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リアクション
ヴォルフは森の中を、契約者達と共に進んでいた。
目的地である塔の場所は、ファーターから聞き出している。けれど、ファーターさえも自ら塔を訪れたことは数回しか無いらしく、おまけにそこは目印もない深い森の奥。整備された道など有るわけも無く、コンパスひとつを頼りに進むしか無い。
依頼を受けた契約者たちのうち、特に森の中での活動を得意とする者が先行して、魔物の有無の確認や、道を切り開き、踏み固めしているとはいえ、進む速度は遅い。今のところ辛うじて獣道らしきものがあるけれど、どんどん道は険しくなってきている。
「そうだ、ねえヴォルフ、クロノの写真って持ってきてくれた?」
そんな中、契約者の一人ルカルカ・ルー(るかるか・るー)がヴォルフの隣にやってきた。
「ああ……そういえば」
ルカルカの言葉で思い出した、という感じで、ヴォルフは懐から一枚の写真を取り出した。
写っているのは二人の少年だった。一人はヴォルフで、もう一人がクロノだろう。黒い瞳に耳が隠れるくらいまで伸ばした黒い髪。ポロシャツの様な、襟のある服を着ている。
しかし、写真に写っているヴォルフは、目の前に居る彼よりも少し幼い。茶色い髪も今よりだいぶ短く、表情もあどけない。
「写真なんてあまり撮ったことがないから、昔のしか無かったんだ、すまない。でも、今もクロノの見た目はほとんどこのままだ。ちょっと身長が伸びたくらいで――」
そうルカルカに向かって言ってから、ヴォルフは少し懐かしむような顔をして写真をじっと見る。
きっと彼にとっては大切なものなのだろう、そう思ったルカルカは、拝借することはせずに携帯のカメラ機能で撮影だけさせてもらうと、同じ依頼を受けている契約者へと一斉に送信する。
「これでみんな、クロノの顔がわかるわ」
「そういえばそうだな……全然考えていなかった」
ぱちん、と携帯を閉じたルカルカに、ヴォルフは感心したような眼差しを向ける。クロノを助けてくれと依頼を出したは良いが、肝心のクロノの人相が伝わっていなければ意味が無い。
「あ、あの、ヴォルフさん……」
と、ヴォルフの背後から不意に声を掛けてきたのはネーブル・スノーレイン(ねーぶる・すのーれいん)だ。
「何だ?」
「その……ヴォルフさんが出会ったっていう……ジョーカーって人について……詳しく教えてもらえませんか?」
ネーブルは細い声で途切れがちに問いかける。するとヴォルフは、うん、と少し考え込んだ。
「一度俺の前に姿を現して以来、何の音沙汰も無いんだ。見た目がピエロみたいで仮面を被っていた、ってくらいしか、教えられることはないな」
色々考えても、伝えられそうな情報はそれくらいだったのだろう、ヴォルフはすまなそうにひょいと肩を上げて見せた。
「そうですか……黒の商人さんのこと……ジョーカーさんに聞いてみたいんですが……」
「そういえば、俺がジョーカーの奴に会ったのは丁度この辺だったはずだ。うろついていれば、会えるかもしれないな」
俺にはそれくらいしか解らない、というヴォルフに、ネーブルはぺこりと頭を下げた。
「じゃあ……私はこの辺を少し、探してみます……ありがとうございます」
「そういうことなら、私も同行しますぅ。私もジョーカーさんからお話、聞きたかったんですよねぇ」
「俺もだ。ジョーカーの事は気になっている」
一行から離れるネーブルに、佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)と紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の二人が続き、ネーブルのパートナーであるバステト・ブバスティス(ばすてと・ぶばすてぃす)を含めた四人が、ジョーカーと接触するためにその場に残った。
四人を残した一行は、変わらずに森を切り開きながら進んでいく。
先頭を行くのは辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)だ。道を切り開くというよりは木から木を渡り歩くようにして、周囲の状況を偵察している。また、刹那から少し離れた所では源 鉄心(みなもと・てっしん)が放った斥候達もまた偵察を行っていた。
一々道を踏み固めたりはしないので、刹那達はヴォルフ達本隊よりも遙かに速い速度で進んでいる。先ほどまで辛うじてその形跡があった獣道ももう、すっかり無くなってしまった。そして、獣道が途切れ始めた辺りから、急に魔物の数が増えはじめていた。
「なるほど、動物たちも近づきたく無いということかのぅ」
刹那は魔物達に見つからないよう身を潜めながら進む。ここまでも魔物が全く居無かった訳では無いが、しびれ粉を撒いたり、毒虫の群れをけしかけたりして散らしてこられた。しかし、これだけの数がいては小手先の技で誤魔化して進むことは難しいだろう。
少しでも魔物の少ないルートを探して皆を案内しなければ、と刹那は魔物の少ない方へ少ない方へと進路を取る。
一時は商人側に荷担した刹那だが、依頼さえ有れば誰にでも付くし、プロとして仕事はキッチリこなす。以前、刹那が商人に協力したことを知っている契約者からは胡散臭そうな顔をされたが、刹那自身は微塵も気にしていない。安全な進路を確保することが、今の刹那の仕事だ。
けれど、魔物の群れを避けるように進んでいくうちに、塔に背を向けて進む形になってしまった。これでは塔から遠ざかるばかりだ。
どうやら、魔物たちは塔を取り囲むように生息しているらしい。
刹那は舌打ち一つして、来た道を引き返し始める。魔物の群れを回避することは、どうやら不可能なようだった。
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