波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

シナリオ一本分探偵

リアクション公開中!

シナリオ一本分探偵

リアクション

「さて、ワシの番か……まぁ何人かいきなりデッドリストとやらに入ってしまったようだが、まずは落ちついてほしい」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が皆の前に立ち静かに語る。
「死人が出ているのに落ち着いていられるわけがないと思うんだけど……」
 げんなりとするアゾートになななが超イイ笑顔で肩に手を置いた。
「大丈夫、コメディだから次には復活しているから!」
「だからコメディって何の話なのさ!」
「落ちつけと言っているだろうが……いや、ある意味落ちついているのか?」
 そんな二人を見てオリバー・ホフマン(おりばー・ほふまん)が呟いた。
「少し騒がしいようだがまあいい、ワシの推理を話そうか……この事件、不可解な事がある」
「不可解な事?」
 オリバーの言葉に甚五郎が頷く。
「皆も知っていると思うが、小暮と言うのは誰もが認める確率男だ。何事も確率を打ち出し、その結果で判断する……その日の天気すらもな」
「いやそれ普通じゃない?」
「そんな確率男がドアの立てつけが悪い事に対して確率、結果を計算せず、強引に突破するだなんてありえるだろうか……? 否、あるわけがないッ!」
 机があったら拳を叩きつけるような気迫で甚五郎が吼える。ちなみにツッコミを無視されたアゾートは横でいじけて「いいんだいいんだ」と地面にのの字を人差し指で書いていた。
「そこでワシはこう思うわけだ……奴は小暮ではないッ!」
「「「な、何だってぇ―!?」」」
 甚五郎の言葉に、皆(一部ツッコミを除く)立ち上がって叫ぶ。
「で、でも小暮君は実在するよ!? どういうことなの!?」
「確かにそうだ。正確には奴は小暮であって、小暮ではない……というべきなのかもしれん」
 なななの疑問に甚五郎は腕を組みながら答える。どういうことなのか、となななが首を傾げる。
「つまり、だ……奴は別世界の小暮――超魔王コグレだったんだよ!」
「「「な、何だってぇ―!?」」」
 本日もう何度目かわからない、このリアクションがまたもや起きた。多分後何度も出てくる。
「動機は金元少尉がこちらではただの少尉故、勝てると踏んでの侵略か……もしくは出番欲しさに違いないッ!」
 甚五郎が拳を握り締めて力説する。その姿からは己の説に絶対の自信を持っている事が窺える。
 ちなみにアゾートとボニーは『さっきから出てる『超魔王』って何?』と疑問符を浮かべていた。その辺り知りたい人は調べてほしい。ちなみにステマではない。
「……なぁ、甚五郎よ」
 興奮気味に鼻息を荒くする甚五郎の肩をオリバーが叩く。
「力説しているところ悪いがよ、そろそろ帰らねぇか? オイラ腹減っちまってよ……さっきホリイがパインサラダ作ったから帰ってこいって連絡あったから余計にな」
 空腹に鳴る腹を押さえつつオリバーが言った。ホリイとはホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)の事である。今日はどうやら留守番であるようだ。
「む、そうか……そう言われるとワシも腹が減ったな。推理も終わったことだし、帰るとするか」
 そう言うと先程の熱は何処へやら、一気に冷静になった甚五郎はオリバーと一緒に部屋の入口へと足を向ける。
「それじゃワシらは先へ帰るが、さっきの推理を元に奴を調べてみるといいぞ」
 そう言って甚五郎達は部屋を出て行った――直後であった。

