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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 9

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 9

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第9章 2時間目:試作品作りタイム Story4

「涼介さん、出来れば習得が必要なスキルがないといいんやけど。宝石をはめこむリングのイメージも任せた!」
「そういうのはミリィが得意だな」
「分かりました、お父様!」
 ミリィはノートにリングのデザインを描き始める。
「宝石は何を使うのだったかな?」
「大地と風やね」
「それだとスキルを習得する必要があるな。校長に頼んで宝石を借りてこようか」
 何やら思いついた様子で涼介は校長の元へ行く。
「エリザベート校長。大地と風の宝石を借りたいのだが」
「はぁ〜い。私が予備で持ってきたものですけどねぇ。どう使うんですかぁ?」
「魔力の性質を抽出したいんだ」
「なるほどですねぇ。こちらの宝石は魔力の属性がありませんからぁ、使ってください〜」
「ありがとう」
 2種類の宝石と魔力を移すものを借りた。
 テーブルに戻るとさっそく試作品作成を始め、エリザベートから借りた宝石に白い針を刺す。
 魔力を吸った針は白から琥珀色へ変わっていく。
 何も属性を持たない透明度の高い魔法の宝石を刺すと、アークソウルと同じ色に染まった。
「同じ効力を持ったんか?」
「―…いや、魔力の性質だけだ。借りたものをだから、使えなくするわけにはいからないからね」
 属性をコピーしても問題ないが、効力はコピーでなくそのものを移してしまいそうだからだ。
「ほほーう。それ自体はなんも効力がないってわけやね」
「陣さんが言っていたスキル習得が不要なものにするためには、他の効力まで移せないよ」
「なるほどやね」
「お父様、デザインを描いてみましたわ」
「ありがとう、ミリィ」
 ミリィの絵を元に残りの宝石にも、魔力の属性をコピーして移す。
「銀色と薄い水色の金属を持ってきてくれるかな」
「はい、お父様!」
 作ることは出来ないが、嬉しそうにリング作成のお手伝いをする。
「陣〜。我も手伝いたいのぅ」
「や…、オレ提案したからなぁ」
「なぜじゃー、どーしてじゃぁあーっ」
「こ、こらジュディ。本で叩くなや!リーズ、カレシが叩かれてんのに助けないのか!?」
「んにゃ?もちろん、助けないよ♪」
 あっさり見捨てる発言を投げつける。
「陣くんは放置でっと。先生ーっ!ボクも護符以外に、魔道具を使ってうべきかな?」
 囮役をするにしても集中攻撃されてしまったら、回収する周りが大変になってしまいそうだ。
 どんなスタイルがよいのか、エリザベートとラスコットに聞く。
「相手に接近しすぎないことも重要ですからねぇ。魔道具ですかぁ〜…ん〜、涼介さんが作っているのはー…」
「アイデアは陣くんだね。アイデア術の劣化版が使える魔道具なんだって」
「ランクが上がると劣化しないバージョンが使えたりやね」
「ふむふむ…。リーズさんも使いたいですかぁ?」
「出来ればねー」
「リーズさんのクラスを考えると、エレメンタルケイジと宝石を使ったほうがよいかもですぅ」
 リングを使うならエレメンタルケイジの修練を積んだほうがよいと言う。
「アイデア術に使う魔道具を使ってる人と、そうじゃない人だと差が出てしまいそうだよ」
「んにぃー……そうなんだね」
「あと、囮が憑依されるわけにいかないからさ。校長がつけている魔道具とか使えるといいね」
「それはあるかも。光術ならボクも使えるからね」
 時の宝石を使って修練を積んで、白の衝撃の能力を引き出せるように目指したほうがよいらしい。
「むー…いろいろと考えなきゃだね。あ…リング作成、どこまで進んでるかな?」
 リーズは涼介たちの様子が気になり、覗きに行っている。
「リングの真ん中が銀色の三日月なんだね」
「これは基本の形だから、ある程度自由に好みの形でもいいと思うよ」
 三日月の内側の下のほうにつけた薄い水色の星の中に、風の魔力を含んだ宝石を埋め込む。
「さて…完成かな。たぶん、使い魔の力を使う術は、該当の種類の使い魔を扱える人じゃないと無理かもしれない」
「むむー。さすがにそこは仕方ないね」
 完成したリングについて話していると…。
 遠くのほうでレイナが魔道具作成の様子を眺めている。
「私も皆さんと話したいのですが…。いつ、“あの子”が出てくるか分かりませんからね…。すでに存在するアイデア術を、使えるというリングですか…」
 自分もペンダントと宝石さえ使えれば、有効的に使えるのかもしれない。
 リングだけでも限定的に使えそうだが、今のレイナにはどれも効力を引き出せそうにないようだ。
 皆、こんなにも頑張っているのに、自分が出来ることといえば知識を得ることのみ。
 早く“あの子”と話して、私も使えるようになれれば…と思うが、やはり語りかけてくれる気配はない。



