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開幕:心構えはできました?

 宿直当日の昼。
 御凪 真人(みなぎ・まこと)は久瀬 稲荷(くぜ いなり)の元を訪れていた。
「毎回世話になるね」
「お互い様ですよ。それよりも新設校で幽霊騒ぎはおかしくありませんか?」
「おかしいねえ」
「このパラミタなら幽霊がいてもおかしいとは思いませんけど」
「そうだねえ」
「……なんかいつもより受け答えが適当じゃないですか?」
「うん。なんというかね。色々あるんだよ」
「色々の具体的な内容に関してはあえて聞かないでおきます。それよりも噂の幽霊について詳しく聞かせてください。本物であれ偽物であれ、実害が出ているようですから早急に対処しましょう」
「聞かれると思って準備しておきました」
 久瀬は答えるとポケットから一枚の用紙を取り出すと御凪に渡した。
 用紙には噂の発生時期、幽霊の現れた場所などが細かく書かれている。
「聞きに来るたびに準備が良くなっていませんか?」
「人は学習する生き物だよ」
「幽霊は学習するんでしょうか?」
「私の前に出てこないように学習してくれていることを願います」
 久瀬は祈るように手を合わせる。
「神頼みですか」
「君たち頼りです」
 合わせた手の先には御凪の顔があった。
 御凪は苦笑する。
「善処しますよ」
「そういえばさっきエースクンたちを見かけたけど一緒じゃないのかい?」
「いえ……特に示し合わせてはいませんけど」
「だとすると独自に調査かな。校内の観葉植物から情報を得ようとしていたみたいですから、私の知らないことを把握しているかもしれません。会いに行ってみては?」
「そうですね――」



「というわけでご一緒しますよ」
「久瀬さんもはっきり幽霊だと判ってから怖がればいいのに」
 御凪から久瀬の様子を聞いたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は苦笑した。
 彼の隣、エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)も同じ気持ちなのだろう。うんうんと何度も頷いている。
「幽霊といえばウサギを見かけたって話を聞けたよ」
「ウサギですか」
「先日の事件との関連性も視野に入れて考えるとゆる族が関与してそうだね。噂ではぬいぐるみの目撃もあったし、これは幽霊よりも問題があるよ。不審者が校内に住みついてるなんて管理責任を問われるから」
 エースの推測を補足するようにエオリアが続ける。
「ゆる族以外にも誰かが関与してるかも。どっちにしろ遊び気分で望まないほうが良さそうです。幽霊よりも危ない気がします」
「そうなるとルーノさんたち気がかりですね」
 御凪はルーノとクウの二人に声をかけられた時のことを思い浮かべる。
 遠足前の子供のような、落ち着きのなさい様子のルーノの姿が印象深い。
「ルーノさんのことなら俺たちに任せてよ。レディを助けるのは紳士の務めでもあるしね」
「僕もついてますから、御凪さんは安心して犯人探しの方に集中してください」
 自信があるのだろう。笑顔を向けるエースたちは頼れる存在に感じられた。
 御凪自身もそのように感じたようで、先ほどの心配そうな面持ちは消えていた。
「お互いに頑張りましょう」
 三人は各々の役割を意識すると今夜に備えて身体を休めることにした。