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学生たちの休日9

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学生たちの休日9
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「というわけで、アレナの件で助言を求めたいんだが……」
「うーむ、私は補習授業を受けたいという熱心な生徒がいるからと言われて面会を許可したのだが……」
 空京大学の教授室で、本に囲まれたアクリト・シーカー(あくりと・しーかー)がやれやれという顔をした。
「重要なことなんだ、教えてくれ」
 大谷地康之の方は真剣である。
「まず、光条兵器が出せなくなったという事例は、とりたてては記録されてはいないな。これは、そういうことがまったくなかったか、ある程度の確立で起こりえていたかのどちらかということが推測できる。つまり、記録する必要もないことだったというわけだな。剣の花嫁が光条兵器の鞘とも言える存在であるのであれば、事実としての評価をすれば、光条兵器を出せなくなった剣の花嫁は欠陥品であるとも言える。その場合は、すでに剣の花嫁ではなく、ただのパラミタ人と同レベルと言うことになるな」
 ふんふんと、大谷地康之がアリクト・シーカーの言葉に耳をかたむけた。
「さて、ではなぜ出せなくなるかだが、システム的要因がまず考えられる。これは、いわゆる故障に相当するな。この場合は、はっきり言って製造者にしか直すことができない。現在、その技術も施設も我々は所持していないからだ。次に考えられるのは、精神的要因による物だ。この場合、カウンセリングなどによって改善する可能性がある。最後に、外的要因によってそのような状態になってしまった場合だ。アレナ・ミセファヌスのケースは、これに該当するだろう。問題は、原因がどちらにあるかだ」
「どちらって?」
「つまり、不完全な封印が原因の場合は、封印を完全に取り除けばよい。こちらは、可能性がまだありそうだ。今ひとつは、不完全な封印によって、アレナ・ミセファヌス自身が損傷してしまった場合だ。この場合は、現実的に言うと、修理はほぼ不可能だ」
「修理修理って、アレナは人間なんだぜ!」
 ちょっと声を荒らげて大谷地康之が言い返した。アリクト・シーカーの言葉を聞いていると、まるでただの機械か何かのことを話題にしているかのようだ。
「その通り。アレナ・ミセファヌスという少女は、はたして剣の花嫁なのか、それとも、アレナ・ミセファヌスなのか……」
「ええっと、言ってることがよく分からねえんだが……」
「つまり、アレナ・ミセファヌスにとって、大切なのは、光条兵器を出せることなのか、彼女自身であることなのかということなのだよ。それをよく考えてきたまえ。これが、君に課する課題だ」
 そう言うと、アリクト・シーカーはパタンと資料ファイルを閉じた。
 
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「ふふふ……みいつけたあ」
「アユナ!? よく分かったわね」
 いきなりアユナ・レッケス(あゆな・れっけす)に背後からだきつかれて、はぐれ魔導書 『不滅の雷』(はぐれまどうしょ・ふめつのいかずち)がちょっと驚いたような、しかし満足気な笑みを浮かべた。
 今のはぐれ魔導書『不滅の雷』は、ブルーのカラーコンタクトで赤目を隠し、ジーンズ地のサロペットとTシャツでボーイッシュな娘に変装している。同様に、アユナ・レッケスもいつもは二つに編んでいるお下げをフラワーゴムで後ろ手に一つに纏め、メガネをかけて変装していた。
 はぐれ魔導書『不滅の雷』は、魔神 バルバトス(まじん・ばるばとす)を崇拝していたためシャンバラの勢力とは折り合いが悪い。パートナーである土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)もそのせいで一時放校されている。そのため、知り合いと人の多い所で会うときは、相手に配慮して素性を隠すように努めていた。そんな彼女をお姉様と慕うアユナ・レッケスは、単にそれに合わせて変装してきたという次第である。
「この私が、お姉様を見逃す……いいえ、見つけ損なうことなんかありません!」
 アユナ・レッケスが力説した。
「それより、早くデート……、いいえ、お買い物に行きましょう。つきあってください」
「やれやれ。いったい何を買いたいの?」
「いろいろです。その、できれば、お姉様と一緒の物を買いたいです」
 訊ねるはぐれ魔導書『不滅の雷』に、アユナ・レッケスが答えた。
「今日は、アユナに振り回されそうだわ」
 ちょっと楽しそうにはぐれ魔導書『不滅の雷』が言った。
「そんなことはありません。竜造ならいざ知らず、お姉様を振り回すだなんて……」
 本当は、自分のためにだけ思いっきり振り回したいのを隠して、アユナ・レッケスが答えた。これは、いつもパートナーの白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)に振り回されている反動だろうか。
「相変わらずなの?」
「ええ、相変わらずです。きっと、これからも私は竜造に振り回されるんです。お姉様は、どうなんですか?」
「どうって言われても……」
 聞かれて、ちょっとあの人のことを思い出す。
「やっぱり……」
 いったいいつまではぐれ魔導書『不滅の雷』の心を独占し続けるのだろうかと思いつつも、アユナ・レッケスはさすがにそれを言葉にはしなかった。その代わりに、横を歩いていたはぐれ魔導書『不滅の雷』の腕に、ギュッとしがみつく。
「お姉様、何がほしいんですか?」
 一緒の物を買おうと、アユナ・レッケスがはぐれ魔導書『不滅の雷』に聞いた。
「そうねえ、アユナの真っ赤な血とか……冗談よ」
 なんだかすぐにも手首とかを差し出しそうなアユナ・レッケスを、はぐれ魔導書『不滅の雷』が押し止めた。本当はそれも面白そうなのだが、いろいろと後がやっかいそうだ。
「じゃあ、アユナには私の瞳をあげるわ」
 そう言うと、はぐれ魔導書『不滅の雷』が真っ赤なルビーのついた指輪をアユナ・レッケスの指に填めた。まあと、うっとりしたアユナ・レッケスが無防備になる。その顔へ、はぐれ魔導書『不滅の雷』が唇を近づけた。自然と、アユナ・レッケスが目を閉じる。
 アユナ・レッケスの閉じたまぶたに、暖かく柔らかい物が触れた。
 えっと、ちょっと期待が外れたアユナ・レッケスが驚いた顔をする。
「続きは、アユナがちゃんとおねだりができるようになってからね……」
 はぐれ魔導書『不滅の雷』が、そうアユナ・レッケスの耳許でつぶやいた。
 
