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リアクション
【二章】長坂の戦い 後
甘夫人を救出した趙雲は、再び曹操軍の中に単騎向かおうとする。阿斗と糜夫人を助け出すために。
「お手伝いします! 羽純くん、行こう!」
遠野 歌菜(とおの・かな)と月崎 羽純(つきざき・はすみ)がその後を追う。
「かたじけない!」
趙雲は全速力で騎馬を走らせると、曹操軍の只中へと飛び込んでいった。
「やあっ!」
歌菜は大空と深海の槍を振るい、立ち塞がる曹操軍の兵達を薙ぎ払う。
「熱くなりすぎだ、歌菜」
歌菜の側面に回りこんだ敵兵を羽純の槍が貫いた。
「ありがとう、羽純くん!」
「右側は任せろ。このまま突っ切るぞ!」
二人は趙雲の前に並んで騎馬を走らせると次々と敵兵を倒し、道を作る。
暫く進むと、敵兵に捕らわれている女性の姿が目に入った。趙雲が叫ぶ。
「糜夫人!!」
趙雲は糜夫人を取り囲む兵達へ怯むことなく突撃し、夫人を救い出す。夫人は全身に酷い怪我を負っており、その腕には阿斗を抱いていた。
夫人は、傷だらけの自分などただの足手まといにしかならない、と唯それだけを言うと、阿斗を趙雲に預け、傍にあった井戸へとその身を投げた。
趙雲が井戸に駆け寄り中を覗き込む。そしてすぐに、悪態と共に井戸の淵を力一杯殴りつけた。
「糜夫人……」
歌菜は唇をかみ締め、溢れそうになる涙を堪えていた。
その肩に、そっと手が置かれる。
「女性はこんな時、本当に強いと思うな。夫人を助けたかった気持ちは分かるが……過去の歴史に乱入している俺達には、どうすることもできない。とにかく、阿斗だけは必ず劉備の元へ送り届けるぞ」
「……うん」
羽純の励ましに、歌菜は涙を拭うと顔を上げ、片腕に阿斗を抱いて駆け出した趙雲の後を追う。
「必ず、阿斗くんは劉備さんの所へ連れて行く。そして夫人の最期がどんなに立派だったか伝えて……絶対に勝って下さいって言うよ」
「ああ、そうだな」
二人は趙雲と阿斗を無事帰還させるべく、槍を手に奮戦する。
趙雲は片腕で阿斗を庇いながら戦っているため、先程までよりも動きが鈍っていた。
更に、劉備を追っていた兵の一部が趙雲を止めるために引き返して来ている。歌菜らの護衛があるものの、段々と増えていく敵兵に趙雲が焦りを感じ始めたときだった。
「西涼の騎馬達よ! 狼となりて奸賊の軍を噛み千切れ!」
馬 超(ば・ちょう)が、趙雲を追って伸びきった曹操軍の側面へと突撃した。突然の襲撃に対応できなかった曹操軍の兵達が、次々と斬り捨てられる。
更に馬超の後から2mを超える巨体が現れる。
「わが名は蒼空学園……いや、旅の武芸者ハーティオン! 故あって、助太刀いたす!」
コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は曹操軍の騎兵達へ接近し、勇心剣を振るう。その頭上にはラブ・リトル(らぶ・りとる)の姿もあった。
「はろはろ〜ん♪ 蒼空学園のアイドルのラブちゃんよ〜♪ あたしの歌を聞いて皆ひれ伏せーって、ちょっとハーティオン! あんまり暴れないでよ!落ちちゃうじゃないの!!」
そう言って慌ててハーティオンの頭にしがみ付く。
馬超とハーティオンは曹操軍の中を駆け抜け、兵士達を倒していく。
そして敵兵の群れから抜け出し、そのまま逃走すると見せかけて、踵を返すと再び突撃した。
敵兵を切り伏せながら、馬超が叫ぶ。
「曹操よ! この『劉』の旗こそ我らが誇り! 貴様に抗う者達の魂よ!」
そう言って手に持った矛を高々と掲げる。矛に結ばれた旗には、綺麗な刺繍と共に『劉』の一文字が書かれていた。
それを見て憤る曹操軍の兵達。怒りのあまりがむしゃらに武器を振るう彼らは、しかし馬超の冷静な一撃に次々と倒されていった。
「巡る〜季節〜♪ っとと、あたしは〜妖精〜♪」
ラブはハーティオンの頭の上でうまくバランスを取りつつ歌っていた。その歌声を聴いた兵士の中には、動きの鈍る者や、完全に戦う意思を無くす者もいた。
戦う意思の無い者は放っておき、攻撃を仕掛けてくる兵のみを次々と倒していく。
ハーティオンの勇心剣が二人の兵を切り捨て、馬超の屈盧之矛が騎馬を貫く。騎馬に乗っていた兵士は宙に投げ出され、地面に叩きつけられた。
彼らが敵兵を引き付けている間に、趙雲は歌菜達と共に劉備の元を目指し駆ける。
二度の突撃を終えたハーティオン達は、三度目の突撃をすると見せかけてそのまま趙雲に合流した。
「此度の援軍、感謝致す! 名をお聞かせ願いたい!」
「訳あって今は名乗れぬ。非礼は承知ではあるが、いずれまたお会いすることもあろう。その時になれば改めて名乗らせて頂く」
彼らの前方に、劉備軍の旗を掲げた一団が見えてくる。殿にいる張飛が趙雲に気付き、騎馬の速度を落とす。
それを見た馬超は趙雲から離れ、その場を離脱する。
「劉備軍に栄光あれ!」
最後にそう叫ぶと、馬超はハーティオンらと共に戦場を後にするのだった。
張飛と合流する趙雲に、追っ手が迫る。
「趙雲さんはやらせないです!」
