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桜封比翼・ツバサとジュナ 第一話~これが私の出会い~

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桜封比翼・ツバサとジュナ 第一話~これが私の出会い~

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■出会う比翼
 ――いまだ戦闘の続く工場跡地。しかし契約者たち側の有利に事は進んでおり、吹雪の全火力を駆使した殲滅攻撃によって次々とツタの化け物を焼き払っていってるのが大きな要因の一つでもあった。
「……ふっふっふ、なかなかいい感じに場が混迷しているではないか。これはここで我々も援護をおこなうぞ!」
 しかしここで、更なる波紋を呼ぶ嵐が訪れた。――この騒動を聞きつけたのか、いつもの白衣をひるめかせてその姿を現す。
「フハハハハ!! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、ドクター・ハデス(どくたー・はです)! 我が組織の名において、助太刀に参上した!」
「私たちもそちらの援護に入ります! だから安心してください!」
 高らかに口上を述べながら颯爽と登場したハデス。その隣にはハデスの妹であり、秘密結社オリュンポスにおいて数少ない常識人である高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)もいる。
「わ、また増えた。確か、刀真さんが増援呼んでたし、これ以上は数の暴力になるような……」
「……いや、ちょっとあの人はねぇ……」
 増援と思っている翼は素直に驚き、素直にそう口にするものの……ハデスのトリッキー性を知っているコルセアは苦笑いを浮かべている。まぁ、この場にいる大半の契約者はハデスがどっちの助太刀で来たのか、だいたいの予想はできているようであったが。
「――何の罪もないツタ男(仮)たちを大勢で寄ってたかって虐め抜くとは何事だ! だが我らが助太刀するからにはもう心配はないぞ! さぁ、改造人間サクヤよ! 今こそ変身の時だっ!」
「って、ちょっと兄さん! 助太刀するってあっちの化け物側のほうなんですかっ!?」
「……ほらね」
「え、えぇ〜……そんなのありなの!?」
 翼と咲耶にとってはあまりにも意外な展開、そしてそれ以外の契約者たちは当然の出来事と受け取っている。……ハデスたち(?)がツタの化け物側に付くと、ハデスは勝手に改造した妹の携帯電話を遠隔操作し、『変身!』用認証パスコードを入力し始めた。
「へ、変身の時って……あれ、時間がかかるから人前であんまりやりたくな――きゃぁっ!?」
 咲耶のツッコミは空振り。容赦なく始まる変身バンクシーンに完全に巻き込まれる形となってしまう。
「フハハハ、説明しようっ! 咲耶は携帯電話に登録されたパスコードを認証することで、高天原 咲耶は改造人間サクヤへと変身することができるのだ!」
「改造人間って――私はただの強化人間ですっ!! それにこれ、兄さんが勝手に『変身!』させてるだけじゃないですかーっ!!」
 わざわざナレーションを入れる辺り、ハデスも気合を入れている様が見て取れる。それに対する咲耶のツッコミも見事なものだった。
 ――咲耶の服が光って消え、続いてゆっくりとリボン状の光が咲耶を包み、《魔法少女コスチューム》が実体化。そしてそのまま決めポーズを決め、変身が完了したようだ。
「うぅ……なんでこの変身、一分もかかるんですか……」
 変身開始からここまでのプロセス、実に一分ジャスト。どこぞの変身ヒロインもびっくりの遅さである。なぜこんなに長いのか――あくまでも携帯を勝手に改造した本人は『決してサービスシーンを作ろうとしているわけではなく、携帯の性能的に限界があったから』と主張している。しかも《魔法少女コスチューム》はハデスの手作りなのか、ところどころ糸がほつれていたりしていた。
「さぁ、準備は整った! 行け、改造人間サクヤよ! 怪人ツタ男(仮)を援護するのだ!!」
 号令をかけるハデス。こうなった以上、咲耶も困り顔のまま、ツタの化け物側に協力するしかないようだった。
 ……だが当然、ツタの化け物がそんなことを認識するはずはまったくないわけで。
「きゃ、きゃあっ!?」
 一連の動きを妨害行動とみなしたのか、近くにいたツタの化け物が邪魔な存在を投げてしまおうと、咲耶をツタで絡め捕らえる。締め上げられる度にツタが咲耶の肉に食い込み、どこか扇情的に見えなくもない。
「おお、おおおっ!!」
 エッツェルもこの事態には思わず声を上げてしまう。……だがもちろん、そんな悠長なことをしている場合ではないわけで。
「くっ、怪人ツタ男(仮)よ! せっかく我らが加勢しようというのに……なぜ我らの行為を受け入れない!」
 こんな状況でもそう叫ぶハデス。なんとか咲耶を助け出すべく動こうとしたその時――!
「――ふん、面倒だが助けてやる」
 どこか演技っぽい台詞が聞こえたかと思うと、咲夜を絡めとっているツタの化け物の前へ高塚 陽介(たかつか・ようすけ)が姿を見せる。凛然と化け物と対峙するが――その内心は、恐怖に駆られている。
(こ、怖っ! 超怖っ!!……逃げてたあの女の子を助けようとずっと隠れながら追いかけて機会を伺ってたけど、このウネウネ化け物を間近で見るとすげーこえー!!)
 ……格好よく振る舞っているが、それは俗に言うただの厨二病である。脳内的には『逃げる少女→突如現れる謎の男(陽介本人)→敵を華麗に倒す→助けてくれてありがとう!→超カッコいい』の流れだったのだが、他の契約者がすぐに助けに入ったため出るに出れず今のタイミング。しかも出たタイミングの関係上、翼の前に現れることができなかった辺り、より残念さが漂っている。
(せ、せっかく考えたカッコいい台詞で登場できたんだ! 何とかあの化け物を倒さないと……倒すなら炎で燃やすのがいいんだろうけど、俺は魔法が下手すぎて触れてるモノにしか発動しかできないし――)
 逡巡を繰り返している陽介に対し、ツタの化け物は空いているツタで陽介を縛り上げる。完全に隙を見せていた陽介であったが、逆にチャンスの訪れでもあった。
「って、しまった! ――だがっ!!」
 ツタが自身と触れている。これならば『火術』で化け物を燃やすことも可能……! 迷うことなく陽介は指をパチンと鳴らして『火術』を使い、縛り上げているツタごと化け物を焼き尽くしていく。
「あち、あちちちちちっ!!」
 ……陽介自身にも延焼した。せっかく攻撃できたのにこれではしまらない。だがしかし、咲耶を助け出すことには成功したようだ。なんとか自分の面目は保てたかなー、と陽介は思っているようだが……。
「まずい、このままだと種を放出しちゃうわよ……!」
 そううまくもいかないらしい。コルセアが絶命寸前の化け物から分身体を生み出す種を放出しようとしていたのだ。このままだと、陽介たちの付近に分身体が生まれ、ピンチになってしまう……!
「任せるであります!」
 と、そこへ吹雪が《機晶ロケットランチャー》を構えて、躊躇することなく引き金を引いた。撃ち出された弾は綺麗な軌跡を描いて絶命寸前の化け物へ直撃していく。そこから発生する爆発によって、種を完全に焦熱処理することに成功する。
「ぬぉあああああっ!! またこんな飛ばされかたかぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「なんで俺までぇぇぇぇぇっ!?」
 ……そして同時に、発生した爆発はハデスと陽介を巻き込み、空高く吹き飛ばしていった。なぜこの二人か……おそらくは、似た波長だったからなのかもしれないが、その真実は闇の中である。
「に、兄さーん!!」
 吹っ飛んでいったハデスを追って、急ぎ退却する咲耶。……こうして、悪の秘密結社オリュンポスによる妨害は無事に排除されたのであった。

