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リアクション
葦原島 イコン整備施設
「何だ……ありゃあ……?」
アサルトヴィクセンのコクピットが捉えた新たな反応に気付いた恭也は、まだかろうじて動く首パーツを回転させ、反応のあった方を見た。
メインカメラが捉えた映像がモニターに出ると、恭也は驚きを通り越して呆れたような声を出す。
映っていたのは数機のイコンと飛空艦だった。
ただし、その大きさたるや凄まじく、飛空艦の中でも文句なしに最大級だろう。
そこから飛び立ってくるイコンの姿が丁度対比される形となり、より一層、飛空艦の大きさが強調される。
「まったく……とんでもないものを持ち出してきたね」
岱も驚きを通り越して呆れたように言う。
しばし迅竜をゆっくりと見つめる二人。
それもそのはず。
なにせ、アサルトヴィクセンの周囲を取り囲んでいた“ドンナー”はすべて迅竜の方へと向かって行ってしまったのだから。
一方、上空では動きが鈍りつつある禽竜を振り切り、“フリューゲル”が迅竜へと一目散に突撃をかけていた。
飛行ユニットを最大出力でブーストし、“フリューゲル”は一気に迅竜へと接近する。
無論、迅竜は大量の火器を用いて対空砲火を行っている。
だが、ツァンダでの戦いの際に確認された“瞬間移動”のような動きを繰り返し、“フリューゲル”はそれらをすべてかわしながら迅竜へと肉迫してくるのだ。
やがて迅竜の至近距離まで肉迫した“フリューゲル”は大出力の光刃を抜き放った。
迅竜のエンジンブロックへと大出力の光刃が振り下ろされる――。
光刃が直撃する寸前、雷皇剣を構えた機体が割って入り、刀身で光刃を受け止めた。
『ストークタイプ……!』
忌々しげに“鳥”が言うと、すかさず彼に向けて通信が入る。
『ちょっと質問あるんだけど良いかしら?』
ストークタイプのトリグラフを駆るパイロット――ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)は通信で問いかける。
『人探ししてるんだけど、加藤博士という名前に聞き覚えないかしらねぇ。あたしたち九校連合の大事な大〜事な協力者なんだけど悪い奴らに攫われちゃったらしくて、行方を捜してる所なのよね』
すると“鳥”は素っ気なく答えた。
『知らねえな。加藤だか佐藤だか知らねえが、たとえ知っててもアンタ等にペラペラ喋るかよ』
そんな回答にも関わらず、ニキータはさも有益な情報を知ったかのように、余裕たっぷりに言葉を返す。
『ふぅ〜ん。面白い事聞いちゃった、ありがとうねぇ。オレンジ頭君』
末尾の一言で、“鳥”が僅かに驚いた気配をニキータは見逃さなかった。
『アンタ……何者だ?』
どうして知っているのかと問いたげな気配を声音に感じたニキータは、そのまま一気に畳みかける。
『オレンジ頭君たちの情報は教導団がもう、かなりのところまで掴んでいるのよ。だから、お見通しってわけ――どうやったかと聞かれれば、『お告げ』としか答えられないけどね』
冗談めかして言うニキータだが、『お告げ』というのは嘘ではない。
パートナーであるタマーラ・グレコフ(たまーら・ぐれこふ)が間違いなく『お告げ』によって掴んだ情報なのだから。
“鳥”に話しかけながらニキータは、教導団施設での戦闘の際に死亡した兵士の死体の様子を事細かにテレパシーで叩き込んだ。
イコンの性能が高くても、精神が成熟しているとは限らず、ゲーム感覚で戦闘を行っているようであれば、怯んで隙ができるはず。
そう踏んだニキータだったが、予想とは裏腹に“鳥”は平然としていた。
『なんのつもりだ?』
即座に瞬間移動を行い、“フリューゲル”をトリグラフの背後に移動させて光刃を振り上げながら“鳥”は更に詰め寄った。
『この程度のコトで俺がビビるとでも思ったか?』
咄嗟に振り返って雷皇剣をかざすトリグラフ。
一瞬でもそれが遅れていたら、今頃機体は真っ二つになっていたかもしれない。
『随分とタフなのね』
リラックスした調子で語りかけるが、ニキータは内心では肝が冷える思いだった。
“フリューゲル”を押し返そうと出力を上げているが、第三世代機であるストークタイプすら押されているのだ。
とはいえ、相手も一気に押し切ってしまえないあたり、流石は第三世代機と言うべきかもしれない。