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第7章 巫女パニック

「これ以上、変態な巫女さんの好きにはさせない! 巫女さん退治です!」
 びしいっと得物のミョルニルを高らかに突き上げ、及川 翠(おいかわ・みどり)は宣言する。
「翠ちゃん、私も成敗しに行くっ!」
 サリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)もそれに続き、二人はおー、と気合を込めて走り出す。
「あー、行っちゃった。まぁ、変態の巫女さんにはいい薬よね。アリシアさん……って、アリシアさん?」
 二人を見送ったミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)は、アリシアの方を見る。
 そしてかくんと口を開けたまま動かなくなってしまう。
「くすくす。アリシアさんは軽いですね」
「そ、そんな風に言われると恥ずかしいよぅ」
「アリシアさん……?」
 アリシアは、先程カップルになったばかりの姫乃といまだいちゃついている最中だった。

「(義理の)妹だけど、愛さえあればいいよねっ。綾乃ぅ」
「は、はぅうまいちゃん、それでもこんな所で、恥ずかしいよぉ」
 こちらも熱く熱くいちゃついているのは桜月 舞香(さくらづき・まいか)桜月 綾乃(さくらづき・あやの)
「気にしちゃ駄目。これは単なるスキル、そして巫女の目をくらますための演技なんだから」
「で、でもでもぉ……!」
 彼女たちは、ただいちゃついているわけではなかった。
 ただ、愛情の昂るままに抱き締めたり愛を囁いたりキスしたりしているわけではなかった。
「恋心を弄ぶなんて、神様だって許せないわ! あたしのハイヒールで愛のお仕置きよ!」
「ああまいちゃんってば百合で近親相姦でSMで女王様で、もう揺るぎないアブノーマル……! で、でもこんな騒ぎを起こす神様を放ってはおけません」
 二人の目標も、巫女そして彼女が持つ弓矢だった。
「いた!」
 そして舞香は、境内を走っている巫女を発見する。
「待ちなさーい!」
「許さないよ!」
「わ、私はただ素晴らしいアブノーマルを愛でていただけで……っ」
「言い訳無用!」
 巫女は、翠とサリアに追いかけられている最中だった。
「よし綾乃。あたしたちも負けてられないわ!」
 舞香がそれに続こうとした時。
 バン。
 バン。
 バン。
 銃声と共に、巫女の足元の土が爆ぜた。
「ひっ」
 固まる巫女の前に現れたのは、魔銃を構えた狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)
「他人の心を無理やり操って笑い者にする。そんな腐った根性にはお仕置きが必要だな!」
「ち、違っ、私は……きゃうっ!」
 乱世に背を向け走り出そうとした巫女は、地面にどさりと倒れた。
 空を飛び、巫女に話をする機会を狙っていたフルフィ・ファーリーズ(ふるふぃ・ふぁーりーず)が、突如上空から飛び掛かってきたからだ。
 巫女の上に着地したフルフィは、両手の翼を元に戻す。
「そう、人外! 人外いいじゃん人外! でも、ひとつ言っておかなきゃいけないことがあるじゃん!」
 そして今ここに、フルフィは宣言する。
「人外好きは、アブノーマルなんかじゃない! 至ってノーマル!」
「え、えー……」
 巫女の上に立ったまま、フルフィは巫女に、そして周囲に集まって来た者たちに向かって熱弁する。
「人外を好むという同士だからこそ、分かって欲しい! そしてもっと人外を愛して欲しい! そもそも人外とは……」
「おいこら巫女」
 話が長くなりそうな所を無視して、乱世は踏まれている巫女に近づいた。
「そんなに異常な愛が好きなら、死体偏愛もアリだよなぁ」
「え、いえ……」
「もうじきその弓のせいで、死体偏愛に目覚めた奴がテメェの所にやってくるぜぇ。良かったなぁ。テメェはそいつに殺られて、死体を徹底的に愛してもらえるぜ!」
「え、あ……」
 乱世は、言葉責めと同時に巫女に幻覚を見せる。
 その時だった。
「腐女子の巫女さん、縮めてふみこさーーん! 俺と付き合ってくださーいっ! ぶっちゃけ誰でもいいんですけどっ!」
「子猫ちゃーん、私の愛で救ってあげるっ!」
 折も折、弓矢に刺さった鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)レオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)が巫女に恋をし、その思いを告げようと彼女の元へ駆け寄ってきたのだ。
 しかし乱世の言葉と幻覚によって混乱に陥った巫女にとって、彼らは恐怖の対象でしかなかった。
「ほーら、来やがった」
「い……いやぁああああっ!」
「あ、こら待てまだ話は終わってないし! 今から人外の歴史とその詳細について深く語る所だったのに!」
 ごくごく一部の人間にしか興味のないレクチャーを続けていたフルフィは、話に夢中で自分の足の下から巫女が脱出するのに対応できなかった。
 必死で逃げようとする巫女。
