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リアクション
第七章
中央層の奥から煙と火の手があがる。
通路やいくつもの部屋が建物を支えていた柱ごと大きく破壊され、一部は土砂に埋まってしまった。
多くのガードマンやスタッフが大急ぎで焼け焦げた臭い中で消火作業にあたる。
これは事故ではない。スタッフとして紛れ込んでいた工作員が、爆弾を作動させたのだった。
「何!? 爆弾じゃと!? くっ――仕方ない」
ファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)から爆発のことを知らされた辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)に、支配人の部屋へ援護に行くよう指示がでる。
「命拾いしたのぅ」
刹那はセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)達を睨みつけ、その場を後にした。
「何が秘密兵器があるからいいじゃ……」
不満を漏らしながら通路を駆ける刹那。
すると、小型飛空艇ヴォルケーノでミサイルをばら撒きつつ疾走する月美 芽美(つきみ・めいみ)と緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)の姿を捕えた。
飛んできた方向から、彼女達が支配人の部屋を襲撃してきたのは明らかだった。
「芽美ちゃん、新手です!」
「わかっているわよ!」
追いかけてくる刹那を振り切ろうとするが、部屋から盗んだ金銭が重い。
「芽美ちゃん、あれを!」
すると、陽子が廊下に並べられた彫像を指さす。
芽美はそこへミサイルを当てると、通り抜けた後の通路に彫像が倒れ込んだ。
刹那はそれを破壊するが、その一瞬隙をついて陽子が【クライオクラズム】が放つ。舞い上がる土煙で視界を遮られていた刹那は痛手を負い、追撃ができなくなった。
追手を切り抜けた二人は、多くの死体が散乱する奥で大型搬入用エレベーターを止めて待っていた緋柱 透乃(ひばしら・とうの)達と合流。共に地表へと脱出する。
下層エリア、少女監禁室。
「随分と上が騒がしいな……ま、俺らに関係ないか」
薄暗い室内で、男が目の前で震える少女にゆっくり近づく。少女の恐怖に怯え泣き叫ぶ顔は、彼らにとって最高の表情だった。これから壊していくのだと思うと、これ以上にない興奮を脅える。
そんな時、至福の時間をぶち壊しにして、締め切った扉が蹴り開けた者がいた。
「鑑定士?」
通路から逆光で顔を隠して鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が立っていた。その右手にはフェンリルの爪、左手には悪霊狩りの刀。
表情の見えない貴仁がクスリと笑う。
「いええ、違います。ただの正義の執行人ですよ」
貴仁は大きさの異なる二つの刀を、ゆっくりと振り上げた。
その頃、商品が置かれた一室では。
「品物を回収して脱出であります!」
「や、やっとか!」
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)と全身傷だらけのイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が商品を運び出す作業に入っていた。
袋や紐を使い体に巻きつけ、まさに全身を使って運び出そうとする。
「むむ、大量でありますな……」
それでも、持ちきれないほどに商品は大量だった。
すると――
「さて、お宝は……あ」
「おっ、今度は教導団の仲間でありますな!」
教導団に変装した四代目 二十面相(よんだいめ・にじゅうめんそう)がやってきた。二十面相は慌てて教導団のふりをする。
「え、はい! 盗品の押収作業にまいった、であります!」
「おお! では一緒に運び出すであります!」
「了解であります!」
成り行きで一緒に商品を運び出すことになった。嬉しそうに話しかけてくる吹雪に、なかなか逃げ出すことができず、 二十面相はそのまま仲良く、出口へと向かった。
「よし、今の内だ!」
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はスタッフが通路の向こうへと走って行ったのを見計らって、隠れていた部屋を仲間と共に飛び出した。
頭上のスプリンクラーから大量の水滴が降り注ぐ。爆発地点が近かったため、通路は焦げくさい。火の手がない分幾分ましだ。
エースは濡れないように上着をかぶせた鳥かごを覗きこむ。そこには守護鳥の雛の姿があった。
ストレスのためか、栄養不足なのか、鳴き声に元気はなく、衰弱しているようだった。
「もう少しだから頑張ってくれ。早く、安全な場所へ――」
「エース、来ましたよ!」
