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リアクション
同時刻 迅竜 格納庫
一時撤退した盾竜。
格納庫ではその修理と補給が急ピッチで行われていた。
万全の用意と整えて待っていたザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)と強盗 ヘル(ごうとう・へる)。
特に今回が初出撃となる盾竜はこの作戦の鍵となる筈――そう考えた二人が特に重点的に整備できるようにしておいたおかげで、盾竜の修理と補給は高効率で進んでいた。
「ひとまずご無事でなにより。すぐに完了しますので、少しだけ待っていてくださいね」
「それまで少しでも休んでおきな。それも立派なパイロットの仕事だぜ?」
ハッチの開いたコクピットに座る蓮華とスティンガーに語りかけながら、ザカコは修理を進めていく。
修理の方法は戦艦の整備用プログラムに先端テクノロジーや機晶技術で得た知識をフル活用することに加え、ザカコは前回土佐で使われていたイコン損傷度自己診断プログラムも使用させて貰うことで、より効率的に行っていた。
「九校連の戦力が集まるのはいいが、機体毎に整備箇所や方法が変わるのは難点だな」
そうぼやきながらもヘルはせっせと整備を進めていく。
機密があったり整備に特殊な素材等が必要な機体はともかくとして、各戦艦のこれまでの整備内容や解析結果を統合して整備プログラムを最適化しておくことにより、効率良く修理等を行えると思い、ヘルが準備を進めていたのが役に立ったようだ。
「しかし、クローラさんの予見に助けられましたね」
盾竜の整備を進めながら、ザカコはヘルに言う。
「おうよ。電源ケーブルの予備を手配しといてくれたおかげで、すぐに交換ができるってもんだ」
会話しながらザカコとヘルは電源ケーブルを交換する。
「修理と補給、完了しました! いつでも再出撃可能です!」
「思う存分、連中にブチかましてやんな!」
「盾竜ならば大半の敵は先制攻撃で落とせるとは思いますが、もし接近されたら無理せず離脱して下さい。予備の弾薬は用意してあるので遠慮は不要です。ご武運を!」
良く通る大声で言って、機体から離れるザカコとヘル。
蓮華とスティンガーはそれに敬礼で応える。
「助かったぜ。それじゃ、再出撃といきますか!」
「感謝します。董 蓮華、スティンガー・ホーク――盾竜、再出撃します!」
敬礼の直後、ハッチが閉まるとともに盾竜は格納庫を出ていく。
盾竜が無事に再出撃し、ひとまず安心するザカコとヘル。
それも束の間、格納庫に設置された通信機にコールが入る。
「こちら迅竜格納庫、ザカコ・グーメル」
咄嗟にザカコが通信に応答すると、聞こえてきたのは青年の声だった。
『葦原明倫館所属、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)だ。機体が航続不能に陥った……迅竜! 済まないが収容してくれ!』
『了解。着艦タイミングを合わせてください――』
手短に指示しながらザカコは棒状の赤色灯を両手に一本ずつ持つと、格納庫の入口付近に立つ。
ほどなくして着艦してくる一機の鬼鎧。
鬼鎧――魂剛はザカコの誘導に沿って停止すると、コクピットから唯斗が飛び出す。
「この機体の整備内容は……任せな! 直ぐに動ける様に戻してやるぜ!」
「大丈夫ですか? お怪我は? まさか機体が被弾――」
緊張の面持ちで駆け寄るザカコとヘルに申し訳なさそうな顔をする唯斗。
それに続き、魂剛のコクピットから出てきたエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)がザカコに言う。
「怪我に関しては心配いらぬ。唯斗の奴、仲間の危機と聞いて、修理も完全に終わっておらぬ機体で飛び出しおった」
見れば、魂剛には各所にダメージの痕跡が見受けられるものの、真新しいダメージと思しきものは見当たらない。
「済まない。助けに来るつもりが逆に世話をかけてしまった……」
静かに歯噛みする唯斗。
その表情からも、彼の忸怩たる思いが感じられる。
「もし良ければ俺に予備機を貸してほしい。何か、空いている機体は無いか? どんな機体でも……!? あの機体は葦原で見た? 頼む、コイツを俺に貸してくれ!」
唯斗の目に留まったのは、乗り手がおらず格納庫の隅で直立したままロックボルトで固定された剣竜だった。
「ああ、ソイツは確か前回、パイロットを担当したって奴が今は天学の防衛部隊として戦ってるとかでな。パイロット不在っちゃ不在だが――」
答えながらヘルは少し考え込む。
「なるほど……確かにおまえも武術とイコン操縦両方の達人。なら、いけるか――」
ヘルがそう呟いた時には既にザカコが阿吽の呼吸で艦長に確認を取っていた。
「艦長の許可が下りました。唯斗さん、その機体――剣竜に乗ってください」
「感謝する! しかし、問題は戦場が水上という事だが……」
