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リアクション
04:要塞砲の驚異と立ち上がるかつての勇者!
「高エネルギー急速接近中!」
リカインのその報告に対応できたのは、ハーティオンだけだった。
「学校に向かっている!? くっ! うおおおおおおおおおおおおおお! コアエンジンフルドライブ!! 対魔術結界作動!」
ハーティオンは機関を暴走させると、大量のエネルギーを放出する。そのエネルギーがクロウリーの六芒星という少々特殊な形の六芒星を描く。
「ハーティオン!? 無茶するんじゃねえ!」
エヴァルトが通信を入れるが時既に遅く、ハーティオンが放出したエネルギーによって生み出された結界に、要塞砲のエネルギーがぶつかって中和され、大規模な爆発が生じる。
「エヴァルト……後は頼む……」
エヴァルトに届いた最後の通信は、か細い声だった。
そして爆発の後の煙が晴れると、市街地の中心部には小さなクレーターができていた。
「ハーティオン! ハーティーオン! 返事して!」
鈿女が必死に呼びかけると、ノイズ混じりの通信が入った。
「……ザザッ……星怪球……大破……ジジッ……エネルギ……5%……」
「良かった! すぐに回収するから、眠ってなさい!」
鈿女がそう言うと、通信派が途絶えた。スリープモードに入ったのだろう。
「ほほう、あの一撃を防ぐとは、なかなかやるのう」
メイスンがそう呟いて、要塞砲にエネルギーを充填する。
「メイスン、そう急くでない。ルーンの補充には時間がかかる。使い過ぎると要塞砲が無用の長物となってしまうぞ」
衛のその言葉に、メイスンは「わかっちょる」と答える。
「こちら葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)少尉。敵要塞の映像を送ります」
新兵の吹雪は偵察要員として偵察仕様の{ICN0004523#S−01}に搭乗して戦場に出ていた。
吹雪はとにかく高度を維持し、敵と接触しないようにしながら戦場の映像を基地に送っている。
「何か文字のようなものが要塞を取り巻いてますね」
相棒のコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)がそう告げる。
「ふむ……これはルーン魔術ですね」
オカルトに造形の深い薫がその映像を見てそう判断すると、エヴァルトに帰還の指示を出す。
「なんでだよ!」
薫の言葉に声を荒げたエヴァルトに、薫は対抗手段がある、と告げる。
「わかったよ。エヴァルト・マルトリッツ帰投する。ロートラウト、帰るぞ!」
「うん。わかったよ!」
こうしてエヴァルトは基地へととんぼ返りする羽目となった。
「要塞に再度高エネルギー反応! 拙いぞ!」
ルースが叫ぶ。吹雪のモニタリング映像と、レーダーの熱源反応からそれがわかる。
「拙いであります。もう一度防げるかどうか……」
吹雪がコクピットの中でそう呟く。
その途端、しばらく聞こえなくなっていたクロガネの声が勇者たちの心に響いた。
(最強の盾……アイギス……同調して……)
その声が聞こえると、モニタにソフトウェアキーボードが映し出された。
「……なるほど」
フレイの頭脳に隠しコマンドとそれを出現させるための手順が浮かぶ。それは他の勇者も同様のようで、みな、一斉にキーボードに一定の文字列を入力した。
すなわち、【AIGIS】と。
すると機体はオートパイロットモードになり、5体の勇者は五芒星の形に並ぶ。
「葛城少尉、勇者たちを写しててくれ!」
「了解であります。超光学ズームでお届けします」
吹雪のカメラが勇者たちにパンされる。すると五芒星の形に並んだ勇者たちからエネルギーラインが放出され、紋様が描かれる。その中央には、炎の目が浮かび上がる。
「なんと、あれは第四の結印!」
「御存知ですかドクター佐倉!?」
薫の言葉にルースが反応する。
「旧き神の結印です。脅威と敵意を払う力があります。なるほど……勇者のルーツはこれだったのですか」
薫の言葉で、甲斐がふと何かを思いつく。
「そういえばドクター佐倉、例のものが使えるのでは?」
「おお! ドクター三船、貴公よく思い出した。猿渡、ついてくるのです。ドクター三船もついてきてください」
「わかったよ!」
甲斐は二つ返事で答えるが剛利はいまいち成り行きがわからずはてなマークを浮かべている。
「黙ってついてきなさい」
「わかったよ!」
有無を言わせぬ薫の迫力に剛利は押し切られて黙ってついていく。
そして剛利は倉庫でパワードスーツを着せられると何やら大砲のようなものを運ばされた。
「エネルギー充填120%っと……こういう時はあれかのう、ファイエルとでも言えばいいんじゃろか?」
「ルーン魔術もゲルマン由来じゃし、良いのではないか?」
