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A NewYear Comes!

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A NewYear Comes!

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「よいか? まずはあのように深く礼を二回するのじゃ」
「二回なのか」

 まもなく自分たちの参拝の順番が回ってくる。先に参拝している客を見ながら、夏侯 淵(かこう・えん)コード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)へ本日何度目かになる参拝方法を説明しだした。

「次は手を二回叩く」
「本当だ。確かに二回だ」

 おぉ、と感嘆の声をもらすコードといつもよりもいきいきと説明をする淵を見ながら、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はこの間の会話を思い出していた。

「本当に何度行っても“初”詣というのか?」
「うん。そうよ。何度行ってもいいの」

 コードにとって初詣という文化には触れてこなかったのでとても新鮮らしく、分からないことだらけで終始質問攻めだった。

「ルカが詣でたのはー……実家近くの神社に、御来光、葦原……空京神社は二回目でー」

 指を折って詣でた箇所を数え出すルカに「正月って忙しいんだなあ」などと感慨深く呟くコード。その言葉を聞いてそれは極端すぎるとすかさず淵からツッコミが入ったりしながらも三人で文字通りの『正月トーク』は続いた。

「ニルヴァーナの俺でもいいのか」
「硬い事はあまり問わぬ」

 世の中は広い。他の国や地域では一つの神だけが唯一の存在として祭られることもあったが、ここでは神と呼ばれるものは無数に存在する。ネット上にもよく神と書かれた存在はあちこちで見かけることができるのだ。星の数とはよくいったものだが『八百万』と書くだけあって、きっと何にでも神様が宿るのだからから何でも大切にしろという教えだったのだろう。
 実際に日本でも異文化を数多く取りいれ、ツリーを飾りクリスマスを祝った数日後にはこうしてお寺で鐘を聞き新年を祝っているのだ。
 もはや楽しければいいというものにすら感じてしまうところでもあるのだが、その寛容性というか順応性には正直驚かされるところではある。
 コードもそんな不思議な民族性に惹かれつつ、初詣の日を心待ちにしていたのであった。

「よし、では今まで説明した通りに実践じゃ。いろいろと神様に伝えたいことを言い終わったら」
「最後は一回だけ礼をするんだな?」
「そうじゃ! では早速……」

 パンパンと手を叩き、お参りをする淵。それにならうように真剣な表情で教えられたとおりに実践するコード。

(……強くなるよう努力する。何でもいいの。ダリルを負かせるくらい強く)

 絶対に『参った』と言わせるようになると心に誓って、コードは深く礼をした。

「しっかり出来ていたようじゃな」
「そうか」
「ごめんごめん、お待たせたー」

 一番最初に賽銭を入れたはずのルカが二人よりも遅く参拝を終えて戻ってくる。

「そんなに熱心に何を願っておったのじゃ?」
「いやぁ、まあいろいろね。そういう淵は『無病息災』とかそんな感じの無難なお願いなんでしょ?」
「む、これ以上に素晴らしい願い事は他にあるまい」
「……その願いとやらは一つに絞らなくてもいいものなのか?」

 コードが早速疑問を口に出し、ルカがざっくりと説明をしてそこに淵の細かい修正が加えられる。もうこんなやり取りをするのは何度目だろうか。
 これからもこんなふうにやっていきたい。
 そのためにも出来ることをしようとルカは買ったばかりの甘酒を一気に飲み干し固く決意したのだった。

「ん、甘酒うまっ」




 本殿から一本はずれた通りにある授与所の前でミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は忙しなく動き回っていた。
 彼女が本日勤務することになった御神札授与所の前にはかなりの数の男性客が押し寄せていた。それもそのはず、ここの授与所にはキリッとしたクールビューティーな大岡の他に、龍杜 那由他(たつもり・なゆた)アルセーネ・竹取(あるせーね・たけとり)という儚げな美人が二人も並んで座っているのだ。どこからか噂が広まり、美人ばかりがいる授与所があると聞きつけて男性客ばかりがここを訪れていたのだった。
 巫女さんの仕事を手伝うようになって三回目になるミルディア。経験からしっかりと防寒対策をし、参拝客とのやりとりもある程度慣れてきたと思ってはいたのだが、三回ではまだまだ未熟だったようで、実家が神社で幼い頃から手伝いをしてきたものにはまるで届いていないと分かった。三人のおかげで混雑しているにも関わらず参拝客をそう待たせずにスムーズに流していることがミルディアに少し憧れの念を抱かせた。
 授与所の中は業務が滞りなく進んでいくが、参道にいる参拝客の案内や列整理をしている警備が明らかに不足しているのが目に入り、職員たちに伺ってミルディアは授与所の外へと出て参拝客へと声をかけた。

「皆さん、ようこそお越しくださいました! ご参拝の方は右側の参道へ、おみくじやお守りをお求めの方は左側の列へ並んで頂けるようご協力お願いします!」

 小さな神社にお参りに行ったときは、こうして巫女さんが参拝者の対応をやっていることを思い出してミルディアは笑顔で声を上げた。

「すいません、ここに行きたいんですが……」
「はい、それでしたら……」

 構内の地図を持って声をかけてきた参拝客に、今ここがどの辺りで、どう行けば目的地までたどり着けるか分かりやすく案内をする。
 この神社も結構な広さがあるので今いる位置が分からなくなってしまう人が多いようだ。一応立て札や看板はあるのだが、この人の多さではすぐに見つけることは難しく、道を聞かれることが多々あった。
 ミルディアも授与所の外に立ってから何度も道を聞かれ、最初は上手く説明できなかったが、何度も繰り返しているうちにコツを掴んできたようだ。

