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海辺のトコナッツランド【7】


 ゴンドラに二人の金髪の少女が座っている。
 佐野 ルーシェリアと佐野 悠里。
 年の頃はそれ程違って見えないが、二人は親子だった。
 普通ならば違和感を覚える見た目の原因はルーシェリアが童顔というのもあるが、悠里が未来からきた未来人であるという理由からだった。


「……止まってしまったみたいですねぇ」
「そうみたい……」
 心配なのかもじもじと指を動かす悠里に気づいて、ルーシェリアは彼女らしくも、母親らしく極力落ち着いた声を出そうと努める。
「しばらくすると動くと思うですから、ゆっくり待つですぅ」
 こくんと頷いた娘から、続く言葉が無いのを確認すると、ルーシェリアは窓の外を見ながら言った。
「ここだと誰も聞いてないですから聞くですが……
 悠里ちゃんのお父さん、私の旦那さんですよね?」
 ドキリと心臓が跳ね上がった音が、聞こえてくるようだった。
「え?
 そ、それは……」
 誤魔化そうとしたところでそんな調子では逆に認めているのと同じなのに。
 笑ってしまいそうになるが、ここは真剣に。
 目を見てしまってはそれ以上に緊張させてしまうから、遠くを見たまま慎重に。
「悠里ちゃんが旦那さんを見る目、どこか他人さんを見る目じゃなかったですしねぇ?」
「実はとっくにばれてたということですか……さすがお母さんです」
「でも悠里ちゃんが隠してたのにもきっと理由があるですし、他の人には黙っておくですよ」
 やっと観念した悠里を、ルーシェリアは笑顔で見つめた。
「……あ、観覧車動いたですね」
 気恥かしいのか誤魔化す様に言った言葉に、
「もう少しの時間ですが、めいいっぱい楽しむですよぉ」
 とルーシェリアは微笑んだ。





 ゴンドラの中で見つめ合う瀬乃 和深とセドナ・アウレーリエ。
 普段はこんなんじゃなかったのに。
 と二人は思っていた。

 和深とセドナ、二人きりで過ごす遊園地は食べたり飲んだり乗ったり歩いたり兎に角終止テンションが高かった。
 ただ最終的に観覧車に乗ったところでセドナの気分が少し落ち着いたのか、窓の外を眺めていてアンニュイな気分になったのか。
 セドナはふと今までのことを思い返したのだ。
 いつも何だかんだと言いながらも、自分のわがままに付き合ってくれる和深。
 今日も付き合ってくれて、あちこち引っ張りまわしても、文句も言わず一緒に楽しんでくれた。
――やはり我は和深とずっと一緒に……。

 そして突然、セドナは彼を見つめた。
 その瞳は強気ないつものものと少し違い、どこか艶っぽい……女をたたえた表情だった。
――あれ? なにこの空気?
 不思議そうに見つめ返してくる和深に、意を決した様にセドナは言う。
「なぁ、和深。我はな……」

 その瞬間。
 グッドと言っていいのかバッドと言っていいのか、分からない絶妙なタイミングで彼女は現れた。
「幼女の平和は私が守る!!」
 ヒーローの決め台詞の如く、きっぱりと言ったのはシアン・日ヶ澄(しあん・ひがずみ)
 窓ガラスを突き破ってのご登場だった。
「いろいろツッコミたいけど、とりあえずどうして突然乱入してきた」
 言葉の取捨択一が面倒になり、一番に必要な疑問だけを投げてきた和深に、シアンはアッサリと言った。
「いえ、セドナ様となにやらよからぬ雰囲気になる気配がしたので」
 和深は溜息をついている。
 だが、シアンからすれば溜息をつきたいのは自分の方だった。
「せっかくの幼女と二人きりのチャンス、私ならアダルト表現も辞さない行為をする自信があります。
 しかし、私は良い大人なのでそんなことはしないと主張しますが」
「何をバカなことを言ってるんだよ、俺はお子様体型に興味は無いぜ」

 ぽろり。
 と口から零れた言葉だった。何となく、ぽろりと出ただけ。
 それでもセドナを怒りで染め上げるには十二分だったのだ。

「お子様で悪かったなー!」
 振り上げられる光条兵器。
「お前こんなところで暴れるな―!」
 と和深が言い終わる前に、セドナの攻撃が彼に襲い掛かっていた。





 突如、光条兵器の強い閃光が走ったかと思うと、観覧車はゆっくりと動き始めた。
「何だか分からんが今のがきっかけになったみたいだな」
 ふむふむと頷いているアリサに、ジゼルは自動で動いていものの、備え付けられている遥か下のコンソールボックスを見ていた。
――またあの猫だわ。どうして皆には余り見えていないのかしら……。
 ぼんやりと見つめたままでいると、手に柔らかい感触があったことにやっと気付く。 
「ジゼルちゃん、何だかぼんやりしていましたけど……大丈夫ですか?」
「へ? あ、ごめん加夜。なぁに?」
「学校の話をしてたんですよ。
 ジゼルちゃんは学校……それに一人暮らしは慣れましたか?」
 隣から覗き込むような加夜の優しい視線に、ジゼルは頷いて笑顔を見せる。
「何かあればいつでも相談に乗りますよ。
大切なお友達ですから」
「大丈夫よー毎日楽しいし、面白い事の連続だし……」
 言いながらコンソールボックスへ視線を戻すと、蒼い猫が手を振っているのが見えて思わず吹き出しそうになる。
 ジゼルは思った。

 あの猫の不思議な悪戯で、この遊園地に居る人達皆が私の様にこんな温かい気持ちになっているんだろうか。

 けれども手に伝わる温もりは、それだけじゃないと告げていた。
 そう、ある人には恋人
 ある人には仲間
 ある人には家族、
 そして自分にも

「大切な友達が居てくれるから、ね」