校長室
学生たちの休日10
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★ ★ ★ 「しかし、なんでこんなにイコンパーツ捨ててあるのかなあ」 ジェファルコン特務仕様で、天御柱学院の粗大ゴミいて場を漁りながら笠置 生駒(かさぎ・いこま)が言いました。 「まあ、大規模な戦闘がいくつかあったからのう。そうでなくても、意味もなくイコンを爆発させる者もいるすらのう……」 イコンの外から、使えそうなパーツを物色して指示を与えながらジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)が言いました。 「し、しらないなあ、爆発だなんて……」 笠置生駒がしらばっくれます。 「あれだけやらかしておいて、しらばっくれるとは……」 だめだこりゃっと、ジョージ・ピテクスが深い溜め息をつきました。 「あんまし、使えそうな部品はあらへんなあ」 ジェファルコンが手に取った部品を一つ一つスキャニングしながら、サブパイロットシートのシーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)が言いました。 「あんまりいい物落ちてないかあ。荷電粒子砲とか、BMIとか落ちてると嬉しいんだけどなあ」 「そんな物落ちとるわけないやろが」 無い物ねだりをする笠置生駒に、シーニー・ポータートルが呆れます。 「いっそ、まだ凄まじい枕の枕の部分とか、琴音ロボのちくわサーベルなら落ちて……いるわけないか」 掘っても掘っても、壊れた外部装甲とか、ひん曲がった実体剣とか、折れ曲がったライフルとか、そんな物しか出て来ません。まあ、ゴミ捨て場ですからあたりまえですが。 「このイーグリット・チョコルトの頭、つけられるかなあ……」 「うっ、いつの物だ、それ。とっくに賞味期限きれて腐ってないか?」 外にいるジョージ・ピテクスが、鼻をつまんで叫びました。 「じゃあ、このヴァラヌスの尻尾……」 「そんなもん何に使うんや。って、ツッコミする以前に、なんでそんなもんが落ちとるんや」 「多分、敵を破壊したあまりじゃないのかなあ」 「それこそ、なんで拾ってくるんや」 ゴミを拾ってきてここで捨ててどうすると、シーニー・ポータートルが笠置生駒に言いました。 「それにしても、ロクなのが落ちていないなあ。これじゃ、機体のカスタム化ができないじゃないか」 「ただで部品手に入れようと思うからいけない……まてよ、そうや、もっといい方法があるやないか」 どうしようかという笠置生駒に、突然、シーニー・ポータートルが言いました。 「なんだい、いい方法って」 笠置生駒が聞き返しました。 「キマク、あるいはその周辺のシャンバラ大荒野に行けばいいんとちゃうんか」 「いや、むしろ、そういう所の方が、パーツなんか落ちちゃいないだろうが」 いったい、何を言いだすのかと、笠置生駒がシーニー・ポータートルに言いました。 「落ちちゃいないやろうけど、動いちゃいるで」 「動いてる? それって、壊れていないんじゃないのか? まるで、野良イコン……」 「そうや、野良イコンや。もれなく、蛮族かパラ実生のパイロットもおまけでついてくるけどな」 ドきっぱりと、シーニー・ポータートルが言いました。 「つまりは、そう言った、不良のお兄さんたちとちょっとイコン同士のお話をして、お礼に活きのいいイコンパーツをいただけばいいという話や」 「いや、それは、強奪だろう」 「かまへん、かまへん。パーツが手に入りすればいいんやろ」 「それはそうだが……。まあ、ダメ元でいっぺん行ってみるか」 ものは試しと、笠置生駒は、新春野良イコン狩りに行くことに決定しました。 さすがに、呆れたジョージ・ピテクスは留守番です。 「気がついていないと思うが、それで手に入るのは、喪悲漢とかダイノボーグのパーツだぞ……」 喪悲漢になったジェファルコン特務仕様を想像して、ジョージ・ピテクスは溜め息をつきました。 ★ ★ ★ 「やっぱり、ほとんど汚れてないじゃないか」 ウィスタリアのブリッジの床をモップがけしながら、柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)が言いました。 起動要塞内は、随所に配置されたお掃除ロボットが定期的に掃除をしてくれるので、埃のような物はほとんど目にすることはありません。掃除機で吸えないような物がたまに落ちていると、それが目立つだけです。とはいえ、そんな物を艦内に放置したりはしないので、大掃除と言っても、本当はほとんどやることはないはずなのでした。 けれども、ブリッジだけは、いつもアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)が手で掃除しているので、お掃除ロボットがあえて配置されていません。ブリッジは、アルマ・ライラックの私室のような物ですから、自分でちゃんと掃除したいのでしょう。 