 涼介がリングを完成すると、歌菜たちはお茶の準備を終えて彼らを呼びに行く。
「試作品出来ましたか?おやつの準備、出来ましたよ!」
「わーい、おやつ♪」
「リーズ…。マジ食ってばっかやな。アップルパイもほとんど1人で食べてたやないか」
 陣はリーズが空気を読まず食べ続けていることを知っている。
 だが、カノジョはこう言い放った。
 “世の中、おやつを食うかおやつを食われるかだよ!”と…。
 なんか、それ違うんやない?と言っても、聞き流されてしまった。
「ま、オレも食うけどな」
「美味しそうだな」
「いただきます」
 涼介とミリィも歌菜が作ったクッキーを食べる。
「やっぱり、歌菜のクッキーはいつ食べても美味いな。紅茶のおかわりもまだあるからな」
 カティヤが作ったクロコゲの物体は無視し、皆のコップに紅茶を注ぎたす。
「今日は歌菜と一緒にクッキーを焼いて来たのよ。さぁ、沢山食べてね☆」
 形が残っているものだけ持ってきて、カティヤはほとんど味見だけだった。
「この黒いのもクッキーですか?」
「待て、それは食い物じゃない。食ったら猛毒をくらう」
 ミリィが手に取ろうとしたクロコゲを羽順が素早くよける。
「この世のものとは思えないほど、恐ろしく害があるものだからな」
「羽純!この世じゃなかったらどこのよ」
「さぁ、ナラカとか?」
「ナラカでも食わない…と、どこからか聞こえてきたぞ。少なくとも私はそのようなおぞましいものを、口にしたことがないんでな」
「磁楠ひっどーい!美味しいの作っても、ぜーったいに食べさせないから!!」
 毒どころかむしろ凶器扱いされ、カティヤはプンプンと怒る。



「なぁ、北都。アークソウルの猛毒と石化の抵抗力って術者のみなのか?」
「うんそうだね。それがどうかしたの、ソーマ」
「あー…。なるほどな」
 闇黒属性の攻撃以外は密着して“かばう”ほうがよいらしい。
「透明な宝石もあるよ?」
 機材を探していると小さな宝石を発見した。
「レイカさん、これ使えないかな」
「…何か効力があるのでしょうか?」
「それは魔力のある宝石ですが、それに属性や効力はありませんねぇ」
「効果を追加することは可能ですか…?」
「はい〜ある程度のものなら〜♪ですが、完成したものにはそれ以上、追加出来ませんよぉ」
「試作品用に借りていきますね」
 土台となる宝石に北都が考えた効果を追加出来ないか考える。
 レイカたちが普段使っている宝石に似た力を秘め、何も書かれていない白紙のような状態なのだろう。
「北都、北都!この大きな水晶、何に使うんでしょうか?」
 リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)は淡い紫色の水晶を抱え、パタパタと駆ける。
「んー?分からないね」
「それに…、結構重いですよ」
「俺も持とうか?」
 1人ではキツイだろうとソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)はリオンと運ぶ。
「不思議な水晶ですね」
「どうやって使うんだろうな」
「―…さっき校長に聞いてきました。詠唱で持ち上げて、その下にある対象物に魔術の力を、与えることがあるらしいです」
「テスタメントの章の出番ですか!?」
「人に魔性が進入しないようにするものですから…。効力を下げてもらえませんでしょうか…」
「な、なんと下げるのですか!」
 祓う力は付与しないのかとテスタメントが詰め寄る。
「え……ええ。私たち、宝石使いが使うものですし…。多くの人に…という点を考えると、負担を少なくしなくては…」
「テスタメントは祓うもののほうが…」
「わたくしが使えるものならいいじゃない?章なら他の人が作ってるっぽいし」
 自分が作れなかった腹いせか、わざと教えなかった。
「真宵、なぜそれを教えなかったのですか」
「だってサポート系を望んでそうだから通ったかどうだか」
「…こっちじゃないほうがよかった?」
「は!?いえっ、そんなことはないのです。いいですか真宵、これが実用化されたらテスタメントたちをサポートするのですよっ」
「うわ…、テスタメントまで?」
 めんどくさそうに顔を顰める。
「ちゃんと、お願いしますよっ」
「近っ!……わ、分かったわよ…。(まったく、うるさいんだから)」
 テスタメントが背を向けると、彼女のおやつを奪って食べる。
 レイカとテスタメントが互いに詠唱を始めると、水晶がふわりと浮かんだ。
 水晶の真下に北都が宝石を置くと、哀切の章の柔らかい光が宝石に降り注ぐ。
「(人に害を与える者から…、守る力を…)」
 ペンダントに触れたレイカは、アークソウルの大地の魔力で魔を退かせる力を定着させる。
 何も効力を持たない透明度の高い宝石の色が、淡い金色へ変わっていく。
 詠唱を終えると水晶はゆっくりと落ちていき、北都が完成した宝石を回収する。
「これが、テスタメントとレイカ・スオウの力で出来たものなのですね」
 北都が手の平に乗せている宝石を眺める。
「ふふふ、清らかで神々しい色です」
「にやけすぎよ…」
「宝石の名前は決めているのですか?」
「結界石の神籬(ひもろぎ)だよ」
「ふむふむ…。よいのではないでしょうか!…さぁ、真宵。これで存分に、テスタメントを補助出来ますよ!」
「わたくしがそれを使う相手は、テスタメントだけじゃないわ…」
 有頂天のテスタメントに真宵は嘆息する。
「使い方を書いてっと…。その試作品を提出してくるよ」
「はいっ!」
 期待に満ちた眼差しを向け北都を見送った。
「エリザベート校長、試作品完成したよ。これ、そのレポートね」
「はい、お疲れ様でしたぁ〜♪」
 様々な魔道具を考案してもらい、エリザベートは満足そうに収納ボックスへ大事にしまった。