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珍味を求めて三千里?

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珍味を求めて三千里?

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一章 金色の雷光



 森の中、何かを探す人影二つ。

「美味しい兎さんっ、どこにいるかにゃー?」
 ご機嫌そうに森を行くクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)
 
「んー、HCは頼りにならないか」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は先程からHCで動物の生体反応を探していた。
 しかしここは森。黄金兎だけでなく普通の兎、さらにはリス等の小動物も生息しているため、反応が多すぎて黄金兎を見つけることができない。

「オイラの本能がこっちだって言ってるにょ!」
 本能に従いどんどん森の奥へと進むクマラ。
 そうして進んでいくと……。

「いた! エース、あそこ!」
「しっ、静かに」

 偶然か否か、彼らは前方かなり距離の離れた木の根元に、金色に輝く小さな兎を見つける。

「距離を詰めて眠らせるよ」
 そう言って一歩、二歩、踏み出した時である。

「!」

 黄金兎は突如耳をピンと立たせると、くるりと背を向け駆け出す。

「え、うそ!?」
 慌てて後を追うクマラだったが、兎は目にも留まらぬ速さで木々の合間を駆け抜けていく。俊敏に動く小さな金色は、まるで稲妻のよう。
 あっという間に姿を見失ってしまった。

「これは……想像以上だな」
「うー、せっかく見つけたのにぃ!」

 地団太を踏むクマラ。
 エースは先程兎がいた地点へと向かう。そこには枯れ草や枝を使って作られた、小さな巣があった。

「あ、あの」
 声に振り向くと、木々の間に一人の女性が立っていた。

「これはこれは。素敵なお嬢さん、花をどうぞ。こんなところにお一人でどうしたんです?」
 そう言って可愛らしい一輪の花を差し出す。

「あ、ありがとうございます。あの、私新年会の料理で使う、黄金兎さんを捕まえに来たんです」
 花を受け取り、リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)が説明する。
「えっと、お二人も、黄金兎さんを探しに?」
「ええ。ここに巣は見つけたんだけど、当の兎にはついさっき逃げられてね……」

 溜息をつくエース。

「そうだったんですか……。あ、兎さん、また巣に戻ってくるんじゃないでしょうか。巣を作り直すのって、大変だと思いますし」
「ああ、そうか。でも、一体いつ戻ってくるやら……」
「そ、それなら、良い考えがあります。ちょっと待っててください」
 
 リースは手近な木に触れる。
(木さん、黄金兎さんが何を食べていたか知りませんか?)
 心の中で木に尋ねるリース。
 ややあって、分からない、と返事。
 リースは木にお礼を言うと、離れた場所に生えている別の木に触れ、同じ問いをする。

 それを何度か繰り返した後、一本の細い木から望む返答が得られた。
(若葉色の……小さいの。あっちにある……)
 
 言われた方角へ進むと、足元に生える小さな草花を見つけた。黄緑色の小さな実がついている。
 リースはそれをいくつか摘むと、エース達の所へ戻る。

「あ、あの、これ黄金兎さんが食べてたみたいです。これを置いたら、早く戻ってくるんじゃないでしょうか」
「驚いた、君も植物と話せるんだね」
「は、はい! あ、あなたも……ですか?」
「ああ。俺は自然が好きでね。森の友人とよばれることもある。植物には色々とお世話になってるよ」

 リースは草の実を黄金兎の巣の入り口にそっと置く。

「捕獲は俺がやるから、二人は離れた所で隠れててくれるかい?」 
「は、はい!」
「了解だにゃ!」

 リースとクマラは巣からかなり離れて、エースだけは二人よりもやや近くの茂みに隠れた。
 身を潜め、どのくらいの時間がたっただろうか。突然、木々の合間から金色の毛並みが姿を現した。
 黄金兎は隠れているエース達に気付かず、巣の近くに置かれた草の実を食べ始める。

 途端、兎の周囲の木々から、絡みついた蔦が剥がれ、兎へ襲い掛かった。
 驚き逃げ出そうとする兎だが、周囲を覆うように動く蔦に、すぐに全身を絡め取られ動きを封じられた。

「やった!」
「捕まえた……!」

 離れていた二人がエースの元に駆け寄る。

「わ、本当に綺麗な毛並み……」
 黄金兎をまじまじと眺めるリース。多少土に汚れているものの、綺麗な金色の体毛は淡く光を放っているようにさえ見える。

「ちょっと眠っててにゃー」
 蔦を噛み切ろうと暴れる黄金兎に、クマラがヒプノシスをかけ眠らせる。
 眠った兎を持ち上げるクマラ。
「うわ、意外と重い」
「あ、あの、手伝いましょうか?」
「大丈夫! さあ、早く帰っておいしい料理一杯作ってもらうよー!!」





 エース達とは別に、黄金兎を追う一団がいた。

「ったく、一体どこにいるんだ」
 ローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)がそう言って溜息をついた。
 そこに、空から黄金兎を探していたコアトル・スネークアヴァターラ(こあとる・すねーくあう゛ぁたーら)が降りてくる。