「「ぬわーーーーっ!」」

 野太い二人の男の悲鳴のような物が聞こえた。
「な、何今の声!?」
「行ってみよう!」
 その声を聞き、皆が部屋を飛び出し駆け付ける。
「な……!」
 そこに居た――否、『あった』のは甚五郎とオリバーであった物だ。ほんの数十秒前までは。
「む、むごい……」
 その姿を見た者は皆口元を押さえ顔をそむける。吐き気、ではなく吹き出しそうになるのを押さえて。
 甚五郎とオリバーはどうなっていたかという詳細は控えておく。一つだけ言っておくと、尻に何か太い物を刺されていた。
 こういうミステリーで途中で帰宅する、という行為が死亡フラグになる事を知っていたかどうかは不明であるが、結果がこうだ。そしてグロを避けた結果がこれだ。
「……も、もう我慢できん!」
 尻に太い棒状の何かが刺された甚五郎達の姿を見て、イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が叫ぶ。
「こんな恐ろしい所に居られるか! 我は帰るぞ!」
 鉄板の死亡フラグが立った。
「……そうでありますな、こんな恐ろしい所にこれ以上いるのは御免であります」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)もうんうんと頷く。
「そ、そんな! 危険だよ!」
 なななが慌てた様に吹雪たちを止める。
 吹雪達は実は描写こそされていないが、推理が始まった最初から居て、次々とデッドリスト入りする様を見ていた。その恐怖に耐えていたが、流石に尻に棒を刺されちゃ耐えられなくなったのであろう。
「止めないで欲しいであります。自分も教導団の人間でありますが、命を惜しむ一人の人間でもあります……このようなところ、これ以上いられないであります」
 止めるなななの目を直視できないのか、吹雪が目をそらす。
「そうだ! 我も命が惜しい! 人間だからな!」
 ぷんすか怒ったようにイングラハムが手、というか触手を上げる。てかお前人間じゃねーだろ蛸。
「……無事帰る事ができたら、真面目に教導団の仕事をするのもわるくないであります……」
 どこか遠くを見るような目で吹雪が呟く。直後、履いていたスニーカーの靴ひもが切れた。
「おっと、靴ひもが切れたであります」
「何時までも古い物を履いているからだ。これを機に新しい物を買うがいい」
「そうでありますな……無事帰ったら、自分新しい靴を買うでありますよ……」
 吹雪がまた遠い目をする。いやだから死亡フラグ立てるなっつーの。

――その時、周囲の明かりが消えた。

「ま、またこのパターン!?」
「電気電気!」
 暗くなった闇の中で皆が慌てふためく中、すぐに明かりが灯る。そして、
「た、蛸ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
吹雪の悲鳴が響き渡る。

――イングラハムは煮えていた。寸胴鍋が何時の間にやら置かれ、沸騰した湯の中で文字通り茹蛸になっていた。

「あ、あの短時間でここまで調理するなんて……!」
 なななが口元を押さえる。そしてぐぅ、と腹を鳴らす。
「……なななさん、よだれが」
「おっと」
 ボニーに指摘されて慌ててなななが口元を拭った。
「蛸、貴様の死は無駄にしないであります」
 そして吹雪はナイフとフォークを構えていた。兵士の必需品である。いや食うなよポータラカ人を。
「……ん? 何の音でしょうかね?」
 ボニーの耳になにやらドドドドド、という地響きのような音が入る。その音は段々とこちらへと近づいてきているようであった。
「な、何者!?」
 その音のする方を向いたアゾートの目に、全身黒タイツの何者かが駆けてくる姿が映った。黒タイツは巨大な何か――丸太の様な棒を抱えていた。
「こ、こっち来るよ!」
 一直線に向かってくる黒タイツに、アゾート達は横へ避ける。ただ一人、吹雪だけが鍋に夢中になっていた為気付くのが遅れた。
「ん? 何事でありますぐふぁッ!?」
 丸太が吹雪の背中に刺さる様に衝突する。巨大な丸太にたまらず吹き飛ばされる吹雪。
 そのまま顔面スライディングして、うつぶせになったまま吹雪はピクリとも動かなくなった。
 黒タイツはその吹雪の背に、丸太を立てると満足げに頷いて走り去っていった。
「な、何あれ……」
「な、何なんですかあれ……」
 唖然とした様子でアゾートとボニーが呟く。
「何って……あれだけ死亡フラグ立てたら仕方ないよ」
 ただ一人、なななだけが困ったように笑った。
「死亡フラグの乱立は時にはフラグをへし折る事もあるけど、今回はそうはいかなかったみたいだねー……ほら」
 そう言ってなななは吹雪を指さした。
 背中に立った丸太の様な物は、先端に白い布がついていた。旗である。その布には『死亡』と書かれていた。
 旗が揺れるその横で、イングラハムは尚も煮えたぎっていた。

「んー遅いですねー二人とも」
 一方、自宅で甚五郎達の帰りを待つホリイが時計を見て呟いた。
「……それにしても、何でワタシパインサラダなんて作りたくなったんでしょうかね?」
 そして食卓に並ぶメニューを見て呟いた。パインサラダは最初、彼女の献立の中に入っていなかったのであるが、何故か無性に作りたくなったので急遽取り入れたのであった。
「まあいいですね、一品増えたわけですし――」
 その時、窓ガラスが割れ、黒一色のタイツを身に纏った何者かが飛び込んできた。
「え!? 何ですか……って何!? 巨大なG!? い、いやあああああああこっちこないでぇぇぇぇぇぇ!」
 ホリイの悲鳴が響き渡った。

――自宅にいるからと言って、助かるとは限らないのである。どこぞの孫の事件簿だとそうだった。

――デッドリスト入り、現在9名