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A NewYear Comes!

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A NewYear Comes!

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 年末編
 
 
 ――師走。
 僧侶の意味を持つ『師』が仏事の忙しさで走り回るほど忙しいからその名がついたとも言われる月だ。
 十二月になり、一年の終わりが近付くにつれてグッと冷え込みが増してきた。街路樹の木の葉は落ち、待ち行く人々も寒そうにコートに身を包んでいる。
 そんな寒空の下、妖しく笑う人影があった。

「うふ……うふ、ふふふふふふふ。ついに待ちに待ったこの日がやってきましたわ――!」

 退紅 海松(あらぞめ・みる)は、普段の優しそうな顔を寒さのせいではなく紅潮させて、今日行われるイベントの会場へと到着した。その細い腕のどこからそんな力が出るのだろうというほどにずっしりと重そうな存在感を放つキャリーを引いて関係者入口へと歩いていくのだった。

 空京ビッグサイトで本日行われるのは『同人即売会』。
 同人即売会は、様々なパロディを取り入れたものやオリジナルの同人誌、ゲーム、音楽CDなどを販売・配布するイベントである。もともとは同じ趣味を持つ人たちが集まって始まったもので、小説家や歌人などがともに雑誌を作っていたのだが、現在は漫画で描かれた同人誌が一般化してきている。個人でも容易に作れるようになった技術の進歩もさることながら、「何でも試してみよう」という向上心のもとに新しいものをどんどんと開拓していった人が多いのも事実だ。
 そんな時代の流れに柔軟に対応した人たちは、やがてサークルと呼ばれる個々の集団を作り、切磋琢磨してきた。今即売会が一大イベントとなっているのもその努力のおかげといってもいいかもしれない。
 余りある空間にぎっしりと並べられた数多くのサークルブース。まだ一般開放前で人はそこまで多くないが、並べられた机の数を見ればどれほどの人が訪れるのだろうか容易に想像がつく。
 各ブースで出展サークルが忙しそうに準備をしているのを見ながら、海松は気持ちがどんどん高揚していくのを感じていた。綺麗に並べられた海松の出展ブース。
 まもなく開場となるビッグサイトの外では入場整理が行われ、待ち時間が短くなるたびに外のざわめきが大きくなっていくのが中からでも分かる。

 開場時間。
 スタッフの声と、開けられた扉、そして物凄い数の人の気配と、地鳴り。

「さぁ、今年も楽しみましょう!」

 にっこりと笑って、自分のブースに来るだろうファンのために海松は気合を入れなおして臨むのだった。


「母様、聞いてないよ〜!」

 即売会の同人誌ブースの一角に、ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)たちのブースがひっそりと存在していた。

「ユーリちゃんはいつも通りが一番ですぅ〜」

 メアリア・ユリン(めありあ・ゆりん)がいつもの服装でというのでいつも通りメイド服で現れたユーリは一人後悔していた。

「まぁまぁ気にしないでさ、楽しもうよユーリちゃん!」

 あはは、と手伝いに来てくれたフユ・スコリア(ふゆ・すこりあ)笑いかけるもユーリは「そもそも即売会と聞いてない」といじけてしまった様子だ。

「みんなひどいよね?! こんなことになるならもうちょっと服とかさ……」
「……さぁ、どうでしょう?」

 バンシー・トゥールハンマー(ばんしー・とぅーるはんまー)に問いかければ、少し困った顔で返されてしまい、あううとブースの隅っこでしゃがみこむのだった。

「そういえば、スコリアは何を手伝えばいいの?」
「そうですねぇ、売り子もやってもらいたいですが……あ! まずは看板作りですぅ! ユーリちゃん、看板作るですよぉ〜!」

 楽しそうなメアリアとスコリアをよそに、まだ隅っこで少しいじけたままのユーリにバンシーはそっと肩をたたく。

「ねぇねぇ、看板はどんなの作るの?」
「ふっふっふ。もちろん可愛いのですぅ〜。人がもっと増えてくる前にちゃちゃっと作っちゃうですよぉ〜」

 メアリアの言葉にユーリはハッとした。
 騙されて普段着(メイド服)で着てしまったが、ここはもう戦場。そしてここにいる間はお客様に満足してもらう接客をするメイド! ここで頑張らないでいつ頑張るのか!
 意を決してすっくと立ち上がり、メアリアに声をかける。

「母様、僕も手伝うよ! えーっと、看板って何で作る予定なの? とりあえずスケッチブック?」
「その言葉を待ってたですよぉ〜! ユーリちゃんはとりあえずそこに座ってくださいですぅ〜」
「こ、こう?」

 ブースの手前、出入り口に被る位置にぺたりと座り込むユーリ。

「そうそういい感じですぅ。あ、手はもっとこう……」

 メアリアの指示でユーリは可愛いポーズで少し恥ずかしそうにしていた。

「うふふ〜可愛いですよぅ〜。ユーリちゃんもう少し笑って上目遣い、そうですぅ〜!」
「え、ちょっ、母様、まっ、またこんな展か――」

 慌てて静止の言葉を投げかけたのだが、気付くのが少しばかり遅かった。
 メアリアの手により、ユーリは石化してしまったのである。

「やっぱり最高に可愛い看板ですよぅ〜ユーリちゃん」

 うふふと笑うメアリアとスコリアの横で、固まってしまった主人を見ながらバンシーはぽそりと呟くのだった。

「同人即売会…………侮れません」