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大嵐を起こすために顔を洗う妖怪猫又

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大嵐を起こすために顔を洗う妖怪猫又

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第9章 お供え物をくれないと許さないにゃんにゃん Story1

「風が弱くなってきたね」
 飯ごうの蓋を開けて、うちわでぱたぱたと扇ぎながら、外の様子を見る。
「おりりん、ねこみみの女の子が、こっちにくるよー」
「ちょうどいい具合に冷えたから、猫又さんには食べ頃かな」
「この焼き魚も、火傷しないと思うわ」
 アニューラスもうちわで扇ぎ、外に魚の香りを送る。
 “ご飯と焼き魚セットちゅーちゅー。美味しいよ、ちゅーちゅー”
 練はボイス機能を使い、猫又に話しかける。
「美味しくなかったら、にゃーの機嫌は直らないにゃ!!」
「お腹が空いて機嫌が悪かっただけだよね?どうぞ、召し上がれ」
「逃げ場はないよ♪…お腹減ってのよね?ちゃんと用意してもらったんだから、食べてみようよ」
「…いただきますにゃ」
 捕まっているのと同じような状況に、猫又は飯ごうのご飯を食べてみることにした。
「お魚も焼けてるわよ」
「にゃー」
 猫又は箸を受け取り、魚の身を取って食べる。
「おこげうまーうまーいにゃ」
 “満足した?ちゅーちゅー。”
「にゃっ!?…これくらいじゃ、満足しないにゃっ」
「うーん…もうご飯からっぽだよ」
「(そのわりに、お魚もキレイに食べたわね)」
「まだにゃーは、嵐をとめてやらないにゃ」
 “次はオヤツコーナーちゅーちゅー”
 今度は歌菜たちがいるところへ誘導する。
「あ…。雨が弱くなったね?」
「ちょっとだけ機嫌が直ったのかしらね」
 お供え物をもらいにいく猫又を見ると、トゲトゲしさが少しだけなくなった感じがした。



「ぴょこぴょこお耳 ふりふり尻尾 くりくりお目目」
 羽純にギター演奏してもらいながら歌い、小麦粉をふるう。
「あの子は猫又 らぶりーきゅーとでちゃーみんぐ☆」
 砂糖と猫用ミルクも入れてこねこねし、生地を2等分して細かくした鰹節、桜えびをそれぞれのボウルに入れて混ぜ…。
「皆のアイドル NE☆KO☆MA☆TA☆」
 猫まねきポーズを入れつつ、生地をラップに包んで冷蔵庫で寝かせる。
「(まだ寄ってこないな…)」
 彼は演奏しながら、エレメンタルケイジに入れたアークソウルが反応しないか見る。
「(クッキーは全部、猫又にやるのか?)」
 甘党な彼は皿の上に盛られている焼き菓子をちらりと見る。
「さっきのは羽純くんのね」
 その様子を見ていた歌菜は、寝かせている生地の分は、彼の分だと教える。
「猫又ちゃんのは甘さ控えめだからね」
「今作っているのは何だ?」
「これ?ケーキっぽいのも、あったらいいかなーってね」
 ケーキもどきを作ろうと、卵黄と水と小麦粉を混ぜ、メレンゲを加えて混ぜる。
「小さいホットケーキっぽいのを、いっぱい重ねるのよ」
 フライパンで丸く焼いたものを重ねて、型抜きを使ってキレイに丸く抜く。
「うちわで扇いで冷ましたら、ホイップクリームをうすーく塗って…飾り付けするの」
 出来上がった虹色ミニケーキを、お皿に盛り付ける。
「なぁ、歌菜…」
「ごめんね、羽純くんの分ないの。でも、ちゃんとはクッキーは焼いてあげるからね。…そんな目で見ないで」
 出来立てのケーキを羽純が、じー…っとロックしている。
「仕方ないわね。味見用として、1つだけよ」
「ありがとう。…美味いな。(残りは全部、猫又のなんだよな…)」
 彼女の手作りを1人で食べるのか…、と羨ましそうにケーキやクッキーを眺める。
「いっぱい作っちゃうよ♪羽純くん、演奏お願いね。あの子は猫又 らぶりーきゅーとでちゃーみんぐ☆」
「(…アークソウルが光だした…。猫又が近づいてるみたいだな)」
 演奏しつつペンダントの中にある宝石を見ると、アークソウルが光っている。
 どうやらすぐ傍まで来ているようだ。
 “ここは、おやつのお供え物をもらえるちゅーちゅー。”
「おやつ?クッキーがあるにゃ」
 猫又は皿に盛られている虹色のクッキーを発見し、さっそく手をつける。
「こっちのは、ケーキにゃ」
「猫又ちゃん、…美味しい?」
「ま…まだ全部食べてないからわからにゃい」
「カティヤ、出てきてもいいぞ」
「ティータイムにしましょう♪」
 物陰から出てきたカティヤは、囲炉裏で温めていたお茶を、カップに入れる。
「三毛猫ちゃんね。可愛い、抱っこさせて」
「にゃーは、簡単に抱っこなんてされないにゃ」
 両腕を広げるカティヤに、ツンッとそっぽを向いてしまう。
「まんまるおめめね。私のところにおいで」
「…お供え物をくれたから、ちょっとくらいならいってもいいにゃ」
 素直じゃないのか、不機嫌そうな顔のまま歌菜の膝に座る。
「大きなお耳。ふかふかー」
「んもぅ、歌菜ばっかりずるいわ」
 私も触りたいのに!という態度で、片手をぐーぱーさせる。
「(体重は軽いのね)あったかーい♪」
「歌菜、私にも触らせて」
「猫又ちゃん、カティヤさんの方にも…。あっ!」
 膝から降りると玄関の方へ走っていってしまった。
「満足したわけじゃないにゃいっ」
「(そのわりは、全部食べてるじゃないか…)」
 からっぽになった皿を見て、羽純はため息をつく。
「私も…私にも、もふもふさせてーっ。しくしく……」
 まったく触れなかったカティヤは、がっくりと項垂れた。