 ――同じ魔法少女の背中を見送っていく歌菜。協力し合えればよかったかな……と思っていたその時、『殺気看破』によって化け物が翼に接近していることを感じ取った。
「翼ちゃん! その場から離れて!!」
 周囲に化け物はいない――だが瞬間、崩れかけた天井からツタの化け物が落ちてくる! この距離からでは歌菜の救援は間に合いそうにない……!
「きゃあああああっ!!」
「翼、乗って!!」
 突然の上からの襲撃に身をすくめる翼。だがすぐ近くにいたコルセアが翼の手を引いて《軍用バイク》のサイドカーに乗せると、急いでアクセルを回して一気に前進する。緊急的な回避ではあるが、翼の安全を最優先に考えた行動と言えるだろう。コルセアからすれば、身を呈してでも翼を死守する気持ちでいた。
「くっ……他の奴より速い……!!」
 バイクを疾走させ距離を離そうとするが、天井から落ちてきたツタの化け物は他の化け物と比べ、速いスピードで近づいてくる。どうやらすべてが同じ個体ということではないらしい。
 他の契約者たちも残りのツタの化け物の処理に回っているため、援護の望みはほぼ皆無。バイクに追いつこうとする化け物を背に、翼は次第に恐怖を感じ始めている。
「こ、このままじゃ……!」
 化け物は駆け寄りながらツタを伸ばし始め、翼を捕らえようとする。と、そこへ――化け物の後方より《空飛ぶ箒ミラン》に乗って翼たちと化け物を追跡してきた歌菜が、翼へ手を伸ばす。
「捕まって!」
 迷っている暇はない――翼はすぐに歌菜の腕を掴むと、歌菜が『空飛ぶ魔法↑↑』を使って緊急的に上空へ引き上げ救出。ほぼ寸での差で、化け物のツタがサイドカーの空虚を掴む結果となった。
『歌菜! そのまましっかり引き上げろ! 化け物はこっちで倒す!』
 羽純が『テレパシー』で歌菜と連携を取りつつ、翼たちを襲おうとした化け物を一閃。近くにいた契約者と協力して種まで一気に殲滅していった。その様子を翼を引き上げながら見届ける歌菜であったが……。
「えっ……?」
「あっ――!?」
 ある程度の高さまで引き上げようとしたところで、手を離してしまった。翼の掴む力が限界を迎えたのが原因だったのだが、歌菜はとっさに掴み直せずに……その手は、空を切る。
 『空飛ぶ魔法↑↑』で飛行の力を得ている翼ではあるのだが、一般人故かその飛びかたすらまだ理解しきっていない。そのため、徐々に速さの付く自由落下をしていく。
(え、嘘、私落ちてる……このままじゃ、死んじゃう……?)
 あまりの突然の出来事に、声も出せずに落下する翼。このままだと――最悪の結末を迎えることになってしまう。
(――ごめん、お父さんお母さん……私……)
 自分の運命を本能で悟ったのか……翼は思わず、目をぎゅっと閉じてしまう。そして、次の瞬間――。