メイスンの言葉に衛がそう答える。
「では、言葉通り……魔導砲、ファイエル!」
そして発射された要塞砲は、勇者が展開したエルダーサインに阻まれる。
衝突するエネルギーとエネルギー。
巨大なエネルギー同士がぶつかったそこに上昇気流が生まれ、空気が吸いだされ真空状態が発生する。
地面の草や土が真空に吸い込まれ舞い上がる。
「がんばれ!」
コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)のその一声をきっかけに、一般の生徒たちからがんばれのコールが起きる。
「がんばれ!」
「がんばれ!」
「がんばれ!」
無数の励ましの声。
それは、人の善意の意思。人の善意の声。それが、勇者の力の源の一端。
声援を受けて勇者たちの出力レベルが上がる。
やがて要塞砲からのビームが途切れて一応守りきった形となった。
「くぅぅ。きっつー」
エネルギーとエネルギーがぶつかった衝撃がコクピットの内部に伝わり、激しく揺れる。その衝撃に耐え切れず美羽は一瞬昏倒しかけた。
「大丈夫ですか美羽さん?」
「なんとかねー。ベアトリーチェは大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「よし、次弾に備えるよ!」
「はい」
美羽とベアトリーチェの会話。そこにに重大な問題があることを、二人は知らずに示していた。
「なんとか防いだか……だが、国軍はオリュンポスのロボットを迎撃するので手一杯だ。そして勇者は要塞砲がある限り釘付け……畜生、千日手かよ!」
そう。このままでは千日手だ。ルースがそう叫ぶ。と
『そうでもないわよ』
どこからともなく通信が入った。
モニタに写ったのは、国軍の制服を着た女性。ルースはその姿に見覚えがあった。
『アーカシ少佐……』
『元少佐です。お久しぶりですルース少尉……いえ、今は大尉でしたか。ここは私達におまかせくだい』
それは、イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)。元国軍のスーパーエースパイロットで、少佐まで昇進した出世頭。しかし、戦いを倦んで引退し、いまは学園の教師をしていた。
『しかし……その機体は……』
『実は私、元勇者なんです』
衝撃の告白。かつてのエースは、勇者でもあったのだ。
『なんですって……』
驚くリカインにイーリャは更に告げる。
『以前、2機の謎の機体が軍で噂になってましたよね。紹介します。私の相棒の元勇者で、今は学校の用務員をやっている柊くんです。
『え? どこにも機体が……』
リカインがそう答えた時、突如叫び声が通信回線越しに聞こえた。
「出ろおぉぉぉぉぉ! ラーズグリーズゥゥゥゥゥ!!!」
その男は右腕を高く天に掲げ、声高らかに機体の名を呼び、フィンガースナップを行う。
すると空から青い戦闘機が急降下してくる。それはイーリャのフィーニクス・ストライカー/Fと同タイプの機体。だが、かつての勇者は赤と青の2色ではなかったか? ルースがその疑問を告げると、イーリャは色を塗り替えました。と答えた。イーリャの機体は今は群青色だった。
『しかし……戦いを嫌ったアーカシ少佐が戦線に復帰するとは、よっぽどのお覚悟だったのでしょうね』
『ええ。でも、子供たちを戦わせておいて自分だけ安全なところにいる訳にはいかないもの』
『お察しします……ところで、サブパイロットは?』
ルースの問にイーリャは少し沈黙すると、『紹介するわ』と言ってモニタに女の子を移した。
『私の娘のジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)です。さあ、ジヴァ、挨拶をしなさい』
『だから、あたしはあんたの娘じゃないって! ていうかメインパイロットはあたしでしょ! なんであんたがメインなのよ!』
ジヴァがモニタ越しに喚いている。
『娘さん……ですか?』
『そのはずなんだけど、なんかおかしいのよ』
リカインも当惑していた。
『おかしいのはこの世界よ! 何が一体どうなってるのよ!?』
ジヴァのその言葉を、ルカルカが聞いて反応した。
「やっぱりこの世界おかしいのよ」
「どうやらそのようだ……きっと彼女のほうが正常なのだろうが、異質なこの世界では彼女のほうが異端児のようだ」
ダリルがそう答えて、戦況モニタに目をやる。
「どうやら第三波がきそうやね……」
太輔の言うとおり、要塞砲には再びエネルギーが満ちていた。
そして、再度要塞砲が発射される。勇者たちが再び第四の結印を展開してそれを防ぐ。
「この時を待っていた!」
エヴァルトはそう叫ぶと、ブースターを付けて基地から飛び出す。
『おい、元勇者さんよ! あの要塞砲ぶっ潰すから護衛してくれよ!』
『了解!』