「どうだった?」
「やはり木が多くて空からでは見えんな。気配で探るにも野生動物の数が多すぎて、どれがその兎やら」
「そうか……」
 再び、溜息をつくローグ。
 先程からずっと森の中を捜索しているのだが、未だに姿を見ることすら出来ないでいる。

「こんなことなら無理にでも香菜を連れて来るべきだったか。人手が少ないって言って牛の方へ行ったが……正直、こっちを手伝ってほしかったな」
 香菜は暴れ鬼牛の肉を手に入れる為に森の奥へと向かっている。
 元々、食材集めの言いだしっぺである香菜を借り出し、こちらを手伝ってもらおうと思っていたのだが、香菜は人数配分が大事!と牛退治のメンバーについていってしまった。
 当初は納得していたものの、こうも黄金兎が見つかりにくいとなれば、やはりこちらに来てもらっておけば良かったと今では少し後悔していた。

「あ、いたいた。二人とも、こっち来て!」
 離れて行動していたフルーネ・キャスト(ふるーね・きゃすと)が戻り、ローグ達を呼ぶ。
 その両腕には野草や果物、キノコが沢山抱えられていた。

 フルーネに連れられ森の奥へと進むローグとコアトル。
 ふと、ローグが気になったことを尋ねる。
「なあ、そのキノコやら野草やら、ちゃんと食べれるのか?」
 フルーネの抱える食材の中には、見たことの無いキノコや野草も含まれていた。
 するとフルーネは困った表情で答える。
「分からないけど……食べれる物もあるだろうし、持って帰って業者の人に聞いてみます! もしかしたら美味しい物かもしれないし」
「それならいいが、間違えても確認せず料理に入れたりしないようにな?」
「そんなことしないもん!」

 そんな話をしながら進んでいると、ふいにフルーネが足を止めた。

「ほら、あれ」
 フルーネが指差す先に、小さな金色の影が。
「黄金兎! よく見つけたな」
「野草取ってたら偶然……あ、音に敏感みたいだから気をつけて」
「ああ。コアトル、空を飛んで反対側から追い込んでくれ。気付かれないようできるだけ大回りでな」
「承知した」

 コアトルが宙を飛び、ローグ達から離れていく。
 そのまま上空かなり高い所まで浮かび、ローグ達から黄金兎を挟んで反対側へと移動、降下する。
 そしてゆっくりと黄金兎との距離を詰め始める。

 突然、黄金兎が駆け出した。コアトルの存在に気付いたのだろう、凄まじい速さでその場を後にする。
「逃がすか」
 ローグもまた駆け出す。足音に気付いてか、黄金兎が逃げる軌道を修正、ローグとコアトル、二人から距離を取るように走り去っていく。
 懸命に後を追う二人だったが、足の速さでは勝負にならず、すぐに距離を開けられてしまう。

 だが、それは彼らの想定の内であった。

「お、来た来た」
 兎の逃げる先に、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が身を潜めていた。
 貴仁は黄金兎を目にするや、すぐに『ゴッドスピード』で加速。兎の行動を予測し、その軌道を変えるべく回り込む。

 貴仁に気付いた黄金兎が慌てて向きを変える。そこにさらに回り込み、また兎が向きを変える。そうやって、兎をある地点へと誘導していた。
 黄金兎が幾度目かの方向修正を行う。そして走り出した瞬間、足元に仕掛けられていた兎取りの罠が作動した。
 一つ目の罠はそのスピードでどうにか避けたものの、バランスを崩した兎は連なって仕掛けられていた隣の罠を避けられず、後ろ足にロープが絡みついた。
 小さな鳴き声を上げ、黄金兎はロープで宙に吊り上げられる。

「ふぅ、うまくいきましたね」
 貴仁が捕らえた兎の元へ歩き始める。
 彼はローグ達と相談し、この周辺にいくつものトラップを仕掛けていた。
 そしてここに黄金兎を追い込むのが、ローグ達の役目だったのだ。

 貴仁が兎を地面に下ろし、縛りなおす。

「まったく、恐ろしい逃げ足の速さだな。流石珍味と言われるだけはある」
 遅れてローグ達が合流する。
 貴仁は足を縛った兎をローグへと差し出した。
「この兎はお願いします。俺は他の罠を見てから戻ります。もしかしたら何か掛かってるかもしれないので」
「分かった。責任持って運ばせてもらうさ」

 ローグ達が黄金兎を手に森の外へ向かう。
 反対に貴仁は森の奥へと向かった。
 獣道を暫く歩くと、巧妙に偽装された獣用の罠が。
 
「お、掛かってる掛かってる」
 貴仁が仕掛けておいた罠には、黄金ではないが兎が掛かっていた。
「これもついでに持って行きますか」
 兎肉は高たんぱくで脂肪が少なく、美味しいと聞く。
 黄金兎ほどではなくても良い食材になるだろう。
 貴仁は数匹の兎を手に、森を後にした。