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ガッツdeダッシュ!

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「オレだって最初は結構真面目に調査していたんだぜ。だが、そのうちこのオレがこの町を歩いていると、誰も近寄ってこないどころか鳥たちまでがオレたちを避けてしまうようになった。なぜだか分かるか?」
 あの後、香菜にすぐ捕まって散々説教を食らったキロスは不機嫌な表情で往来を歩いていた。
 実のところ……事件解決に乗り出そうとしていたキロスたちは、町で聞き込みを開始していたのだが、今のところあまり芳しい成果は上がっていなかった。
 町の人たちは、事件の発生に困惑しながらも自分自身の生活や祭りの準備に忙しく他の事をあまり気にしていられないことが原因なのだが、それが隠し事をしているように見えて、キロスは面白くない。さらには町をうろついている野良ガッツ鳥すら彼らの姿を見ると避けて通る有様だった。
「このオレがせっかくソフトで人当たりよく接しているのに避けられているのは、狼男と胸ぺったんこの小うるさい女が傍にいやがるからだ」
「狼男って僕のこと?」
 キロスのグチに呆れながら聞き返しててきたのは、後から合流してきた杜守 三月(ともり・みつき)だった。獣人である彼は、この町のガッツ鳥にもふもふ度で対抗しようと思ったからなのか、毛の手触り抜群の狼の姿になっていた。
 そんな彼をギロリと睨みながら、キロスは毒づく。
「そうだ。空気読めよ、三月。全ての鳥は本能的に狼が嫌いに決まってるだろ。その姿に恐れをなしてガッツ鳥でも逃げ出してるんだよ。もふもふするぞ、コラ!」
「触られるのは別にいいけど。……え、何なの? 他人にものを聞くときに胸倉掴むクセのおかげで避けられているだけなのに、僕のせいなんだ。へ〜」
 三月はその場に立ち止まり、元の人間の姿に戻った。額の辺りに小さな怒りマークを浮かび上がらせてキロスに言い返す。口元は笑っているのに目は笑っていない。
「ちょっとさ……今日のキロス感じ悪いよね? 何だっけ……財布の中身全部スッたんだっけ? 僕はそれほど負けてないから怒ってないけど、キロスのばあい必死すぎて笑えないよね……?」
「……先輩をシメる日がこんなに早くやってくるとは、嬉しいぜ。オレの学園征服の第一歩として血祭りにあげられる栄誉に浴せることを感謝するんだな」
 ふっ、と笑みを浮かべるキロス。
「僕もいいよ、来いよ。キロス喧嘩強いんだよね? 相手になってやるよ」
 くいっくいっと指で挑発する三月。
「……ちょ、ちょっと、待ってください。やめて、どうして喧嘩しているのですか……」
 ギリギリと睨みあう二人の間に慌てて割って入ったのは、三月のパートナーの杜守 柚(ともり・ゆず)だ。せっかくキロスたちと仲良くなりたいと思ってやってきたのに、予想外の険悪な雰囲気に心配げな表情になる。
「私、何か悪いことしましたか……?」
「じゃれあっているだけですよ、柚先輩。気にしなくてもいいと思いますけど。……男って、ああいう仲のよさもあるでしょう……?」
 香菜は、ちょっとわかったような口調で言う。キロスに視線を移すとすました顔で聞いた。
「ところで、胸ぺったんこの小うるさい女って誰のことかしら? 私には心当たりないんだけど」
「ちっ……、これ以上やって泣かれても困るから今日のところはこの辺で勘弁しておいてやるぜ。……命拾いしたな、狼男」
 柚と香菜に視線をやってキロスは舌打ちする。
「やれやれ……とんだ口だけ新入生だよ。まあ、僕も後輩イジメするつもりはないから、やめておいてあげるけど」
 キロスと三月は、もう一度にらみ合ってからフンとお互いにそっぽを向く。
「もう……、そんなに険悪になるのでしたらもう賭け事なんかやめてください。ギャンブルは楽しむぐらいならいいと思うんですけど、はまり過ぎるのは良くないですよ」
 柚はキロルたちをたしなめる。
