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桜封比翼・ツバサとジュナ 第一話~これが私の出会い~

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桜封比翼・ツバサとジュナ 第一話~これが私の出会い~

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■戦う契約者たち
 ――その頃、工場跡地へとようやくたどり着いた翼たち一行は、翼を守りながらツタの化け物を一掃するべく、それぞれ激戦を繰り広げていた。
 アルバトロスを中心とした移動の最中、何度かツタの化け物に回り込まれるものの――『天使の羽』に向かう途中、翼が襲われているのを見て救援に駆け付けた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)、『天使の羽』で買ったクレープを騒動のせいで落とされ、台無しにされた怒りを胸に秘めたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)、女の子のピンチと聞いて救援に来たエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)とその付添いであるメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)の三人に加えてエースとほぼ同理由のエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)、さらには「女の子が触手に追われているぜ!」と大谷地 康之(おおやち・やすゆき)に言われ、共にやってきた匿名 某(とくな・なにがし)も加わることで、翼の護衛およびツタの化け物討伐隊の厚みがさらに増していく。
 そして、集まった契約者たちは一丸となり、工場跡地へと集まるツタの化け物の一掃戦をそれぞれ敢行していた。

 ――御凪 真人(みなぎ・まこと)セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)の二人もまた、翼が化け物に襲われているのを見て救援に参加した契約者たちである。主にセルファが主導となり、『バーストダッシュ』で翼たちを追いかけたのちに合流。翼の安全を優先し、護衛に努めていた。
「街からはだいぶ離れているとはいえ、街中には変わりありませんからね……炎の扱いには注意しながら、翼さんの安全確保を優先的にしていきましょう」
「もちろんよ――!」
 工場跡地とはいえ、もし火の粉が街中までいって延焼してしまったら元もこうもない。そこで真人たちは炎の使う際は注意しながら、化け物へ攻撃を繰り出していく。
 『ゴッドスピード』で加速状態となったセルファはツタの化け物を『アルティマ・トゥーレ』と『ソードプレイ』で素早く斬りこみ、切断する。そして動きが鈍ったところで、真人がツタの化け物を対象に『ブリザード』や『氷術』で化け物の体内にある水分を凍結させる。
 凍結寸前に放出されようとしている種に対しては、真人が火の粉が飛ばないよう極力注意しつつ『火術』を使って一気に燃やし尽くす。セルファも延焼に注意しながら『爆炎波』で化け物に攻撃し、真人とのコンビネーションを披露していくのだった。
(――翼さんがなぜこの植物モンスターに狙われているのかはわかりませんが……まずはこいつらを片付けてから、でしょうね。この騒動とこの敵……おそらくは根が深いのかもしれませんね、植物だけに)
 ……そんなことを考える、真人であった。

「――ああ、なるべく早く来てくれると助かる。それじゃあ」
 固定砲台と化している洋考のアルバトロス付近で翼の護衛に回っている刀真は、友人である佑也へ連絡を入れていた。その内容は応援の要請。集まった契約者たちは確かにたくさんいるのだが、それでも化け物の減少スピードはとても緩やかなもの。もう少し人手が欲しいと考えた刀真は、何人かの知り合いや友人へ応援の要請をおこなっていた。
 ……その近くでは、ラグナ ゼクス(らぐな・ぜくす)が別行動中の漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の護衛をおこなっている。ツタの化け物たちは自然発生ではなく誰かが生み出して命令している可能性があると踏んだ月夜が、ツタの化け物の残骸を調べようとしていたのだが……この残骸が少し厄介なものだった。
「――きゃっ! まただ……読み取るの、すごく難しい……」
 ツタの化け物の残骸に対し、月夜は『サイコメトリ』と『博識』でツタの生息地などを調べようとしていたのだが、読み取る度におぞましい怨念のイメージがすぐに広がり、『サイコメトリ』がうまくできずにいた。ツタ自体も桜の木であることまでは判明したのだが、どこの桜の木までかは知ることができなかったようだ。
(――マスターがこんなに頑張っているというのに、あの男はマスターより化け物に追われていた女の子の護衛に回ってるなんて。まずマスターを先に護るために動くべきだ……!)
 調査作業を進める月夜を護るため、月夜の傍から離れずに《紋章の盾》を構えて化け物と対峙するゼクス。その心中は刀真に対しての怒りがこもっており、それを原動力として出力を抑えた『爆炎波』でツタの化け物を種ごと燃やし尽くしていく。
 刀真の行動基準に怒りを覚えているゼクス。しかし今はそれを化け物へぶつけることしかできずに、苛立ちを募らせているようでもあった……。

