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All I Need Is Kill 【Last】

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All I Need Is Kill 【Last】

リアクション

 ヴィータ達がいる公園からは少し外れた場所で、ケセラン・パサラン(けせらん・ぱさらん)は戦いを眺めていた。
 ケセランに戦う意思は無い。ただ、この戦いの行く末を見守ることだけが目的だ。
 そして、この戦いになにか思うことがあったのか、ケセランは静かな声で語り始めた。

「時とは方向無きベクトル、行くも帰るも一筋ならぬ迷い道。絶対の今も刹那に過去へ、無限の未来は瞬く今へ。
 時は止まらず人も止まらず、留まるを知るはただただ想いのみ。その枠から外れし哀しみの魂は、死を以て解放されん」

 ケセランの言ったことを訳せば、時間の流れは直線ではなく飛び飛びの点のようなもの、任意のタイミングへ向かうことはとても難しい。未来や過去に行っても今度は戻ることが出来ないかも知れず、ましてや過去を変えたとなれば最早死ぬよりほかの道は残らないと思ってた。と、いうことだ。
 それは未来からやって来たホープ達に向けた言葉なのだろう。ケセランは続けるために言葉を紡いでいく。

「……しかし契約者の力はそれすらをも覆す可能性をいままさに示さん……」

 ケセランの呟きは、夜風に流され、やがて消えていった。

 ――――――――――

(……奈落人は憑りついた種族、クラスに依存するという認識だったんだが、なぜフラワシを使えるのか非常に興味深いものがある)

 椎名 真(しいな・まこと)は公園でヴィータ達との戦いを観察していた。
 それは奈落人としたあまりにも高性能すぎるヴィータを観察するため。そして、次の未来で早い段階で対応して、友人である瀬島壮太を今度は失わないためだ。

(とりあえずはこのまま観察だ。何もしないのか、くやしくないのかといわれても動かない。『私』は――)

 真はそこで自分の違和感に気づいた。
 友人を失ったというのにあまりにも冷静で、一人称すらも変わってしまっている自分に。

「……違う、『俺』は」

 真は首を左右に勢い良く振った。しかし、脳裏によぎる言葉は止まらず。

(『私』は自分の身は守r)
「――違う、『俺』は! こういう人間じゃない!!」

 真は声を荒げ、無理やり考えを追い払った。
 頭の芯がじんと熱くなる。冷静な考えはどこかに吹っ飛び、真はいつもの自分へと戻る。

「死に物狂いで生きてやる。生きて……友人を救いに、今よりも早い段階で対応できるように……!!」

 真は唇を強く噛み締め、仇敵であるヴィータを見た。

「でも……一発ぐらいは殴らせろ!」

 真はそう叫び、ヴィータとの戦闘に加わるために走る。
 そんな真を見ながら、篠原 太陽(しのはら・たいよう)は寂しげに笑った。

「……やはり『俺』は『俺』のままか、うらやましいものだな……」

 ――――――――――

 ルイとモルスの戦いは傍から見れば一方的だった。
 モルスの見えない攻撃が彼を襲い、彼は傷つき追い込まれていく。
 それはそうだ。降霊者以外に姿の見えないフラワシと一対一というのは、普通なら自殺行為にも等しい。

「rrrrryyyyyy!!!」

 モルスは鼓膜が裂けんばかりの咆哮をあげ、暴風のような攻撃をもってルイを追い込んだ。
 背後には壁、左右には木々。逃げ場のないその場所で、彼は――小さく笑った。

「……この時を、待っていましたよ」

 ルイがそう一人ごちる。と、モルスは鋼のように逞しい腕をルイの左肩に伸ばした。

「ryyyyy!!!」

 轟、と風を切る音がルイの耳に届く。それと共に彼の左肩を根こそぎ、抉った。
 大量に吹き出る血がルイの身体に降り注ぐ。全身に激痛が駆け巡る。が、彼は鍛え上げた精神力で悲鳴を一つも洩らさずそれに耐えた。

