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開催、第一代目パートナーバカ決定大会

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開催、第一代目パートナーバカ決定大会
開催、第一代目パートナーバカ決定大会 開催、第一代目パートナーバカ決定大会

リアクション

『……冬の寒さが骨身に染み渡り、枯れた葉っぱが空を舞い散ったあと、地面を彩る色となる』
 普段のカメラから抜け出した卜部 泪(うらべ・るい)が、特設会場で開会の宣言をしようとしていた。
『そして今日、契約者たちによる魂の叫びがしみ渡り、パートナーたちの悲鳴や喜劇が舞散し周りから「爆発しろっ!」という色で染まるでしょう』
 すでに「ばく……ばく……」と叫ぼうとしている万全の観客が待機している。他にやることはないのだろうか。
『では開催の前に少しだけルール説明です。
 今回は特別審査員としてローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)さん、
 コアトル・スネークアヴァターラ(こあとる・すねーくあう゛ぁたーら)さん、実況者としてライナ・アーティア(らいな・あーてぃあ)さんにお越しいただいています』
 卜部の紹介に続いて、三人が喋る。
『あーローグだ。他の審査員とともに魂の叫びを聞いて判断させてもらう』
『同じくコアトルである。嫉妬するほどの溺愛ぶりを拝見させてもらおう』
『卜部さんと同じく実況をさせてもらうライナだよ! ガンガン実況するからね!』
『はい、お願いしますねライナさん。さてルール説明ですが、いたって簡単です』
 卜部の横にこれまた手書き感溢れるカンペが映し出されます。
『今回は身も心も温まってもらうために、パートナーへの思いを叫びながら(赤面しつつされつつ)、
 存分に(面白おかしく)戦ってもらおう、ということになっています』
『だから試合に勝って勝負に負けた、ということが考えられるから気をつけてね!』
『そして、まさか、まさかとは存じますが乱入などがあった場合、試合はそのまま続行いたします。
 相手が誰であろうと想いをぶつけるのには十分でしょうから』
 恐らく「ばく……ッばく……ッ!」と言っているものたちは乱入はしないだろうが、乱入者があった場合は試合続行とみなされるようだ。
『以上がルール説明です。前置きが長くなりました』
 会場のボルテージが見るからに上がる。
 「ばくは……ッ! ばくは……ッ!」と既に何が言いたいのか分かるくらいには。
『……ここに宣言します。『第一代目パートナーバカ決定大会』、開催です! 盛大に歓迎してください!』
 「爆発ッ!」「爆発ッ!」という声が周りから木霊します。まるで呪うように、そして祝うように。
『それでは記念すべき一回戦! どんな想いが吼えるのか! レッツファーイト!』

『さあ、一回戦はどなたが登場するのか楽しみですね』
「ふっふっふ、楽しみにして正解っ! 最初にありったけの魅力を見せつけてそのまま優勝は私たち二人が頂きだよ! ね、エリスちゃん!」
「わ、私はしかたなくアスカに付き合ってるだけだから、関係ないわ! ちょ、アスカ!? そんなに引っ張らないで!」
『登場しました、革命アイドルの魔女っ子アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)選手。
 それに連れられる魔法少女レッドスター藤林 エリス(ふじばやし・えりす)選手の二名です』
 真っ赤な少女と真っ黒な少女が舞台にあがる。
「この熱気をそのままにエリスちゃんの魅力をぶちまけてあげるから、カメラさんと音声さん? ちゃんと仕事してね!」
 アスカが目配せした先のカメラマンと音声さんが若干「ばくはっ」となにやら言いたそうな空気だったが、
 そこは仕事人、ちゃんとうなずいて見せた。
「あ、あんまり変なこと言うんじゃ……」
「まずいっちばんの魅力! エリスちゃんはですね、ツンデレだから一見するときつい感じだけど、
 ホントは弱き労働者さんたちのことをいつも気にかけてる優しい子なんだよ♪」
 審査員が「ツンデレ! ツンデレ!」とざわざわしている。ついでに会場でも同じワードが連呼されている。
「さらーに! この歳で資本論を読破してかつ理解できる天才少女! マルクス経済学なら空大の教授だって敵わないよ☆」
「そ、そんなの誰だってできるわよっ」
 いや、恐らく誰にだってできることではない。
「おまけに魔法少女に変身して、歌って踊ってアジ演説までできる真っ赤な魔法少女なんて、
 世界中探してもエリスちゃんだけ! だからエリスちゃんに清き一票を、特大の一票をお願いね☆」
『その知才だけでなくエリスさんの心に根ざしている、強気を挫き弱きを助ける精神。
 お見事なアピールですね。エリスさんからは何かアピールが飛びだすのでしょうか?』
「……いやいや、ないわよ! あの子とはただの腐れ縁なんだから! いい歳して若作り、容姿端麗でナイスバディで、
 明るくて誰とでも強引に仲良くなるアイドルのこの子のグッズとか別にもってないし応援なんかもしてないんだから!」
 エリスの叫びから一転、会場が静かになる。数十秒後。
「いやーさすがの私もそんなに応援されると照れちゃうなぁ」
「だ、だから別に誰も応援なんかしてないんだから! 変な勘違いしないでよね!」