 

ドサッ




 ……衝突した音、にしてはかなり軽い音。全身に痛みを感じるわけでもなく、恐る恐る翼はゆっくりと、固く閉じていた目を開く……。
「――ぎりぎりセーフ、ってところか。急にスピードを出してしまったが、大丈夫か?」
「は、はい……なんとか。ルカルカさんにしがみついてましたので振り落とされはしてないです」
 まず目に入ったのは、箒を操縦しているダリルの背中。そして次に目に入ったのは、すぐ横にいるルカルカと樹菜だった。箒の横を並走して、箒に乗ったままの歌菜の姿も見える。
「え、え、いったい何がどうなって……?」
「あなたが落下しているのを見つけて、全速力で突撃して受け止めたのよ。ほとんどすれ違いざまで、この箒と『ドラゴンアーツ』がなかったら受け止め損ねてたわ」
 ……詳しい説明を受けると、どうやら翼の落下をルカルカたちが受け止めてくれたらしい。引き上げきれなかった歌菜は本当に申し訳なさそうに何度も翼に謝る。
「ごめんなさい! 本当にごめんなさい! 掴みそこなっちゃったせいで翼ちゃんを命の危険にさらしちゃって……!」
「ううん、大丈夫。さすがにびっくりしちゃったけど」
 まだ現実として受け止めきれていないようだが、まだ生きていることの実感を徐々に感じてきている翼。と、何やら樹菜がジィッ……と翼を見つめていた。
「……私をじっと見て、どうしたの? なんか、付いてる?」
「ええと――あの、ルカルカさん。この方から、欠片の気配を強く感じます。おそらく……この方が“鍵の欠片”を持ってるみたいです」