 しかしレオーナの愛のタックルには適わなかった。
「逃がさないわよっ! 子猫ちゃん!」
 レオーナは自らの衣服だけその場に残し、奇跡のジャンプ!
 そして巫女にタックル。
「きゃあっ!」
 巫女に馬乗りになると、いい顔で誓いの言葉。
「レオーナ・ニムラヴスは世界中の誰よりも、巫女姿の子猫ちゃんを愛しています(キリッ)」
「いやぁああ、ごめんなさいごめんなさい!」
 レオーナの言葉も聞かず手足を振り回す巫女。
 巫女の手から弓矢が離れ、砂利の上を転がった。
「ふむ……」
 それを拾い上げたのは、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)だった。
「感情を、外部から操作するなど許されないことだ。たとえ、そこにどんな想いがあろうとな」
 サイコメトリで弓を読み取ろうとする。
 しかし。
「恋心を馬鹿にする邪悪な神様めっ、叩き潰してやるうっ!」
 ばきばきばきっ。
 一瞬早く、舞香の凶悪なハイヒール踵落としが弓矢を跡形もなく破壊した。
「こいつもこの世から消えちまいなっ!」
 乱世は銃を乱射し、残った矢を全て粉々にする。
「……先を越されたか。まあ、破壊できたのだから良しとしよう」
 調査の後、自らの手で弓矢を破壊しようと思っていたダリルは小さくため息をついた。
「となると、次はこの騒動を起こした張本人、巫女の番だな」
 ダリルは視線を巫女の方に移す。
「あぅううう……」
「ほらほらもうじき新しい扉が開くよ!」
「待ってください! それ俺も混ぜてくださいできれば間に入れてください!」
 巫女は、恐怖におののいたままレオーナに帯をほどかれそうになっていた。
 一歩、出遅れた貴仁は傍らで懇願している。
「そうね。最大の変態の巫女さんを吹っ飛ばしてやらなきゃ! ……あと上の人も」
「変態さんに正義の鉄槌を! そうだね、上の人もだね」
 翠とサリアが、それぞれミョルニルとウォーハンマーを抱えて巫女たちに近づく。
「神様のいたずらに、便乗して暴れていた人にもお仕置きです」
「跪いて泣き叫びなぁ!」
 綾乃は御札を、乱世は銃をそれぞれ構える。
「待って! ちょっと待って!」
 その様子を見て、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は慌てて割って入ろうとする。
「いくら何でも多勢に無勢ってゆーかやりすぎだよ!」
「むう……」
 しかし、押しとどめられたのはダリルただ一人だった。
 他の者は、怒りで、義憤で、ルカルカの言葉は届いていない。
「たぁあああああっ!」
 どがーん。
「はぁあああああっ!」
 どごーん。
 翠がミョルニルを、サリアがウォーハンマーを、それぞれフルスイング!
「きゃぁあああ!」
「えええええ私もぉお!?」
 二手に別れ吹っ飛ぶ巫女とレオーナ。
「食らいなさい!」
 巫女の落下地点に稲妻が落ちる。
「泣け! 叫べ!」
 更に、乱世が銃を乱射する。
 土煙が巫女を覆い隠す。
 その、煙が晴れたとき。
「巫女さん!」
 倒れ伏した巫女に慌てて駆け寄るルカルカ。
 しかし、倒れボロボロになった巫女は返事をしなかった。
「巫女、さん……」
 ルカルカは巫女の手を取る。
「ふみこさん……」
 もう片方の手を、貴仁が握る。
「し……死んでる!」
「ええっ!?」
 貴仁の言葉に、その場にいた全員が硬直する。
 自らの欲望の赴くまま人の感情を弄び、徒に人心を操った者に対する当然の報いといえば報いだったのだろうか。
 その光景に誰も言葉を発する者はいない。
「神社といえば巫女! 巫女といえば、巫女おっぱい!」
 ……はずだった。
 超空気の読めない男、縮めてTKO、ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)が現れるまでは。
 倒れている巫女に駆け寄るゲブー。
「む、こ、これは……!」
 巫女を見て驚愕する。
「……小さい!」
 彼にとって、おっぱい以外の状況は全てスルー対象らしい。
「しかしそれでも俺はすべてのおっぱいを愛す!」
 ぽにっ。
 巫女に覆いかぶさるようにして、その小振りな胸を、もにもにもに……
「……はっ、ちょ、ちょっと何してるのっ!」
「ふみこさんに何てことを!」
 あまりの光景に茫然としていたルカルカと貴仁は、数秒遅れてゲブーを引き離そうとする。
 しかしその時奇跡が起きた!
「……ん、はっ」
 巫女の胸が、動いた。
 その瞳が、開いた。
 ゲブーの神業的おっぱい揉みが心臓マッサージの役割を果たし、巫女を蘇生させたのだ。
「巫女さん!」
「ふみこさん!」
「ひゃはははは、ノリノリかぁ? もっともっと揉んでやろうか!」
「え、や、いやぁああ!」
 蘇生早々とんでもない状況に陥り、枯れ果てていた悲鳴をあげる巫女。
「変態さんは、滅べーっ!」
「成敗、だもん!」
 がごーんどごーん!
 さすがにこの状況を看破できないと、翠とサリアが再び得物をフルスイング。
「おぉおおおお!?」
 ゲブーは遠くに吹っ飛んで行った。

 こうして、アブノーマルな騒動は幕を下ろした。