「……ッ!」

 ルイは<殺気看破>でモルスのいる方向だけを見極める。同時に利き腕に極限まで<自在>による闘気を圧縮。
 それは一瞬のこと。だが、その一瞬は致命的すぎた。

「が、は……ッ」

 モルスは反対の手でルイの腹部を勢い良く刺し貫いた。内臓が引き出され、小腸が地面にこぼれ落ちる。
 モルスは残酷な湯気を立てるそれを乱暴に引きちぎり、大きく口を広げてかぶりつこうとし――。

「ぉぉぉおおおおおおオオオオオオオオオオオ!!」

 刃のような歯が肉体を噛み千切るより先に、ルイは利き腕の拳をモルスの腹部に叩きつけた。
 肉が潰れ、骨が砕ける音。拳を通じてそれを感じ取ったルイは続けて圧縮した闘気を開放し爆裂させた。

「grweerrrururuutta!!」

 モルスは悲痛の叫びをあげ、耐え切れず消えていく。
 ルイは殺気がなくなったのを感じ、安堵するのと共に体中から力が抜けていき、その場に倒れた。

 ――――――――――

「!? うぇ、がは、げぇ……!」

 マイトと戦っていたヴィータは、突然自分を襲った激痛に体をくの字に曲げ、胃の中身を全て吐き出した。
 そして、瞬時に理解をする。これはモルスがあの男に負けたのだと。

「……これは、ちーっとばかり不味い展開かな?」

 ヴィータは血の混じった唾を吐き出し、予想外の事態をどうにかするため考えを巡らせる。

(さて、どうしよ。しばらくは、モルスを降霊できないだろうし――)

 そして少しだけマイトから気が逸れた。
 マイトはそれに気づき、ヴィータに向けて突撃する。

「油断したな。これで終わりだ。ヴィータ」

 マイトはポケットに入ったありったけの小銭を掴み取る。
 ヴィータは慌てて彼に視線を移す。が。

(なーんだ。ウォルターの時と同じ戦法か。それなら――)

 ヴィータは教会で行われたウォルターの戦いを見ていたのだった。
 どうせあの時と同じなのだろう。そう思い、彼女は対策をとる。が。
 マイトは先ほどと同じような戦法はとらず、<ゴルダ投げ>で思い切り硬貨を投擲した。

「な――!?」

 ヴィータは意表をつかれ、硬貨の弾幕をその身に浴びて怯む。
 マイトはそれを確認して、続けて羽織ったコートを彼女に投げた。二段フェイント。
 引っかかったヴィータは行動が遅れてしまう。マイトはすかさず戦闘用手錠・改を投擲。彼女の片腕を捕獲した。

「捕まえたぞ。ヴィータ!」

 マイトはそう叫ぶと、怪力の籠手で上昇した筋力で一気にヴィータを引き寄せる。
 そしてそのまま手錠で捕獲した腕のほうを掴み、<抑え込み>で関節を極めて身柄を確保した。

「腕の一、二本外す位は勘弁して貰うぞ」

 マイトは冷たい声でそう言うと、掴んだ腕に力をこめた。
 ゴキッと肩の関節が外れる鈍い音が響き、ヴィータは激痛に顔を歪めて。

「<エンドゲーム>」

 そう、小さく呟いた。

「……え?」

 瞬間、マイトの両腕が根元から切り裂かれる。
 そして解放されたヴィータは立ち上がり、腕が外されたもう一方の手に握る小刀を彼の鳩尾に突き刺した。

「きゃは。久しぶりに冷や冷やしたわよ」

 ヴィータはマイトを鼻がぶつかるほどの距離で見つめながら、一気に刺した刃を横に振りぬいた。
 鮮血が吹き出す。返り血が彼女の顔に飛び散る。
 ヴィータは唇の付近についた血液を舌で舐め取ると、倒れたマイトを見下ろしながら呟いた。

「惜しかったわね。あと、一歩ってところかな?」

 ヴィータは手近な壁に思い切り外れたほうの肩をぶつけ、無理やり関節をはめ込んだ。

「ま、モルスがやられたところで、わたしが頑張ればいいだけのことだしね」

 ヴィータはそう嗤うと、地面に落ちた狩猟刀を拾い上げ、他の契約者に向かって走っていった。