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「準備はいい?」
「……いつで……も」
 大通りの幅の広い歩道に陣どった緋王 輝夜(ひおう・かぐや)に聞かれて、ギターをかかえたネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)が答えた。
 ストリートライブの準備は万端である。
 なにしろ、魔道研究員として家計を支えていたエッツェル・アザトースが行方不明のため、生活費を稼ぐ必要があるのだ。噂によると、怪物のような姿の仮面の男がパラミタ中で目撃されているらしい。緋王輝夜たちはすぐにそれが変わり果てたエッツェル・アザトースの姿だと分かったが、なにしろ範囲が広いので捜すための移動だけでもお金がかかる。そのため、空京の裏通りにある壊れかけたガレージを借りて、そこを拠点にして日銭を稼ぎながら暮らしているというのが現状だ。
 とりあえず、体力だけが取り柄のアーマード・レッドは道路工事をしている。緋王輝夜たちとは言えば、最も得意で、最もお金を稼ぎやすいのが、このストリートライブであった。
「ワン、ツー、ワン、ツー、スリー、フォー……」
 ネームレス・ミストが、ピックでエレキギターのボディを叩いてリズムを取った。スピーカーの前でマイクを握りしめた緋王輝夜が口を開く。
FLYNG TO BURN OUT
 この世の全てを 飛び越えて
 己の常識を 打ち砕けば!
 加速増して 走りゆく先に現れる
 限界の壁が そびえ立つ
 SO FAR AWAY
 届かぬ場所へいつしか
 永遠さえも貫く速度でぇ!
 
 SPAKING! THNDER STORM!!
 吹きすさぶ風 轟く雷鳴よ あぁ降り注げ 
 BLAZING! THNDER STORM!!
 猛き嵐よ 光る速さで翔けろ
 BLAZING! THNDER STORM!!

 力強いシャウトをもった歌声が通りに響き渡った。道行く人が、否応なく足を止める。
TURNING TO RED THE SKY
 支配されていく 宵闇を
 一筋光る 稲光が! 
 未だ満ち足りぬ その生き様ならば
 届きはしない あの高みへ
 奮い立つのならば、今
 膝を折るときは まだ早すぎるとぉ!
 
 輝け! THNDER STORM!!
 夜空が割れる 光、刃、輝き ああ地を裂く 
 吼えろ! THNDER STORM!!
 これが運命か 人よ、神さえ超えろ
 SPAKING! THNDER STORM!!

 間奏に入り、ネームレス・ミストがギターの早引きを披露した。なんだか、腕が何本もあるように見えるというか、瘴気の触手が複雑なコードを確実に押さえてみごとな演奏を繰り広げていった。
夜明け呼ぶ声 見送る背中
 星屑をまき散らし ああ彼方へ
 鮮やけし空 眩き世界 自分色に染め上げろ
 BLAZING! THNDER STORM!!
 
 SPAKING! THNDER STORM!!
 吹きすさぶ風 轟く雷鳴よ あぁ弾け飛べ
 BLAZING! THNDER STORM!!
 猛き嵐よ 光る速さで翔けろ
 FINAL THNDER STORM!!

 演奏が終わって、拍手と共におひねりがチャリンチャリンと飛んでくる。それを、ネームレス・ミストの瘴気の魔狼瘴気の猟犬たちがひょいひょいと拾い集めてくる。
「絶好調だよー。もっと稼ぐよ。あたしの歌を聴けえ!!」
 ノリノリで緋王輝夜がストリートライブの第二章の幕を上げた。