リアクション
入浴が終わり、洗濯されたばかりの清潔な服に着替えたオルナが向かったのは、美味しい料理の並ぶ食堂。
「うわぁ、美味しそう!!」
オルナは久しぶりの人間らしい食事に感動。
「すごい食欲だな」
シンはオルナの食欲に言葉を洩らした。並べられた料理が次々に消えていく。
「まだまだありますからゆっくり食べて下さい」
エオリアは慌てて食べるオルナを落ち着かせる。
料理をしたのはシンとエオリア、イリアの『調理』を持つ三人だ。
「本当にこの子のためにありがとうございます」
ササカがみんなを労うために冷たい飲み物を配った。
「ほら、食べてばかりじゃなくてみんなにもう一回謝ってお礼を言いなさい」
ササカが一心不乱に食事をしているオルナに厳しい調子で言った。
「ありがとう。迷惑をかけてごめんなさい」
少しだけ手を止めてぺこりと頭を下げるなりまた食事に戻ってしまう。
「……快眠香だ」
何とか快眠香を救い出す事が出来たダリルが現れた。
「ありがとう」
ダリルから快眠香入りの冷凍箱を受け取り、しっかりと礼を言った。
「俺にも少し分けてくれないか」
裕樹がオルナに頼んでみた。個人的に欲しいなと思っていたのだ。
「いいよー。ササカ、いいよね」
オルナは即答し、ササカにも聞いた。
「大丈夫よ」
ササカは快諾した。
「そうか。礼を言う」
裕樹が礼を言ってからダリルの話が始まった。
「これからは薬品の取り扱いは十分気を付けろ。ふたを閉めるというのは基本中の基本だろう。開けたら閉める使い終わったら片付ける。死に至る事もあると知っているだろう」
ダリルは快眠香だけではなく、厳しい言葉も渡した。オルナが無事だったの事は嬉しいが、言うべき事は言わなければならない。
「……はい」
オルナはしゅんと肩を落とし、俯いてしまった。
「でも後遺症が無くてほっとしたよ。本当に無事で良かったよ。ルカもダリルもここにいるみんなもそう思ってるよ。だから、元気出して」
ルカルカは小さくなってしまったオルナを励まそうと明るく言葉をかけた。
「うん、ありがとう」
オルナはルカルカの言葉に励まされて顔を上げ、またみんなに礼を言ってからゆっくりと食事を再開した。
「今後の事を考えた方がいいね」
ローズが集まったみんなに話し合いを持ちかけた。大事なのはこれからの事。毎回誰かが助けてくれるとは限らないのだから。
「そうですね」
舞花も頷き、どうするべきかを考え始める。
「とりあえず、実験室ぐらいは掃除をしろ。危険だからな」
裕樹が厳しい一言。実験室のように危険物を置いている場所が汚いのはまずい。
「いつもなら大丈夫なんだよ。ここ最近、ササカが来なかったから。忙しかったみたいで」
みんなの意見が正論で胸に突き刺さるオルナは恨めしそうにササカの方を見た。
いつもなら心配で様子を見に来たササカが掃除をしてくれるのだが、最近は忙しくて来られず、今回の有様。
「……オルナ」
ササカは情けなくなって深いため息をついた。確かに自分が来なかったから酷い有様にはなったが、それ以前に気を付ける事があるはず。
「……友人は頼りにするもので甘えるものではない。自身で出来る事はやるべきじゃ。小さな子供ではないんだからのぅ」
ルファンがササカの代わりに厳しい言葉を投げた。この家はササカではなくオルナの家なのだから。
「……それは」
またまた正論に言葉を失う。
「デザートだよ。簡単に出来る方法を考えればいいんだよ」
自作の甘いデザートを運びに来たイリアが助け船を出して話題を簡単な片付けに戻した。
「ごみ袋を開けて分別するのは大変だったねぇ。種類別に分けていれば掃除ももう少し楽だったと思うよ」
北都が二度手間のごみ回収を思い出していた。オルナがきちんと分別していればわざわざごみ袋を開ける事もなく掃除ももっと楽だったはず。
「通路を様々な物に道を塞がれ苦労をしたぞ」
ゴルガイスが前衛的な彫刻を思い出していた。
「一つの事が終わるまで他の事をしないようにしたらどうかな」
とオデット。忘れ去る前に作業を全部してしまえばいいのではないかと。
「メモをすればいいと言いたいけど」
ローズは解読出来なかった瓶のラベルの事を思い出しつつも一般的な意見を口にする。却下の可能性が高いだろうと思いながら。何せオルナの物忘れは普通人以上だから。
