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リアクション
第2章 説得
「この神社はもう私のものなのだよ〜っ! 部外者はでていけ〜っ」
神様は白蛇達を従え次々と参拝者達を追い出していく。
次々と人が神社から出ていくのを満喫していると、再び地上から笛などの神楽の音が聞こえてきた。
「また、神楽なのだよ?」
セイレム・ホーネット(せいれむ・ほーねっと)が巫女服姿、鈴と幣束をそろぞれ両手で構え、音に合わせて神楽を舞っていた。
蛇達からは、すごいや綺麗やそれなりの感想が飛んでくる。それほど魅了されるほどだった。
一方で、その隣では葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が真似をしようと足並みを合わせるが、タイミングなどがずれており神楽とはお世辞にも言えないものだった。
「名付けて凸凹コンビなのだよ〜……あれ?」
セイレムの神楽に魅了されている白蛇達を見ながら、神様はため息をついた。
その直後だった。この神楽に合わないようなアップテンポなビートを刻んだ音が聞こえてきたのは。
そちらへと注目すると、セイレムのほうに集まる白蛇の数を遥かに超す、白蛇達が群がっていた。
「「せーのっ!」」
水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)とマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)が声を合わせて、すれ違うようにジャンプしあう。
巫女服の袖が風にたなびく。赤と白の巫女服に、緑と黒の髪が混ざりさらにその踊りを華やかにさせていた。
「さて、そろそろこの迷惑な神楽をお開きにしないとなのだよ」
神様は右手を前にだし、水を神楽を舞うセイレム達に放とうとする。
が、その右手は見えない何かによってはじき飛ばされた。
「やっと……見つけましたよ白蛇の神様」
「へえ〜、あの白蛇たちの大群からここまで来れたんだ〜」
少しくたびれた様子で非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)が立っていた。
その反対側ではイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が肩で息をしていた。
自身の右手をはじいたのは、イグナのバーストダッシュによるものなのだとすぐにわかった。
ここまで、近遠とイグナ達は白蛇達の迷惑行為を妨害するため、左へ右へと走り回ってのことだった。
「さすがに、白蛇達が多いのですわ……」
とユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)も疲れた様子で言うが、もはや近遠にはそんなの関係なかった。
「はやく止めないとこの神社の信仰……存続に関わることになっていたのですからしかたないです……」
「ばってばてのおつかれさまな〜私はこれでなのだよ〜」
神様はまたにやりと笑みを浮かべ、その場を立ち去ろうとする。
が、その身動きを縛られてしまう。
「逃がさないのであります!」
吹雪が全身を使い、神様の体をしっかり捕まえていた。
「なっ、いつのまになのだよ〜。でも子分たちが来ないのは何でなのだ?」
「それは……あの人たちのおかげなんだよね」
セイレムが先ほどまで自分たちが神楽を舞っていたはずの場所を指さした。
「わかいもんたちいいぞ! ひゅーっ!」
もはや見とれるというものではなく、自らのしっぽをバネにジャンプまでする白蛇が居るくらいに盛り上がっていた。
「はあはあっ――」
ゆかりとマリエッタは息を切らせながら踊っていた。
「すっごく楽しいよ〜っ!」
「た、確かに楽しいけど」
ゆかりは楽しい反面、白蛇たちの視線が気になっていた。
「ひゃー、えろいな〜」
「見ろよ、あのくびれ!」
白蛇たちが口々に叫ぶ。
二人とも激しい踊りにより巫女服が、肩から首もとにかけて肌が露出していた。
その額、髪にまで汗まみれになりながらも、それらの汗が巫女服に次々したたり落ちる。
その汗と露出した肌が二人の姿を妖艶さえ感じさせていた。
「はあ……はあ……でもなんか気持ちいいかも」
ダンスは大詰めを迎えているのか、ますます激しくなっていく。
ゆかりは手足は確かに動かしてはいる物、意識、思考が無へと変わっていく感覚に襲われる。
「おぉおおおおおおおおおおおおっ!」
突然蛇たちから驚き、喝采が上がる。
その声にゆかりとマリエッタは我に返ると、口元を互いに奪い合っていた。
「――んんっ」
が、突然の疲れと眠気に襲われそのまま二人はその場に寝込んでしまった。
蛇たちが見入っていたのゆかりとマリエッタだけではなかった。
もう一人、変わった巫女さんがいたのだった。
「ね……こみみだ……とぉおおっ!?」
数匹のメガネをかけた蛇たちが、大きな声で騒ぐ。
「あらあら、可愛い白蛇ちゃんたちね」
巫女服姿に、猫耳、さらには白色の猫耳までつけたリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が白蛇たちを前に、笑顔で対応していた。
「も、萌え〜っ!!」
「可愛いっ、持って帰りたいわ!」
「お姉さんになら連れて帰られても良いかも……」
白蛇たちはまさにリリアに夢中だった。
「にしても、耳としっぽをつけてる巫女さんなんていないじゃないのよっ!」
