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いい湯だな♪

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いい湯だな♪

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お風呂開き

 
 
「いい。今日のお風呂開きは、ただでさえ風紀が乱れがちなところに、P級四天王が出入りに来るという情報もあるんだからね。全員で手分けして、監視するように。怪しい者、お風呂だというのに武器を持ち込んでいる非常識者、モヒカンにパンツを被っている変質者、問答無用で取り締まるように!」
 イルミンスール風紀委員会の一小隊を任された天城 紗理華(あまぎ・さりか)が、アリアス・ジェイリル(ありあす・じぇいりる)たちを見回して号令をかけました。
「ええと、なんで、私たちまで……」
「男じゃないとまずい場合もあるでしょ。手伝いなさいよ!」
 また巻き込まれですかという大神 御嶽(おおがみ・うたき)に、いつものように天城紗理華が言い返しました。
「まったく。風紀委員でもないのに、こう毎度毎度では。ねえ、キネコ……、あれっ?」
 溜め息をつきつつ、同意を求めようと振り返った大神御嶽でしたが、すでにキネコ・マネー(きねこ・まねー)は姿を消しています。
「それじゃ、全員、大浴場に出動!」
「はっ」
 天城紗理華に言われて、アリアス・ジェイリルたちが大浴場へとむかいました。
 
    ★    ★    ★
 
「スライムち〜ゃん♪ 可愛い可愛い、スライムちゃ〜ん♪」
 修練場奧のマジック・スライム養殖場に忍び込んだ月詠 司(つくよみ・つかさ)が、鼻歌まじりにフラワシを使ってマジック・スライムを盗み出しました。その額には、『マジック・スライムをとってきて、大浴場に放す』と、小さな文字で書かれています。それは、シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が、隙を見て使役のペンでちまちまと書いた物でした。そのため、月詠司は、無意識にマジック・スライムを盗りにきていたのでした。
「さあ、お風呂にむかいますよ」
 粘液のフラワシと一体化させたマジック・スライムをふわふわと自分の後ろにつき従わせながら、月詠司が地下大浴場へとむかいました。
 