イーリャは機体を駆って宙を舞うとミサイルとライフルで次々と敵を撃墜していく。
「負けてられないな……エグゼリカ、行くぞ」
「はい。主よ、本当にお久しぶりですね。こうして貴方と空をとぶのはいつ以来でしょうか……」
「さて……かなり昔のような気がするよ」
かつての勇者である柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)とその相棒で情報処理用のオペレーターユニットのエグゼリカ・メレティ(えぐぜりか・めれてぃ)が久方の再開を味わいつつ言葉をかわす。その間にも恭也はラーズグリーズのミサイルやレーザーバルカンを駆使しながら敵の群れに穴を開けていく。
『さあ、道は開けたぞ! ぶちかませ!』
恭也が叫ぶと
『応ともよ!』
エヴァルトが応じる。
エヴァルトは翔龍を飛行形態から人形に変形させて着陸すると、炎の色をした銃身の大砲を取り出した。
「ロートラウト、エネルギー回せ!」
「了解! 一回しか撃てないんだから、外さないでよ!」
「わかってる。詠唱プログラムスタート!」
エヴァルトがコンソールを操作すると常人には理解できない呪文の詠唱が行われる。
「OKだよ! 撃って!」
「イア! クトゥグアァァァァァ!」
炎の邪神のエネルギーを抽出した熱線が要塞に向かって一直線に飛んでいく。
それは要塞の周囲のルーン文字の大半を消すと、衛の魔術を逆アセンブルして、魔導機関のコアで魔術を展開していた妖蛆の秘密ことプリンに魔力を叩きこむ。
「きゃあああああああああ!」
プリンが悲鳴を上げて魔力の放出をやめると、プリンを襲っていた魔力もまた途絶えた。
「プリン、大丈夫か?」
「大丈夫ですわ、メイスン様。でも、あやうく存在を消されるところでしたわ。まさか邪神の力を使いこなすものが居るとは思いませんでした……」
「ふむ。呪詛の形でまだ効果が残っているようじゃ。しばらく魔力の放出はやめたほうがよかろうな。わしの術式も逆アセンブルされたようじゃし、敵もなかなかやりおるわい」
「恐れ入ります」
プリンは頭を下げると魔導書の形に戻った。
「さて、次でとどめだ」
エヴァルトはもうひとつ、白銀の大砲を取り出す。
「ルーンにはルーンだ! 雷神の怒りを受けろ。トールの鉄槌!!」
エヴァルトが引き金を引くとルーンを纏った雷撃が放出される。
その雷撃は衛の展開したルーンを打ち消し、要塞砲を無力化する。だが……
「エネルギー、ソールドアウト。もう限界!」
エネルギー切れで、翔龍の活動が停止する。
「人工の勇者じゃ、ここまでか……」
「充分だ!」
朗々と響く声。それはかつての勇者、柊 恭也の言霊。
空中で人形に変形したラーズグリーズは翔龍の周囲の敵に強化型ショットガンを叩きこんで一掃すると、ラーズグリーズのエネルギーを翔龍に分け与える。
『帰投するぶんには充分なはずだ。帰って休め』
『へっ、助かる……』
エヴァルトは感謝を告げて機体を飛び立たせると、国軍の基地へと戻っていった。
そして、基地へ帰ったエヴァルトとロートラウトを、科学者連中がもみくちゃに歓迎したのであった。なにせ予算喰らいと時々生み出すあたり以外はほとんどガラクタの科学者が創りだした兵器が大いに役立ったのだから。
「さて、雑魚は潰した。これで国軍も楽になるでしょ。あとはあの戦艦ね……」
イーリャはそうつぶやくと、ゴールデン・キャッツに向かって次々と砲弾と銃弾を叩きこむ。
「な、なにこれ……なんであの劣等種があたし……い、いや下手すればもっと……? あ、ありえない……ありえないわ! あんた病弱で強化人間にもなれなくて仕方なく研究者になったんじゃなかったわけ!? なんでこんなに戦えるのよ!?」
「強化人間? なにそれ?」
ジヴァとイーリャの記憶の齟齬が、ジヴァを混乱に落としこむ。一方、ゴールデン・キャッツのマネキは追い詰められて最終手段の【大判炸裂弾】を発射しようとするが、そこでマイキーの天然さというか自由奔放さが邪魔をした。
「今こそ愛の力を見せる時が来たんだね!」
マイキーは、キリッとしたドヤ顔で大判炸裂弾に何故かアワビをねりこんだ。理由は不明である。
「や、やめろ! その大判炸裂弾とあわびは化学反応を起こす!」
「え?」
時既に遅し。どのような原理で化学反応を起こすのかは知らないが、とにかく化学反応を起こしたそれは何トンものC4爆弾が爆発したのと同等の爆発エネルギーで戦艦を内部から粉砕し、エンジンや火薬と誘爆して大爆発を起こす。
「ふんぎゃああああああああ!」
マネキとマイキーは叫びながら天高くへと舞って行った。
こうして元勇者の再デビューと、要塞砲の無力化、勇者たちの力のルーツの一端を示す事件が終わったのだった。
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