「ありがとうございました」

 お礼を言う参拝客を笑顔で見送って授与所に向き直る。
 相変わらずの混雑ぶりだが声がけの効果もあってか、みなきちんと並んで列を作ってくれていた。

「お守り・おみくじなどお求めの方はこちらからお並びください」

 来たばかりでどこに並べばいいのか分からないという顔をしている人たちに丁寧に案内をしながら、ちらりと授与所のほうをうかがう。
 今朝一番最初にそこに座ったときと同じように、疲れなど微塵も感じさせない笑顔で参拝客とのやり取りをしている。

「どうぞ」

 大岡が笑顔で参拝客にお守りを丁寧に渡している。他の二人も変わらず笑顔で、それでいて淑やかな振る舞いを崩さずに接客をしている。
 そんな三人のように大人の余裕のようなものを出すにはまだまだ経験が足りないと思ったが、今回出来ることはこれだとミルディアは元気に案内に力を入れるのだった。

「彼女、頑張ってますね。さっきも迷子の子がいたときもその子が不安にならないように見ていてくれてましたし」

 客足も落ち着きようやく一息つける余裕が出てきた頃、元気よく参拝客に挨拶するミルディアを見て大岡が他の二人に声をかけた。

「そうですわね。あらあら、お鼻が赤くなってますわ。あとで頑張り屋さんに温かいものを差し入れてあげましょう」
「んー……あんなふうに動き回ったり出来る巫女さんってなかなかいないよねー。どこも厳しいっていうか……ここは割りと自由だからいいけどさ。うちも厳しいからああいうのできたら楽しそうでいいなぁ」

 頬に手を当てて心配そうに見る竹取と、少し羨ましそうにいきいきと動き回るミルディアを見る龍杜。
 そんな龍杜の言葉を聞いて大岡もいろいろと思うところがある。
 大岡の家も厳格な神社で厳しく躾けられたものだ。神社とはこういうものである、と幼い頃から教わっていたものが、実はこういう別のものもあるんじゃないかとこの年になって分かってきたことも多い。実際に家を出て初めて、ミルディアのように明るく楽しそうに巫女として務めているのを見て、本当はこういうものを望んでいたのではないかと思ってしまう。厳しく、巫女らしくあれという厳格なものではなく、家族団らんのような温かで包み込むようなもの。
 しかし、もう今となっては何が正しいのかは分からない。精一杯教わったことを生かして、ここで奉仕するだけだ。

「確かにあんなに鼻が赤くなってしまって……」

 ミルディアにもしもの自分をどこかで重ねているような錯覚を覚えながら、大岡は彼女を見て優しく微笑むのだった。




「お、やってるやってる」

 袴に身を包んだベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が慣れない振袖で歩きづらそうにしながらも嬉しそうに歩くフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)とともに、竹取や龍杜のいる授与所へとやってきた。ちょうどよく人も少なくなってきていたようで、二人のところまでは待たずに行けそうだ。

「わ〜、那由他さんにアルセーネさんです〜。あけましておめでとうございます〜」

 ぱたぱたと耳と尻尾を嬉しそうに動かしながらフレンディスが小走りで近寄る。

「にゃっ?!」
「おっと」

 振袖で走ったせいで、参道のちょっとした段差につまづきバランスを崩したところを、ベルクに腕を掴まれて何とか転ばずにすんだ。

「気をつけろよフレイ。年明け早々心配かけんな」
「あ、ごめんないマスター」

 フレンディスの手を取って立たせると、ちょっぴり悲しそうに耳がたれていくのを見て頭をぐりぐりとなでる。

「怒ってねーよ。だからんな顔すんな」
「は、はい!」

 ぱっと笑顔になるフレンディスに微笑むベルクだったが、授与所から聞こえてきた声ではっと我に返った。

「年明け早々ラブラブで羨ましいですわ〜」
「二人ともあけましておめでとうー!」

 ニコニコと授与所から竹取と龍杜に声をかけられて、恥ずかしさをごまかすようにベルクはごほんと咳払いをひとつした。

「あー、これくれ」

 お守りをひとつ掴んでぐいっと竹取に渡すベルク。フレンディスは楽しそうに隣の窓口で龍杜と会話しながらお守りを選んでいる。

「はい。では千五百円お納めください」
「ん」
「はい確かに」
「あ、それとこれ」

 お守りを受け取ったあと、ベルクはガサリと袋を竹取に手渡した。中には温かい飲み物と軽食が数種類入っている。

「今日は寒いし、ここの仕事ってあんまり動けないんだろ? フレイが差し入れだって」
「あらあら、ありがとうございます。あとでみんなでいただきますね」

 少しだけ驚いたような顔をした竹取だったがすぐに先ほどまでの顔に戻って、嬉しそうに笑う。

「マスター、お守り買えました! 次は待ちに待ったお参りですよ〜!」
「あ、こら一人で行くな! じゃ、二人とも頑張れよ」

 竹取のところから早くも歩き出し始めようとしているフレイを追いかけて、ベルクは授与所を後にする。

「えへへ〜、今日はマスターとお出かけです〜」
「ただのお出かけじゃなくて、一応デートなんだけどなぁ」
「何か言いました?」
「いや、なんでもない」

 ベルクの呟きは人ごみの喧騒でかき消されてフレンディスには届かなかった。

「ほら、迷子になると困るから」

 しかし、この手は確かにフレンディスに届いている。
 自分よりも小さな手を握り、ベルクとフレンディスは参拝へ向かう列に向かうのだった。