リリアは「巫女さんはネコミミとしっぽをつけるんだ」とだました、エースに後で仕返しをしてやろうと心で誓ったのだった。
「……子分たちはみんな、見入ってしまってみたいなのだよ!?」
「これで、白蛇たちが邪魔や妨害することはないですね。さて、あとは貴方だけです」
近遠の隣には神主が、札を一枚やってくる。神主に近遠があらかじめ根回しさせていたものだった。
「それは、お札。やっぱり……人間は悪者は封印することしか……考えていないのだよっ!!」
「きゃっ!!」
突然、周辺を白い煙が視界をふさぐ。
「人間たちに天罰をやるのだよっ!」
神様は空に浮かび、手を空に掲げると周辺の雲が一気に黒く染まっていく。
ゴロゴロと不気味な音をたてて、境内を一気に暗闇が襲う。
「アルティアちゃん!」
ユーリカが叫ぶと同時にアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)の頭上で音を立てて、白い光が走った。
思わずユーリカたちは目をつむった。
「……ふう、危なかったのであります」
声を上げたのは、吹雪だった。
間一髪のところで、千里走りの術を使い、アルティアを助けたのだった。
「助けていただきありがとうございます」
「いやいや、それよりも神様の方はどうするのであります?」
「……これ以上被害を出さないためにも早急に封印しなければいけません」
近遠が空を見上げながらぴしゃりと言った。
空に見える神様は、ただ無表情にこちらを見下ろしていた。
「これはお返しですわ!」
ユーリカが神様へ向かって、稲妻の札を放つ。
雷はたしかに神様にまっすぐと飛んでいたはずが、少し右へと逸れてしまう。
「べ〜、そんなのあたらないのだよっ!」
そういうと、神様はユーリカに向かって雷を落とした。
直撃はしなかったものの、電気の塊がユーリカのそばをかすった。
「――っ!!」
その数ミリ、静電気程度しか触れていないはずの雷だったが、ユーリカにとってはまるで感電したような感覚に襲われる。
「だ、大丈夫でございます!?」
あわててアルティアと近遠が駆け寄り、ユーリカの負傷した腕を覗き込むと絶句した。
普段は白い華奢な腕がとても少しかすったとは思えないほどに黒焦げていた。
「まさか、さっきの煙……いえ、水蒸気は」
近遠はさっきの目くらましだと思ってた煙が、水蒸気だと気が付く。
水蒸気であれば電気も必要以上に通しやすくなっているのだった。
「思ったより頭の働く神様なのかもしれません……しかし」
近遠は空の神様をにらんだ。仲間に傷を与えたことへの復讐心にかられながら。
「こうなったら、あの神様を痛い目に遭わせてでも地上に引きずりおろさなければなりませんね……」
「待った、そのまま封印してしまうと、神社の神通力が無くなるんじゃないかい?」
満点の笑みを浮かべながらエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は歩いてきた。
薔薇を一輪取り出し、巫女服姿のセイレムへと渡す。
「とても巫女服がお似合いですね」
「ありがとう〜?」
目をきょとんとさせながら、セイレムは薔薇を受け取る。
そして、エースは神様を見上げた。
「神通力がなくなるとエースさんはおっしゃいましたが……じゃあ、どうするつもりですか?」
「もちろん、あの神様の女の子と仲良くなってしまえば良いのさ」
「無理ですわ」
「っと、無理かはやってみる価値があるんじゃないかな」
「……お話し中悪いですが、また来るのでございます!」
全員が一斉に空を見上げると、再び神様の雷がエース達をめがけて襲ってくる。
その雷は、全員のすぐ横へと大きな穴をあけた。
「……とにかくあの娘を冷静に、させる必要があるね。どうにかあそこまで行ければ」
「それなら、あたしがお手伝いしますわ」
「おお? ありがとう、お嬢さん!」
空を飛びたがっているエースにユーリカは空飛ぶ魔法↑↑をかける。
エースはそのまま神様の居る上空5メートルへ向かって浮かび上がった。
「なんだ、おまえは!」
「げっ」
神様はエースを見ると同時に、腕を上空へと伸ばした。
その手の平、上空には水がいたるところから収束していく。
「この時期の水は洒落にならないよ!? お嬢さん落ち着いて!」
「うるさいっ!」
収束した水は、エースをめがけて襲ってきた。その量は優に10リットルはありそうだった。
何とかしてよけようとするが、空飛ぶ魔法の制御がうまくいかず、命中はよけられない。
エースは紅蓮の走り手を発動させた。
地上で全員が固唾をのんで見守っていた。
「まさかやられたのでは……」
アルティアが不安そうな表情で見えなくなった上空を見上げる。
上空から雨が突然降りだした。
「あたたかい――」
まるでお湯のような雨が降ったとおもうと、すぐに上空は晴天の青空を見せた。
「どうやら……うまくいったみたいですね」
近遠がまぶしさに半目で上空を見上げながらぽつりとこぼした。
晴天の空に、神様をお姫様のように抱きかかえエースは浮いていた。
それを見届けた近遠は、静かに持っていたお札をポケットに突っ込んだ。
「な、何をするのだ〜!!」
「おや、こう見れば見るほど普通のお嬢さんだ。そう怒らずもっと笑ったほうがお可愛いですよ?」
「なっ!」
エースの言葉に神様の顔が一気に紅潮していく。
「さて、お嬢さんにはしばらく俺たちの言うことを聞いてもらおうかな
「わっ」
エースはどこからか花束を手品のように取り出すと、神様に渡したのだった。