再び唯斗が歯噛みした瞬間、元気な女性の声が格納庫に響き渡る。
「そいつは問題ないぜ! オレに任せな!」
はっとなってその場にいた全員が振り返ると、そこにたっていたのはパイロットスーツに身を包み、ヘルメットを肩に担ぐようにして持った美人だった。
「いざって時に備えて香港支社に送ってもらった13Gが早速役に立ちそうだぜ。送っていってやるぜ、このガネットマイスターがな!」
そう言ってパイロットスーツの美人――シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は勝気に笑って見せる。
「敵がガネット乗りと聞いちゃ黙っちゃいられねぇぜ。ガネットの本気を見せてやる」
息巻くシリウスの隣に、一人の女性――サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が並び立つ。
彼女もパイロットスーツを纏っており、シリウスに負けず劣らずの美人だ。
「こりゃ一つの挑戦だね。よろしい、受けてやろうじゃないか」
サビクはそれだけ言うと、一足先にシリウスが手配していたという機体に乗り込んだ。
「助かる! ならば、征こう!友よ!」
シリウスに向けて大きく頷くと、唯斗は剣竜のレクチャーを受けにかかった。
「ふむ、剣竜、か。悪くない機体だがの……」
メインパイロットである唯斗がレクチャーを受けている間、エクスは剣竜の調整と機体色の塗り替え始める。
「やはり乗機の色は魂剛の様にパーソナルカラーでないとな」
レクチャーを終えた唯斗が戻ってくるのに合わせ、エクスはザカコとヘルに言った。
「そして迅竜のスタッフよ。すまぬが魂剛を頼む――では、征こう唯斗」
剣竜の再塗装と調整が進む間、そこから少し進んだ先にあるブロックでは、もう一つの『竜』への最終調整も行われていた。
「こんなこともあろうかと!」
工業用ロボットアームを操作しながら猿渡 剛利(さわたり・たけとし)が叫ぶ。
「そういえば、香港支社に行くって聞いてからその作業のピッチを上げてるけど、何やってるの?」
純粋な興味といった感じでライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が聞く。
「ああ。これか? 禽竜に衝撃波(ソニックウェーブ)を抑える装置を取り付けてるんだよ」
「衝撃波を抑える装置?」
「おう。禽竜のスピードを地球上で出したら大惨事じゃね? って思ってさ」
「やっぱりそれって不可欠なの?」
やはり純粋な興味から聞くライゼ。
するとそれに答えたのは剛利ではなく、その仲間である三船 甲斐(みふね・かい)だ。
「おいおいおい、地球の常識が通じないパラミタならともかく、地球圏内で乗り回していい機体じゃないだろう禽竜は。下手すっと衝撃波で海京が沈むどころか大災害クラスの大津波まで発生しかねんぞ」
甲斐の言葉に驚き、開けた口を手で塞ぐライゼ。
「まぁ、こんなこともあろうかと、禽竜が実戦投入されてからずっと、薫と協力して衝撃波を抑える結界装置をこさえておいたんだぜ。俺様の未来技術と薫の魔術技術の集大成だ、被害が大きくならん程度には衝撃波を抑え込んでくれるはずだぜ、もっともそれ以外にはなんの効果もないがな」
元気に笑いながら甲斐が言うと、佐倉 薫(さくら・かおる)が言葉を引き継ぐようにして、会話へと入る。
「よくもまぁ、出所不明な欠陥だらけの機体を実戦投入しようと思いよるのぉ。まぁそれだけ敵も強大なんじゃが。まぁ、わしは技術者としての最善を尽くすだけじゃの」
薫が言い終えたのを見計らったように、エメラダ・アンバーアイ(えめらだ・あんばーあい)もその場に現れた。
「こっちの作業は完了したよ」
ナノマシン拡散状態になったエメラダは、その身体を活かしてミクロの作業を手伝っていたのだ。
そのおかげもあって、驚くべきほどの速さで装置の取り付け作業は完了した。
「ほぇぇ、すっごいんだねぇ!」
とにかく凄い技術力を目の当たりにしたことを理解したライゼは感心したのを全身で惜しげもなく表現する。
「ま、艦長から香港支社に行くって聞いた時点で地球での戦闘に参加する可能性が一気に濃厚になってきたからな。なんとか急ピッチで仕上がって良かったよ」
取り付けが無事に終了し、動作のテストも無事に終了して、肩の力を抜く剛利。
「それはともかく、地球上でイコンを使って暴れるのなら聖歌隊にも目をつけられるってことを彼らは理解してるんだろうか? 九校連とは違う地球側の組織が敵になる可能性を。天学とアカデミーは姉妹校だからな、聖歌隊が出張ってくる理由は充分にあるわけだし」
今度は剛利が疑問を投げかけたのに対し、ライゼは屈託のない顔で答えた。
「どうなんだろ? でも、「それはそれとして、俺たちはあいつらをブッ倒すだけだ」――今回のパイロットはそう言うんじゃないかな」
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