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リアクション
閉会式が行われるまでの待機時間。
「あーあ、第一陣は全部倒されちゃったか。まあ、そのくらいじゃなきゃ面白くないんだけどさ」
トーナメント会場で行われている事後処理の様子を眺め、『彼』は呟いた。
「それじゃ、ここいらでボクも挨拶しに行くとするか」
「……まさか、襲撃者が現れるなんて」
パワードスーツはパラミタ、地球双方において未確認の型。少なくとも、会場で敵の分析をしていた平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)が知る限りではそうだった。
「こっちでもそうだったんですね」
「彼女」に声を掛けてきたのは、ミーシャ。そう、レオは予選会から今日まで女装して、他校の契約者として振る舞っていたのだ。
元々女性的な顔立ちなこともあり、違和感はない。
「こっちでも?」
「イコン戦の決勝でも、同じようにパワードスーツがやってきたんです」
イコンの会場とは若干離れている。全体へのアナウンスがないため、レオはここで初めて知ることになった。
「僕と姉さんは、試合直後だったこともあって、迎撃には行けませんでしたが……」
そこまで口にしたところで、ミーシャがはっとした。
「あれ、姉さん?」
彼の姉、サーシャの姿がない。レオも周囲を見渡し、探す。
すると、
「!! いた」
ミーシャが姉の姿を発見。
しかし、彼女は一人ではなかった。
(あれは誰だ? プログラム参加者の中にはいなかった気がするけど……)
彼女と対峙しているのは、金髪碧眼の少年。まだ夏も終わっていないというのに、黒い薄手のトレンチコートを羽織っている。
「姉さんが危ない!」
ミーシャが加速し、二人の元へと駆け出す。わずかに遅れ、レオも追った。
「おおっと、いきなり飛び掛かってくるなんて大胆だなあ、お姉さん」
「……あなた、危険。始末する」
サーシャが敵を見据え、限界まで体感時間を加速させた。
「ああ、『出来損ない』か。熱烈なアプローチは歓迎だけど、生憎年上は好みじゃないんだ」
少年は焦ることもなく、両手にダガーを握る。
「……え?」
一瞬だった。
自分の両手首が腕から離れて宙を舞っている。50倍。それが、今のサーシャが上げた体感速度だ。それをもってしても、少年の動きが見えなかった。
「遅いよ、お姉さん」
バランスを崩し、サーシャが倒れる。
「姉さん!」
そこに、弟のミーシャが駆けつけてきた。
「……ミーシャ……逃げ……」
「よくも姉さんを!!」
冷静さを失った彼が、少年に向かって力を振るう。
カタクリズム。彼の怒りによって溢れ出した念力の奔流が、少年を飲み込もうとしている。
「ひゅー、美しい兄弟愛だね。でも」
敵が腕を振るうと、それがかき消される。
「ボクたちに超能力は通用しない。
さ、終わりにしようか」
ミーシャに向かって、少年がダガーを振るった。
「……まったく、穏やかじゃないね、みんな」
そこに、レオは割って入った。正直、敵のダガーを受け止められたのは奇跡だ。それほどまでに少年の斬撃速度は速かった。
「お、また女の子。
……女の子?」
少年が首を傾げる。注意が一瞬それた隙に、レオはミーシャに目配せした。
(今のうちに、お姉さんを連れて逃げて!)
ミーシャが頷き、サーシャを抱えて離れていく。
「あ、逃げられた。まあ、いいや」
少年と目が合う。
逃がすまではいいが、彼とまともに戦って勝てるビジョンが見えない。
「一つ、聞いていい? あなたは……何者? 何が目的?」
女装した姿に合わせた口調で問う。
「二つになってるよ、お姉さん。いや、もしかしたらお兄さん? どっちでもいいか。
ボクはコード:アンリミテッド。まあアンリとでも呼んでくれ。んで、目的は……」
微笑を浮かべ、答える。
「優秀な契約者がたくさん集まってるって聞いたから、遊びに来ただけさ」
ダガーの刃は、既にレオに迫っていた。かわそうとするものの避け切れず、肩口から鮮血が吹き出す。
「おーすごいすごい。普通なら今ので腕がなくなってたよ。優秀な契約者が集まっているっていうのは、本当なんだね」
少年が、純粋に楽しそうな声を上げる。
そこへ、新たな影が現れた。どこかで戦ったかのように、全身が傷だらけだ。
(あれは、ケビン・サザーランド?)
どうみても戦闘向きではない彼があのような有様な理由はただ一つ。彼が『C』であるからだ。
(保護するなら今だけど……)
目の前の少年がそれを許すとは思えない。
ケビン――の姿をした『C』がこちらに気づく。
「アンリ……様……」
その瞳は、少年に対し救いを求めているようだった。
だが、
「誰、キミ?」
無慈悲にも少年の凶刃が『C』を裂く。彼はケビンの姿をした同類のことを知らないようだ。
当然だ。コード:S^2が生まれるのは、もっと後の時代である。「今の」コード:アンリミテッドが彼を知るはずがない。
切り裂かれたコード:S^2の身体が再生する。
「へえ、身体を変化させることができるんだ。その力で自分の身体を再生できる、すごいねー。だったら」
続け様にダガーを振るう。
「どのくらいまでその力がもつのかな?」
少年――コード:アンリミテッドはレオには目もくれず、コード:S^2の切り刻み続ける。
手負いの状態で、それを止めることはできなかった。
「あそこだ」
消えたコード:S^2を追っていたせつな一行が、その姿を発見した。最初に気付いたのは、ダリルである。
途中でエッツェルを追うテレサ達とは分かれたため、今いる面子はせつな、ナナシ、ルカルカ、ダリル、茜の五人だ。
「……247回」
コード:S^2と対峙している金髪碧眼の少年が呟く。
「あの状態から、それだけ耐えるなんて大したものだよ。だけど、もう終わりみたいだね」
ルカルカたちの前で、コード:S^2の身体が崩れ落ちる。目の前の少年が、一人で『C』を始末したのだ。
「あいつは……。
ナナシ、どうしたの?」
ルカルカの傍らで、ナナシが目を見開いている。
「コード:アンリミテッド……!」
「知っているの、ナナシ?」
せつなが尋ねる。
「俺がいた時代に、皇帝の側近を務めている『C』だ。皇帝を除けば『C』の中で最強とまで言われている。俺の知るヤツよりも随分幼いが、あのコートとダガー……間違いない」
ナナシが口元を緩めた。
「だが、丁度いい。ここでヤツを――仕留める!」
「待って、ナナシ!」
ルカルカが制止しようとするも、ナナシは止まらなかった。
「ヒアーカムズニューチャレンジャー、ってところか。来なよ」
コード:アンリミテッドとナナシがすれ違う。
瞬間、ナナシの両腕が肩口から切断された。それだけでなく、背中も十字に斬られている。
しかし、血は流れない。傷口からは火花が飛び散っていた。
「へえ、生身の人間じゃなかったんだ。さっきのよくわかんないのといい、未来を変えるために送り込まれたロボットとかかい? 随分と映画染みてるね」
「俺は、そのために造られた……」
未来で造られ、この任務のために送られた機晶姫。それが彼の正体だ。
「せつな……未来を……」
ナナシの身体が爆散した。
「さて、次のチャレンジャーは誰かな?」
涼しい顔をしたまま、コード:アンリミテッドがせつなたちを見据える。
「ルカ」
「……目の前で友達が殺されてるのに、大人しくしてるわけにはいかないよ」
ルカルカは少年を睨めつけた。
「援護するよ」
茜も、スナイパーライフルを構える。
「へえ……。いいよ、まとめてかかってきなよ」