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学生たちの休日9

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学生たちの休日9
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    ★    ★    ★
 
「あはははは……!!」
 バシャバシャバシャとお湯を蹴たてて、リン・ダージ(りん・だーじ)がプッカリ浮かんだザンスカールの森の精 ざんすか(ざんすかーるのもりのせい・ざんすか)をアヒルさん代わりに押して、流れるお風呂を疾走していた。
「リンちゃん、あんまりはしゃぐと迷惑ですよ」
 大浴場の脱衣所近くのテーブルから、アルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)が注意した。
「やれやれ。みんな元気なことだ」
 飲み物を運んできたアラザルク・ミトゥナが、リン・ダージの分も含めて、テーブルの上におく。
「もう、みんなフリーダムで……」
 自分では管理しきれないと、アルディミアク・ミトゥナが水着に被われた豊かな胸をテーブルに押しつけて突っ伏した。
「たまには、みんな好きなことをしてもいいんじゃないかな」
 そんなに気負うことはないと、アラザルク・ミトゥナが言った。ペコ・フラワリーたちは世界樹の中にいるようだし、ココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)たちは空京にでかけている。アラザルク・ミトゥナたちはお留守番といったところだ。
「あはははは……」
「うっぷ。てめえ、何しやがんでえ!」
 リン・ダージに激しく水飛沫をかけられて、ゆったりとお湯に浸かっていたモヒカンが声を荒らげた。
「なによ、そんな所にいるのが悪いのよ!」
 リン・ダージの方も負けてはいない。というか、悪いのはどう見てもこちらの方なのだが……。
「ふん、貴様、穿いていないな……。ガキか……」
「な、何を言いだすのよ、こいつ」
 イルミンスールの大浴場は混浴である。そのため、一応水着着用は義務づけられているのだが、そのへんはタオル一枚ですますか、すっぽんぽんかは個人の自由となっている。もちろん、リン・ダージはすっぽんぽん……でアルディミアク・ミトゥナたちに怒られてタオルを身体に巻いている。
「いいか、パンツというのは、こうやってモヒカンに被るものだ!」
 自信満々で、モヒカンが力説した。そう、彼はPモヒカン族だったのだ。
「お子様なら仕方がない。特別に、この俺様の命よりも大切なパンツを頭に被せてやろ……」
「消えてなくなれー!!」
「うぼあ!?」
 最後まで言えずに、Pモヒカン族がリン・ダージの必殺地祇ハンマーに吹っ飛ばされてジャングル風呂のどこかへと消えていった。
 
    ★    ★    ★
 
よっしゃ、始めるでえ。ウィアはん、そこのはねつキノコを取ってくれへんか」
「はいはい、このキノコですね」
 奏輝 優奈(かなて・ゆうな)に言われて、ウィア・エリルライト(うぃあ・えりるらいと)が翼を広げたような形の奇妙なキノコをザルの上から取って手渡した。
 実験台の上には、何やら雪だるま王国周辺の森で採ってきた怪しい薬草類が山積みにされている。
 最近錬金術を研究し始めた奏輝優奈は、研究と称して、雪だるま王国王立精霊魔法研究所と看板の掛かった建物の中で、飛行薬の錬成にチャレンジ中だった。飲み薬なので、一応、ハーブ類がベースで、それを奏輝優奈の閃きで混ぜ合わせていっている。
「大丈夫ですか?」
 なんだかそこはかとない不安を感じて、ウィア・エリルライトが奏輝優奈に聞いた。
「大丈夫やて。ちゃんと、レシピ本もあるんやさかい。これも修行やな
 奏輝優奈が胸を張る。
 とはいっても、そういうレシピ本は、怪しいのが定番なわけだが……。実際、本のタイトルも掠れていて『美味しい……の本』としか読めない。
「じゃあ、次はそこのレノレノ草を取ってくれはるかなあ」
 ゴリゴリと乳鉢でキノコをすり潰しながら、奏輝優奈が言った。
「レノレノ草?」
 聞き慣れない言葉に、ウィア・エリルライトが聞き返す。そんな草って、あっただろうか?
「そこのレノレノしている奴やよ」
「レノレノ!?」
 さらに意味が分からない。
「だって、レノレノしているから、ウチがレノレノ草って名づけたんよ。ほら、この本に載っとる草にそっくりやろ?」
 レシピ本の開かれたページに書かれたイラストを指さして、奏輝優奈が言った。確かに、草のような絵が、半分掠れながら本に書いてある。にしても、かなりいいかげんなイラストだ。まさに、奏輝優奈が言うように、レノレノしたイラストだとは言えるかもしれない。
「ええっと、その絵に似た草って……。もしかして、これですかあ?」
 ウィア・エリルライトが、なんとか似た草を籠の中から見つけだした。自称レノレノ草……怪しい、怪しすぎる。
「そう、それや」
「でも、これルル草なんじゃあ……」
 なんとなく見覚えがあるので、ウィア・エリルライトが別の草の名前を出した。思いっきり名前が違うことに不安を覚える。
「大丈夫、大丈夫」
 お気楽なことを言って、奏輝優奈がどんどん材料をすりあわせて混ぜていく。それをこねるといくつかの丸薬を作りあげた。結構、凄い臭いがする。
「で、それをどうするのですか?」
「もちろん、試食や」
 その言葉に、ウィア・エリルライトが思わず身の危険を感じて逃げだそうとした。
逃がさへんでえ
 すかさず、奏輝優奈がウィア・エリルライトをつかまえる。
「大丈夫。自然の材料なんやから、平気やって。一粒で、ふわふわして、空を飛べるさかい。さあ、一呑みでいこう。がんばれっ、ファーイトッ!
 そう言うと、奏輝優奈は半ば無理矢理ウィア・エリルライトに、できあがったばかりの丸薬を飲ませた。
お味はいかが?
ちょっと、不味いですね……」
 顰めっ面をして、ウィア・エリルライトが答えた。
「ううっ、お腹が少し痛いですよあうっ……!
 あわてる奏輝優奈の目の前で、ウィア・エリルライトの髪の毛だけが重力に逆らって逆立ち始めた。
「ええっ、もしかして、ウチ、何か間違えた!?」
 つんつんになってしまったウィア・エリルライトに、あわてて完全回復をかける奏輝優奈であった。