「無理ね。字が汚くて書いた本人も読めないしメモ自体を忘れるから」
ササカはため息をつきながら言う。物忘れが普通レベルなら有効かもしれないが。
「書いた時は覚えてるんだけど」
オルナは言い訳を垂れる。
「簡単に分別できるように至る所に頑丈なごみ箱でも置くようにした方がいい」
甚五郎が言った。至る所にごみ箱があれば激しい忘れん坊でも大丈夫だろうと。
「分けるとしたら普通ごみ、魔法ごみ、本や紙類、洗濯物ぐらいかな」
北都が転がっていたごみの種類を考えながら提案。
「それなら簡単かも」
オルナは自分に出来そうと明るい顔になったが、ササカは困った顔をしていた。
「……右から左に覚えた事を忘れるから、入れ間違いとか絶対にありそうね。それにごみを捨てたり洗濯をするのを忘れてごみ箱がいっぱいのままじゃ。まぁ、ごみ箱が多ければ多少、大丈夫かもしれないけど」
これまで自分で片付けろと言った事はあるが、結局は世話を焼かないといけなくなっていた。今回もそうなるだろうと思っている。
「大丈夫だって」
当の本人は呑気に美味しい料理にご満悦。
「時間はかかるかもしれぬが、やってみてはどうじゃ。手を出されたら握りたくなるもの。手を出すのもそこそこにして手を後ろに回して見守ってはどうかのぅ」
ササカに甘えるオルナにも当然問題はあるが、甘えさせるササカにも問題はある。何かと言いながら世話好きなのは見ていればよく分かる。買って来た食料が全てオルナの好物だったのだから。
「……そうね」
ササカはため息をつきながら頷いた。
「おい、二週間分の食事を冷蔵庫に入れているから。温めて食べろよ。食事は生活にとって重要だからな。コンビニ弁当ばかりはやめろ」
料理を終えたシンが厨房から出て来てオルナに言った。料理担当が作った最高の料理がたっぷりと冷蔵庫に入っている。
「ありがとう! こんな美味しい物が明日も食べられるなんて嬉しいなぁ」
オルナは嬉しそうにシンに礼を言った。
「……あ、あぁ」
色々と面倒をかけられたがこう嬉しそうな顔を見ると照れ臭さでどもってしまう。
「じゃ、さっさとごみ箱設置だな」
意見がまとまったところで恭也は立ち上がった。
「急ごう。ここは任せてもいい?」
ローズはシンに訊ねた。
「おう。終わり次第、オルナを連れて行く」
シンは返事をしてみんなを見送った。
オルナの食事が終わり、食器の片付けが終わってから四人はみんなと合流し、ごみ箱の位置を一通り確認した。
「大丈夫、大丈夫」
オルナは笑いながら言った。どう見ても不安になる笑顔。
ともかく大量のごみ箱設置とササカの厳しい指導に委ねる事にした。
そして、快眠香は無事ササカやグラキエス、裕樹に渡す事が出来た。
快眠香の品質は良く、ササカは久しぶりにぐっすりと眠る事が出来た。
ごみ屋敷大清掃は一応無事に終了した。
大掃除の帰り道、
「今日は大変でしたが楽しい一日でしたね。陽太様達にメールを」
舞花はそう言葉を洩らし、凄まじいごみ屋敷の掃除やぬいぐるみとの対決にオルナ救出の話をメールで送った。
「……返事」
すぐに返事が返って来た。確認しようと舞花は足を止めた。
『今日はお疲れ様。オルナさんという方がご無事で本当に良かったですね!』
舞花はメールを確認してからまた歩き始めた。
本当に疲れたがとても楽しい一日だったと振り返りながら。
古城のその後は、大量のごみ箱のおかげであちらこちらにごみが転がる事は無くなった。
しかし、箱に入れたごみや服に本などの処理を忘れたり入れ間違いは続いている。思い出したように処理をするが、忘れている事の方が多くササカが片付けたりしている。
しかし、ササカが手を出す回数は随分減ったという。
古城の主は相変わらず悪筆で物忘れがひどくて掃除下手だがとても友人想いだった。
今回のシナリオを担当させて頂きました夜月天音です。
参加者の皆様、本当にお疲れ様です。
そして、愉快なアクションの数々ありがとうございました。
皆様のおかげで無事汚部屋住人オルナも救出され、城内も綺麗になりました。
しかし、性格や習慣を矯正するのはなかなか難しいもの、まだまだササカの苦労と災難を呼び起こしそうな予感です。
人生、平坦よりも多少波があった方が面白いものです。波の大きさにもよりますが。
最後になりますが、ほんの少しでも楽しんで頂ければ幸いです。