりん)です。彼女は、パートナーである輝とはぐれ、涙目になって探し回っていたのですが、出会ったのが紳士だったのです。
「へ、変態ぃぃぃぃぃっっ!」
 ひいいいいっっ! と恐怖に硬直した真鈴は、機晶姫としての防衛本能のまま、装備していた機晶キャノンと六連ミサイルポッドを発射させます。
 ドドドドド〜ン! と音を立てて崩れ落ちる壁。何の関係もないのに宿屋が破壊されていきます。
「これはまずいです」 
 責任者である男の娘の輝も、真鈴を止めるべくそのまま温泉を飛び出します。前にタオルを当てているものの走っている勢いで腰の一連ミサイルポッドのシルエットが露わになります。ますます恐慌に駆られ逃げ惑う真鈴、それを追う輝。辺りは騒ぎになります。
「ち、違います! 私は変態ではない紳士です!」
 アルクラントの威厳はずたずたに引き裂かれていました。正義感に燃える彼は、こんな過ちを許しておけるわけにはいきません。そんな彼に向かって、一人の少女が凄い勢いで駆け寄ってきます。
「あ・ん・た・わ・〜!」
 それは、アルクラントのパートナーのシルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)でした。温泉を堪能し終えた彼女、少し離れたところでコーヒー牛乳を一気飲みしていたのですが、騒ぎを聞きつけてやってきたのです。ようやく理解者が現れたアルクラントはほっとした表情で彼女を迎えるべく両手を広げます。
「聞いてください、シルフィア。実は……!」
「なにをやってるのよ〜〜〜〜!」
 助走をつけた威力もそのまま、シルフィアはアルクラントの顔面にとび蹴りを食らわせます。その弾みで浴衣の裾がめくれあがり丸見えになります。
 ごふぅ……! と鼻血を撒き散らしながら倒れるアルクラント。彼の命運も尽きたかのように、勢いで腰に巻いていたタオルがハラリとはだけ落ち、彼の紳士が観衆の下露わにされます。
「きゃああああっっ!? ばかぁぁぁぁっっ!」
 根が純情なシルフィアは、両手で顔を覆ったままガシガシとアルクラントを踏み続けます。ああ、そんなに力をこめてやりすぎたら、彼の紳士が……。
「……」
 やがて、アルクラントは大急ぎでやってきたこの宿の警備員たちに両脇を抱えられどこかへ連れて行かれました。彼は、最後まで紳士だったと言います。


 その頃……。
 スペランカー風次郎は、騒ぎを避けて温泉から出ようとして。
 段差につまずいて、その衝撃で死にました。



「あううう……、どうして次から次へとこんなひどい目に……」
 温泉からアルテミスを連れて部屋へ帰ってきたのは、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)でした。全然勉強がはかどらない上にわけのわからない騒ぎまで起こってションボリです。
「けど……。まあいいです。兄さんと二人きりで同じ部屋で一晩を過ごすなんて、久しぶりですから」
 彼女が慕う偉大なるマスタードクター・ハデス(どくたー・はです)のことを思い出し、咲耶は気を取り直します。ブラコン気味の彼女は、博士と一緒に一晩過ごすためにこの合宿所の噂を聞きつけやってきたのです。一つ屋根の下で一緒です。それを考えただけで元気が沸いてきます。
 と、そんな彼女は、部屋のテーブルの上に数本のドリンクが置かれているのに気づきました。
「……これは?」
 手に取った咲耶は目を丸くします。一見普通の健康ドリンクのように見える容器ですが、ラベルがオリュンポスマークです。そう、それは彼女のご主人様が所属する秘密結社、オリュンポスで用意されたものに違いがありません。
「さすが兄さん、気が利きますね」
 きっと、咲耶とアルテミスが勉強を頑張れるように、と差し入れてくれたものでしょう。その優しい心遣いだけで目頭が熱くなります。
「兄さん、私頑張りますから……!」
 一気に三本飲み干した咲耶は、まだ部屋の片隅で自己嫌悪でぐずぐす泣いているアルテミスにも飲ませてあげます。これで気分がシャッキリのはずです。
「……ふぅ」
 なんだか身体がぽかぽか暖かくなってきました。心地よい酩酊感と高揚感で心が軽くなってきます。凄い効き目です。
「……ふぅ」
 もう一度咲耶は甘い息を漏らします。頭がボーっとしてきて目の焦点が会わなくなってきたような気がします、が気のせいでしょう。
「……さあ、お勉強、がんばらなくひゃ……」
 ちょっと呂律の回らない口調で、咲耶は予習復習の続きを始めます。
「お勉強はぁ……まず浴衣を脱いで……あとぱんつも……」
 ゆっくりと脱ぎ始める咲耶。一体何の勉強を始めるつもりなのでしょうか……。