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か・ゆ~い!

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か・ゆ~い!

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「あぁ……つまんない」
 天津 のどか(あまつ・のどか)はビーチで一人、呟いた。
 周りはどこもカップルばかり。
 気づけば岩陰から不埒な声が聞こえてきたり、ビーチで濃厚な事に及ぼうとするカップルすらいる。
 そんな中、自分は一人。
 素敵な人にナンパでもされれば……と思っていたが、そんな素敵な出会いもなく。
 こんな真夏の太陽の下、一人体を持て余していた。
「あっ」
 そこに、彼女を救うピンク色の手。
「ああっ」
 にゅるりと、イソギンチャクの触手が彼女に巻き付いてきた。
「んっ……イソギンチャクさんと……クラゲさん? 私を慰めてくれるんですか?」
 それに答えたのかどうなのか、イソギンチャクはよりきつく彼女の体に巻きつくと、彼女を海の中へと引きずり込もうとする。
「あんっ、そんな、強引な……」
 触手は彼女の全身に絡みつき、水着の中にまで……
「や、は、激しいぃ……」
 触手の動きについつい全てを任せそうになったその時。
「大丈夫ですかっ!」
 邪魔者、いや、救助の声がした。
 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)が、異変を感じ彼女を救出に来たのだ。

 ビーチでサングラスをかけた小次郎は、のんびりと海水浴客を見ていた。
 主に、女性を。
 というか、乳を。
 たわわに実った乳を観察するチャンスを逃さないようにと、彼の視線は獲物を狙うハンターのように鋭かった。
 サングラスはもちろん視線隠しだ。
 そんな中、彼は騒動を耳にした。
 ひとつだけではない。
 各地で起こる大変な騒ぎ。
 女の子が触手で大変な事になっている!
 しかし、どの騒動にも抑える相手がいるので彼の出る幕はない。
 そう思って、ただ見るだけに留まっていたのだが……
(彼女は、一人! シングル!)
 のどかを見つけた小次郎のおっぱいセンサーが作動する。
 ぴぴぴぴぴぴぴ。
(大当たり! 巨乳!)
 ならば最早ためらうことは無い。
 即座に海に入ると、触手をなぎ倒すとのどかを抱え上げる。
「大丈夫ですかっ!」
「……い」
「もう大丈夫ですよ。私が浜まで運んであげましょ……」
「余計な事、しないでください!」
「え」
 怒鳴られた。
 意外な反応にきょとんとする小次郎。
 のどかはと言えば、小次郎によって触手から引き離され、体の熱が冷めぬまま。
 そんな彼女が、自分を抱える小次郎の手に気づいた。
 大きな手。
 鍛えた体。
「もし……代わりをしてくれるなら、許してあげてもいいです、よ?」
 誘うように、告げる。
「よ……喜んで!」
 小次郎の方に異存は微塵もなかった。

   ※※※

「きゃあぁ!」
「ひゃ……ん!」
「あっ、か、痒い……っ」
 うにょうにょうわしわしと、ハート・ビーチ中がクラゲやイソギンチャクの被害で大変な事になっていた。
 そんな中。
 一人、たった一人、孤独な男性がいた。
 いや実際には二人連れなのだけれども。
「夏と言えば海やな! オレは実は水泳が得意だったっちゅー設定があるんや!」
 何故かその設定を思い出すと、崖から落ちて死ぬというありえない記憶とセットなわけですが。
 瀬山 裕輝(せやま・ひろき)は、海に向かって吠えていた。
 そんなパートナーを、浜辺に打ち上げられて死んだクラゲより興味なさげな瞳で見るパートナーの鬼久保 偲(おにくぼ・しのぶ)
 互いに興味関心のない同士、なら何故一緒に海に来た? と問いただしたくなるような間柄だった。
 裕輝が泳ぎに行っても、興味なし。
「……きゃ!?」
 偲にイソギンチャクの触手が絡まっても、感心なし。
「わ、や、っ、痒いぃい……」
 偲が悶えても、感心なし。
 何故なら彼女はそういう役割だから。
「さて、ほんならオレは泳ぎに行くとするか」
 本気で放って海に行く裕輝。
 クラゲやイソギンチャクひしめく海に突撃する。
 ばしゃばしゃばしゃ。
 ざざざざざー。
「ん?」
 ばしゃばしゃばしゃ。
 ざざざざざー。
「んん?」
 裕輝が近づくと、クラゲたちがモーゼのように割れて裕輝を避ける。
「……なんでやねん」
 愛に敏感なパラミタラブクラゲとラブイソギンチャクにとって、愛とは真逆の裕輝の存在は相容れないものだったらしい。
「あうっ、で、ですよねー」
 触手に絡まれながら、酷く納得する偲だった。