張飛に併走していた佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)が間に割り込み、両手に持った剣で追っ手へと切りかかる。
そして追っ手を趙雲から引き離すと、二つの剣を構え、高らかと宣言した。
「あなた達の相手は私がやるです。さぁ、かかってくるといいです!」
剣を構えるルーシェリアの隣に、アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)が並び立つ。
「領民たちを巻き込む戦いは何度も見てきましたが……ここまで酷いものは久々ですね」
張飛と共に殿を務めていたセイバー達は、曹操軍に殺される領民の姿を何度も目にしていた。領民の中には劉備を慕い、少しでも彼の力になろうと曹操軍へ突撃し、殺される者もいた。
だが大抵の者は武器すら持っていない、無抵抗な人間である。それを曹操軍の兵達は、敵軍の領民というだけで次々と斬り捨てていったのだ。
セイバーは剣の柄を握り締める。
「これ以上、罪も無い人々を傷つけさせはしません!」
セイバーは曹操軍の騎兵へと突撃する。レジェンダリーソードが一閃され、騎馬諸共乗っていた兵士がその場に崩れ落ちた。
「やっぱり馬に乗ってたら戦いづらいです!」
そう言ってルーシェリアは騎馬から降りると、両手に持った剣を振り回す。
曹操軍の兵達は槍や矛で応戦していた。
その時、数人の追っ手がルーシェリア達を無視し、趙雲を追いかけようと馬を走らせる。
それに気付いたセイバーはルーシェリアに耳打ちすると、声を張り上げた。
「曹操軍の力はこんなものか!? 選りすぐりの騎兵と聞いたが、大したことはないようだな!」
「曹操軍も意外と弱っちいのです」
追い討ちをかける様にルーシェリアが呟くと、それを聞いた曹操軍の兵士達は躍起になって彼女らを狙い始める。
どうやら、敵の目を引き付ける作戦は成功したらしい。
ルーシェリア達が追っ手を引き付けている間に、趙雲は殿軍を抜け劉備の元へと向かっていた。
それを見た鵜飼 衛(うかい・まもる)が遥か後方にいるルーシェリア達へと声を張り上げる。
「囮は十分じゃろう。後はわしらに任せて、おぬしらも先へ行けぃ! もうすぐ長坂橋じゃ!」
ルーシェリア達は前方へと目をやる。そこに人二人分ほどの幅の小さな橋を見つけると、二人は急ぎ騎馬に乗り、衛らの下へと全速力で駆けた。
「はてさて、いよいよ張飛の出番じゃな! その一騎当千ぶりを目に焼き付けておくとするかのう!」
衛は楽しそうな声を上げる。笑いながらも、ルーン魔術符をばら撒き追ってくる曹操軍の兵士らを次々と魔術で打ち倒していく。
魔術符に関しては一度張飛に疑問を投げかけられたが、仙人に習った術じゃ、と言って誤魔化していた。
衛の隣にはルドウィク・プリン著 『妖蛆の秘密』(るどうぃくぷりんちょ・ようしゅのひみつ)が、そして後ろにはメイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)も騎馬に乗り共に走っている。
「歴史上大丈夫じゃとは思うが、一応しっかり護衛しといたほうが良いかのう?」
そう尋ねつつ、2mを超える大剣・アロンダイトで敵兵を馬ごと真っ二つにするメイスン。
「旅行に来た生徒の中には曹操軍に入った方も居るようですし、何が起こるか分かりませんものね」
敵の騎馬に銃弾を撃ち込みつつ答える妖蛆。銃弾を受けた騎馬が倒れ、乗っていた兵士が地面に投げ出された。これで現在、自分達を追ってくる兵士はとりあえず居なくなった。
前を行く張飛が指示を叫んでいる。どうやら、騎兵達を走らせ砂塵を上げ、大軍が潜んでいるように見せるようだ。
「わしらもいくぞ!」
衛が馬を走らせ、張飛の部下の後を追う。そして砂塵を上げる手伝いをしつつ、一人長坂橋で仁王立ちしている張飛の様子を伺う。
「我こそは張益徳。いざ、ここにどちらが死するかを決しよう!!」
張飛は、騎馬の足音を掻き消すほどの大声で一喝。曹操軍の兵達は怯え、誰一人として進み出ようとはしない。
更には怯えて暴れだした馬に振り落とされる者まででる始末である。戦意を大きく失った曹操軍は撤退。それを見届けた張飛は長坂橋を切り落とすと、駆け回っていた部下達と共に劉備の元へと急ぐ。
衛は張飛へ馬を寄せると、話しかける。
「張飛殿、わし等はおぬしの部下ではないが、ここまで協力した。ついてはおぬしのサインが欲しいのじゃが、頂けるかのう?」
「さいん、とは一体何だ?」
「なあに、紙か何かにちょちょいと名前を書いてほしいのじゃ。あ、わしの連れの分も頼むのう、カッカッカッ!」
張飛はよく分からないといった顔だったが、名前を書くだけならまあ良いだろうと、頷いた。
この後、劉備軍は江陵行きを諦め、夏口へと逃亡。先回りしていた関羽・諸葛亮らの水軍と合流する。
曹操は劉備を追うことを諦めると江陵に向かい、これを占領した。
曹操はその勢いのまま、孫権のいる呉へと攻め入る。
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