    ★    ★    ★
 
「じゃあ、ここでお別れだ」
「どうせ、中に入れば、一緒なのだがな」
 温泉マークのついた男暖簾と女暖簾の前に立って、緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が、別れの挨拶を交わしていました。
 さすがに見た目が女の子でも、すでに男の子をカミングアウトしている緋桜ケイとしては、今さら女子脱衣場の方で脱ぐわけにもいきません。
「では」
 お互いに別の暖簾をくぐると、二人は脱衣場へと入っていきました。
 イルミンスールの根っこの所、建物で言えば地下の部分に大浴場はあります。もともと、温泉センターなみにいくつものお風呂で構成されていたのですが、マジック・スライムの大量発生事件のときに大規模に破壊され、その後ジャングル風呂としてリニューアルされた物です。
 中には、ありとあらゆるお風呂があり、男女混浴となっています。もちろん、ほとんどの生徒は入浴用の水着を着てお湯に入りますが、強制ではありませんので、たまにすっぽんぽんで入る人もいるようです。
 脱衣場は男女別々になっていて、その先は垣根のない広大な浴場となっています。脱衣場を出てすぐの所はホールになっていて、足湯とドリンクコーナーがあり、マッサージなども受けられるようになっています。
 地下なのでさすがに露天風呂はありませんが、生い茂る緑の植物の間を通る遊歩道の左右に、いくつもの湯船が隠れるようにして点在しています。また、遊歩道沿いには流れるお風呂があり、ぐるりと大浴場を一周していました。一番奥には、広い洗い場とプールなみの大風呂があります。
 緋桜ケイが脱衣場に入ると、中には本郷 翔(ほんごう・かける)ドクター・ハデス(どくたー・はです)がいました。
 ロッカーを見ると、すでに結構埋まっています。今年初めての大浴場は、結構人気のようです。
 貴重品などがない場合は、棚にならんでいる籐の籠の中に無造作に衣服を入れている人もたくさんいます。
「さてと……」
 いそいそと脱ぎ始めた緋桜ケイでしたが、何やら視線を感じます。
「まさか、ドクター・ハデス、そこまで変態だったか……
 真っ先にドクター・ハデスを疑った緋桜ケイが、反射的に胸のあたりをシャツで隠しながら振り返りました。
 けれども、ドクター・ハデスは、きちんと正座して、脱いだ着物の皺をのばしながら丁寧にたたんでいる最中でした。見かけによらず、几帳面です。
「おっかしいなあ、気のせいかあ」
 そう首をかしげると、緋桜ケイは入浴用のレンタル水着を取ってきてそれに着替えました。パンツを脱いだときにも、微妙に視線を感じます。
「は、早く中に入ろう……」
 ちょっと身の危険を感じて、緋桜ケイがそそくさと浴室に入って行きました。
 すると、棚の影から本郷翔が、そおっと顔をのぞかせました。
「私と同じ人だと思ったのに……。しっかりと……」
 ちょっと顔を赤らめながら、本郷翔が言いました。先ほどからの熱い視線は本郷翔だったようです。
 これでも、本郷翔はれっきとした女性です。ただ、薔薇の学舎に所属している以上、普段から男で通さなければなりません。
 とはいえ、本郷翔もそろそろお年頃です。最近は、ちょっと胸の膨らみが気になってきました。
 これでは、いったいいつまでごまかしきれるのか心配になってきます。
 そんなおり、ちょうどイルミンスール魔法学校でお風呂イベントがあるというので、試そうと思ってやってきたのでした。まだまだ、水着姿では男を通せるつもりです。そう、このちょこっと発達した胸も、すべては胸筋です。乳首が少し大きく見えるのも、目の錯覚です。遠近法です。
 さすがに下はごまかせませんから、うまくシャツを利用して素早く水着に着替えます。パンツはトランクスにしてありますから、疑われないでしょう。
「大丈夫かな」
 ほっと一息ついて振り返ると、ドクター・ハデスがこっちを見ています。まさか、気づかれたのでしょうか。
 何やら、怖い顔をして近づいてきます。
「ひっ」
 変態に何かされると本郷翔が身をちぢこませる横を、ドクター・ハデスが華麗にスルーして通りすぎていきました。
 そのまま、体重計の前でドクター・ハデスがピタッと止まります。
「やはり、少し餅を食い過ぎたか?」
 体重計に乗って体脂肪を計りながら、ドクター・ハデスが腹のあたりの肉をつまみました。端から、本郷翔など眼中にありません。男としか認識していなかったので、男の裸にはまったく興味がなかったのです。その意味では、ドクター・ハデス、マッドサイエンティストとしては、俗世間の常識にとらわれすぎています。
「ほっ、大丈夫、大丈夫」
 そうつぶやくと、本郷翔は浴室へと入っていきました。
「うむ、そろそろかな」
 何かを待っているように、ドクター・ハデスが脱衣場の中央で、一人腕組みして仁王立ちになりました。いえ、ちゃんと水着を穿いています。ただ、その上から不憫な白衣を羽織っているので、あからさまに裸コートの変質者と着ている物の構成が大差ありません。
「来たか」
 誰かがやってきたようです。それは、P級四天王に呼び出された、Pモヒカン族たちでした。彼らは、ここにパンツを被らないどころか穿いてすらいない者がいるという通報を得て、正しいパンツの被り方を伝授するために集まってきたのでした。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス! ククク、Pモヒカン族どもよ! 力がほしくはないか? パンツをないがしろにする者たちに報復するための力が!」
 ドクター・ハデスの言葉に、ちょっとPモヒカン族たちがざわつきました。
「いいだろう。では、力を形として見せてやろうではないか。というわけで、現れよ! 我が発明品、『邪悪なる簒奪者<パンツ・ルーター>』よ!」
 そう言うと、ドクター・ハデスが、白衣のポケットから何かを取り出して床に投げつけました。ボンと白煙が上がって、怪しげな影が立ちあがります。
「再構成完了。活動ヲ開始シマス」
 ナノマシン状態から、多数の触手を持つ不気味な物体と化したハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)が、甲高い声をあげました。
「おおおお……」
 思わず、Pモヒカン族たちから拍手が湧き起こります。
 なぜ、拍手する!?
 もしかすると、手品か何かだと勘違いしたのかもしれません。
「いいか、この触手は、パンツを取りあげ、パンツを被せるために存在する。さあ、この発明品の力を使って、愚かな穿いてないもんたちにパンツの常識を叩き込み、その溜飲を下げてくるがいい!」
「おおおおー、あんたすげえぜ。P級四天王マッドパンティストだぜ!」
 Pモヒカン族たちが賞賛します。また新しいP級四天王の誕生の瞬間でした。
「さあ、まずは、被せるためのパンツを手に入れるのだ。ゆくぞ、女子脱衣場へ!」
「おー」
 すっかりドクター・ハデスに乗せられたPモヒカン族たちが、ハデスの発明品と共に女子脱衣場へとむかいました。