言うや否や、隣をメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)の放った炎が駆け抜け、武装して立ち塞がろうとした敵を呑み込んだ。
「ありがとう! 皆、急ぐよ!」
エースは一度振り返り、背後を追ってくる仲間に声をかけた。
騒ぎに乗じて様々な動きが見られたその頃。
オークション会場では爆弾の事が知らされ、犯人探しのために招待状の確認が行われていた。
「そろそろ限界か……」
佐野 和輝(さの・かずき)が横を見ると、工作員が青ざめた顔に大量の汗を流している。招待状を確認されればバレてしまうのだろう。
和輝は行動を起こすために、会場の生徒達とアイコンタクトをとる。
招待状を確認していたスタッフが工作員に近づいた、その時――
「全員伏せろ!!」
会場全体に和輝の声が響く。そして、テーブルを蹴り飛ばすのと同時に、ルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)によって会場を照らしていた明かりが消えた。
「ぎゃああああああ!?」
四方から聞こえてくる銃声と叫び声。
「邪魔だよ!」
城 紅月(じょう・こうげつ)は他の生徒と同じように暗闇の中で壁際の敵を次々と攻撃する。
「危ない、紅月!」
ふいに叫び声がしたかと思うと、紅月はシャルル・クルアーン(しゃるる・くるあーん)に押し倒された。
明かりが再びついた時、二人は巨大な柱の後ろに隠れていた。
シャルルの肩からは赤い血液が流れる。
「俺を庇って弾に当たったのかい?」
「傍にいるってこういうことだろ」
痛みを堪え笑顔を向けるシャルル。
「……そいか」
その姿に、紅月は優しく微笑むと、腕を流れる赤い滴に唇で触れた。
一瞬の暗闇の内に生徒達は会場の両サイドの敵を倒し、巨大な柱や彫像、舞台袖などに身を隠した。
ヴァジュラを構えたレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は飛び出して斬りかかろうとするが、激しい銃弾の嵐を前に攻撃を仕掛けられない。
「厳しいですねぇ」
「レティ、慎重に行動した方がいいわ」
「そうです。魔法が使用不能のこの状況。圧倒的に不利ですわ」
レティシアとミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が振り返る。
そこにはいつの間にか崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が立っていた。
「味方? でいいんですかねぇ?」
「ええ、もちろんですわ。こんな所でむざむざ死にたくありませんもの」
亜璃珠は先ほど倒した敵をヒールで踏みつけながら、会場の中央に視線を向ける。
多くは頭を抱えて伏せているが、すでに何名かの客は銃弾の犠牲になっていた。
「さすがに押し切るにはつらいかなぁ」
真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)は放った毒蜂を一端戻しながらつぶやく。
舞台袖に隠れた彼女からは会場全体が見渡せる。確かに生徒達は物陰に隠れて身の安全を確保することができたが、入り口は依然抑えられたまま。それどころか次々と増援が現れ、少しずつ弾幕が厚くなっている。
このままでは追い詰められる一方だ。
舞台袖にも出入り口があるのだが、今は押し寄せる敵を防ぐために想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)と想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)が入り口を物で固めてしまった。
「しばらくは耐えられるわよね」
「これからどうするの、瑠兎姉?」
「弱気なったらダメよ。ほら、有名な人が言ったじゃない。諦めたらそこで試合終了だと――」
「その通りだ!」
瑠兎子の背後でいきなりジャン・バール(じゃん・ばーる)が声を上げた。
「今は様子をみるんだ、それから奴らの隙をついて一気に仕掛ける」
ジャンがジェニー・バール(じぇにー・ばーる)を振り返る。
「いいな、ジェニー・バール。お前はわしが守ってやる。が、いつでも戦えるようにはしておけ!」
「言われなくても!」
ジェニーは白い歯を見せて笑うと、武器を掲げてみせた。
「そのチャンスが来るかも怪しいもんだがな」
「こらっ、羽純くん! そういうことは言わないの!」
遠野 歌菜(とおの・かな)が月崎 羽純(つきざき・はすみ)の頭を軽く叩く。
歌菜は必ず反撃の瞬間が来ることを信じていた。信じていたが、このままでは限りなく低く、難しいこともわかっていた。
どうしたらいいの……。
そんな時、増援に駆けつけた敵の中の一人と視線が合い、歌菜の表情に笑みが生まれる。
「羽純くん、大丈夫だよ。チャンスは絶対来るから」
信じる気持ちが確信へと変わった瞬間だ。
「おいっ、支配人を脱出させるように連絡いれろ!」