柚木桂輔だって、イコンデッキを自分の領域として入り浸っているわけですから、アルマ・ライラックの気持ちが分からないわけではありません。とはいえ、結局大差ないわけですから、床掃除の方はお掃除ロボットに任せておけばとも思います。 逆に、コンソールの方は、ハンディモップで綺麗に埃を払ってやってから、細かい隙間にたまったゴミを綿棒やブラシなどで丁寧に取り除いてやらないといけません。 機晶ユニットにあるアルマ・ライラックとのコネクタも、金メッキで保護されているとは言え、綺麗にゴミを取り除いてやります。 「うん、やっぱり、アルマがちゃんと掃除しているから、ほとんど汚れていないなあ」 一通りの掃除が終わり、やり残しや、システムのエラーが出ていないことを確認すると、柚木桂輔はブリッジの隅にある仮眠用ベッドの上で疲れて寝ているアルマ・ライラックに近づいていきました。 年内中にウィスタリアの総点検をしていたアルマ・ライラックは、すやすやと小さな寝息をたてて眠っています。さすがに総点検はチェック項目が膨大でしたので、何日か徹夜もしたみたいです。そこまで根を詰めなくてもいいはずなのですが、自分の半身のようなウィスタリアの整備は完璧にしておきたかったのでしょう。 「掃除終わったよ、アルマ。年越し蕎麦でも食べに行こう?」 柚木桂輔が、軽くアルマ・ライラックの身体をゆすって起こそうとしました。 「ううん、もうちょっと……」 よほど疲れているのか、アルマ・ライラックは起きません。 「どうしようかなあ。おーい、アルマー」 もう一度だけ起こしてみようと柚木桂輔が手をのばすと、突然アルマ・ライラックがしがみついてきて柚木桂輔を布団の中に引きずり込みました。 「おい、アルマ!」 「うーん、機晶ユニット接続……、ウィスタリア起動。グラビティキャノン発射あ……」 寝ぼけています。 「こ、こら、お蕎麦を買いに行かないと売り切れて……。は、放してくれー」 抱き枕のように四肢でがっしりとホールドされて、柚木桂輔が悲鳴をあげましたが、アルマ・ライラックはそのまま目を覚まさずに寝ぼけたままでした。 ★ ★ ★ 「ちっ、逃がしたか」 海京のドックに固定された伊勢の中で、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が思いっきり舌打ちしました。 伊勢の改修のために海京にやってきたまではよかったのですが、最新のイコプラが買えるとばかりに、あっという間に葛城吹雪が抜け出して行ってしまったのです。 「トラップを設置しておくべきだったわ」 「あのー、これはここでいいのであろうか」 コルセア・レキシントンの怒りにどん引きしながら、鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)がおずおずと声をかけました。 「ああ、ハンガー用固定アームはむこうに運んで。それから、港においてある分析用機器の入ったコンテナはこっちに運んでね」 「わ、分かったのだよ」 鋼鉄二十二号が、機材をかかえ上げるとダッシュローラーで床を滑るようにして運んでいきました。 今回の伊勢の改修は、主にイコンデッキが中心となっています。 前回の大規模改修で火力面を大幅増強したわけですが、そのおかげで居住区のほとんどが潰されてしまい、あまつさえ通路も半分に縮小されてしまいました。その代わり、艦首砲と両舷のイコンデッキを取りつけたわけですが、今回は、第三世代イコンの登場と共に、それに合わせたイコンデッキのバージョンアップをしようと言うことなのでした。 主にイコンハンガーの換装になりますが、第三世代機のサイズに合わせたハンガーを用意し、巨大なバックパックのメンテナンス用アームを取りつけます。その他にも、各種チェック機器などをハードとソフトの両面から交換と言うことになりました。 ただし、まだ前回の改修から日もあまり経っていないため、予算がまったくと言っていいほどありません。そのため、予算のやりくりが、コルセア・レキシントンの最大の敵でした。 それと、どうにかして、食堂とバスルームを復活させなければなりません。まあ、これに関しては、葛城吹雪がこっそりと艦内に作ってあったイコプラ倉庫とジオラマ室を完膚なきまでに破壊して取り除いてそこに設置するつもりではあるのですが。 新しくイコプラを買ってきたとしても、もうその安住の地はなくなるのです。だからこそ、葛城吹雪の買い出しは絶対に阻止するつもりだったのですが、なんとも煩悩を集中させた葛城吹雪の能力は常人を遥かに凌ぎます。結局逃げられてしまいました。 「ふっ、戻ってきて泣くがいいわ」 戦いに負けて試合に勝ったと、コルセア・レキシントンが陰で凄惨な笑みを浮かべました。 「いいなあ、バージョンアップ。伊勢がうらやましい。機晶制御ユニットの設置もまだであるし、我自身のバージョンアップは、いったいいつになることやら……」 運んできた作業用アームをちょっと自分の装甲にくっつけてみて、妄想に浸る鋼鉄二十二号でした。