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千年瑠璃の目覚め

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千年瑠璃の目覚め

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 人気のない、古城の二階。無理はない、来客に開放されてはいない場所であるし、パーティスタッフの利用もない。
 しかし、それだからこそ、悪巧みをする者が潜むには格好の隠れ場となりうるだろう。
 東 朱鷺(あずま・とき)は、魔鎧第七式・シュバルツヴァルド(まーくずぃーべん・しゅばるつう゛ぁるど)を纏って、この薄暗い二階の廊下を警備という名目で歩いている。薄暗く見えるのは、明かりが十分でない事に加えて、時の流れによって寂れた雰囲気が、余計にそのような景観を強調するのだ。
 だが朱鷺は、全く気にせず歩いていく。
 むしろ、その寂れて少々侘しげな雰囲気は、彼女の好みに適っていた。
「今のところ、不埒な連中が潜入している……ということもなさそうですが、もう少しこの辺りを見回っていましょうか」
「了解也」
 石造りの壁に添えつけられるように、窓際に設置された篝火を焚く台。火が揺れて、反対側の壁に伸びた朱鷺の影が揺れる。
「古城の宵……ふふふ、いいですね。この雰囲気」
 朱鷺がこの宴の警備を受けた理由は、千年瑠璃やモーロア卿、その他の思惑に興味があったからではない。彼女の興味は、古城そのものにあった。
「正式な持ち主はいないというのですから、管理されているモーロア卿に哄笑して、承知していただけたらぜひとも貰い受けたいものです」
「賛成也」
 城というものは、戦闘拠点であり、住居、情報の拠点でもある。朱鷺は戦闘拠点はいらないが、拠点であるがゆえに建築当時の技術や文化が顕著に現れる、古き建築物、古き文化の反映としての古城に惹かれていた。
(古い文化は、時代遅れだとか泥臭いだとかいう方も居ますけど、泥臭い分、人に密着したものが多いんですよ)
 古城のロマンに惹かれ、古城を手に入れたいと願う朱鷺に賛成する第七式は、己が「命を得た古城」であるがゆえに分かる、忘れされれた古い建造物の孤独に思いを馳せていた。朱鷺と契約するまで、主も訪れる人もなく二千年の時を過ごした。森から聞こえる鳥や獣の声ばかりが慰めだったその頃の心情が、埃じみた石の床を踏む朱鷺の歩みにつれ、何となく思い出されてくる。
(主が居ない千年瑠璃も……彼女にも主が現れて欲しい也)
「おや? 何でしょう」
 朱鷺の目の先に、警備に当たっているらしき人物が数人、何かを持って顔を突き合わせて相談しているのが見えた。
 近寄って話を聞くと、古城によくある、古い全身鎧の像の、グリーブの所からはみ出ているのを見つけたという。長い房で、棍棒のように一端が膨らんでいる。その膨らみの中には何か、見たことのない、琥珀の石片のような物が挟まっていて……
「この窪みの所、煤けていますね。……火を灯すのでしょうか」
 古城に蔵されているような古道具ではなさそうだ。鎧の中という変な場所から見つかったのも気になる。
 そこに、階下から上がってきた者があった。
「不審なものを見つけたと、連絡を受けたのだが」
 叶 白竜であった。用心と城内の全通路確認のため、二階を歩いていたのは彼の従者の親衛隊員だった。
 朱鷺が棒を渡すと、白竜も訝しげに目を眇めて、よくよくそれを見ていたが、やはり火を灯すものだと結論付けた。
 試しに、火を灯してみて、一同は驚いた。琥珀色の石が火の光を通して、黄色の光が相当な光量で真っ直ぐに伸びた。古城の廊下の明度が変わったくらいだった。
「ここにあったということは、これは……誰かが、外に向かってこの光を使って、合図をしようとしていたのでは」
 光を消し、窓を見つめて考えながら白竜が呟いた時、誰かが石の階段を昇ってくる、微かな足音がした。
 全員が静まり返る中、忍び足で現れたのは――
「……お前は」
 特徴的な、古い民族色の強いデザインのマントを羽織った若い男――立候補者の一人だった。
 男は白竜ら一同と、彼が手にした棒を見て顔色を変えた。いきなりくるりと身を翻し、階下へと逃げていく。

「待て!」