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冬のSSシナリオ

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Case:1 (戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)



『はぁい、「今日のあの人」は、シャンバラ教導団大尉、戦部小次郎さんでぇす。それでは、早速一人目のインタビューに参りましょうねぇ〜』


 パーソナリティが言い、ジャン、と効果音が鳴ると、ナレーターが打って変わって「それではその戦部さんですが」と、ホラー番組ばりの渋い声で、簡単な経歴を説明すると、パーソナリティの女性が続けて原稿を読み上げた。
『現在、歩兵科に所属されている戦部大尉。当番組の調べでは、元々軍人のご家系ということですがぁ、ご本人はあまりその点については詳しくはご存じないようですねぇ〜』
『え、存じてないことをラジオで出しちゃっていいんですか?』
 リポーターの台詞は綺麗に黙殺されて、それでは、とパーソナリティは切り替えてしまう。
『戦部大尉はどんな人物なんでしょう? 教導団の方々にお話を伺いました〜』
『ちなみに音声は、個人情報保護のため、修正が掛かっていますのでご了承ください』



 リポーターから白羽の矢を立てられた最初の一人目は、小次郎の同級生A氏だった。
「最初の印象はパッとしない奴だったな」
「そうなんですか?」
 記憶を探るようにしたA氏にリポーターがマイクを寄せると、ああ、とA氏は頷いた。
「目立たないというか、自己主張が無いっていうか……まあ最初だけだけど」
 何だかんだで昇進してたし、な、と続けたA氏は、複雑そうな顔で頭をかいた。シャンバラ教導団は、学校の形式を取っているが実力社会だ。既に実戦に出ている者達も多く、成果を上げた者から上へと昇っていく。同い年にして既に大尉となった相手へ、嫉妬めいたものも抱くのも、仕方の無いことかもしれない。
「何か、印象に残っていることはありますか?」
 レポーターが問うと、そうだな、とA氏は首を捻った。
「ヒラニプラ南部戦の時かな……あれは、驚いた」
 思い出すように目を細めて、A氏は当時のことを説明した。ヒラニプラ平定の時の事。教導団のために、臆することなく、大勢の民衆の前で土下座したこと。必要なことではあっただろうが、果たしてその立場にあったとき、自分だったら出来たかどうか。そう語って、A氏は苦笑気味に「まあとにかく」と締めくくった。
「すごい奴だよ」
 呟いた言葉に、僅かな羨望が見え隠れしていた。


 二人目としてマイクを向けられたのは、まだ初々しさの抜けない新入生C候補生だ。
「戦部先輩ですか?」
 きょとん、とした表情をし、続けて考えるように首を捻る。新入生にとっては、まだ先輩団員全てを覚え切れてはいないのだろうが、比較的にすぐ、その名前は思い出せたようで、わずかに苦笑を浮かべた。
「そうですね……僕の印象は変な人ですね」
「それはまた何故です?」
 リポーターが尋ねると、思い出したのか、ふっと苦笑しながら「だって」と続ける。
「新年の抱負で、「おっぱい」とか言ってましたからね」
「ああ……他の方もそんなこと言ってらっしゃいましたね」
 皆が真面目に抱負を述べていく中、突然、壇上でそんなことを口走ったのだ。参加していた教導団員の印象に残らないはずが無い。
「場を和ませる冗談かと思ったんですけど、続きを聞く限り、本気だったみたいですし」
 あれで大尉なんだから驚きですよね、とC候補生は笑った。
「でも何がびっくりって……その後お咎めが無かったってことですよ」
 新年だから大目に見られたのか、戸も思ったが、その時の団長の反応を見る限り、そうではないようだった。
「お咎め受けないって判ってやってたんなら、凄いですよね」


 三人目のB氏は打って変わって、レポーターに向って眉を潜めた。
「大尉ですか……私の印象では、怖い人ですよ」
 そう言って目を泳がせるのに「そうなんですか?」とインタビュアーは思わず首を傾げた。
「新入生の方の中には、変な人、とか面白い人、とか言われてらっしゃるようなんですが」
 そう言うと、B氏は「ああ」と苦笑した。
「まあ、今の新しい子は知らないでしょうからね」
 そう言うB氏は、シャンバラとエリュシオンの代理戦争の場と化していた、コンロンへの出兵の際に一緒になったことがあるらしい。当時のことを語りながら、B氏は肩をさすった。
「私は前線側にいたので、間近にいたわけではないですけど、同じ生徒とはとても思えませんでしたね」
 師団長の代わりに、政治的な部分を一手に引き受けてこなしていた、というのだから、確かに一介の生徒としては規格外、と言えなくも無い。得体が知れない、というのは恐怖の原因のひとつだ。B氏はふるり、と首を振ると息を吐き出した。
「一介の生徒でありながら、そんなことが出来るなんて……怖い人に決まってるじゃないですか」
 言葉少なげに方って、B氏はそそくさと離れていったのだった。 



『うーん』
 彼らのレポートを聞いて、パーソナリティの女性は難しげに声を漏らした。
『今も最前線でご活躍中だそうですが、なんだかよく判らない人ですねぇ〜?』
『そうですね。見る人によって、随分印象の違う方のようです』
 なかなか興味深い人ですね、と、パーソナリティの言葉に、ナレーターが頷き「ちなみにあなたはどう思われます?」と続けると、パーソナリティの女性はううん、と考えるように唸ってから、そうですねぇとのんびり口を開いた。
『おっぱいは正義! ってことじゃないですかぁ?』
『アンタ何聞いてたんだよ』
 ナレーターが思わず突っ込みを入れたが、それはスルーだ。
『いつかスタジオに呼んで、熱く、熱く! おっぱい談義していただきたいところですねぇ〜』
『そういう番組じゃねーから!』
 ひとしきりボケツッコミをしたところで、ゴシャッ、と何かの嫌な音が響いたかと思うと、誤魔化すようにジャジャジャーンと効果音が入って、いつものテーマソングが流れた。

『以上、”突撃リポート、今日の気になるあの人!”のコーナーでしたぁ〜』





 そんなこんなでコーナーが終わり、曲紹介がひと段落ついた頃、敬一も丁度良く、釣りに向いていそうな川を発見していた。
 程よく木々に囲まれた林の中、川の流れも急すぎない。昇ったばかりの陽が、木々の間からこぼれるのに、敬一はすうっと息を吸い込んだ。冷たい空気が、運転の疲れを忘れさせる。
「さて、と」
 釣具を降ろして早速準備に掛かる中、ボリュームの落とされたラジオは、続いてバウンティハンター情報局へと切り替わっていた。

『――近日空京に出没している謎の怪人「ブラッディサンタ」についての続報です』
 情報に寄れば、ブラッディサンタ、というのは、ホッケーマスクを被り、腰には「自由な息子共」と書かれた真っ赤なふんどし、という全裸に近い格好ながら相当な怪力を持つらしい。
 クリスマスのシーズンになると現れ、楽しげに過ごしている幸せなカップルの頭目掛けて金だらいをぶつけ回るという凶悪な怪人である。
「物騒、というか……寒い時でも変なのが沸くもんだな」 
 気にならなくも無いが、今は休暇中である。
 それに、放って置いても、いずれバウンティハンターがけりをつけるだろう、と敬一は不慣れな手つきながらなんとか針に餌をつけ、ひゅん、と釣竿をしならせた。ぽちゃん、と水面に落ちる音すら響くような静けさの中で、無粋な話題はここまで、とばかり、敬一はラジオのチャンネルを変えた。



『――続いてはぁ、空京園芸課の学生さんからのリクエスト「ありがとう」をお聞きくださぁい』