―――「ツンデーレ! ツンデーレ!」「エリス! エリス!」
―――「マジマジョ! マジマジョ」「アスカ! アスカ!」

 二人のやりとりを皮切りに、会場からツンデレコールとマジョコールが鳴り止むことはなかった。

『序盤からのツンデレコールを物にしましたエリスさん。これはかなりのアドバンテージとなる予感がしますね。
 それではアピールタイム終了です。次の方どうぞー』
「エリスちゃんと、私のこともよろしくね♪」
「ツンデレとか、そういうのじゃないんだからー!」
 序盤からツンデレを掻っ攫うエリス、だがそれくらいで他の契約者たちの想いは止められない。かもしれない。

「次は黎明華の番なのだ〜!」
『鮮やかな黒い衣装をまとい登場したのは魔法少女プロレスラー屋良 黎明華(やら・れめか)選手の登場です』
 単身で登場した黎明華。その黎明華に、すかさず二人で息の合った同時攻撃を繰り出してくるモブキャ、相手選手。
 しかし黎明華はその攻撃をかわすことはなかった。
 避けられる、だがあえて避けない。それがプロレスラーである黎明華の戦い方。
 どれだけ攻撃をされても黎明華は引くことはない。そんな応酬を数分ほど繰り返した時。
『おーと! ここでモブ、ごほん! 相手選手に疲れが見え始めました!』
 今日のためだけに特訓したのか、付け焼き刃での同時攻撃は次第に鈍くなり、また連携もおざなりに、相手選手の疲労はピークに達していた。
 その隙を見逃さない黎明華が反撃のアピール及び攻撃にうって出る。
「そんな付け焼刃のアピール攻撃じゃだめなのだ! それじゃキマクにお家を建てたら一瞬で全て強奪されるのが関の山なのだ」
 相手選手にゆっくりと歩いていく黎明華。その口からは想いのたけが吹き零れそうだった。
「黎明華のお家もキマクにあるけど、略奪なんてされないのだ。何故かって?
 それは、頼りになるパートナーたちがいつもお家を守ってくれているからなのだー!」
『なるほど、黎明華選手は日ごろの感謝と共にアピールをするようですね』
「け〜らは精神感応を使って、毎日のできごとを報告をしてくれる。
 ぶろんどもちょっとマヌケだけとけ〜らと一緒にお家を守ってくれている。
 そんなパートナーたちがいるから、黎明華は毎日毎日楽しく暮らせるのだ♪」
 歩いて来る黎明華を迎撃しようとする相手選手だが、攻撃は当たらない。構わず黎明華は進む。
「そんな二人は、『帰るべき場所』をキッチリ守り続けてくれて、
 厳しいパラミタの世界にポツンと飛び込んだ黎明華にとっての、本当にかけがえのない、仲間なのだ〜〜〜!」
 ありったけの想いを胸に、疲れている相手にヒップアタックをぶちかまし、見事に打ち崩した。
『そこまでです。アピールタイム終了前に相手選手が再起不能となりましたので、試合終了。
 黎明華選手の勝利です。家族愛にも似たアピール、心が温かくなりましたね』

―――「カンドウシタ!」「カンドウシタ!」
―――「ケ〜ラ! ブロンド!」「レメカ! レメカ!」

 会場も黎明華の家族愛に近い想いを聞いて、ボルテージをさらに上げていた。
 しかし、どうして彼らはカタコトなのか、これがわからない。