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リアクション
02:ミレリアの憂鬱と国軍の勇者
ミレリア・ファウェイは何か事態の展開が面白くなくてモヤモヤして、思わず教室を飛び出してしまったが、そんなミレリアについてくる人物が何人かいた。
まずは紫月 唯斗(しづき・ゆいと)である。唯斗は教師なのだが、外に飛び出した生徒の監督という名目で付いてきたのだ。
「せんせー、なんでついてくるのぉ?」
ミレリアが嫌そうな顔をして尋ねると、「なにか面白いこと考えてるんだろう?」と言いながらにやっと笑う。それに対して、ミレリアはなんにも考えてないわよぅ、と言って頬を膨らますと、周囲を見渡した。他にも付いてきている者がいたのだ。
大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)とルカルカ・ルー(るかるか・るー)。それとダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の三人であった。
「皆もなんでついてくるのぉ?」
ミレリアの疑問に、太輔は「いや、外危ないやん? 一応護衛のつもりや」と答える。
「護衛ねえ……あたし、戦いの訓練受けてるから必要ないんだけどなぁ……」
ミレリアが漏らした言葉に、ダリルが引っかかった。
「なぜ、アイドルのミレリアが戦闘訓練など受けているのだ?」
「あれ? そういえばそうよねぇ……いつ訓練なんて受けたかしらぁ?」
ダリルの問に、ミレリアは答えられない。
「ルカルカもなんか違和感感じてたんだよね〜。ミレリアもなんか違和感感じて、気に入らなかったんじゃない?」
そうルカルカが尋ねると、ミレリアは少し考えこんでから答えた。「確かに、なにか変なのよねぇ」といって、なにが変なのかしらぁ、と呟いた。
「そういえば、ダリル……貴方とは何か運命のような絆で結ばれてた気がするの」
ルカルカがそう言うとダリルは微妙な表情をして。
「記憶に曖昧な点が有るのは否定しない。たしかになにか特別なものは感じるが、タイプかと聞かれると……」
とあまり嬉しくなさそうに言う。
「失礼しちゃうわね」
それに対して、ルカルカはぷくーっと頬をふくらませる。
「ふむ……とにかく自分が何者なのか確かめねばな」
ダリルはそう言うと意識を集中する。すると、カタールに似た剣型の何かが生成された。
「え? なにそれ?」
ルカルカが問う。
「わからん……が、自分でできることを自分でわからんというのは、やはりこの世界がおかしい証拠だろう」
「ダリル、とするとやはりこの世界は……?」
唯斗がダリルに尋ねる。
「紛い物、作り物……それらの類」
「ふむ。だそうだ。ミレリア、どうする?」
唯斗のその言葉を聞いてミレリアはしばし考えこむ。
「うーん。取り合えず街を歩いてみたいかしら? それに、あたしアイドルやってるはずなのにこの非常事態にアイドル事務所からなんの連絡もないのよねぇ……やっぱりおかしいわぁ」
「せやな。ほな、僕もついていくわ」
「いいわよぅ」
太輔の申し出に、ミレリアは遠慮した様子を見せる。と、太輔が説教モードに入った。
「嬢ちゃん、自分の身ぃは大事にせなあかんで。どう見たかて普通の状態やあらへん。僕らみたいな一般人は、あんまし危険なとこへは近づかんように気をつけるんが一番や」
「とは言っても……学校の近くまで敵――オリュンポス? アレが来ている以上学校も安全とはいえないしぃ、国軍の基地にでも避難したほうがいいかもしれないわねぇ」
一応太輔の言葉を受けて、咀嚼して、それから自分なりの返事を返す。
「そうだな。国軍なら逃げ込んだ民間人の保護くらいしてくれるだろう。が、取り合えず近くの雑貨屋か何かに寄ってみたい。記録を調べるのが近道だろうからな」
ダリルのその言葉にルカルカとミレリアが頷き、それに引っ張られるように唯斗と太輔が賛同する。そして学校を離れて商店街と思しき方に向かい始めると、途中で住宅街に差し掛かる。住宅街から住民が国軍の基地に避難しようとする人の流れに逆らい、ミレリアたちは商店街へと向かう。
と、そこにオリュンポスの巨大クワガタが飛来した。
悲鳴が上がり、人々が逃げ惑う。
乱雑に逃げる市民の群れの中にクワガタが突入し、数多くのけが人が出る中、一人の少女が転んだ老婆の手助けをしていた。その少女の名は夢宮 未来(ゆめみや・みらい)。どこにでも居る普通の少女だが、なぜだか事件に巻き込まれる事が多い体質だった。
そしてその例に漏れず、敵のロボットが発射したミサイルが未来に向かって飛んできていた。
「きゃあああああああああああ!」
悲鳴を上げる未来。
