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第三章 ステマなんかじゃない

――スパ施設にある和室。そこは普段は温泉客の憩いの場や、宿泊の場として利用される畳張りの大きな部屋である。
 だが今現在『憩い』という文字とは完全にかけ離れた場となっていた。
 その場にいる者達は浴衣ではなく黒い喪服姿。置かれている物は風呂上がりの一杯ではなく棺桶やら菊の花やら。
 そして、小暮の遺影が飾られていた。

「――えー、それでは本日はこの場をお借りして、小暮秀幸氏を偲ぶ会を行いたいと思います」

 その場を取り仕切っていたのは喪服に身を包んだ武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)。この会場を用意したのは彼の【根回し】による物である。
 ちなみにガチで不謹慎になりかねないので葬儀屋には依頼していない。これらは全てテレビ局から借りてきたコントに使う代物である。
 そのせいかこの模様はカメラで撮影されている。何処に放送する気だこんなもん。

「何しろ突然の事で我々関係者一同も本当に驚きを隠せません……」
 牙竜が悲しみをこらえる表情を浮かべ、目元をぬぐう仕草を見せる。勿論カメラに向かってだ。だから誰がこんなもん観るんだ。何処だ、どの層に需要があるんだ。
「今回は同じ教導団の仲間である金元ななな氏に来て頂いています。今日は宜しくお願いします」
 牙竜に紹介されたなななが涙ぐんだ表情を浮かべる。さっきまでの空気は一体なんだったのだろうか。
「改めまして、本日小暮秀幸氏に信じられない事が起こりました。小暮氏と言えば『超勇者ななな物語!』で【超魔王コグレ】で皆様もお馴染みかと思います」
 おい待て今何さらっと言った。
「……が、個人的に俺はそれ以外を全く知らないので詳しい紹介はなななさんに任せたいと思います」
「……え? なななも良く知らないんだけど」
「え? いやだって『ななな物語』で共演してたでしょう? ってか同じ教導団だから知ってるんじゃ?」
「いやーその辺り管轄外だから。実際今回が初だし……」
 カメラに丸見えだが、そんな事全く気にもせずゴショゴショと小声で言いあう牙竜とななな。何気なく酷い事言っているがきっと気のせいなんかじゃない。
「……とにかく適当に一言頼みます」
 牙竜がなななに適当に振った。適当すぎるだろ司会者。
「うん……えー……小暮君は我々の大切な友達です」
 ななながカメラにハンカチで目元を押さえつつ言った。どの面下げて言うか。
「その小暮君をこんな目に合せた犯人をなななは許しません! きっとこの事件、解決してみせます!」
「ありがとうございました……そう言えばなななさん、最近『超勇者ななな物語?』が発表されてこちらでも小暮氏と共演しているとか?」
「そうなんだよ。詳しい事は言えないけどここだけの話、今回は小暮君だけじゃなくてね――」
 何やら話が盛り上がりだしたが、とりあえず言っておく。ステマじゃありません。

――そんなことが繰り広げられている部屋の外。
「……いいのでしょうか、こんなことして」
 ボニーが偲ぶ会会場と化している和室の扉を眺めて呟いた。
「いや、いいわけないと思うよ」
 アゾートが至極真っ当な意見を言った。そりゃいいわけない。今のご時世色々とうるさいのです。あくまでネタ、という事を前面に押し出していても。
「……騒がしいけど、何かあったのか?」
 そんな二人に声をかけてきたのは、当の小暮秀幸本人であった。
「あれ、動いて大丈夫なの?」
「まあ少しは楽になったよ……ああ、ひどい目に遭った」
 まだダメージが残っているのか、少しふらついた様子である。
「す、すみませんうちの施設で……」
「ああいや、強引な手を使った自分も悪いから」
 謝るボニーに笑みを浮かべて小暮が言う。
「……ところで、みんな一体何をしているんだ? 何か賑やかだけど」
 小暮が和室の扉を見て言うが、
「何でもないよ」
「何でもありませんよ」
アゾートとボニーが即座に口を揃えて言う。
「それよりもうちょっと休んでいた方がいいと思うよ?」
「そうですね、まだふらついているみたいですし」
「はぁ……それじゃそうさせてもらうよ」
 二人に押し切られるように言われ、首を傾げながらも小暮は戻っていった。
「……知らない方がいいよね」
「ええ……知らない方がいいですよね」
 小暮が居なくなったことを確認してアゾートとボニーが呟く。
 そりゃ知らない方がいいだろう。扉の向こうで、自分の告別式が行われているだなんて。
「……もし知ったらどういう事になったでしょうかね?」
 ぽつりと漏らしたボニーの一言に、彼女とアゾートの脳裏に、もしもの光景がよぎる。

――自分の遺影やら告別式が行われている状況に驚く小暮。
「これは一体どういうこと!?」と問い詰めても参加者たちの反応は無し。
「え? 何? これ何? ねえこれホント何?」と尚も問うが、ガン無視し続ける参加者。

「「……ちょっと見たかったかも」」
 その光景に、アゾートとボニーが小さく呟いた。