「この化け物たちを倒さないと『天使の羽』のクレープが食べられないから……とっとと倒しちゃうよっ!」
「うん、そうだね――いくよ!」
 多数のツタの化け物相手に、けして後退の意思を見せない美羽とコハク。自分たちが『天使の羽』に行くためにも、この化け物たちを殲滅し、翼と街を守らなくてはならない……!
「あっちの戦いかたを真似して――はぁぁぁっ!!」
 チラリと横目で真人たちの戦いを見ると、美羽もまたそれに倣ってか『グレイシャルハザード』を放ちながらの連続パンチを化け物へ繰り出す。打撃ダメージはさすがに通り辛いようだが、そこは連続で殴ることでダメージを蓄積させ、さらに凍らせることでダメージの通りを良くしていっている。
 そして何よりもこの攻撃方法――自らの力に加え、『グレイシャルハザード』で冷気を放っている《怪力の籠手》で強化された威力の高い高速ラッシュを食らわせているため、想像以上のダメージを文字通り叩き出している。凍らせて破壊――化け物には有効な手段と言えよう。
 コハクも同様に、《魔槍エグルーワ》から放つ『アルティマ・トゥーレ』で化け物を凍らせ、貫いて砕く攻撃をしていく。凍らせることで種の放出を防ぐという作戦のようだが、凍りきる寸前に放出する化け物もいたため、すぐに片付けられそうにはなかった。
 しかし、全ては『天使の羽』でのんびりとクレープを食べるため――その想いを持った奮闘で、少しずつではあるがその数を減らしていくのだった。
 ……一方、そのクレープを台無しにされた怒りを力に変え、《レプリカデュエ・スパデ》による剣戟でツタの化け物を斬り捌くエヴァルト。《レプリカデュエ・スパデ》をまるでバトンのように回転させながら、周囲を切り払うようにして振り回し、間合いに入る化け物を『爆炎波』と『勇士の剣技』を組み合わせた一撃で、爆炎の名のもとに種ごと屠っていった。
「秘技・火焔三段斬り――なんてな。どんどんかかってこい! てめぇらにはぶつけてもぶつけきれない怒りが溜まってるんだ!」
 その様はまさに八つ当たりそのもの。凍らせて破壊する方法とは真逆の、怒りの炎で焼き尽くすエヴァルトの戦法もまた、有効な一打となっていたであった。

 ――某と康之もまた、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)と共に多数で囲むツタの化け物を相手に大立ち振る舞いを見せていた。
 翼たちと合流する直前、アルバトロスの動きを止めようとする化け物たちに対して某は《ウルフ・アヴァターラソード》を狼形態にしてけしかけ、康之は『武術』の特技を活かした飛び蹴りで同時に先制攻撃を仕掛けていた。そしてアルバトロスの移動を手助けするために殿として足止め時間を稼ぎ、大量の化け物たちを相手にしながら工場跡地まで引きつけていたのだった。現在はその引きつけた化け物たちをそれぞれの戦法でなぎ倒している。
「おらぁぁぁぁぁっ!!!」
 《ダッシュローラー》と『ゴッドスピード』を使い、加速したまま先陣切って立ち振る舞う康之。『百戦錬磨』の経験を活かし、攻撃の先読みをしながら避けつつ化け物に接近。『煉獄剣』の力を帯びた『一刀両断』で一気に薙ぎ払っていく。怯まずに戦うその姿は韋駄天のようである。
 一方の某は前線を康之に任せつつ、狼形態のままである《ウルフ・アヴァターラソード》と連携を取りながら、『真空波』で化け物を攻撃して康之たちを援護していく。その援護の間、某はジッと化け物の動きを観察し、行動パターンを確認していた。厄介そうな攻撃があれば康之たちに伝え、注意してもらうつもりだったのだが……どうやら相手はほぼ本能で動いている様子。ツタによる攻撃と絶命寸前で種を放出する、という動きのみであり、注意すべきは種放出の部分のみだろうと判断。それを康之たちに伝えていった。
(やれやれ……これだけの数が空京に跋扈していたとか、考えるだけでも恐ろしい。あの娘を差し出せばすべて解決――という冗談はさておき、空京に被害が出ている以上、早急に消えてもらうのが唯一の道と言えましょう)
 某からの注意を耳に入れつつ、《さざれ石の短刀》を『ブラインドナイブス』の要領で振るってツタの化け物を切り払う狐樹廊。放出される種に対しては注意喚起を受けたこともあり、『ヴォルテックファイア』で瞬時に焼き尽くして処理していく。……ただ、かなり速いペースで化け物たちを片付けており、一刻も早く空京に対しての脅威を取り払おうという意思が表れて見えていた。
(それにしても、まだ来ないのでしょうかね……空京が危機に陥っているというのに)

