葦原明倫館

リアクション

序章：序章：鏡の国のアキラ……？
　
「まずは皆に残念な報告をしなければならない」
　最初にそんなことを言ったのは、アキラ・セイルーン（あきら・せいるーん）だった。
　はて……、ここはどこだろう。彼は今、どこにいるのだろう。
　見たことのある街並み、見たことのある光景……。だが、何かが違う。
　ここは、そう……空京の町。一人ぽつんと取り残されたアキラの姿が誇張されている。辺りには誰もいない。滅び去ったゴーストタウンのごとく一面静まり返っていた。
　車も人も通らない幹線道路の交差点に佇んで、アキラは続ける。
「これから始まるのは、そう……、何て言うのかな……。おおむねちょっと残念な人たちがおおむねちょっと残念な鏡を巡っておおむねちょっと残念な展開を引き起こす……おおむねちょっと残念なお話だ。正義のヒーローはいなく、本当の悪もいない。教訓となるテーマもなく、感動の物語りもない。あるのはただ、本物とニセモノだけだ」
　アキラは、クスリと微笑んでから手にしていた鏡を胸の前で抱えなおした。それは、鏡面に目標物を写すともう一つコピーを生み出す、『悪魔の鏡』。今回、騒動の中心となる夢と欲望の溢れる道具だ。
　おおむね残念なことに……、彼は悪魔の鏡の一つを手に入れていた。
　いつの間に……？　
　彼が、どの時点で鏡を手に入れたのか時間系列は問題ではない。そこにいたるまでの涙ぐましい努力もここで語る必要はないのかもしれなかった。
　頭金を置いてきたため財布はすでに空だ。しばらくはカップラーメンの生活が続くだろう……。
　だが、重要なのはそこではなく。
「俺が皆に伝えたいことはね、おおむね残念な結末が待っているかもしれないと言うこと」
　アキラは空を仰いだ。抜けるような晴天は、あそこでもここでも見ることが出来るだろう。果たして彼らは、どの空の下で事件を体験することになるのだろうか……。
　鏡をこちらに向けたまま、彼は誰にともなく問いかける。　
「さて……。君たちは、自分自身が、そしてこの世界が本物であると証明できるかい……？」

　では、お話を始めよう。