と、そこに一機のロボットが現れて剣を取り出す。そしてその剣を振るうと空気が切り裂かれて、その空気ごとミサイルが引き裂かれてはるか手前で爆発、四散する。
「大丈夫か、未来ちゃん!?」
その声は、未来にとって聞いたことがある声だった。
「ハーティオンさん!?」
「そうだ」
未来は今までに見たことのないハーティオンの姿に驚いている。
ちなみに、未来はハーティオンが発掘されるきっかけを作り、発掘の現場にも立ち会っている。
「その姿、どうしたの?」
「未来が私と一緒に発掘した星怪球 バグベアード(せいかいきゅう・ばぐべあーど)。あれと合体したのがこの姿だ。名付けて、星心合体ベアド・ハーティオン!」
「ベアド……ハーティオン……」
未来は感激した様子で、その名前を繰り返す。
「格好良いですね!」
「照れるなあ……と、こんなところでお話している暇はない。市民の皆さん! ここは私が防ぎます。皆さんは国軍の基地に避難してください」
ハーティオンの登場に安堵した人々は、先程より整然と行動をし始める。
「すまない、君は国軍の方か?」
ダリルの質問をハーティオンが肯定すると、ダリルは基地でネットは使えるかと尋ねた。
ハーティオンは多少いぶかしがったが使えると答えると避難するように促した。
(ふむ……ネットが使えるなら国軍の基地に避難するか。このまま街をうろつくのも危険すぎる)
ダリルはそう判断すると、ミレリアに基地に行くことを提案した。
「そうねー。それがいいかしらねぇ。そうするわー」
ミレリアが同意すると唯斗と泰輔、そしてルカルカも一緒についていくと宣言する。
そして、ハーティオンが巨大生物を相手に孤軍奮闘する中、人々は国軍の基地に向かったのであった。
そして、基地にたどり着くと、人々から悲鳴が上がる。
「何だ、ありゃ!」
唯斗が叫ぶ。そこに在ったのは、ある種異様な光景だった。
恐竜が、暴れていた。その名はキャロリーヌ。軍で飼われていたティラノサウルスである。
その暴れまわるティラノサウルスを抑えるべく、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)とそのサポートAIロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)の搭乗する翔龍が奮闘していた。
「ちぃっ! 出撃した途端これだ! おい、リカイン! ペットのしつけくらいきちんとしとけ!」
「知らないよ! キャロリーヌちゃんはわがままなんだ!」
叫ぶエヴァルトに自棄になって答えるリカイン。
「エヴァルト、無駄なことはしてないでさっさとキャロリーヌを取り抑えようよ。全兵装がエネルギー兵器なんだから、さっさと片付けないと」
ロートラウトにたしなめられると、エヴァルトは思考を切り替えた。
「そうだな。なんか勇者とか言うのが出てきたようだが、、学生や得体の知れぬものに戦わせては軍の面目が立たん。人命第一の国軍の意地を見せてやる……はぁあああ!」
エヴァルトが念じると機体の頭部からバルカンが飛び出す。
エヴァルトは国軍によって作られたサイボーグなので、脳波を電磁パルスにしてそれを機体に直接流しこむことによってダイレクトな操作を可能にしている。
操縦桿を使って操作した時に比べてコンマ数秒反応の遅れを排除したため、通常の国軍の機体とは機動性能が段違いだった。
それに対し、キャロリーヌがロボット全般に送る熱い視線はビームになるほどのエネルギーを持ち翔龍を貫く。
「甘い! ブレス・ノウ」
エヴァルトはキャロリーヌの動きを予測することによってそのビームを回避する。
キャロリーヌは翔龍に狙いを定めて赤い糸を飛ばす。
「ぐっ! しまった!」
「ダメージはないけど、機動性が下がった! 次の攻撃に気をつけて!」
ロートラウトの警告を受けた直後、キャロリーヌが突進してくる。
「駄目! 避けられない!」
ロートラウトの悲鳴が響く!
突撃してきたキャロリーヌは、前脚で翔龍をガッチリとホールドする。
キャロリーヌの息が荒くなり不自然にけいれんする。
「骨格にダメージ! 軽微だけどこのままやられ続けたら拙いよ!」
「わかってる。この!」
翔龍は渾身の拳をキャロリーヌに叩きつける。
強力なブローはキャロリーヌの筋肉と意識を弛緩させ、拘束が解ける。
「おとなしく! おねんねしとけ!」
かかと落としがキャロリーヌの頭に炸裂する。脳震盪を起こし、気絶するキャロリーヌ。
『今のうちに拘束しとけ!』
エヴァルトは外部スピーカーで叫ぶと、そのまま飛行形態に変形して戦場に向かって飛んでいった。
「結構面白かったわねぇ」
見世物を見ている気分のミレリアだった。
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