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学生たちの休日9

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学生たちの休日9
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「さあ、一休みしてお茶にしましょう」
 庭の手入れする手を休めると、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)に声をかけた。
 庭が眺め渡せるデッキにおかれたテーブルに、エース・ラグランツがお茶の用意をする。透明なガラスポットに積み立てのフレッシュミントの葉を入れ、熱いお湯を注ぐ。それを温めたカップに注いで回ると、爽やかな香りが三人をつつんだ。ケーキは、よく冷えたレアチーズケーキで、お手製のブルーベリーソースが彩りにかけられていた。
「いつものことだけれど、本当にエースの入れてくれたお茶は美味しいよね」
 ハーブティーを楽しみながら、リリア・オーランソートがニコニコ顔で言った。庭仕事の後のこのお茶があるから、花の手入れが二倍も三倍も楽しいと言える。でも、はたしてメシエ・ヒューヴェリアルも同じなのであろうか。
「ねえねえ。ふと思ったんだけれど、メシエとエースって、どうして契約したの?」
 唐突に興味を出して、リリア・オーランソートが二人に聞いた。
「また、突然変なことに興味を持つなあ、リリアは。まあ隠すことでもないからいいが」
 まあいいかと、エース・ラグランツが話し始めた。
「メシエと出会ったのは、タシガンの吸血鬼の貴族について調べていたときだ。そのときはいろいろと教えてくれたので、その後もずっと話し相手になってくれると嬉しいなと思ったんだが……。まあ、いろいろと条件があって……」
「対価を求めるのは当然です。エースにはタシガンの知識を、私には新鮮なエースの血を。実にシンプルなギブアンドテイクの関係です。そのためには、パートナー契約が一番だったのでそうしたまでのことですよ」
「というわけだ。なんだか、メシエは人間に対して愛想よくはなかったんで、そのまま別れたら二度と会ってくれそうにない雰囲気だったんでね」
 さらりと言うメシエ・ヒューヴェリアルに、エース・ラグランツがリリア・オーランソートにむかって苦笑して見せた。
「結構ドライだったんだね」
 変な関心の仕方をして、リリア・オーランソートが言った。
「では、リリアはどうしてエースと契約したのですか? 私としては、そちらの方が謎ですね」
「聞きたい?」
 訊ね返すメシエ・ヒューヴェリアルに、リリア・オーランソートが悪戯っぽく言った。
「もちろん。エースが花好きだったからと言うのはなんとなく分かりますが、花咲き乱れるティル・ナ・ノーグと比べたら、空京は殺伐とした不毛の地ではありませんか」
「そうかなあ。でも、ここには故郷にない花がたくさんあるから、お話しするととても楽しいんだよ。それで、いろいろなお花と話をしていたんだけど、そしたら、ここのお花たちが、この家の人がもの凄く花に優しいって教えてくれたんだよ。そしたら、もう嬉しくなっちゃって。それに、私がいた方が、エースももっとお花と仲良くなれると思ったんだもん」
「リリアが来てくれて、とっても楽しいよ。もちろん、メシエも」
「まあ、エースと契約しなかったら、空京なんて来ることも住むこともなかったからな」
 そういうメシエ・ヒューヴェリアルに、リリア・オーランソートがうなずいた。
 
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「ずいぶんと歩き回ったなあ」
 ちょっと疲れて、瀬乃和深と上守流は公園のベンチで休んでいた。
「瀬乃月琥の奴、戻ってこないつもりか。まったく」
 困ったものだと、ベンチに横に寝っ転がりながら瀬乃和深がぼやいた。もう、普通に座るのもかったるい。
「もう少し休んでから、考えましょう」
「ふあ〜あ、そんなところだな」
 そのままうとうととし始めた瀬乃和深が静かになる。
 いつの間にか瀬乃和深の頭を膝の上に載せた上守流は、平凡な幸せを感じながらそっと瀬乃和深の髪をなでた。
 
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「ううん、今何時……」
 ベッドの上で目を覚ました綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)が、無意識に時計を探して視線を横にむけた。隣では、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)がまだ静かに寝息をたてている。
 ちょっと、その横顔に見とれてから視線を動かすと、薄暗闇の中に時計が見えた。まだ四時のようだ。
 毛布を素肌の上で心地よく滑らせ、恋人を起こさないようにそっとベッドを抜け出す。
 遮光カーテンの隙間に手を差し入れて軽く開くと、オレンジ色の光が眩しく綾原さゆみの裸体を照らした。
 ――あれ? 早朝のはずなのに……。
 おかしいなとぼんやりと思いつつ時計をちゃんと見ると、すでに午後の四時だった。ずいぶんと寝過ごしたものだ。まあ、夏休みだからいいかあ……。
 結局、昨日はこのアパートに引っ越すのでずいぶんと身体を動かしたから、疲れたのかもしれない。もっとも、別の意味での運動もそれに拍車をかけたとは言えなくもないが。部屋の中には、また片づけきれない引っ越しの段ボール箱が山積みになっていた。秋からは、空京大学の教養学部で新たなスタートを切ることになるのだ。
 今日もまたこれを片づけるのかと、ちょっとげんなりしてベッドの端に腰かける。
「んっ……、おはよう、さゆみ……」
「もう、夕方だよ……んっ」
 そう言うと、綾原さゆみは、アデリーヌ・シャントルイユの上に覆い被さってキスをした。それに応えてから、アデリーヌ・シャントルイユがやんわりと綾原さゆみの身体を押しのける。
「だーめ。まずシャワーを浴びて、それから外に食事に行きましょう」
「えーっ、そんなことより……」
「ちゃんと食べなきゃダメですわ。することは、たくさんあるし、時間もまだたっぷりとあるんですから」
 そう言うと、アデリーヌ・シャントルイユが綾原さゆみの手を引いてバスルームへと誘った。
 
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