 ――その頃、空京をひた走る影が一ついた。……リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)である。
「はぁ、はぁ……はやく狐樹廊のところに向かわないと。――空京の危機の早期解決をするために何をしでかすか……!」
 騒動が発生してすぐ、狐樹廊から連絡を受けたリカインは現在、海京から狐樹廊の元へとひたすらに急いでいた。というのも……狐樹廊の暴走による被害を少しでも少なくしなくては、という気持ちに駆られているからだった。
 ……空京の危機を早期解決するためなら、人命すら軽く見る狐樹廊の思考回路。リカインとしてはそんな事態になるのは絶対が付くほど嫌なため、そうなる前に自分が盾になって被害を少なくしようと――口よりも先に、身体が動いていた。
 狐樹廊の暴走を“止めたい”わけではない。『地祇として動く限り、一切意見はしない』という狐樹廊との契約がある故に、それを尊重した上で、暴走の“被害を少なくしたい”のだ。
 リカインは走る。地祇たる者の暴走が引き起こしかねない結果を見過ごさないために……。

『――もう大丈夫ですよ、可愛いお嬢さん』
 その言葉と共に、赤い一輪のバラを手渡す。それがエースの翼に対する最初の挨拶だった。そんなエースは現在、パートナーであるメシエとリリア、そして同じ女性が襲われているのを見過ごすわけにはいかないエッツェルと共に、ツタの化け物と交戦中だった。
「ふむぅ、女性がツタに絡め取られて――という場面に遭遇できないのは残念ですが……!」
 《異形化左腕》で、近づくツタの化け物を喰い切る。魂の逸脱者ならではの攻撃で化け物を圧倒するエッツェル。その出で立ちは不審者そのものであり、この騒動がなければ通報されてる可能性があったかもしれない。そんな、異形を身体に潜める者はツタの化け物へ興味を持ち、その興味だけで化け物を喰い散らかしていた。
「エースさん、どうですか? 何か掴めそうですかね?」
「いや、どうにもこの化け物たちは話を聞いてくれそうにないみたいだ……!」
 翼へ襲いかかろうとするツタを斬り捨てながら、エースは『人の心、草の心』を使ってツタの化け物と意思疎通を図ろうとしているものの、それは失敗に終わってしまった。植物ではないから会話ができない……というわけではなく、何かによって完全に意思疎通が阻害されている、といった感じだったようだ。
「そうですか――何やらこの化け物たち、魔力が通常の植物より高い気がするんです。おそらく、魔力から生まれたモノなのかもしれませんね」
「だったら……メシエなら何か見えるかもしれないな。そのためにも、まずは数を減らす!」
 このままでは化け物側の事情が分からない……そうなってしまうかどうかは、メシエの『サイコメトリ』にかかっている。そのためにも、まずはメシエ周辺の化け物を倒して『サイコメトリ』できる準備を作らなくてはならなかった。
「――意思疎通ができないのなら、意思を読み取れる状態になってもらいましょうか。……炎よっ!」
 ツタの化け物に対し、メシエは翼を巻き込まないようにしながら『パイロキネシス』や『サンダークラップ』で攻撃していく。もちろん種の処理も忘れずにおこない、増殖させないようにも心がけている。
「植物が人様に迷惑をかけるんじゃ――ないわよっ!」
 リリアも自慢の剣捌きでツタを斬って敵の攻撃を抑制しつつ、翼が襲われないよう全力を尽くしている。周りに他の一般人がいないため、翼の護衛に集中できているのでその動きは実に軽やかだ。
 そして内心、リリアはツタの化け物に対して「ただのツタがデカい顔をするんじゃないわよ」と、完全に下に見ている。大輪の花をつけてこその植物、花もつけていない地味な枝木は植物よりも下等な存在――そんな思いがあるからか、化け物への攻撃もおそらくは契約者たちの中では一番非情なのかもしれない。
 なんとか化け物の数を減らし、メシエが『サイコメトリ』をおこなっても大丈夫なほどになると、ツタの化け物の相手をエースとリリアの二人がおこないつ、メシエには『サイコメトリ』による調査を実行してもらう運びとなった。
 ――物言わぬ残骸となったツタの化け物に対して『サイコメトリ』を実行するメシエ。しかし結果は月夜と同じように、おぞましい怨念が見えただけ。明確な情報は得られそうになかった。
(何か喋っているようにも思えたようですが……ふむ)
 これだけではまだわからない。『サイコメトリ』を終え、そう感じざるを得ないメシエであった……。