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戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫

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戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫

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第八章 ≪三頭を持つ邪竜≫


 ≪隷属のマカフ≫という制御を失くした≪三頭を持つ邪竜≫の心臓は、要塞を食らいながら徐々にその大きさを増していく。
 要塞から次々と脱出して人々。
 そんな危険な状態であることを知りながらも、早見 騨(はやみ・だん)は、完了するまで傍にいるという≪猫耳メイドの機晶姫≫あゆむとの約束を守るべく、カプセルの隣から動かないでいた。
「あともう少しなんだ……」
 その頑な騨の態度にダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がため息を吐いた。
「……わかった。脱出路の確保はしておく。完了次第、急いで抜けるぞ」
 ダリルは生徒達に指示をだし、脱出のための最短ルートの確保に乗り出した。
 騨は腕に巻かれたお守りを握りしめ、カプセルの中で眠りあゆむを見つめていた。
 そんな時――室内が大きく揺れ、床や壁が崩れ始めた。
「うわっ!?」
 地面から太いコードが暴れるように飛びだし、騨と生徒達を分断する。
 そして、あゆむのカプセルがあった場所の床が崩れた。
「まずいっ! あゆむ!!」
 騨は無我夢中でカプセルに飛びついた……。


*****



 要塞上部に上がった生徒達は、大きくなる≪三頭を持つ邪竜≫を見つめていた。
 攻撃を加えてみたが、脅威的な再生力の前では大した効果はなく、どうにか策を講じなくてはと考えていた。
「もっと全体に一気に攻撃を加えないとダメね……」
 天貴 彩羽(あまむち・あやは)は取り出したパソコンで破壊するためにプランを考え始めた。
 その時、視界の端に見覚えのある黒い影を見つける。
「あいつは確か……」
 それは中央コントロール室の監視映像で見た左腕が異様に肥大化した化け物(エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす))だった。
 化け物が真っ直ぐに見つめる先、そこには≪三頭を持つ邪竜≫の心臓が金属片の間から少しだけ顔を覗かせていた。
「……まずい。食らうつもりだわ!」
 彩羽は兵を食らって力をつけたことを思いだし、慌てて周囲の生徒に化け物を止めるように指示した。
 化け物の狙いは、≪三頭を持つ邪竜≫の心臓を食らい、自分の力にすることだ。
 走り出した化け物を追いかける生徒達。
 だが――
「早い!」
 手を地面につけて四足で走る化け物は思いのほか早く、追いかける生徒達には止められらない。
 そんな時、化け物の進行方向の外壁を壊して、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)富永 佐那(とみなが・さな)が要塞上部に上がってきた。
「二人とも! そいつを止めて!」
「あら? この声――」
「おい、なんか来たぞ!」
 化け物に気づいた恭也は、慌てて複合銃【バヨネット】で狙い撃つ。
 だが、跳躍した化け物は恭也の頭上を通り過ぎようとした。
「よくわかりませんが――」
「!?」
 すると、佐那が空中で回転蹴りを放った。
 吹き飛ばされる化け物。
 着地した佐那はレーザーキンジャールを二種、両手に構える。
「とりあえず、やばい感じはビリビリ伝わってきますので、退治させていただきます」
 二人は化け物との交戦を開始した。


*****



「ぅぐ、落ちる……」
 カプセルにどうにかしがみ付いた騨は、空中に宙ずり状態でカプセルにぶら下がる。
 床を抜けたカプセルは≪三頭を持つ邪竜≫の身体の一部にされそうになっていた。
 カプセルは少しずつ、身体の中へと引きづり込まれていく。
「もう、同調システムは完了しているはず……だったら」
 カプセルのタイマーは見えなかった。だが、先ほど確認した表示から考えて、治療は完了していると思われた。
 騨は腰のホルスターから銃を引き抜き、カプセルと≪三頭を持つ邪竜≫を繋いでいるコードに狙いを定める。
 引き金に指をかけ、大きく深呼吸。
「相手がただの機械なら……」
 頭に以前聞いた≪隷属のマカフ≫の言葉が過る。
『機械なら撃てるのか? だったら機晶姫もただ機械……』
 手が震え出す。
「……」
 騨は首を振って考えるのをやめる。
 ――その時、突如の≪三頭を持つ邪竜≫の中から大量のコードが現れた。
「ゥゥ……タ……」
「なっ、なんだ!?」
 それらは複雑に絡みながら人の顔を構成していった。
「タ……タスケテクレ……」
「!?」
 内部からノイズ交じりの悲痛な声が聞こえてくる。
「クルシイ……コワイ……」
 コードの塊は、顔の形を変え、声を変え、単調な言葉で、騨に絶え間なく助けを求めてきた。
 それらは全て取り込まれた兵のものだった。
「そ、んな……」
 騨の顔が青ざめ、唇を震わせる。
 銃口の前で訴える兵の顔に、引き金ができない。
 その間にもカプセルは徐々に取り込まれていく。
 兵の顔が騨に近づき、腕や顔にコードが伸びてくる。
「こんなの……どうしたら……」
 騨はこういう時にどう対処するべきか考えた。
 取り込まれた人を助けるか、あゆむを助けるか。
 だが、答えは一向に浮かばず、頭の中が真っ白になっていく。
 そんな時、ふと腕に巻いたお守りが目に入ってきた。
「……あゆむ」
 ――徹夜して手作りのお守り。
『大切な相手を救いたいなら、躊躇わずに撃て……』
 ふいにエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の言葉が脳内をよぎった。
「大切な人……そうだ。帰らなきゃ……」
 カプセルの中ではあゆむが、こんな状況でも幸せそうな表情で眠っていた。
 騨は唇を噛みしめると、銃をしっかり握りしめ――引き金を引いた。
「……ごめん」
 何度も、何度も、目を瞑って聞こえる悲鳴に耐えながら、弾が切れるまで撃ち続けた。
 だが――地上へ落ちかけたカプセルは、伸びてきた太いコードに捕らわれてしまう。
「クッ、このっ――!?」
 銃を向けるが、既に弾切れである。
 騨は伸びてきたコードに首を絞められる。
「うぐっ……」
 叩いてもコードは外れない。
 ジタバタ暴れるが、脱出できない。
 絞める力が強くなり、息が苦しくなる。
 意識が遠のき始め、その時――眩しい光が目の前を駆け抜けた。
「うぐっ!?」
「よっと……」
 締め付けていたコードが光によって切断され、解放された騨は宮殿用飛行翼を使って飛んできたイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)によって抱きかかえられる。
 光の発射された方角を見ると、ジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)が個人携行型プラズマライフルを構えていた。
 イーリャが≪三頭を持つ邪竜≫から離れながら優しく声をかける。
「頑張ったわね」
「あ……り……がと……それより……」
 ようやく呼吸ができるような騨は、あゆむの救出を頼む。
「わかっているわ、ルカルカさん!」
「オッケー!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はカプセルに近づくと、眠っているあゆむに笑いかけた。
「あゆむ、いま助けるからね!」
 ルカルカはカプセルを捕えているコードに向かってブライドオブブレイドを振り下ろした。
 拘束が解かれ、落下したカプセルをダリルとカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が受け止める。
「離脱するよ!」
 ルカルカ達は≪三頭を持つ邪竜≫から離れながら地表へ向かった。
「……あゆむ」
 騨は安心して地表へ銃を落とした。