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千年瑠璃の目覚め

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千年瑠璃の目覚め

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終章・2


 篝火の明かりも落ちた、人けのない庭園の片隅で。

 再び、少女は火のように赤い髪を、虹色のリボンでくくる。
 あどけなさの残る不機嫌そうな唇を、固く引き締めて。

「忘れ物だよ」

 声が聞こえて、少女が振り向くと、頭にぽすっ、と飛んできたキャスケットが乗っかった。
「いえーい、俺様ナイスコントロール〜」
 現れたのは南臣 光一郎と鬼院 尋人だった。それに、十文字 宵一とヨルディア・スカーレットの姿も見える。
「どこへ、行くつもりなの?」
 あの後、旧・謁見の間は襲撃の後始末で人が出入りしてごたごたし、そのどさくさに紛れて『刀姫カーリア』は消えた。それを、彼らは追ってきたのだ。もう彼らも知っている。少女が『炎華氷玲』シリーズの一、刀姫カーリアであることを。すべて踏まえての、尋人の問いかけだった。
「――ヒエロを、捜すわ」
 カーリアはきっぱりと言った。
「千年瑠璃の傷を治せるのはヒエロしかいない。仕方がないわ、自分でまいた種だし……
 彼女が死ぬことで自分も死ぬ、なんて御免だもの」
 憎まれ口をたたく。
「一人で……当てはあるのか?」
 宵一の問いに、「ないわ」とカーリアはあっさり答えた。
「ヒエロは権力闘争に巻き込まれ、姿を消した……らしいわ。
 行方をくらますために、超法規的手段を使ったかもしれない。大分姿を変えているかも。
 でも、自分の製作者なんだし、情報持ってそうな奴の当てだけはあるから、何とかなるでしょ」
 そのヤケと取れなくもない言葉に、宵一が返そうとした時、不意にカーリアは宵一を見てこう続けた。
「そのイヤリング……知ってるわ。地球人が魔鎧と契約する時に使うのよね」
 【誓いのイヤリング】を見ているのだった。
「本気であなた、瑠璃を手に入れようとしてたのね」
 カーリアの言葉に、宵一は何となく当惑する。
 確かに、真剣に、千年瑠璃をパートナーにしたいと願っていた。そのために情報を集めていた。
 しかし、千年瑠璃にあまりに近しい立場で事情を知っているらしき彼女が、もしかしたら同じ炎華氷玲シリーズの一人なのではないか……などという考えも、実は頭をよぎったのだ。
 まさか、千年瑠璃と一つの魂を分かつ間柄だとまでは思わなかったが……
「あたしの言うことじゃないかもしれないけど、もしも本気で魔鎧のパートナーが欲しいなら、ヒエロの作品はあまりお勧めしない。――ひねくれてて、重いよ。
 あぁ、実際の重量が、じゃないからね!
 けど、炎華氷玲シリーズなんか、特にそう」
 どこか寂しげに、カーリアは自嘲する笑みを浮かべ、歌うようにこう、言葉を紡いだ。

「…あたしと瑠璃は、この体たらくだし、
 『ペコラ・ネーラ』は、つぎはぎだらけ。
 『サイレント・アモルファス』は、手に余るものを押しつけられ、
 『グラフィティ:B.B』は、出たり消えたり」

 謎めいた言葉に、煙に巻かれたような表情の一同を見渡し、カーリアは初めて、子供っぽい笑いを顔に浮かべた。



「それじゃあね。結構世話になったわね。感謝するわ」


 誰も、待て、の声をかけるひまなく、刀姫カーリアは駆け出して、あっという間に城の外の夜闇に姿を消した。