「もう終わりかにゃ?」
「(困ったね…、ご飯の用意が出来ている人が、他にいないし…)」
 カメラで不機嫌な猫又の顔を確認し、練は返事に困ってしまう。
「猫又にゃーん、いっしょにフライドチキン食べよーよ」
 クマラが串にさしたフライドチキンをふりふりさせる。
「にゃーは、食べないにゃ」
「えー…。じゃあ、お菓子は?」
「作りたてのもじゃないとイヤにゃ」
「(…我がままにゃんこだにゃん)」
「ないなら砂袋で遊んでくるにゃ」
「待って!」
 リーズはトライウィングスを全開し、逃げようとする猫又の行く手をゴッドスピードで回り込む。
「せっかく猫又ちゃんのために、皆が料理を作ってくれてるんだからさ。暴れるのやめないと、猫又ちゃんの分ボクが全部食べちゃうぞ〜♪」
「いやにゃっ」
「じゃあ、待っていようよ♪」
「でも待っているだけなのはつまらないにゃ」
「ルカたちと遊ぶ?」
「猫又ちゃんは、不遇さんで遊びたいみたいにゃ」
「不遇さん…?」
 玩具の名前なのだろうか、とルカルカが首を傾げる。
 そんなわけで…。
「また来たっ…」
 不遇リターン!
「暇つぶしにでもしてください♪」
「これは酷いな…」
 機嫌が直らない猫又が気になってついてきた羽純が、重傷の奏戯(不遇)を発見する。
「しっかりしろ、今助けてやるからな」
 命のうねりでぎたぎたにされた傷を治してやる。
「―…ありがとうございます」
「よし、猫又ちゃん。復活した不遇さんで遊ぶにゃ」
「毛玉ちゃんもやるの!?」
「おい、もうやめろよ…」
『やだにゃん』
 不遇な彼を哀れんだ羽純がとめようとするが、御影と猫又が声を揃えて言う。
「ぁ…あぁあっ、あぎゃぁああっ」
 猫の姿になった2匹に爪の縦ジマ傷をつけられ、がじがじ噛まれ、ふわふわ拳で殴られた不遇な彼は絶叫する。
「うわ…マジひでぇ……」
「陣くんがタゲられなくってよかったね♪そっかああゆう玩具もアリなのかな…」
「ちょ、リーズ。オレを見んな」
「それで猫又ちゃんの機嫌が直るならさ」
「オレが玩具とかありえないから」
「ぇ…陣くんって、一生手放せない系の玩具かと思ってた」
 ボク専用の砂袋じゃないの?とリーズが言う。
「オレってさ、玩具じゃなくってカレシやないか?」
「うんそうだよ」
「どっちの意味で、そうだって言ってるんや?」
「さぁ〜…、ご想像に任せるよ♪まぁ、どっちか選んでもいいけど。ボクは両方でも構わないし」
「(なんかさ、ほんと…オレって…。つーか両方ってなんや!?)」
 カノジョに言葉でいじられることもあるが、不遇扱いされている彼のように、日常的にそんな目に遭うのもノーサンキュー。
 どっちも選びたくないし、両方なんてありえない。
「どれも選んでやらん」
「えー…」
 せっかく両方選ばせてやろうと思ったのに…と、リーズは不満そうに頬を膨らませた。