「いやまあ……、はまり過ぎってことはねえよ。今回はちょっと調子に乗ってみただけだ。あの鳥たちのつぶらな瞳を見ていたらついふらふらと券を買っちまっただけで普段はそんなに大勝負はしないな」
 答えたのは、事の始めから事件に関わっていた山葉 聡(やまは・さとし)だ。
「オレは生きるか死ぬかの勝負が好きなだけだぜ!」
 キロスも答える。
「それで死んでちゃ、お話にならないわよね」
 香菜の突っ込みにキロスは真顔になって。
「別にカネが欲しいわけじゃねえよ……、そりゃあるに越したことはないんだが、なんていうかなぁ、ほらオレって強いだろ? たいていトラブルは自分の力で解決できてしまうほどに。そういうのとはまた別の……他人に運命を委ねるスリルっていうか、自分の意思じゃどうにもならないもどかしさっていうか……。そういうのが楽しいんだ」
 考えながらも案外まじめな口調で答えるキロス。
「そんなものなのですか?」
 素直でやさしい柚は今ひとつピンときていないようだったが、とりあえず頷いておく。
「無慈悲で理不尽……それでもいいさ、真っ当な勝負の元行われた賭け事ならな。失う確率が高いのは承知の上だ。負けても仕方がない、それもまたギャンブル。だが、それが第三者の手によって不当に歪められた結果なら承知しねえってだけだ」
「自分が優位に立つならいいけど、他人が優位に立つのは許せない。そういうことでしょ。あなたらしいわ……」
 香菜はキロスの理屈など興味なさそうにあっさりと切り捨てる。
「ところで、オレは再び勝負を挑まなければならなくなった。当然、受けて立つのだろうな!」
 キロスは、微笑みながら様子を見ていた火村 加夜(ひむら・かや)をビシリと指差す。
「……え、私ですか?」
 意外な方向へと話を振られて加夜は戸惑う。
「将を射んとすれば、まず馬を射よ。蒼空学園を征服し校長の座を狙うオレにとっては、まずその許婚を先に倒しておくことも重要だぜ……!」
「……そう言うことでしたら、もっと別の機会に別の場所で決着をつけたほうがいいと思いますよ」
 苦笑を浮かべる加夜に、キロスは思い立ったが吉日とばかりに畳み掛けてくる。
「オレが勝ったら、お前の顔に油性マジックで落書きをして校内を逆立ちで三周してもらうからな……ククク。校長ともども敗れて赤っ恥をかくがいいぜ!」
「何と言う外道……聞きしに勝る無法者だな。……彼女にそんなことをさせるわけにはいかん。よし、俺が代わって勝負を受けてやるぜ。せいぜいほえ面かくんだな!」
 ふっ……、と笑みを浮かべながら聡が前に出る。
「なら、僕も参加しようかな。……キロス、今すぐおいしいパン買って来いよ、コラ!」
「どうして、三月ちゃんってば、今日に限って嫌な先輩になってるんですか……」
 困った表情の柚に、香菜は腰に手を当ててため息をつく。
「結局、賭け事がしたいだけでしょ。どうして男って、そう言うの好きなんだろ……」
「ドキドキできる刺激を求めているのかもしれませんね。思い出します……私も心配で気を揉んだことありますから」
 ちょっと前の涼司くんもこんな感じだったかも……と加夜はクスクスと笑う。
「へ、変なことを言わないでください、加夜先輩。それじゃまるで、将来、私とキロスが結ばれるみたいじゃないですか!」
「……嫌いなのですか?」
 興味津々の表情で柚は聞いた。
「こんなバカ……大嫌いに決まってるわよ!」
 香菜はフンッとそっぽを向く。
「香菜ちゃんは色々大変そうですね……。何かあったら相談に乗りますよ」
 加夜は優しく言った。
「もちろん、私にもね」
 柚もニッコリ笑う。
「ありがとうございます、先輩。ところで……」
 香菜は急に真面目な表情に戻って、券売り場の方を指差す。
「今……怪しい黒ローブの男たちがあっちに行ったんですけど、追わなくていいんですか……?」
「行こう!」
 と聡。
「勝負はお預けだ。首を洗って待ってろ!」
 もう一度、加夜を指差すキロス。
「キロスくんも……いつでも相談にいらっしゃい。私でよければ、お相手しますよ」
 加夜は穏やかに微笑んだ。