「オレ日雇いスタッフなのに、なんでこんな事やらされてんだよ!」
「うっせ、いいから仕事しろ! でねぇとケツの穴、広げんぞ!」
「くそっ、近づけねぇ! 近づいたらやられる。銃だ! 銃弾を浴びせろ!」
入り口を固めた兵やガードマンの間で様々言葉が飛び交っている。
そこに到着した笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)は、舞台の方を見つめ――歌菜と目があった。
「あ、ボク急いで増援呼んできまーす」
来た道を戻り始めようとする紅鵡。
ふと、兵士の間を抜けてくるクタクタのルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)を見つけた。
会場が大変なことになっていたその時。
「うぅ〜、何も見つかりませんわ。このままでは身長がお豆さんですわ」
イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は先ほどから関係ない物を見つけては、源 鉄心(みなもと・てっしん)に拳骨をもらっていた。
何が何でもアーベントインビスの脱出路を見つけて、自分が役に立つことを証明したいイコナ。しかし、手がかりは見つからない。
途方にくれたイコナは、目の前を通りかかったフードの男性に尋ねてみる。
「あ、あのっ、ここら辺に怪しい飛空艇が出入りしている洞窟とかはありませんか?」
男性は顔が見えなかったが、一瞬驚いていたようだった。
何か知っていそうな気がしたイコナは、しつこく問いかける。すると、男性はイコナが取り出した地図に指で場所を示した。
「ここですわね! ありがとうございま――あら?」
顔を上げた時には、周囲に男性の姿はなかった。まるで幽霊と会話していたかのように、イコナは背筋を震わせた。
「と、とにかく鉄心に連絡ですわ!」
連絡を受けた鉄心は示された場所に足を運び、波の高い岩場の影に洞窟を発見した。
「ここがそうか。時間がない。急ぐぞ!」
その頃、ポミエラを助けるために地下道を進んだ生徒達のうち数名が、海岸へと続く洞窟内部に辿りついていた。
彼らは地下牢にポミエラがいないことが判明すると、来た道を戻る者と地下道をそのまま進むメンバーに別れたのだった。
「こっちは外れだったか?」
冷たい灰色の岩に囲まれた洞窟。洞窟内を流れる海水が、遠くから聞こえる波の音に遅れて静かに揺れる。
十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は一度引き返して別の出口を探そうかと考えた。
すると、リイム・クローバー(りいむ・くろーばー)が地面を見つめながら呟いた。
「そうでもないみたいでふよ」
そこには砕かれたクッキーが不自然なくらい道なりに落ちていた。
「ヘンゼルとグレーテルみたいでふ」
宵一達はこの先に待ち受ける物を確かめるために一歩踏み出した。
すると、岩陰から次々と炎を纏った蜥蜴が現れる。
「簡単には通してくれないようだな」
「もう散々倒して来たんですけどねぇ」
宵一と佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)は苦笑いを浮かべ、武器を構えた。
「いきますわ!」
最初に斬りかかったのはヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)。
「援護するでふ」
リイムが【人魚の唄】で動きを止めている間に、ヨルディアが剣になったムーン・キャットSで虚空を切り裂く。すると光り輝く刃から放たれた閃光が、闇に浮かぶ炎を真っ二つにしていく。
「宵一達、ルーシェリア様、お先へ!」
「助かる!」
「ありがとうございます!」
ヨルディアの横を抜けて先を急ぐ宵一とルーシェリア。
「邪魔だ、どけ!」
「どいてください!」
宵一は岩肌を蹴りとばし、一気に距離を詰めると蜥蜴の額に刃を突き立てる。
ルーシェリアは剣で火球を吹き飛ばし、蹴りから入る連撃で仕留めていく。
そうして駆け抜けていくと、流れ込んでいた海水が突如途切れ、広々とした場所に出る。表面が滑らかになった岩の上に海水が打ち上げられる様子は、岩の砂浜と言った感じだ。
「ここが終点か」
周囲を石の壁に囲まれた開けた空間。一箇所、巨大な裂け目から月と海に浮かぶ夫婦岩が見える。
すると、月明かりに照らされて、石造りの階段を発見する。その先には地上へと続いていると思われる鉄の扉。
「あの先に何かあるんですかねぇ」
「おそらくな。でも、その前にラスボスを倒さないとな」
扉を守るように立ち塞がる異臭を放つ化け物。
宵一の何倍も身長がある醜い姿の巨人が、棍棒を手に立っていた。
「――――!!!!」
鼓膜を破らんばかりの雄叫びが洞窟に木霊する。
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