「油ものはすばやく、網の上におかないとね。これで和風サラダはおけーね。照り焼きの焼き具合も、いい感じ」
 さゆみはかつおのフルコースで攻めてみようと、皿や丼に盛り付ける。
「鍋のほうを、ちょっと味見…。ん、こんなもんね」
 おたまですくい、かつお節で取った澄まし汁の味見をする。
「かつおと梅の和え物も作ろうっと。…何?ネズミのイコプラ?」
 梅を細かくしようとすると、台所に侵入してきた練のイコプラを発見する。
「こちら練。お供え物の料理、完成した?次の料理はまだか、聞かれて困っているの」
「我がままさんね…。和風のものは完成したわ。連れてきていいわよ」
 せっかく雨が弱まり、湿気の不快指数も減ってきたのに、ここでぐずられるわけにもいかず、和風から先に食べさせてやることにした。
「…かつおの匂いかにゃ?」
「そうよ、今出来たのはそれだけね。他のはまだだから、先にそれを食べてて」
 出来上がった料理を卓袱台に並べる。
「いただきますにゃ。まずは和風サラダからいただくにゃ」
「(食べている間に、他のものを完成させなきゃ…)」
 揚げたかつおを鍋に入れ…。
 風が弱くなってきた時に、買いにいったドライトマトとビネガーを加える。
「中華風とか、いろいろあれば飽きないわよね」
 グルメな我がまま猫のために、色々とバリエーションを揃えてみる。
「猫が食べるこういうものって、人と違ってすごい薄味なのよね」
 かつおのたたき、竜田揚げや照り焼きにかつお丼、澄まし汁、かつおと梅の和え物の和風料理を、食べている猫又を見る。
「もっと食べたいにゃ!」
「くいしんぼうさんね、出来た分を運んであげるわ」
「にゃー…」
 猫又は運ばれたイタリア風の料理を、すぐさま箸で摘んだ。
「かつおのサンド、かつおのステーキもあるわよ」
「にゃん!」
「いいなぁ、猫又ちゃん。オイラも食べたい…」
 小さな少女の分だけ用意された料理を、クマラがほしそうに眺める。
「手つけたら怒るから、我慢してくれ」
「ぅー…」
 卓袱台に近づこうとするとエースにとめられ、お菓子で飢えを我慢する。
「それにしても、小さな体であんなにたくさん食べられるなんて、不思議だよな」
「オイラも胃袋無限大だよ」
「うん……。謎だよな、ほんと…」
 クマラはもちろん、体のサイズの何倍もの食べ物たちを詰め込むなんて、どんな構造しているのやら…と思う者たちがたくさんいる。
「酢が入っているのかにゃ?」
「それも酢なんだけど、ビネガーっていうのを使っているの」
 さゆみは中華風の料理を出しながら、使った調味料の説明をする。
「不思議な味にゃ…」
「いろいろ作ってみたけど…どう?」
 料理を気に入ってもらえたか気になり、猫又に感想を聞く。
「いっぱい味があって、全然飽きなかったにゃ。美味しかったにゃ」
「これだけたくさんのかつお料理を作るなんて初めてよ……美味しいけど、しばらくかつおは食べたくないわね」
 味見をしながら作ったため、かつおの顔を見たくないほど、さゆみもかつおを味わった。